IoT/インダストリー4.0が与えるインパクト

第59回「第4次産業革命を担う人材の育成:ドイツの動向(8)」

岩本 晃一 上席研究員

2017年6月、ドイツを訪問し、ミュンヘン工科大学において、データサイエンティストなど第4次産業革命を担う人材の育成に関する研究を行っているタンニャ・シュヴァルツミュラー准教授とデータサイエンティストの定義について意見交換した。

(シュヴァルツミュラー) データサイエンティストは、基本が統計学から派生していると私は捉えています。私が学生と日常的につき合っていて気づくのは、学生がデータを一体どうやって取り扱ったらいいのかという議論にすら、ついていけない状況です。エクセルを使ったり、エクセルの式を使って計算式をつくることはできても、一番足りないと感じるのは、さまざまなデータをどのように活用するのか、という先のところがわかっていないことが多いのです。私は学生を見ている観点から、統計学を中心に基本を教育することが最も重要だと思っています。

ミュンヘン工科大学では、最近、新しいデジタルセンターをつくることで合意したと聞いています。隣の州のバーデン・ヴュルテンベルク州に設立するということです。それがきっかけとなって新しい学部ができることは容易に考えられます。

(岩本) インダストリー4.0を推進するためにデータサイエンティストなどの専門的な人材が必要であるという産業界からの要望の声が出ているのではないかと思うのですが、産業界の声はどんな感じですか。

(シュヴァルツミュラー) グーグルやIBMやマイクロソフトといったIT関係のアメリカの企業が求人を増やしています。企業からの後押しが強いです。自動車業界も、特に自動運転のようなテーマになるとデータサイエンティストはどうしても外せない人材になってきます。ただ、私たち大学側は、一体どのような専門家がどの程度必要なのか、という細かいところまでは、まだ明確にはなっていないところがあります。

私は、デジタル・ワーク・デザインの研究者です。この研究プロジェクトは、IoTなど世界のデジタル化がどのように労働環境を変えるかというプロジェクトの研究をしています。私が研究している一部なのですが、私たちはインタビューからスタートしました。50人のデジタル化の専門家にインタビューを行い、デジタル化の仕事の中でいくつかの分野で変化があるとみています。仕事や労働分野もありますし、健康、コミュニケーション・テクノロジーのインフォメーション、それから、タレント、マネジメントです。

そして、デジタル化はかなり高い能力を必要とするのではないか。そして仕事の速度もどんどん上がっていくのではないか、という点で、変化が最も大きいと思います。

そして、最後に、変化をいかにオーガナイズするか、組織だったり、能力がある従業員をいかに扱っていくか、管理をしていくかという課題になります。

(岩本) 日本人のデータサイエンティストに対する必要性の認識は、ドイツ人よりも低いと思います。IoTシステムをつくっているメーカーも、IoTシステムを、従来のモノといいますか、機械を売るのと同じような販売方法をしていて、いいIoTができたので買ってくださいという販売方法をしています。

(シュヴァルツミュラー) ドイツでも同じだと思います。

(岩本) IoTを普及させるためには、モノを販売するのと同じ形態ではなく、データサイエンティストという専門家がいないとうまくいきません。私自身も中小企業向けにIoTシステムが普及されるための中小企業支援データサイエンティストについて研究しています。

(シュヴァルツミュラー) 商工会議所とさまざまな大学と学部が直接、協力連携し、教育のモジュールを組み立てて提供するというアイデアが今ドイツで提案されています。日本でも試みられたらどうでしょうか。中小企業が独自に内部で専門家を教育することは手に余るかもしれないし、大学だけで独自に専門家養成の学部をつくると手に余るかもしれないけれども、両者が協力連携したら、ある程度の教育モジュールはつくれるのではないでしょうか。大学ではない外部の研修機関をつくり、そこで一手に引き受けることが考えられます。その際には、さまざまな大学の学部は絶対参加すべきです。というのは、データサイエンティストの養成にはさまざまな学部のつながりが必要になってくるからです。例えば、ITとビジネスと数学は、コアの知識としてどうしても必要になってきます。その真ん中にデータサイエンティストが位置付けられる、という認識です。データサイエンティストは処理するデータの種類が大きいですし、それだけではなく経済的でビジネス的な思考も持ち合わせ、このデータのこの量のデータを処理することによって企業にどのような影響を与えるかというところまでの見通しができる人でないといけません

(岩本) 日本ですと、それに加えて生産技術の知識が入ってくると思います。

(シュヴァルツミュラー) データサイエンティストがどのようなプロファイルを持っていなければならないか、どのような能力を持っていなければならないかは重要な点です。というのは、この職業の人は、どういうことができる人なのか、まだ定義づけが明確にされていないと思っているからです。ですから、研究のスタートとしては、さまざまな会社のインターネットの求人広告でデータサイエンティストの求人広告を全部取り寄せ、その広告の中にどのようにデータサイエンティストが定義されていているかを調べることで、詳しくデータサイエンティストの職業を定義づけすることができるかもしれないと思っています。 もしデータサイエンティストには、これとこれとこの能力が必要なのだ、という事がわかりさえすれば、どういう教育が必要なのか、よりクリアに見えてくると思います。データサイエンティストがわかりにくい理由の1つに、その仕事がこれまで長く存在していたわけではなく、最近できたばかりの仕事で、その仕事の内容の定義づけ自体がまだ明確になされていないというところが、人々がわからない理由の大きな1つだと思います。

(岩本) それでは、いま研究者の間で議論されているデータサイエンティストの定義とはどのようなものですか。

(シュヴァルツミュラー) 私の研究はデータサイエンティストに特化しているわけではないのですが、私が研究している中で聞いたことを申し上げると、データサイエンティストというのは、とても大きくて整理されていないデータ、それはビッグデータといいますが、それらを効果的にマスター化して内容を関知し、必要な情報に形を変えて出す専門家です。ビッグデータは4VS(注1)と呼ばれています。

このようにビッグデータの4つの特性をまとめて4VSと言っています。ビッグデータとは、データが早く、とても混乱している状況、整理されていない状況にあり、そのデータ自体がさまざまなマシンとさまざまな言語で出されていて、顧客のデータだったり、顧客の注文内容だったり、4VSで代表されるデータのことです。

ビッグデータをいかに整理して処理できるか、という能力だけではなく、自分自身が働いている中で、単に処理するだけではなく、どういう形で出力すればいいか、どういう形でどういう分析をしたらいいかという点に気づく能力、その気づく能力は主に自分自身が働いている分野にどれだけ精通しているかに依ってくると思いますが、そうした能力が必要です。理論的にいえば、データを整理する、そして、どのような形で理論を整理するか、どこの何を分析するか、がわかる能力です。

(岩本) ドイツの産業界では、大学での養成を待っていられなくて、自分たちで独自に養成を始めたとかという話は聞いたことありますか。

(シュヴァルツミュラー) 北バイエルンにあるシーメンスの工場は全部がIoT工場になっていて、IoT工場のモデルとしてつくられています。ここから、3〜4時間ぐらいだと思います。ぜひ見せてもらってください。そこは、工場も持っているぐらいだから、きっと自社で専門家も育成しているのではないでしょうか。レーゲンスブルクにもMRという会社があります。

脚注
  1. ^ Veracity (uncertainty of data), Variety (different forms of data), Volume (scale of data), Velocity (analysis of streaming data)の4つを指す

2017年8月31日掲載

この著者の記事