IoT/インダストリー4.0が与えるインパクト

第14回「アメリカで出現しつつある新しいIoTビジネスモデルとその雇用・経済への影響」

岩本 晃一 上席研究員

1 はじめに

先日、政策研究大学院大学(GRIPS)において、米国人教授による講演会が開かれた。その講師の講演内容が、いまのアメリカの論調を代表しているのかどうかわからない。だが、そこから、今のアメリカで一体何が議論されているのか、その動向の一端が伝わってくる。

その内容は、筆者が今年3月にドイツの専門家を訪問して聞いた内容とほぼ一致する(当連載記事の第4〜9回の内容と比較されたい)。読者におかれても、当連載記事の第4〜9回の内容と比較されたい。そのことから、講師の講演内容は、いまのアメリカの論調をかなりの程度、伝えているものと思われる。米国GEが、なぜ金融部門を切り離してまで、プラットフォームPredixを開発したか、その考え方が見えてくる。

             

今年3月にドイツを訪問した際、ドイツ人は、アメリカからの競争的圧力に強い危機感を感じ、アメリカに搾取されないよう、どうすればよいか真剣に考えていたが、その理由がかなりの程度理解できる。IGメタルは、労働者の雇用を守るために、なぜインダストリー4.0の議論の輪のなかに入っていって、真剣に意見を述べているのか、なぜインダストリー4.0の推進自体には賛成なのか、理解できる。

ドイツ人は、強い危機感を持って、アメリカに対抗するために知恵を絞っているのである。アメリカもドイツも、第4次産業革命というグローバル競争のなかで、どうやって勝ち残っていくか、その新しいビジネスモデルを必死で考えているのだ。その点、ドイツ人は素晴らしい。なぜなら、日本では、危機意識を持って、対応策を真剣に考えている人は極めて僅かだからだ。

ある外国人は「第4次産業革命では、日本は部品を供給すればよい。」と言ったことがある。ある日本人は自虐的に、「第4次産業革命では、日本は部品を売るだけでも十分食べていける。」と言ったことがある。(図表1、2)

図表1:電子部品の世界生産額に占める日系の比率(2015年)
電子部品の世界生産額(億円) うち日系(億円) 日系比率(%)
世界計 224,878 84,674 37.7
内訳 受動部品 36,302 18,203 50.1
接続部品 76,869 18,699 24.3
変換部品 29,516 22,363 75.8
その他 82,191 25,409 30.9
出典)電子情報技術産業協会(JEITA)
*部品、センサー、制御モーター、計測機器など部品・要素技術は、日本の独壇場ともいえる分野
図表2:日系センサーメーカー世界シェア
図表2:日系センサーメーカー世界シェア
出典)産業構造審議会新産業構造部会第3回資料(2015年11月27日)

これは、外国から見た今の日本の姿を端的に表している。島のなかで、グローバル競争に無関心で、のほほんとしている、と見えるのだろう。

2 プラットフォーム・エコノミーという新しいビジネスモデルの出現

講演のなかから、必要な箇所だけ抽出して要約する。聞き間違いがあれば、お許し願いたい。

"The Rise of the Platform Economy"
Prof Martin Kenney
Community and Regional Development Unit, UC Davis
& Visiting Prof, GRIPS

「デジタル・プラットフォームDigital Platform; DP」という新しいビジネスモデルは、ビッグデータ、新しいアルゴリズム、クラウドコンピューテイングなどから構成される。このうち、アルゴリズムが競争力の源泉である。

DPという新しいビジネスモデルでは、ネットワークを用いることでより大きな効果を生み出し、勝者が大規模な利益を得る。Platformerの企業の所有者、経営者、労働者は大きな収入を獲得する。そのモデルとなっているのは、グーグル(総人件費745億ドル÷社員62000人=1人当たり平均1200万円)とフェイスブック(総人件費179億ドル÷社員12700人=1人当たり平均1400万円)である。

従来の生産方式では、資本家と労働組合が存在したが、DPという新しいビジネスモデルの下では、資本家は存在するが、労働者の雇用形態は変化し、不安定化する可能性がある。

Contractorは、Platformerに対抗する力がないので、Contractorで働く労働者は、安定的な雇用が失われ、最低賃金を享受し、コスト最小化という会社の都合で人事配置される。ビジネスを進める上で発生するコストは、全てContractorが被る。Platformerがコストを負担することはない。(図表3)

図表3:ConsumerからContractorへ、そしてPlatformerへとマネーおよびビッグデータが吸い上げられる様子
図表3:ConsumerからContractorへ、そしてPlatformerへとマネーおよびビッグデータが吸い上げられる様子

3 ドイツ人が恐れていること

以上からわかるように、ドイツ人が恐れていることは、米国のPlatformer企業の下で、ドイツ企業がContractorとなり、そこで働くドイツ人労働者が、少数の米国人が莫大な利益を得んがために、悲惨で惨めな雇用環境に陥ってしまうことである。

そのために、ドイツでも新しいビジネスモデルを考え出し、アメリカに対抗するPlatformer企業を作りだし、また簡単に解雇や最低賃金化されないよう、ドイツが誇るデュアルシステム下の職業訓練校を活用して、円滑な配置転換を実現することで、雇用の安定化を目指しているのであろう。

ドイツでの議論は、ここまで進んでいる。

2016年5月18日掲載

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