IoT/インダストリー4.0が与えるインパクト

第31回「IoTが雇用に与える影響;マイケル・オズボーンへのインタビュー」

岩本 晃一 上席研究員

マイケル・オズボーン写真オックスフォード大学のカール・ベネディクト・フレイとマイケル・オズボーンによる試算、すなわち米国において10-20年内に労働人口の47%が機械に代替可能であるという試算は、発表後3年経った現在でも頻繁にメディアで取り上げられている(注1)。IoT/AIが雇用に与える影響をモデル使って推計値を算出し、労働の未来について報告している文献にはこれ以外にもさまざまなものがある(注2)。

たとえば、ボストンコンサルティンググループはドイツ国内の23業種、40職種に関して推計し、2025年までにドイツ国内で35万人の雇用増、2030年までには580万〜770万の従業員不足となると推計している。このように、それぞれの推計値は、推計方法によってかなり幅の広い値となっている。そのなかでも、フレイ&オズボーンの推計値は際だった数値であった。

筆者が2016年3月にドイツに出張し、Industrie4.0/Arbeiten4.0の研究に従事している専門家と議論した際、フレイ&オズボーンの推計値のことを「根拠のないいいかげんな数字」「彼らは人間のやることは全て自動化できると信じ込んでいる」と批判していた。

また、雇用慣行、雇用制度、雇用政策などは各国により大きく異なっており、フレイ&オズボーンの推計値が本当に「日本の雇用環境にもあてはまるのか?」という疑問がある。たとえば、ドイツにはマイスターを育成する職業訓練校が全国各地に整備されており、新しい技術が出現すれば、職業訓練校で再訓練を受け、新しい技術を使って働くことができた。日本ではドイツのような職業訓練校はほとんど整備されていない。また、就「職」する国では、新しい技術の導入に伴い、その「職」が不要になったとき、雇用者は解雇される可能性があるが、日本では、就「社」するため、新しい技術が導入されても、企業のなかで配置転換され、新しい部署で新しい仕事を覚えるといった雇用慣行が根付いている。

たとえば、パソコンが出現したとき、タイピストという職が失われたが、多くの場合、タイピストは一般の事務職として企業内の部署に配置転換された。このように、新しい技術の導入に対応する日本の雇用環境は、ドイツとも米国とも異なっているのではないだろうか。

2016年10月上旬、マイケル・オズボーン・オックスフォード大学准教授がカンファレンス出席のため来日した。この機に筆者はインタビューを申し込んだ。以下はその概要である。

1 米国労働人口の47%が機械に代替可能という推計値について

この問題を日本でも深く研究をされていることはとても光栄です。私の専門は機械学習で、経済学ではありません。それぞれの研究は、そもそも設定している問題が異なります。私たちは自動化の技術的な可能性に焦点をあてています。20年後に機械学習、ロボット工学の技術がどのような形で進展しているのかについて考えています。

賃金水準もありますし、ロボットはまだかなり高価ですので、技術があったとしても、労働を代替するまでには至らないかもしれません。また、規制や一般の人達の反対といったことも考慮に入れていません。もっとも重要なのは、新規に創出される雇用について考慮に入れていないということです。

すなわち、現在の労働力の状況を前提に、技術的な進展を考えるとそのうちどれだけの仕事が20年後に自動化されるかということを考えています。

他にも野心的な研究を行っています。2000年以降のヨーロッパの雇用情勢には3つの特徴がみられます。まず、約1000万人分の雇用が直接、自動化されました。そして次に、コスト削減と需要の増大により、900万人の雇用が新規に創出されました。これはとても重要です。技術によって生産性が上がり、コストが下がることで新しい雇用が創出されたのです。また、波及効果もあります。たとえばシリコンバレーで新しい技術の分野の雇用が生まれたると、ドライクリーニング、食料関係、犬のシャンプーなど、周辺に5人分のサービス業の雇用が生みだされているんですね。

ヨーロッパの場合は非常に予測が難しいのですが、おそらく、400万人から1000万人の新規の雇用創出があるだろうと予測しています。

波及効果ですが、先進国よりも発展途上国の方がさらに大きくなります。アメリカでの波及効果は、5倍程度です。つまり新しい技術の雇用が1つ生まれると、サービスセクターの雇用が5つ創出されます。インドではこれが20倍ぐらいになります。

もちろん、まったく新しい職業が生まれています。たとえば、データサイエンティスト、アンドロイド開発者、iOS開発者などがあります。こうした新しい職業は、職業全体に占める割合は大きくありません。たとえば、給仕係はタブレットに代替されています。新しい仕事によって消えゆく仕事をすべて代替できるわけではありません。今存在しているサービス業の仕事は増えますが、労働者間の分布の問題が生じます。ヨーロッパの例を見ると、新しい雇用は生まれていますが、比較的低スキル、低賃金のサービス業の仕事が多いという傾向にあります。

こういった技術的なトレンドにより、所得格差が拡大しています。必ずしも失職するわけではないけれども、自動化によって、低賃金、低スキルのサービス業の仕事に移らざるを得ないという状況になっています。さまざまな研究ではそれぞれ問題の異なる側面を取り扱っているので、推計値の結果も違ってきます。

2 プラットフォーム・エコノミーの見通しについて:雇用は二極化するのか?

技術進歩によって、必ずしも全体的に雇用が増えるとはいえません。結果的に過渡的で不安定な雇用形態に移行せざるを得ないケースもあるでしょう。

たとえば、Uberの運転手、レストランの給仕、一般的な肉体労働の仕事は不安定になるでしょう。Uberの運転手の給料はタクシーの運転手より収入が良いかもしれませんが、自動走行運転にとって代わられるまでの一時的な職業となる可能性があります。

さらに大きな問題はデジタル関係の仕事です。たとえばアマゾンのMechanical Turk and Upworkなどのプラットフォームに依拠してきた仕事では、プラットフォームに対して各労働者が分散しているので、プラットフォームと労働者の間に非常に大きな情報格差がみられます。労働者の生産性は綿密にモニタリングされ、消費者から高い評価を得られない場合、すぐに解雇されてしまいます。

Uberの運転手に関しても、各運転手は個別に仕事をしており、工場労働者のように同じ職業の者同士顔を合わせることもなく、集団行動をとることが難しいわけです。

こういったタスクで必要とされているのは、車を運転するとか、給仕をするとか、一定の訓練を受ければほとんどの人ができる仕事なので、低賃金です。そのため、技術が上がっても、生産性が上がるわけではない。一方、スキルの高い労働者の場合は、技術を使って生産性を引き上げることができます。たとえば事務作業に高度なソフトを使用することによって利益が得られます。ところがサービス業の仕事は、技術によって完全に代替されてしまう可能性が高いのです。

技術革新の波に乗って利益を得られる高スキルの労働者というのは、アルゴリズムによって直接的に代替できない高い社会的スキル、創造的なスキルを持つ労働者です。技術が向上すれば生産性が上がり、もっと稼げるようになるという人たちです。スキルの低い職業は、技術革新の波によってつぶされてしまいます。たとえばUberの運転手は自動運転の車にとって代わられるでしょう。

しかし、それは最後の波ではなく、さらに別の波が待ち構えています。特に機械学習では技術的な変化がさらに加速化していますから、新しい仕事が生まれても、長続きしなくなり、ゆくゆくは人が要らない仕事になってしまいます。見通しは非常に不安定な状況です。

2000年代のヨーロッパでは、1000万人分の仕事が自動化されましたが、波及効果と需要拡大によって雇用が増大し、自動化で失われた雇用を上回りました。おそらく、少なくとも今後10年間はこのような状態が続くと思います。しかし、新しく生まれる雇用が高スキルの雇用ではないことが懸念されます。つまり、ビッグデータのアーキテクトとかiOSの開発者の仕事は十分にありません。そうした仕事の生産性は、技術的な進展によって大幅に上がりました。

たとえば、アプリの開発者が、iOSのアプリを書いて、それが、世界的なヒット作になるという事もありえます。ですが、新たに生まれる高スキルな仕事とは異なり、サービス業のプラットフォーム型雇用の性格は、かなり不安定です。失業のリスクよりはむしろ、所得格差が拡大し、不安定な雇用に就く人が増えてしまうリスクの方が高いと思います。

3 人工知能の将来見通し

自動運転が実現することについては、ほとんど疑いの余地がないと思います。近い将来に我々が目にすることと、完全な自動化は区別することが重要です。人間が自動車を運転しているときにやっていることを、全部自動化ができるようになるまでは、しばらく時間がかかると思います。ですが、2020年までには、たとえば、商用車のクルーズコントロールなどに十分な自動走行ができる車は登場すると思います。

もっと重要なことは、すでにこの技術は鉱山で使われる自動車両に用いられており、すぐさま雇用に影響が現れるでしょう。フォークリフトの運転とか、農業用車両とか、インターシティトラック(高速道路だけを走行する長距離トラック)などの運転の仕事は、わりと短期間で無くなってしまうと思います。

自動運転の次にどんな人工知能が商業化されるのか、という質問ですが、自動運転もかなり課題が残っている状況です。3つの障害があり、それらを如何に乗り越えていくかということではないかと思います。つまり、創造性、社会的知性、そして認知操作・指示で、かなり時間がかかると思います。

機械学習には、たくさんのデータが必要です。特に質の高い、ラベル付きのデータが必要です。いわゆる「教師あり学習 (supervised learning)」は成功していますが、将来的には、「教師なし学習 (unsupervised learning)」をできる機械が、出てくると思います。機械が自力で世界とやりとりを行い、トレンドやパターンを発見出来るようになると思います。

通訳が完全に機械にとってかわるのはいつか、という質問ですが、随分先になると思います。現在、使用されている機械学習について区別すべき点があります。これまで成功しているのは、間違ってしまっても大事に至らない分野です。たとえば、フェイスブックのフェイスタグとか、アマゾンの商品推奨などに機械学習は使用されています。この場合、機械学習が提供する解釈不可能なアルゴリズムは、間違っているからといって、大した問題にはなりません。しかし、正確でない判断がかなり深刻な結果になってしまう場合の機械学習の適用は、まったく別問題です。

Tesla Motorの自動車事故についても触れられました。機械が運転しなければ、人間が運転することになりますが、人間も事故を起こします。先ほどの通訳の仕事のお話に戻りますが、たとえば、日本の企業のトップがアメリカの企業と交渉を行う場合、微妙な社会的なニュアンスがきちんと伝わると確信をもてないと困ります。ですから、まず、間違いが起こった場合に責任をとれる人が必要です。次に、深く文化的な文脈を理解する、といった微妙なニュアンスを要する仕事は、まだ機械やアリゴリズムによって充分に捉えられない分野です。Google翻訳は、日本食のメニューを翻訳する場合には、良いかもしれませんが、国連が文書の翻訳に使うとは思いません。

自動化される可能性の高い職業は、第1に低スキルの仕事です。第2に、3つのボトルネック、つまり創造性、社会的知性、認知操作・指示が必要でない仕事です。意思決定のレベルの低い仕事、データ処理の仕事は影響を受けやすいでしょう。たとえば、会計士、監査、税理士、保険の査定、給仕係などです。

4 IoT/AIが日本の雇用に与える影響

IoTが日本の雇用に与える影響について研究するにあたっては、各産業のなかで、どのような種類のタスクが自動化できるのかデータを集めることが重要です。野村総合研究所と行った共同研究では、労働政策研究・研修機構のデータを使用し、国内601種類の職業について、それぞれ人工知能やロボットなどで代替される確率を試算しました。一部の産業についてさらに詳細なデータを取得すると面白いと思います。たとえば、ある産業の中の職業の内訳、業務内容やスキルなどの詳細です。

現在、イギリスの医療分野、プライマリーヘルスケアを提供する医師、担当官に関する研究をイギリスの国民医療制度(NHS)の資金を得て行っています。NHSは、コスト削減を迫られており、自動化によって何ができるのかに関心を持っています。プライマリーヘルスケアの分野においてどのような業務があって、どんなスキルが必要とされているのか。また、患者会や英国家庭医学会が反対している場合、自動化の技術は導入されているのかどうかを特定し、研究をするつもりです。

私は、オックスフォード大学の工学部で教えていますが、航空機エンジンの状態監視 (condition monitoring) を研究している同僚がいます。ロールスロイスの航空機エンジンに機械学習を使って、いつエンジンのメンテナンスが必要かを予測しています。彼らが開発してきたアルゴリズムは、そっくり医療分野でも使えるということがわかりました。たとえば集中医療を受けている患者、未熟児、アルツハイマー病などメンタルヘルスの分野でも同じアルゴリズム使えるのです、とてもエキサイティングだと思います。

脚注
  1. ^ "The Future of Employment: How Susceptible are jobs to computerization?" Carl Benedict Frey and Michael A. Osborne, Oxford University (2013年9月)
  2. ^ "Automation, jobs, and the future of work," McKinsey & Company (2014年11月)
    "Man and Machine in Industry 4.0," The Boston Consulting Group (2015年9月)
    "The Future of Jobs," World Economic Forum (2016年1月)
    "Automation and Independent Work in a Digital Economy," Policy brief on the future of work, OECD (2016年5月)
    "Robot revolution: rise of 'thinking' machines could exacerbate inequality," Merrill Lynch
    "Economic Report of the President," Council of Economic Advisers (2016年2月)

2016年11月2日掲載

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