TDBデータで見た日本における中堅企業のダイナミズム

金 榮愨
専修大学

1 はじめに

世界における日本の大企業のプレゼンスが低下しているといわれる中、スタートアップを育成すべきだとの議論も活発に行われている。しかし、企業が中小企業から大企業へと成長する過程で必ず通過する中間的な規模の企業、すなわち中堅企業に注目した実証研究は必ずしも多くない。大企業と中小企業の間には、規模、組織、取引関係の面で大きな差が存在するが、その中間に位置する企業が経済の中でどのような役割を果たしているのかについては、十分に明らかにされていない。

中堅企業は、単なる「通過点」ではなく、サプライチェーンや地域経済の結節点として重要な役割を担う可能性がある一方で、成長や再編、退出といった局面において独自の課題を抱えていると考えられる。本稿では、このような中堅企業に注目し、そのプレゼンスとダイナミズムを概観する。

ただし、中小・中堅企業を分析する上では、データの制約が大きい。多くの政府統計は製造業を中心としており、非製造業を含む中小・中堅企業を網羅的にカバーする統計は限られている。この点で、帝国データバンク(TDB)の企業情報、財務データ、企業間取引データは、非製造業企業を含む幅広い企業を対象としており、経済全体を俯瞰(ふかん)する上で有用である。本稿では、これらのTDBデータを用いて分析を行う。

2 日本経済における中堅企業のプレゼンスとパフォーマンス

本節では、日本経済における中堅企業の位置づけを、企業数と分布の観点から概観する。具体的には、企業数、雇用、売上などの基本的な指標を用いて、中小企業および大企業との比較を行う。そのために、本稿では企業を規模別に、以下の基準に沿って3つのグループに分けている。

  • 中小企業:「中小企業基本法」と「産業競争力強化法」の中小企業の定義が定める中小企業
  • 中堅企業:2024年度改正された「産業競争力強化法」に従って、「中小企業を除く常時使用する従業員数が2,000人以下の企業」
  • 大企業:従業員数2,000人超の企業

2.1 企業数と分布:経済の「厚み」としての中堅企業

TDBの網羅的な企業情報データによれば、日本の企業数分布は、中小企業が約99.1%を占める極端なピラミッド構造にある。中堅企業数のシェアは、1995年の1%から2019年には0.61%へと減少している。

図1 企業規模別企業数
図1 企業規模別企業数
出典:「TDB企業情報データ」により著者作成

合計従業員数に占める中堅企業のシェアは、1995年の15.7%から2019年には14.4%へと縮小した。この24年間、中堅企業数は22%減少し、従業員数は15%減少し、1社あたりの従業員数はむしろ7%増加した。対照的に、中小企業数は23%増加しているが従業員数は6%減少し、1社あたりの従業員数は18人から13人に減少した。中堅企業は、数では減少しているが、日本経済の雇用を支える「重み」としての中堅企業の役割が確認できる。

図2 企業規模別従業員数割合
図2 企業規模別従業員数割合
出典:「TDB企業情報データ」により著者作成

ここで重要なのは、中堅企業が大企業と中小企業をつなぐ単なる「中間層」ではなく、高い雇用吸収力と売上創出力を備えた、経済の「厚み」を構成する独立した極として機能している点である。

2.2 企業年齢とダイナミズム:代謝の停滞と中堅企業の強靱(きょうじん)性

企業年齢と成長の関係については、Haltiwanger et al. (2013) などでも若年企業の高い成長率が指摘されている。日本の産業構造が抱える深刻な課題は、企業年齢の推移に端的に表れている。平均企業年齢は、大企業が1995年の52.4年から2019年の57.1年へと4.7年増にとどまる一方、中小企業は20.7年から29.9年、中堅企業は32.4年から44.5年へと、9.2年と12.1年と大幅に上昇している。

図3 企業規模別平均企業年齢
図3 企業規模別平均企業年齢
出典:「TDB企業情報データ」により著者作成

健全な経済の「新陳代謝」の下では、新規参入した若い中小企業が成長して中堅・大企業へと移行するか、競争に敗れて市場を退出する。そのため、高年齢化は大企業層に限定されるのが一般的である。しかし、日本のデータが示す中小・中堅企業の同時高齢化は、新規参入の低迷に加え、生産性が低いまま存続し続ける、いわゆる「ゾンビ企業」の滞留が、新陳代謝を阻害している可能性を強く示唆している。特に中小企業において、設立41年以上の企業の割合が10%(1995年)から28%(2019年)へと急増している事実は、市場の淘汰(とうた)メカニズムが機能不全に陥っている懸念を裏付けている。

図4 企業規模別企業年齢の構成
図4 企業規模別企業年齢の構成
出典:「TDB企業情報データ」により著者作成
注:企業年齢は設立年からの年数

「中堅企業=若い成長企業か?」:成長の壁と持続性

一般的に、企業は若いほど成長率が高いとされる。本分析においても、1990年代以降の長期データでは設立「0〜10年」の若年層が最も高い成長率を示している。しかし、その後の成長パターンには企業規模による決定的な差が存在する。

  • 中小企業の「成長の罠」とピーターパン・シンドローム: 中小企業の場合、設立11年以上の全年齢グループで平均雇用成長率が負の値(-0.6%〜-1.6%)となり、高齢化するほど縮小傾向が強まる。これは多くの中小企業が一定規模に達した後、優遇措置の喪失を嫌って規模拡大を避ける「ピーターパン・シンドローム」に陥るか、あるいは成長意欲を失ったまま市場にとどまっている実態を反映している。
  • 中堅企業の「持続的成長」: 対照的に、中堅企業は高齢化してもなお成長力を維持している。2010年以降の近年では設立41年以上の最高齢グループであっても正の成長率を維持しており、中小企業とは対照的である。
図5-1 企業規模別企業年齢別平均雇用成長率(1990-2019年、年率)
図5-1 企業規模別企業年齢別平均雇用成長率(1990-2019年、年率)
図5-2 企業規模別企業年齢別平均雇用成長率(2010-2019年、年率)
図5-2 企業規模別企業年齢別平均雇用成長率(2010-2019年、年率)
出典:「TDB企業情報データ」により著者作成

以上の結果は、中堅企業が単なる「大企業への通過点」ではなく、年齢を重ねてもなお設備投資や雇用拡大を継続できる、強靭な経営基盤を持った層であることを示している。今後の課題は、高齢化し停滞する中小企業層から、いかにしてこの持続的な成長力を持つ中堅企業への「卒業」を促し、日本経済全体の活力を再興するかにある。

2.3 サプライチェーン:地域経済の「結節点」としての中堅企業

本節では、中堅企業が取引ネットワークの広がりと質の両面において、中小企業とも大企業とも異なる独自の位置を占めていることを示す。

中堅企業の重要性は、雇用や売上の規模のみならず、サプライチェーンにおける「位置づけ」からも説明できる。ここではTDBの企業間取引データおよび取引額推計データ(2011〜2020年)を用いて、その実態を概観する。

取引ネットワークの広がり:地域経済のハブ

1995年から2019年までの平均的な取引相手企業数(中央値)を見ると、中小企業はサプライヤー・カスタマーともに「2社」にとどまる。これは、多くの中小企業が特定の数社との深いが限定的な関係に依存しており、規模拡大を忌避する「ピーターパン・シンドローム」や、代謝が滞る「ゾンビ企業」化を招きやすい土壌があることを示唆している。対照的に、中堅企業は中央値でサプライヤー15社、カスタマー10社(平均では38社、53社)を抱え、取引ネットワークの広がりは中小企業を格段に凌駕している。地域的にも中小企業は平均4社のカスタマー企業のうち、61%が同じ都道府県内の企業であるのに対し、中堅企業は53社のカスタマー企業のうち51%が同じ都道府県企業である。大企業(249社中90社、36%)には及ばないものの、広域市場へとつなぐ「地域経済のハブ(結節点)」として機能していることがわかる。

表1 企業規模別サプライヤー・カスタマー数
表1 企業規模別サプライヤー・カスタマー数
出典:「TDB企業間取引データ」により著者作成

取引の質と集中度:自立した市場プレゼンス

取引の「質」に着目し、販売先の集中度をハーフィンダール・ハーシュマン指数(HHI)で分析すると、中堅企業のユニークな立ち位置がさらに鮮明になる。輸出や消費者向け販売を除いた純粋なB2B取引において、中堅企業のHHI(中央値)は0.148と、中小企業(0.221)に比べて極めて低い(注1)。これは、中堅企業が特定の大企業に依存する「下請け構造」から脱却し、分散された広範な顧客基盤を持つ自立した経営体であることを意味している。

表2 企業規模別販売先売上高のHHI
表2 企業規模別販売先売上高のHHI
出典:「TDB企業間取引データ」により著者作成
注:輸出や消費者向け販売を除いた企業間取引における売上高のHHI

消費者への近さ:市場の最前線に立つ中堅企業

さらに注目すべきは、中堅企業の消費者向け販売比率の高さである。消費者向け販売額の比率は、中堅企業で平均29%に達し、中小企業(18%)や大企業(18%)を大きく上回る(注2)。この結果は、中堅企業が単なる「サプライチェーンの中間存在」ではなく、自ら最終製品やサービスを消費者に届ける、市場の最前線に位置する存在であることを示している。独自のブランド力や市場適応力を備え、消費者の厳しい目にさらされるB2C比率が高いことは、中堅企業が加齢にかかわらず高い成長意欲を維持している(前述の2.2の結果)要因の一つとも推察される。

表3 企業規模別消費者向け売り上げの割合
表3 企業規模別消費者向け売り上げの割合
出典:「TDB企業間取引データ」により著者作成

以上の通り、中堅企業は「ハブ」として地域を支えると同時に、消費者と直接つながる「独立した市場の担い手」である。中堅企業における「負の退出」を食い止め、そのダイナミズムを維持することは、日本のサプライチェーンの強靭化と消費市場の活性化の双方において極めて重要な意味を持つ。

2.4 生産性

ここでは、企業規模と生産性の関係を概観する。ここまでは全体像を把握するためにTDBの網羅的な企業情報データを用いたが、生産性の測定と比較のためには資本や中間投入などの情報が必要であるため、ここではTDBの企業財務データを用いることにする。

まず、企業規模別の労働生産性を比較する。中堅企業は中小企業と比べると約30%高く、大企業は中小企業より71%ほど高い。これは資本装備率の違いによる。労働者1人当たり有形固定資本(実質)を比較すると中小企業の平均に比べ、中堅企業は約2.9倍、大企業は約5倍固定資本が多い。年によって若干の変化はあってもその差はほぼ一定である。

このような高い労働生産性を反映し、中堅企業の平均賃金は中小企業を大きく上回る水準にある。『経済産業省企業活動基本調査』の調査票情報を用いた金(2024)によれば、中堅企業の平均賃金は2009年以降、大企業より高く、顕著な上昇傾向にあり、日本全体の賃金引き上げに大きく貢献している。この傾向は、非正規雇用者の就業時間を考慮した分析においても同様に確認される。

続いて、全要素生産性(TFP)を規模間で比較した。全体的には大企業が中小企業より平均1.5%程度生産性が高いが、中堅企業は必ずしも中小企業より高いとは限らない。平均で中堅企業が中小企業よりTFPが1.2%低い。

ただし、上記の比較は単純平均の比較である。図6では、売上高をウェイトにした加重平均の企業規模別TFPの推移を比較している。製造業と非製造業で大きな違いがあり、近年では中堅企業が中小企業を上回っており、製造業ではそれがより顕著である。2010年以降の円安のため、製造業の大企業は生産性が高くなっているのに対し、非製造業の大企業は低迷していることも明確である。

図6 企業規模別TFPの推移
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図6 企業規模別TFPの推移
出典:「TDB財務データ」より著者作成
注:TFP水準は各産業・年の全企業のTFPの幾何平均からの乖離で測り、売上高ウェイトで加重平均したものである。このため、サンプル数の大半を占める中小企業の平均値は0付近に位置する傾向がある。

3 中堅企業のダイナミズム

前節では、日本経済における中堅企業の規模、年齢構成、生産性、そしてサプライチェーン上の役割を概観した。本節では、こうした中堅企業が時間の経過とともにどのように成長し、停滞し、あるいは市場から退出していくのか、そのダイナミズムを検討する。

3.1 企業規模のダイナミズム:硬直化する企業間移行

企業の規模間ダイナミズムを把握するため、サンプルの多い企業情報データに戻って、2000年から19年の企業規模間移行行列(トランジション・マトリックス)を分析する。

表4は、2000年から19年まで5年刻みで企業規模間トランジションをまとめたマトリックスである。ただし、ここで中小企業をさらに、資本金規模と従業員数の両方の基準で中小企業と判断される場合、従業員数基準のみで中小企業と判断される場合、資本金規模のみで中小企業と判断される場合の三つのグループに分けている。

規模間移行の停滞と滞留率の上昇

最も顕著な傾向は、同一の企業規模にとどまる企業の割合が、どの層においても年々高まっている点である。大企業において72%から90%へと急上昇しているだけでなく、中堅企業においても68%から80%、中小企業でも80%から88%へと滞留率が上昇している。これは、日本経済において企業が規模の壁を越えて成長したり、あるいは不振によって規模を縮小したりといった、企業規模間の流動性が低下している「硬直化」の実態を示唆している。

中堅企業の「縮小」

中堅企業から中小企業へと移行(縮小)するケースを詳しく見ると、2015年から2019年に中堅企業から中小企業へと移行した企業のうち、資本金基準のみで中小企業と判断される企業の割合が増加している(注3)。これは必ずしも事業の失敗による「衰退」を意味するものではない。税制上のメリットや補助金などの「中小企業向け優遇措置」を維持・再獲得するため、従業員数は中堅レベルを維持しつつ、減資して中小企業へ「再定義」を図る戦略的な行動が含まれている可能性がある。近年の中堅企業の「縮小」は、雇用規模の調整や資本金の見直しといった部分的な変化によるものが中心で、全面的な規模縮小は限定的である。

中小企業から中堅企業への「卒業」を阻む壁

一方で、中小企業から中堅企業への「卒業」にも特異な動きが確認される。2015年から2019年にかけて中堅企業へ移行した企業の約4分の3は、従業員数基準のみによって中堅企業と判断されている。つまり、企業が成長しても資本金の増額(増資)を避ける傾向が強まっていると思われる。背景には、資本金が一定額を超える場合、中小企業支援策の対象外となる「制度上の壁」の可能性がある。企業が成長を遂げながらも資本金を固定し続けるこの実態は、規模拡大へのインセンティブをそぐ「ピーターパン・シンドローム」の一形態であり、日本経済が「中堅企業の大量創出」に至らない構造的な要因の一つと考えられる(注4)。

表4 企業規模間トランジション・マトリックス
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表4 企業規模間トランジション・マトリックス
出典:「TDB企業情報データ」より著者作成
注:中小企業のうち、「資本・労働」は資本金と従業員数の両方の基準で中小企業と判断される場合、「労働のみ」は資本金では中小企業と判断されないが従業員数基準で中小企業と判断される場合、「資本のみ」は従業員数基準では中小企業と判断されないが資本金基準で中小企業と判断される企業を意味する。企業数の右の角括弧内数字は期首のそれぞれの企業グループ(横方向)合計に占める割合を、企業数の下の丸括弧内数字は期末のそれぞれの企業グループ(縦方向)合計に占める割合を意味する。

これらの結果は、企業が実質的に成長しても、制度的・戦略的理由から中小企業としてとどまる選択をしている可能性を示唆しており、次節以降で検討する中堅企業のダイナミズムを理解する上で重要な背景となる。

3.2 生産性のダイナミズム:再配分のエンジンとその目詰まり

ここでは、日本経済における生産性ダイナミズムと背景を整理する。

日本経済の生産性向上の主役交代

Fukao, Kim and Kwon (2026) は、日本経済全体のTFP成長の構造をFHK分解(Foster, Haltiwanger and Krizan, 2001)の手法で分析している。その結果によれば、日本経済では生産性動学における大きな変化が観察される。2000年代までは大企業の「内部効果(自社努力による向上)」が成長をけん引していたが、2010年代以降はその寄与が減退し、代わって「再配分効果(市場シェアの入れ替え)」の重要性が増している。具体的には、効率的な企業がシェアを拡大する「シェア効果」や、生産性が上昇している企業がシェアを伸ばす「共分散効果」が近年顕著に現れている。

図7 TFP上昇の要因分解
図7 TFP上昇の要因分解
出典:Fukao, Kim and Kwon (2026)

中小・中堅企業における再配分の重要性

Ikeuchi et al. (2022) が指摘しているように、生産性成長において小規模企業ほど「内部効果」は限定的であり、市場競争を通じたリソースの効率的配分が、層全体の生産性を底上げする上で重要な役割を果たす。2.3節で見たように、中堅企業は広範なサプライチェーンの結節点に位置し、かつ消費者(B2C)に近いため、市場の選別を受けやすいと考えられる層である。しかし、企業の固定化によって抑制されている再配分効果は、こうした層において内部効果の低さを十分に補うには至っていない可能性がある。

規模の固定化による「再配分の目詰まり」

3.1節で確認した「規模の固定化(滞留率の上昇)」は、健全な再配分プロセスを阻害する「目詰まり」として機能している可能性がある。成長して中堅企業になるべき優秀な中小企業が規模を固定すれば、本来起きるべき「シェアの拡大」が抑制されてしまう。また、低生産性ながら市場にとどまり続ける中小企業が増加(2.2節)することで、本来、成長企業に向かうべき労働力や資本といった経営リソースが、非効率な企業に塩漬けされる「負の再配分」が生じる。実際、既存研究では、日本経済において負の退出効果が確認されており、とりわけ中堅企業においては2010年以降、その重要性が高まっていることが示唆されている。次節以降でTDBデータを用い、この点をより具体的に確認する。

3.3 中堅企業の退出と再編:なぜ「負の退出効果」が問題となるのか

企業の退出は、低生産性企業が退出して経済全体の生産性を高める点で、通常は経済の新陳代謝として肯定的に捉えられる。しかし、退出企業の生産性が平均よりも高い場合、退出は経済全体の平均生産性を押し下げる。このような現象は「負の退出効果」と呼ばれる。

TDB財務データを用いて企業別の生産性を比較すると、退出企業の労働生産性は退出直前に、他の企業より約16%、TFPでは約0.8%低く、平均的には退出が負の効果をもたらすとは考えにくい。しかし、Ikeuchi et al. (2022) が指摘するように、生産性が高く、かつ規模の大きい一部の企業の退出は、平均的な傾向とは異なり、負の退出効果をもたらしうる。

退出の大半は中小企業で発生しており、中堅企業の退出件数は近年むしろ減少している。しかし2010年以降に限ると、退出する中堅企業の生産性は、同規模の存続企業と比べて同等か、むしろ高い水準にある。また、退出形態によっても大きな差が見られる。廃業や休業、解散、倒産といった退出では生産性が大きく低下する一方で、合併や買収などM&Aによる退出では、生産性が必ずしも低下しない。特に中堅企業ではM&A退出の比率が高く、M&Aによって退出する企業の生産性は、非M&A退出企業より一貫して高い。

これらの結果は、優良企業へのM&Aが中堅企業にまで広がり、中堅企業の退出が経営不振ではなく、事業再編や統合の一環として行われるケースが多いことを示唆している。

図8 M&A前後の労働生産性の変化
図8 M&A前後の労働生産性の変化
出典:「TDB企業情報データ」より著者作成
注:合併に関しては、買収企業と被買収企業のインプット(従業員数)とアウトプット(売上高、商業は商業マージン)を合計して労働生産性を求める。企業規模は買収企業の規模を基準とする。

以上の結果は、中堅企業における退出が単なる経営の失敗ではなく、再編の一形態として生じている一方で、高生産性企業の退出を通じて、経済全体の平均的な生産性を押し下げる可能性を内包していることを示唆している。中堅企業の成長・再編・退出のバランスをいかに設計するかは、日本経済のビジネス・ダイナミズムを考える上で重要な課題である。

4 M&Aによる企業再編

本稿の分析は、中堅企業の退出の多くが、倒産や廃業といった「失敗」ではなく、M&Aを通じた企業再編として生じている可能性を提示した。この点は、企業再編が経営資源の再配置を通じて効率性を高めうるかという問いにつながる。

TDBで把握されている合併による退出企業の合併元企業の情報を基に、投入と産出を合併元の企業に寄せて合計することで合併前も一つの企業だったように仮想的なデータを作り、合併前後の労働生産性の平均を比較すると、合併年に若干低下した後は、10%程度の上昇を見せている。Fukao, Kim and Kwon (2026)はこのような労働生産性の上昇が統計的にも有意であることを示している。ただし、TFPの有意な上昇は確認できず、労働生産性の上昇は主に資本の増加によると考えられる。従業員1人当たりの実質有形固定資産の対数の平均も、労働生産性と同様、M&A後、大きく上昇し、10年後も上昇を続けている。

M&Aは、企業再編を通じて企業内部の効率化をもたらすだけでなく、生産性の高い主体へのシェア集中を通じて、理論的には再配分効果(シェア効果や共分散効果)を高めうる。一方、法人単位の分析では、高生産性の合併元企業は「退出」として扱われるため、シェアの移転や内部効率化が十分に反映されず、負の退出効果として観測される可能性がある。

戦略なのか救済なのか

最後にM&Aによる退出は、事業の一時的な負のショック(例えば負債の急増など)に直面した生産性の高い企業への救済なのか、それとも戦略的選択の結果なのかを考える。M&Aによる退出企業の負債比率は、存続企業とほとんど同じレベルで、存続企業と統計的に有意な差は確認できない。一方、廃業、解散、倒産などは存続企業に比べて11~25%ほど負債比率が有意に高く、M&Aによる退出は救済型よりは事業再編のための戦略型と思われる。

TDB財務データではR&D実施企業の割合は約8.8%である。退出形態別の企業のR&D実施比率は、廃業・休業7%、合併12%、解散6%、倒産10%である。存続企業より廃業・休業や解散企業は2%ほど低いが、合併による退出企業は1.6%有意に高い。

これらのことから合併による退出は救済型より戦略型といえよう。

以上を踏まえると、M&Aは中堅企業にとって、成長や事業承継の手段であると同時に、日本経済全体のビジネス・ダイナミズムを左右する重要な要素でもある。

5 結論:日本経済の再生に向けた「中堅企業」の役割

本稿では、TDBデータを用いて、日本経済における中堅企業の位置づけと、そのダイナミズムを検討した。分析の結果、中堅企業はサプライチェーンや地域経済の結節点として重要な役割を担う一方で、企業規模間の移行が硬直化し、成長経路が限定されていることが確認された。生産性の観点からは、中堅企業の内部的な改善余地が必ずしも大きくない中で、本来重要となるべき市場を通じた再配分が十分に機能していない可能性が示唆された。

退出の分析からは、平均的には退出企業の生産性は低いものの、2010年以降、中堅企業においては高い生産性を有する企業が退出するケースが増加していることが明らかとなった。特に、中堅企業ではM&Aによる退出の比率が高く、退出が単なる経営不振による失敗ではなく、事業再編や統合の一環として生じている点が特徴的である。このような退出は、企業内部では効率化を伴う場合がある一方で、法人単位で観測される市場全体の再配分という観点では、経済全体の平均的な生産性を押し下げる可能性を内包している。

これらの結果は、中堅企業の成長、再編、退出のバランスが、日本経済のダイナミズムを左右する重要な要素であることを示している。今後は、企業規模間の円滑な移行を促す環境整備や、中堅企業の成長と再編が経済全体の再配分につながる制度設計が求められる。

本稿は一橋大学経済学研究科、帝国データバンク企業・経済高度実証研究センター(TDB-CAREE)の下で行われた研究結果の一部である。研究にあたり、科学研究費助成事業(課題番号23K25519)の支援を受けた。ここに記して、感謝の意を表したい。

脚注
  1. ^ TDBの企業間取引データの売上に占める取引額のシェアをもとに分析した。全体の約半分は直接の報告によるもので、シェアを報告していない場合は機械学習手法によってTDBが推計している値である。
  2. ^ 中堅企業が卸売・小売業やその他の対事業所サービス業、娯楽業など、消費者向けの産業に多く分布することによる。産業の違いをコントロールするとその差は統計的に有意でなくなる。
  3. ^ 2000年に中堅企業だった企業のうち、約114%が2005年には中小企業になり、そのうち、約10%ポイントが従業員数基準のみで中小企業となっており、1.8%ポイントの企業は資本金基準のみで中小企業になっている。2015年から2019年の移行を見ると、2015年に中堅企業だった企業の12%が中小企業になっているが、そのうち3.9%ポイントの企業は2019年従業員数基準のみで中小企業となり、7.1%ポイントの企業が資本金のみで中小企業となっている。両方の基準で中小企業になった元の中堅企業は全体の1%に過ぎない。
  4. ^ 中小企業から中堅企業に成長する企業の割合も期首中小企業数の0.14%→0.07%と減少している。
参考文献
  • Ikeuchi, K., Kim, Y., Kwon, H. U. and Fukao, K. (2022), “Productivity dynamics in Japan and the negative exit effect,” Contemporary Economic Policy, 40(1): 204-217.
  • Foster, Lucia, John Haltiwanger and C.J. Krizan (2001), “Aggregate Productivity Growth: Lessons from Microeconomic Evidence,” in C.R. Hulten, E.R. Dean and M.J. Harper eds., New Contributions to Productivity Analysis, Chicago: The University of Chicago Press.
  • Fukao, Kyoji, YoungGak Kim and Hyeog Ug Kwon (2026), “Sources of Productivity Growth by Firm Size and Causes of the Negative Exit Effect,” RIETI Discussion Paper Series, 26-E-007.
  • Haltiwanger, John C., Ron S. Jarmin and Javier Miranda (2013), “Who Creates Jobs? Small versus Large versus Young,” Review of Economics and Statistics, 95(2): 347–361.
  • 金 榮愨 (2024), 日本の中堅企業のパフォーマンス, RIETI Policy Discussion Paper Series, 24-P-011.

2026年2月26日掲載

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