IoT/インダストリー4.0が与えるインパクト

第38回「最近のドイツの動向;ドイツの専門家との意見交換(1)」

岩本 晃一 上席研究員

2016年11月、ドイツを訪問し、最近の動向について、ドイツ・シュトゥットガルトのフラウンホーファーIAO研究所セバスチャン・シュラウド部門長と意見交換した。

1 フレイ&オズボーンの「47%の職業が代替可能」との推計値に対するドイツの反応

(岩本) 日本では、オックスフォード大学のカール・ベネディクト・フレイ博士とマイケル・オズボーン准教授が出した数字をマスコミが盛んに取り上げている。そのため、半分の人の仕事がなくなってしまう、と信じている人が多く、IoTや人工知能の進歩に対する静かな抵抗になっていると感じている。感情で議論するのではなく、正確な数字を出していかなければならないと感じている。

雇用問題について、日本ではどのように研究を進めるべきか、考えていたが、日本ではどういう形態で現場に普及してるのか、という実態をまず1つずつ調べてみようと考え、1カ月に1社程度のペースで企業訪問し、雇用の実態を調査してきた。

オズボーン准教授が2016年10月に来日されたので、お会いして、どういう考え方で数字を出したのか、実際に聞いてみた。そうしたら、技術的な可能性を示しただけ、雇用が増える部分は一切考慮していないとお聞きし、拍子抜けした。

ただ、そうであったとしてもフレイ&オズボーンの数字がマスコミで取り上げられ、日本の多くの国民が信じてるという状態にある。

(シュラウド) ドイツではその議論は過去2年の間にどんどん盛り上がっている。最低でも6〜7カ所の研究所が、何%の職種が無くなる、という研究成果を出しているが、全部正しくない。

1つめの問題点は、今の時点で何年後に技術的に可能かまたは可能ではない、と言うことは難しい。もし、技術的に可能であったとしても、それが実現するまでに要する時間を読めない。その技術を、現実的に実用化するまでの時間、費用対効果が合うようになるまでの時間、実際にプロセスに繋げて実行していくまでの時間、もしプロセスを全部新しくしなければならない場合には、それに要する時間、が必要である。要するに完全に実用化して使われるまでに要する時間は、不確定要素が多すぎる。そして、全ての技術が実用化できるようになったとしても、今まで使い続けてきた機械設備でできるのなら、どうしてそれを導入しないといけないのか、という話も出てくる。

2つめの問題点は、民族学の専門家がよくいう、市場の条件が変わるという点がある。たとえば自動化が一層進み、たとえばファナック株式会社や安川電機から、軽量型小型ロボットが出てきて、どんどん安くなり、どんどん小さいサイズの実現も可能になっている。技術進歩と小型化・低廉化の両方のトレンドがお互いに影響しながら進んでいく。

ドイツの専門家に、製造プロセスが本当にデジタル化できるのか、と聞くと、個別に進めていくことは技術的には可能だが、それがいつ経済効果を出すのだろうか、最終的な効率のいい状況になるのはいつになるのだろうか、という点に関しては、みんな首を傾げる。

3つ目の問題点は、実際に今あるものが簡単にほかのものに変えられる筈だと簡単に思い込む点にある。みんなとても安易に考えている。よく考えてみれば、新しいものを導入するということは、そんなに簡単なことではない。品質を上げるために新しいものを導入するということはまだ考えられるが、はっきり言って、生産量を上げるため、導入するというのは、もはや考えられない。

4つ目の問題点として、この分野でドイツ・ニュルンベルクのIAB(Institut für Arbeitsmarkt- und Berufsforschung;仕事と職業に関する研究所)がとても素晴らしい研究を出している。

その1つの例として、たとえば、インターネットのケーブルを敷設するという仕事は、インターネットがない時代には、存在しなかった。数年前には考えられなかった職業が、今では普通になっている。このように、今、存在しない職業で、今後、絶対必要になってくる職業がある。インターネットのケーブルを敷設する仕事以外にも、挙げだしたらきりがない。

IABの研究の素晴らしい点は、それは日本にとってもドイツと同じぐらい重要な点だと思うので申し上げるが、人間が、ロボットや人工知能を怖いと不安に思うと、その不安から、新たに勉強しなければ、と思って奮起し、人間の品質が上がっていく点を指摘したところにある。外国との競争に勝っていくためにも、人間の品質が上がる。それが影響として現れる。ただ、1つ1つの職業を細かく見ていくと、人間やその職業の品質がどれだけ上がっていくのか、品質を上げた人間に十分な仕事を提供できるか、という社会の問題がある。

ドイツ国内でも、47%というフレイ&オズボーンの結果に、国民はかなりパニックになった。そこで、労働省がZEW研究所に研究を依頼し、その数字が合ってないと証明してくれ、と依頼した。ZEWの研究には9%と出ている。論文のタイトルには、フレイ&オズボーンへの反証論文と書いている。

IABやZEWの研究成果が出たお陰で、今、ドイツではとても分別のある議論が行われている。

顧客に、より早く、より良いものを提供するため、簡単な仕事やコスト的に厳しいものを減らすことが技術的に可能になり、ある一部分、ある1部署は本当に全て自動化されることはあり得ると思う。全部デジタル化され、オートメーション化され、人間が一切働かなくてもよい時代はいつか来るかもしれないが、私はその頃には仕事をしてない。

(岩本) 日本では、フレイ&オズボーンが出した数字を地方の中小企業まで非常によく知っていて、IoTやインダストリー4.0に対してネガティブな反応や抵抗感がある。またIoTという難しい技術に対する恐怖感もある。ドイツでは、ネガティブな反応や抵抗感、恐怖感や不安感などはどの程度あるか。

(シュラウド) 少し不安に思うのはいいことだと思う。不安を持たないと、のうのうと座っていて、そのまま進化しない状態で満足して終わる。ただ、不安にどのように対処するかが大事だと思う。

労働市場の変化は、今日明日いきなり起こるものではない。誤解されやすいのだが、プロセスとして、たとえば5年から10年ぐらいかけてゆっくりと、徐々に長い時間を経て変化していくもの。5年から10年という時間は、人間がほかのことを準備するには十分な時間だから、ゆっくりと変わっていく中で、仕事を変えて別の仕事をスタートしたり、別のことを修得する人もいれば、今の状態から更にレベルを上げていく人も出てくる。

ただ、変化したくない人は、仕事を失う危険性は高まる。フレイ&オズボーンがどのような数字を出そうとも、何もしない人は失業する可能性が高くなる。これは、我々研究者の責任、そして社会の責任であり、フレイ&オズボーンの出した数字がどうであれ、変化をしない、または変化に対応できない人は、失業の危険性が高まる。それは、フレイ&オズボーンとは全く関係ないところで現れるものである。

今日、残念ながら、どの仕事が具体的に何年後にどういう状況になっているか、というのは、トレンドは大体分かるが、確実には分かってない。たとえばITは何年後にどのぐらいの能力があるのか、プログラミングは今日でも人間の仕事の腕に依存しているが、新しいIT技術がどんどん出てきて、それについていかないと厳しい、というのは、フレイ&オズボーンの研究がなくても分かることである。

もちろん、ドイツ人も不安は持っている。ただ、これまでの研究成果として出されている数字は全部間違っている。だから、不安を持つ必要はないと思う。

2 ドイツのArbeiten4.0(英;Work4.0)プロジェクトの進捗状況

(岩本) ドイツでは、雇用問題を研究するアルバイテン4.0(Arbeiten 4.0)プロジェクトが進んでいて、この研究所の貴方がそのプロジェクトの中心になっていると理解している。今、ドイツのアルバイテン4.0プロジェクトの方向性や重点はどうなっているか。

(シュラウド) 私たちは、今までの研究の数字は全部間違っているので、これが正しい数字です、などと新たに数字を出して発表するようなことは絶対にしない。国のアルバイテン4.0プロジェクトではなく、バーデン・ヴュルテンベルク州のアルバイテン4.0プロジェクトで実施している研究を紹介したい。

一般的な装置メーカーの装置を例に取り、装置を操作する人、組み立てをする人、倉庫の管理をする人、ロジスティックを担当する人など、一体どういうものが一般的な仕事なのかという仕事の概念をまとめ、デジタル化によって、どの部分がどのように取って代わられるか、取って代わられることがあるのかないのか、ということを定義する。その結果は数字ではない。その研究結果はとてもクリアで分かりやすいので、ご紹介したい。

図:フラウンホーファーIAo研究所のArbeiten4.0プロジェクト研究の成果
図:フラウンホーファーIAo研究所のArbeiten4.0プロジェクト研究の成果
同研究所の調査対象となった大部分のドイツ企業で同様の①→②→③との動きをしていた。
① 企業が社員を研修し、社員も質の向上に努力することで、機械を人間の補助として活用
② 企業が社員を研修し、社員も質の向上に努力するものの、技術進歩が早く、かつ企業はコスト削減のため、一部の社員を機械に置き換える動きが出てくる
③ 企業も社員も努力を諦め、人間を機械に置き換える段階

図の左側には、自動化やデジタル化が実際にどのような形で普及していくか、を示している。それは、「人間に取って代わる(Substitution)」と「人間のアシスタントをする(Assistance)」の2つに分けられる。ロボットが、人間の代わりをするか、人間のアシスタントをするかということ。

図の上側には、人間がどのように変わっていくか、を示している。人間には、「できる人」と「できない人」がいて、右側の「アップグレーディング(Upgrading)」というのは、全ての労働の質が段階的にアップグレードしていくという「できる人」のこと。左側が、労働の質が「ポラリゼーション(Polarization)」する「できない人」である。

このような図を作ると、今日でも、オートメーション化やデジタル化は、全てこの4種類に分類される。企業の大きさや作ってるものの内容にも因るし、各企業の実行の度合いにも因ってくる。図のように、移動して変化していく。ここには数字はない。このような動きをしている、という概念を説明するために作っている図である。さまざまな要素が一体どのような影響を与えているか、ひと目で分かるようになっている。この図をもとに、企業がどのようにIoTを進めているか、今後企業がどのように変化していくか、を把握することができる。

また2年前にグリーンブックが出てるが、それが間もなくホワイトペーパーとして公表される。その研究の一環で、エコノミックスという市場調査会社が、雇用への影響に関する結果をまとめてる。結果からすれば、IABにしても、それ以外の5、6社の研究に関しても、先ほど雇用について私が挙げた4つの要素については、あまり大きな違いはないことがわかった。

不思議なことに、研究の結果出た数字は全然違っているが、全ての研究が、4つの要素は全部一緒だった、理由づけが全部一緒だった。それは大きな驚きだった。

3 プラットフォーム・エコノミーに関するドイツ国内の論調

(岩本) 日本で議論されているプラットフォーム・エコノミーは、プラットフォームを作った一番頂点にある会社が利益を独占し、プラットフォームの下の方にいる人々は利益を搾取されるということになっている。ドイツではオープン・プラットフォームの議論は、雇用の観点からどういう議論がされてるのか。

(シュラウド) 2015年のハノーバー・メッセは、まるで全ての会社が独自のプラットフォームを作っていくんだな、という雰囲気だった。シーメンスのプラットフォームがあり、SAPのプラットフォームがあり、いろいろなプラットフォームが紹介されていた。ただ、企業にすれば、プラットフォームで売り上げや利益を上げることよりも、ネットワーク化を進めることが最大の目的ではないかと思う。

プラットフォームの議論と並行し、装置メーカーではデジタルビジネスモデルを一体どのように作っていくか、という議論が熱く展開されている。だが、その議論は深さを持って議論されていないと感じる。グーグルを見てよ、こっち見てみてよ、こういうシステムがあるんだよ、これやってみようよ、というような浅い議論が多い。

プラットフォームのポテンシャルはすごく大きいので、関連のある人たちは、どのようなものがあるのか、勉強しておくべきと思う。ただ、BtoBのプラットフォームとBtoCのプラットフォームでは大きな違いがあると認識しておくべきだし、アップルストアのようなマテリアルのプラットフォームなのか、プラットフォームの種類はどうなのか、どのようなイノベーションのポテンシャルが背後に入ってるのか、などというところまでよく見極めるべきである。

そうした中で、ドイツにおいて、とても興味深いプロジェクトが1つある。「AXOOM」というプラットフォームだが、これは産業用アプリケーションのプラットフォームで、たとえば工板を曲げるシステムとか、穴を開けたり、塗装したり、配送したりする人々とソフトウェア・サービスをどんどん繋げていくプラットフォームであり、ここにさまざまな会社が参加して、自由にソフトウェア会社と一緒に提携ができるようになってる。

(岩本) 今ドイツでインダストリー4.0が普及された場合の雇用対策として、新しい技術のもとで働けるように職業訓練に力を入れるところがドイツでは今一番対策としては力を入れているところか。

(シュラウド) そう、それが一番大きいテーマである。たとえばいかに教育でITの能力を上げていくか。先ほど、品質と言ったが、各職業分野の個々人の能力を上げていくことが、一番大きいテーマである。今、社会の中で議論されているのは、学校教育は一体どうあるべきかという点である。

(岩本) 新しい技術についていける人はいいが、新しい技術についていけない人が、ある一定の比率で出てくると思うが、その人々の扱いはどういうふうにしようという議論がドイツでは行われているか。

(シュラウド) それは、2つのグループに分かれる。まずは、年齢が高くなり、または若くて、どうしても新しいものを勉強することが難しい人という人がいる。1つ目のグループは、やろうと思ってもできない人である。

2つ目のグループは、ほぼ大部分の人が含まれるが、したくない人である。オープンでない人、やろうと思えばできるのに新しい技術を受け入れたくないという人。

4 日本でのIoT導入による雇用への影響について

(岩本) 日本でどのようにして研究を進めようかと考えていたが、根拠のあること、事実関係をまず固めていくのが大事だと思い、IoTが現場にどのような形で導入されつつあるかというのを、1社ずつ訪問し、日本的な傾向を調べてみた。1カ月に1社くらいのペースで訪問した。日本ではIoTが現場に本格的に導入されて、実績が出てるところは十数社ぐらいしかない。今回私が訪問したところでほぼ尽きている。

これまで日本の企業を歩いて調べた結果からすると、どうも日本では欧米で議論されている方向とは少し違って、機械が人間に置き換わっていくというのではなく、人の仕事の一部の特に大変な部分を機械がサポートしていくとか、人間の仕事を楽にするためIoTが現場に導入されて、現場の人たちも歓迎するという形態で導入されるのが日本的な方向ではないかと感じた。

(シュラウド) 現場は少子高齢化ということで、今、高齢の従業員を助けるという状況は実際にあると思うが、ただ、それが当初スタートしやすかったからそこからスタートしたわけで、いずれ中心の真ん中ぐらいのところになってくると思う。だが、やはり生産性を重視すれば、完全に人間の雇用を邪魔せず、人間を助けるだけには留まらないと思っている。

かなり生産性が高い状況で、隙間があれば、どんどん詰めていくことは可能だが、それ以上詰めることはできない状況になった時に、競合相手との競争も厳しくなってくれば、絶対人間の数を減らす方向にいつかは行くと思う。ある一定のことをやった、その先にやはり人間の雇用が圧迫されるということは絶対起こり得る。

もちろん今、世の中の受け入れやすさという点で、従業員にとって有用性のある、従業員が楽になる方向での導入がスタートとしてはとてもいいと思う。ただ、絶対、いつかは、人間の雇用を圧迫する状況は絶対起こる。

今の状況が、楽天的にずっと行くはずはなく、そういう時が来るというのを念頭に入れて、その対策を行っていくことが必要だと思う。

(岩本) それでは、ドイツも今、現場に導入されているのも、日本と同じように人間を助ける方向が導入しやすいので、そこから始めているということか。

(シュラウド) 先ほどの図がいい例だと思うが、社会的な点からいえば、右側の上側に位置したいというのが正直なところ。ただ、左側の上に行くこともあり得るわけで、左側の上といえば、能力の低い従業員、賃金の安い従業員の数を増やしていくことである。そこの足りない分をロボットで補うというようなこともあり得る。

そして、長期的に継続が難しいと思うのが、品質管理という点でいえば、下のラインである。自動車業界や電子機器業界だと、自動化でロボットを導入するいうところがメインのテーマとなってくるのは目に見えている。その方向では、どう考えても人間の仕事は評価されない。

2017年2月3日掲載

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