IoT/インダストリー4.0が与えるインパクト

第60回「第4次産業革命を担う人材の育成:ドイツの動向(9)」

岩本 晃一 上席研究員

2017年6月、ドイツを訪問し、ドイツ連邦政府労働・社会省の研究所であるIAB(Das Institut für Arbeitsmarkt- und Berufsforschung, 英;The Institute for Employment Research)において、「労働の未来」に関するIABの研究成果およびデータサイエンティストなど第4次産業革命を担う人材の育成について、エンゾー・ウェーバー教授と意見交換した。

1 デジタル技術が雇用に及ぼす将来推計に関するIABの研究成果

(岩本) デジタル技術が雇用に及ぼす影響の将来推計について、IAB研究所でどのような成果が出てきたかご紹介いただけたらと思います。

(ウェーバー) まず、新しい技術が出現することによって仕事がなくなる、または人間の仕事が機械にとって代わられる、という単純なものではないことに気づきます。デジタル化が出現したときに、仕事がなくなっても、それに反比例して増える仕事があります。また生産性が上がることによって、または設定価格が上がることによって、人間が必要とされるところが増えていくと認識しています。生産性が上がることによって、そこでの収益が増えていくと、それに対応して増える仕事もあります。それ以外にもデジタル技術に全く関係がない分野もいまだにありますが、そういった分野はどうなるか。私たちは今丁度、技術の変革期にいて、今まで変革がどこまで実行され、そのビジネスとして何が必要か、というのを認識するようにしています。

部分的に、今この時点で、この仕事、この職種はなくなるけれども、そのかわりにこの仕事が出てきた、というような把握を、最初と最後だけではなく、一連の過程でするようにしています。 どの仕事がなくなるか、と単純に考えるだけではなく、デジタル化を進めることによって、全ての要素を取り入れて、同時に考慮し、点だけではなくラインとして認識するようにしています。

なくなる仕事はあります。約1500万種の仕事がなくなるといわれています。ですが、デジタル化が進むことによって、同じぐらいの約1500万種ぐらいの仕事が新たにでてきます。今まで存在しなかった職種です。総合していえば、ドイツ国内の雇用数の全体の数に大きな変化が出てくるとは思っていません。あるケースでは少なくなり、別のケースでは増えるということです。

図表1

(岩本) IAB研究所が出した推計値からすると、増える雇用者数と減る雇用者数は大体同じぐらいというのが結論と考えていいですか。

(ウェーバー) はい。

(岩本) なるほど、わかりました。

(ウェーバー) 雇用数は変わらないといいましたが、雇用者の内容が大きく変わってきます。とても高い能力を必要とする人は増えてきます。マイナスになっているのは、スキルがない人です。それ以外にも博士号を持っていない人や研究者でない人の数も減っていきます。 デジタル化の進展により、過去10年と比べて、能力がない人が被害に遭うだけではなく、ドイツで大多数を占めている分野の人にも影響が出てきます。ドイツでは、大学でなく、職業訓練を受けて仕事をしている人が大多数なのですが、その一番大きい多数の人々に最も大きな影響が出てくるとIABは思っています。

1つ1つの職種に関する細かいデータがあります。それによると、製造・生産に携わっている人の職業が一番影響を受けると出ています。製造・生産の分野でも、マシンオペレーターなど、増える職業はあります。それ以外にもデジタル技術ではとってかわることができないサービス分野も増えるのではないかと言われています。

(岩本) IABの研究成果で、これまでの世界中で出された研究成果と違った結果が出たところはありますか。

(ウェーバー) 今のところ、研究者は結構いろいろな意見を持っています。そのなかで、ある程度の教育を受けている大多数の中間層は、これから来るデジタル化に対してとてもよく準備がされていると言う人が結構多いですが、それが私たちと意見が違うところです。 中間層の中でも特にルーティンワークに携わっている人々にはかなり影響が出ると私は読んでいます。なぜなら、ルーティンワークは、ロジックが背後にあるので、プログラミングが容易だからです。すごく能力を使う分野、教育に時間がかかる分野ではあっても、ルーティンワークであれば、デジタル化の波にさらわれて仕事が減っていくという可能性があります。

世の中の一般的な研究と違うところは、世の中では、ソフトウエアのエンジニアが必要だと強調されていることが多いのですが、私たちは、デジタル化によるテクノロジーの変革に伴い、変革時にだけ増えるだけだと考えています。変換してしまった後は、今までその仕事をしていた人の仕事が突然なくなってしまうだけではなく、若い人はもしかしたら初めからそういう職種を目指さないかもしれないと考えています。デジタル化が進めば、高い生産性を上げ、収益が上がるため、その収益が社会に還元されていきます。コンピュータだけでなく社会でいろいろな分野に還元されることで、デジタル化は社会的な仕事、サービス業、人対人の仕事といったサービス業の規格が上がってくるのではないかと思います。

今までも技術の変革はありました。その中で、とっくになくなっていると思っていたのに、まだある仕事は、とてもたくさんあると思います。そうすると、失業率が上がっているはずなのに、今はそうでないということは、変革に合わせて柔軟に人が対応してきた結果だと思います。以下の4つの職業が、デジタル化とは関係ないにもかかわらず、デジタル化によって雇用が増えるという影響が出ています。

図表2
図表3

2 デジタル技術が雇用に及ぼす影響に関するIABの注目される研究成果

(岩本) IABの研究所はインダストリー4.0について、特に労働問題、雇用問題についていろんな研究をされていると聞いていますが、今ご説明下さった研究成果以外に注目される研究があれば教えてください。

(ウェーバー) 将来的に何が起こるのかというのではなくて、今までのデジタル化で何があったか、という研究です。今までの結果を見ることによって、今後が予想できます。既にかなりデジタル化が進んでいる企業がありますが、これまでデジタル化によって雇用が減ることはありませんでした。企業では、雇用数全体は変わっていないけれども、解雇数と新しく採用した数が両方とも増えて、人が交換されています。

また、デジタル化によって雇用が増えた部署でも、雇用が増えてポジションは空いているけれども、誰もまだ見つかっていないというところも結構多いのです。そうしたことから考えてみると、今、出ている求人は、一体どのぐらいのレベルの、どのくらいの内容の品質の人間なのか、それを把握することが必要になってきます。

そこで3点発見しました。1点目は、1つの職業訓練を終えただけではなく、プラスして2つ目の職業訓練を行っている人、または複雑な経歴と言いましょうか、いろんな経験を積んでいる人が要求されているということ、それは新卒でなくて中途です。

2点目は、特に必要になってくる人間のタイプとしてコミュニカティブであるということです。対人能力が高く要求されてくるということです。

3点目は、労働条件について見てみたところ、デジタル化が進んだ企業は確実に他の企業に比べて仕事環境がフレキシブルになっています。仕事の時間がいつも9時5時ではなく、早く始まって早く終わったり、遅く始まって遅かったり、今日は短く、明日は長く、その辺がフレキシブルに対応しています。

仕事の内容に関しても、変わってきていて、仕事時間をフレキシブルにできるというのは、仕事内容もそれに即していないといけないわけです。そういうことが総合して人間に対しても企業に対しても、フレキシビリティがすごく高いレベルで要求されることになります。 その研究は残念ながらドイツ語でしか出ていないのですが。(注1

3 新しい技術に適応するための再教育・再雇用について

(岩本) 2つ目のテーマに行きたいと思います。雇用問題を議論の結論として、これからは再就職、再訓練が必要だ、または新しいデジタル化時代を牽引するためのデータサイエンティストのような新しい人材育成が必要だと結論づけられことが多いのですが、ドイツではどのようになっているか、教えてください。

(ウェーバー) まずはリーダーではなく普通の一般の従業員から議論をスタートしましょう。今まで、理論と実際、現実に即した職業訓練を行っているというのがドイツの職業訓練の強みでした。ただ、その中で、対人関係とかフレキシブルは特に職業訓練でははっきり言って成されてきませんでした。必要性も、始めのうちは認識されていませんでした。

実際に、会社で働くため、現場に即した教育を受けてきました。ITなんか知らなくても、またプロセスを全体的に見る能力がなくても、人とコミュニケーションの能力がなくても、これをやっていればいい、という状況で、すごく現実に即した人材を育てるというシステムでした。

その議論の中で、職業訓練のカリキュラムを決める際に、その中に一体どういう新しいテーマ、今後必要なテーマを組み込んでいけるかという議論が出ています。それに対して大学の教育からしますと、かなり大学によって状況が変わっています。デジタル化に関する準備という点では、大学対大学で競合しているような形になっています。とても積極的に、大学とある企業が経営共同して、あるプロジェクトを進めているというところもあります。ただ、大学を全てまとめて、大学全体でこういうものを進めるというようなプランがあるわけではありません。

でも教育に関しては、ドイツでは各州政府の力が強いので、州ごとの違いがとても大きいですし、州の中でも大学の独自性を保つため、各大学がいろいろな仕組みをやっていますが、国全体で統一して何かをしている、というのはほとんどありません。

ただ、その中で、ドイツとして特徴的なことは、教育です。今までは、仕事をしている人たちにさらなる教育を与えて、能力をつけさせるというのが企業の役目だったのです。自分の会社の従業員に対して、さらなるワークショップ、さらなる教育を与えるというのは各企業の責任でやってきました。それは各企業が各自の目的を見計らいながらやっていたもので、全体を見て従業員にこういうふうに、というようなシステム的に助言をできる研究所のようなところはありませんでした。

ところが、労働・社会省が、ある従業員のある会社の一時的な状況で、どこかのワークショップに参加するとか、訓練を行うのではなく、人間の人生にコンパニオンしたと言えばいいのでしょうか、一時的ではなく、労働人生の中で見て、的確にどこでどういう訓練を受けるのかがいいのかを助言ができるようなシステムを今構築しているところです。 具体的な内容は、まだないので言えないのですが、それを今つくろうとしています。

失業者が登録されている、日本では、ハローワークと言いますが、労働省が運営している職業紹介所が失業者のケアだけじゃなく、今こういう仕事をしているけれども、今後の生活、今後のキャリアアップ、今後のために今後どういう教育を受けたらいいのか、を助言したりというサービスを考えています。

(岩本) そういう助言をする人は、助言するためにいろいろな知識と経験が必要だと思いますが、その知識と経験はどこから来るのですか。

(ウェーバー) 今まで、彼女たちや彼らは、失業者に助言をしていました。その内容は、基本的に仕事を紹介するだけではなく、あなたにはこれが向いているとか、この状況だったらこれを考えればどうですか、という、失業者に対して、自分の目的にかなった仕事につくまでの道を助言していたわけです。ですから、今、仕事はあっても満足していない人とか、これからもっといい仕事につきたい、と考えている人にも助言はできるのではないだろうか、彼らの現状を見て、将来的に彼らが必要としている情報を、その個人に合った形で助言していくということが出来るのではないかと考えています。

職業紹介所の彼らや彼女たちが必要な情報は、私たちのような研究者とか、労働・社会省から出していきます。私たちも、その情報を現場の企業とか、私たちが研究対象とするものから得るわけです。たとえば、商工会議所とか、業界にかかわっている人たちからそういう情報を得ていきます。

(岩本) 先ほど大学でもそれぞれ独自の動きをしているとおっしゃいましたが、非常に特徴的な動きを1つか2つ、挙げていただけませんか。

(ウェーバー) 去年は大学の学部がすごく細分化されました。たとえば、情報学部だったのが、インダストリーインフォマティックとか、プロセス制御部とかに、細かく分かれてきています。 それと同時に、大学と企業の協力連携が益々増えてきています。

(岩本) それでは、企業は自分の社内で人材育成をするだけではなくて、大学と連携しながら人材育成をするという理解でいいですか。

(ウェーバー) ドイツでは昔は大学に行って卒業して、大学で学んだ専門とは無関係な企業に就職したのですが、最近は、大学が再教育でもっと強いリーダーシップをとってもいいんじゃないかという話が出ています。若者ではなくて、仕事を持っている成人の再教育について、大学がもっとリーダーシップをとってもいいのではないかと。

4 第4次産業革命を牽引するリーダーの育成について

(岩本) 新しいデジタル時代を牽引するリーダーの育成はいかがですか。

(ウェーバー) 今、ドイツでスタンダードになりつつあるのが、1回大学を出て仕事をして、その後にまた、修士をとり直したり、もう1度研究に戻ったり、MBAをとったりというのが増えてきています。 ビジネススクールがとても増えてきました。企業でも管理職が博士号や修士号を取るために1年会社を休むとか、仕事を続けながら、新たなる教育を受けるというケースが、とても増えてきました。

(岩本) ドイツにおけるデータサイエンティストを呼ばれる専門家の人材育成について、もっと具体的に教えてください。

(ウェーバー) データサイエンティストはエンジニアと統計学の中間ぐらいで、インフォマティックの背景を持っている人たちです。統計学を大学で専攻して、たまたまIT分野に強いか、またはインフォマティックの勉強をしていた人が、たまたま統計学に興味が出てくるか、ITエンジニアを勉強していた人が、データサイエンティストに関心を持っていった、など、基本的にはドイツの学部で言えば、その3つの分野の全てに足を突っ込んでいる人がデータサイエンティストでしょうか。

ただ、教育省は結構頭でっかちです。ドイツは各州に教育省があります。だから16個の教育省があるわけで、大変です。連邦政府は立法権限がないですからね。州政府が立法かつ実行機関なので、連邦政府は各州の均衡をとっているだけです。

今、ドイツではミントが必要だと言われています。Mがマスマティクス、Iがインフォマティック、Nが自然教育、Tがテクニックです。これを1人の人間が目指すのではなくて、この4つの学部の出身者が必要だということです。

脚注
  1. ^ エンゾー・ウエーバー教授は、雇用の将来の推計の研究実績を政府に認められて、31歳の若さで教授に昇進した。そのため会う人ごとに根掘り葉掘りと色々と聞かれたことを話してくれた。ドイツであっても、31歳での教授昇進は極めて異例といえることを同氏の体験談が示している。

2017年9月5日掲載

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