IoT/インダストリー4.0が与えるインパクト

第32回「IoTが雇用に与える影響;メリルリンチ・レポート」

岩本 晃一 上席研究員

IoTやAIなどデジタル技術が雇用に与える影響を論じる文献は、いま世界中で次々と発表されている。いままさに世界のホットイシューと言ってもよい。そのなかで、将来の推計値を算出し、「雇用の未来(Future of Jobs)」について述べている文献は、知り得る限り現時点で十数本程度である。今回は、そのうち2015年11月に英国大衆紙ガーデイアン(The Guardian)に掲載されたメリルリンチの非公開レポートを同紙が独占取材したものを紹介する。

ロボット革命:「考える」機械の台頭は、不平等を一層加速させる
(Robot revolution: rise of 'thinking' machines could exacerbate inequality)
〜グローバル経済は、今後20年にわたって不平等が広がる危険の中で変革する〜
The Guardian, Heather Stewart 2015年11月5日

「ロボット革命」によって、今後20年でグローバル経済は変革し、ビジネスコストは削減され、社会不平等を助長する。機械が高齢者介護からハンバーグをひっくり返す仕事(つまらない仕事の例)まで全てを奪う。ロボットによる肉体労働の変革と同様、人工知能の発達で、コンピュータが次第に「考える」ようになり、かつて人間の判断が必要とされた分析を行うようになる(※以下の主要部分は、投資銀行バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチBeijia Ma他によるレポート「ロボット革命」(300ページ)をThe Guardianが独占取材したもの)。

我々は、我々の生き方や働き方を変えるようなパラダイムシフトに直面しており、破壊的な技術イノベーションのペースは、近年、直線的 (線形)から指数関数的(放物線)に増加し、ロボットや人工知能の浸透は、全産業分野に影響を及ぼし、我々の生活に欠かせないものになっている。

第4次産業革命によって、今後20年の技術による代用リスクとして、イギリス全労働者の35%、アメリカ47%の収入底辺層に集中して仕事の喪失に影響する(オックスフォード大学研究報告より)。

この傾向は、近年、創出された多くの仕事が、一般的に代用が「高リスク」と考えられている低賃金・手工業・サービス業であるアメリカのような市場では、悩みの種である。ロボットや人工知能の採用後の主要なリスクオフの1つは、特に、サービス業のような低賃金の仕事などに対する労働の偏りの増加や中間層の肉体労働の空洞化の可能性である。ロボットや人工知能に対するトータルグローバル市場は、2020年までに1527億ドル(990億ユーロ)まで達すると計算し、いくつかの産業においては、技術の採用が生産性を30%改善すると見積っている。

グーグルは2014年の2カ月間で、BigDogロボットのボストンダイナミクス、人工知能ディープラーニングが専門のDeepMindをはじめ8つのロボット企業を買収した。最も進化した製造業の分野は日本の自動車メーカーで、たとえば、ロボットは休止なく24時間体制で30日間監視なしで稼働可能である。低賃金の経済圏でオフショアする製造業の仕事は、労働コスト面で65%まで削減することができる一方で、ロボットで人間の労働力を代用すると90%まで削減できる。

現在、世界中で100人の労働者あたり平均66のロボットがあり、自動化が高レベルで進んでいる日本の自動車産業においては、1520のロボットがある。代用できる組立ラインのような低スキルの仕事だけでなく、コンピュータが、消費者の信用格付けの分析やフィナンシャルアドバイスを提供するような知的労働も引き受けるようになると、世界中の賃金コストを9兆ドルまで削減できる(2013年 マッキンゼーグローバル研究所 報告書)。

ロボットの台頭に対して熱狂的な人は、人間の労働者における弱点や誤りを免れない性質を克服することを主張する。現れた裁判官が、昼食の時間まではより厳しく、食事を済ませると寛容になるという。消費者を新しい技術の恩恵を受けるビジネスへの投資に駆り立てている。初期採用は、かなりの利益になるキーとなる。その一方で投資に遅れたものは、競争から外れることになる。一方で、戦争行為の中で無人機の使用の増加についてのモラル的な疑問や、セックスロボットに反対するキャンペーンを呼びかける圧力団体の拡大など、主要な倫理的、社会的問題が徐々に浮上している。

機械によって人間が代用される恐怖は新しいものではなく、19世紀初頭においても、怒ったラッタイト(9世紀初頭のイギリスで機械化に反対した熟練労働者の組織)の集団が、織り手を仕事から外した蒸気機関室を大破した。過去の200年以上もの間、社会は次第に利益の為に技術開発の方法を見つけてきた。ロボットの台頭に恐怖を感じている人間に対してベストな助言は、自分の技術を磨くことだ。悲運や憂鬱な報告ではない。ここで自分を助ける方法の1つは教育を受けることである。

技術を積極的に捉える人か、消極的に捉える人かの間で完全な分裂があり、人々の半分近くの48%は、ロボットと人工知能の台頭は社会に大きな害を及ぼし、デジタル代用がブルーカラーもホワイトカラーの労働者も代用し、不平等な収入になり社会秩序を破壊するということを信じている。同時に52%は、人間の創造力が、困難を乗り越え、新しい仕事や産業を創出してくれると楽しみにしている(アメリカの世論調査会社Pew 産業専門家 最近の調査)。

新しい技術の台頭は、経済学者のジョン・メイナード・ケインズが、1930年に予測した、1世紀以内に技術は1週間の労働時間を15時間までに減らし、残りの時間をレジャーに当てられるという、強い願望を実現する機会に違いない(ニューウェザー研究所 Andrew Simms)。

しかし、仕事と社会の関係性を再認識しなければ、結果は経済的勝者と敗者の格差を助長するに違いない。我々は、必要のない人間の数が大きく膨らむような、歴史上初めての危機にある。問題は、我々がどんな経済にしたいのか、人間にとって何が必要なのかということである。

●広範囲の仕事が、次第に機械によって代用される脅威に置かれる。

1) ハンバーガー調理係
サンフランシスコを基盤に始まったMomentum Machine社は、ファーストフード労働者の熱い繰り返し作業を再現し、肉を作り、それを注文に応じて焼き、バンズを焼き、トマトと玉ねぎとピクルスを加えて、ハンバーガーを作るロボットを設計した。

2) 製造業労働者
豊かな国における比較的低スキルの産業労働者は、より低賃金経済圏の安価な雇用者との競争に慣れている。しかし、「オフシェアリング」は、65%の労働コストの削減だが、機械による代用によって90%までも削減できる。この過程は、日本・韓国など国で進んでいるが、他国も同様に追いつくことで、より多くの仕事は技術によって代用されていく。

3) ファイナンシャルアドバイザー
特注のファイナンシャルアドバイスは、「人間の」サービスの典型のように思えるが、すぐに、個々の状況に返答を合わせることができる、ますます高度になるアルゴリズムによって代用されるに違いない。

4) 医者
およそ57万の「ロボ外科」手術が去年、行われた。ニューヨークにあるメモリアル・スローン・ケタリングがんセンターのがん専門医はIBMのワトソンコンピューターを使用した。ワトソンは、3秒で1mもの教科書を読み、診断で医者を助ける。コンピュータ技術の他の医療アプリケーションとしては、マイクロスコープカメラから「ロボット制御におけるカテーテル」まで含まれる。

5) ケアワーカー
急速な高齢化、差し迫る介護労働者の不足や高齢者や身体障害者のリハビリのパフォーマンスを高め補助する必要性に駆られて、「ケアボット」を含む、グローバルな個人用ロボット市場は、今後5年で170億円に増えるだろう。

2016年12月22日掲載

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