「ワシントンDC開発フォーラム」リレー連載

途上国の政策・制度に援助を合わせるために -調和化ハイレベルフォーラム報告-

在米日本大使館 一等書記官(経済協力担当) 紀谷昌彦

2月下旬にローマで開催された調和化ハイレベルフォーラムにおいて、途上国の政策・制度にドナー国・機関による援助の政策・制度を適合させるための諸方策が合意された。途上国を中心に据えて広くドナーやNGO等関係者を巻き込んだ援助協調プロセスは不可逆的に進行しつつあり、今回のフォーラムはその一環として位置付けられる。日本はこの流れの中でいかに取り組むべきか。

1.ローマ調和化宣言に合意-PRSP、MDGsに続き調和化がコンセンサスに

2月25日夕刻、ローマにあるイタリア外務省の大会議場で、開発関連国際機関の総裁・幹部やバイのドナーの高官、途上国の閣僚等が参加しての2日間の国際会議は、いよいよ閉会式を迎えていた。

フォールOECD・DAC(経済協力開発機構・開発援助委員会)議長は、今回の会議が援助効果改善に向けての取り組みの大きな転換点となると述べ、ウォルフェンソン世界銀行総裁は、「途上国を運転席に座らせる」という表現がここ数年で定着したように、調和化も今後広く推進されるであろうと総括した。そして、途上国タンザニアのムカパ大統領、ホスト国イタリアのタンツィ財務次官の挨拶の後、「ローマ調和化宣言」が満場一致で採択された。この時、グローバルな開発に向けて、貧困削減戦略文書(PRSP)、ミレニアム開発目標(MDGs)に加え、調和化の推進が新たな方向性として国際的なコンセンサスとなった。その中には、積極的に参画・貢献した当事者として日本も加わっていた。

2.調和化問題の発端-「取引費用」削減の必要性が契機に

調和化への取り組みは、1996年の国際開発金融機関(MDBs)のタスクフォース提言を受けてMDBsに作業部会が設置された頃から始まった。2001年初めにはOECD・DACにもタスクフォースが設置され作業が拡大した。当初の問題意識は、ドナー毎に異なる援助実施手続き(各種ミッション派遣等)や報告義務などが途上国側の大きな負担になっており、その「取引費用(transaction cost)」を削減するためにドナー間で援助手続きの調整が必要との点が中心であった。

2002年3月、メキシコのモンテレイで開催された開発資金国際会議では、ミレニアム開発目標(MDGs)を掲げつつ先進国・途上国の取り組むべき課題をまとめた「モンテレイ合意」が採択され、調和化の推進も同合意に盛り込まれた。

さらに、2002年4月のワシントンDCでの(世銀・IMF)開発委員会では、調和化を推進するため翌年初めにハイレベルフォーラムを開催することが決定され、作業が加速することとなった。MDBs間では調達や環境基準等の調和化が進展し、DACの場でも2002年末に「グッド・プラクティス文書」が取りまとめられた。そして、本年1月に中南米、アジア、アフリカの3地域での準備ワークショップを開催して各地域からのインプットを得た上で、2月のハイレベルフォーラムでその後の行動計画を策定するとの段取りが決められた。

3.日本の参画と貢献-地域ワークショップの段階からメッセージを発信

このように調和化が新たなアジェンダとなりつつある一方で、日本の観点からは、調和化に際して生じ得る様々な問題が想定された。「調和化の推進が財政支援など特定のモダリティへの画一化につながらないか。」「ドナーが主導する形での調和化の推進は、途上国側のニーズを見失う結果とならないか。」日本の関係省庁・実施機関は、調和化のモメンタムを生かしつつも様々な問題を解決するために、積極的かつ能動的な参画と貢献の方策について、2002年夏から冬にかけオールジャパンとして検討した。

この結果、日本として、(1)調和化は援助効果の向上のための手段であって目的ではないこと、(2)調和化を進めるにあたっての原則として、(イ)途上国のオーナーシップの重要性、(ロ)国別アプローチの重要性、(ハ)多様な援助モダリティの重要性を踏まえるべきことを訴えるとともに、調和化に向けての貢献を自ら示すとの方針を固めた。

本年1月のベトナムでのアジア・ワークショップでは、アジア開発銀行(ADB)、世銀とともに共催者となり、吉川外務省経済協力局審議官や鈴木JBICハノイ首席駐在員が関係セッションの議長となって、以上のメッセージを発信するとともに、ベトナムでのADB・世銀・JBICによる調和化の先行事例の成果を紹介し、参加者から高い評価を得た。また、ジャマイカでの中南米ワークショップや、エチオピアでのアフリカ・ワークショップにも関係者を派遣し、同様のメッセージを訴えつつ各地域からの参加者との対話を深めた(私自身、中南米ワークショップにワシントンから日本代表として参加した)。

4.調和化ハイレベルフォーラムでの進展-途上国の政策・制度に援助を合わせることに重点

そして、本年2月24-25日にローマで調和化ハイレベルフォーラムが開催された。冒頭紹介したフォールDAC議長、ウォルフェンソン世銀総裁をはじめ、千野ADB総裁など主要地域開銀総裁、マロックブラウンUNDP総裁、バイのドナーの高官、途上国の閣僚等多数のハイレベルの出席があった。

議論の方向性としては、調和化の意義・内容として、以前のドナー間の手続きの調和化から「途上国の政策・制度にドナーの援助を合わせていくこと(alignment)」に重点が移行したことがまず挙げられる。また、調和化の前提としてMDGsとPRSP及びその相互の連携の重要性が明確に確認されたこと、援助モダリティ(特に財政支援)の扱いについて、多様性は認められたものの、アフリカを中心に一部途上国は財政支援を好む旨を述べたことなども重要と思われる。日本からは吉川外務省経済協力局審議官を団長に財務省、JICA、JBICの代表者が揃って参加し、アジア・ワークショップの成果や日本の方針・取り組みを紹介して議論に貢献し評価された(私も代表団の一員として参加した)。ベトナムからの参加者が、アジア・ワークショップの成果を「アジアの声」として自ら発信していたことも特筆される。

ローマ調和化宣言では、調和化は援助効果向上という目的のための手段との点や、オーナーシップ、国別アプローチ、多様性の重要性などの要素が全て盛り込まれた。今後は各途上国毎に調和化の実施が奨励され、ドナー側はそれを支援し進捗状況を報告することとされた。次回会合は2005年初めに開催することとなった。

5.日本にとっての課題-「外への参画」と「内なる改革」

今回の調和化を巡る進展は、より広い援助協調プロセスの進展の一環として捉えられる。日本の援助関係者の一部には、「援助協調は、お金を存分に出せない弱小ドナーが発言力を確保するためにやっていること。あいつらはけしからん。日本は乗る必要はない。」として、援助協調を単なる「敵味方」の問題と考えたり、その必要性を一律に疑問視したりする向きもあるが、それは正しい認識ではないと考える。

個別のプロジェクトといったミクロのレベルを超えて、国全体のマクロのレベルの開発効果を実現しようとすれば、その国の開発に携わる幅広い関係者が協力することが必要である。そのような認識が深まる中で、国際的な援助協調プロセスは形態の違いこそあれ不可逆的に進展していく。日本としては、このプロセスに積極的に「参画」して自国の立場を反映し、前向きに貢献していくとともに、これに触発され自らの「改革」を進めることにより、援助協調のメリットを享受し、援助の国際競争力を強化していくことこそ賢明な選択である。

調和化の分野では、「外への参画」としてはアジェンダ設定への貢献(キャパシティ・ビルディングの方策等)、パイロットプロジェクトへの関与(今後各地で進展する見込み)、情報の積極的発信(ウェブサイトの活用等)、「内なる改革」としては国別体制・政策(特に現地体制)の強化、多様なニーズに応えるための事業形態の見直し(財政支援・プールファンドへの対応、援助資金の予測可能性の向上等)が急務である。

調和化、あるいはより広く援助協調の問題に対して、国内世論やメディアからのODA批判は必ずしも向けられてはいない。しかし、上記の通り国際的な援助の「ゲームのルール」は変わりつつある。

日本の援助関係者にとって、常に自ら意識して、国際的な援助の動向と日本の援助のあり方を照らし合わせ、開発効果の向上に向けて、言うべきことは言い、変えるべきことは変えていくという積極的かつ能動的な姿勢が大切ではないかと考える。

国際開発ジャーナル2003年5月号

(本文はあくまで著者個人の見解であり、勤務先及びワシントンDC開発フォーラムの立場を述べたものではない。関連情報の照会や質問等については、kiya@kiya.netに連絡をいただければ可能な限りお答えしたい。)

2003年6月10日掲載