Special Report

スタートアップ新時代

梅澤 高明
CIC Japan 会長/A.T.カーニー日本法人 会長

内山 英俊
株式会社unerry 代表取締役社長CEO

髙橋 政代
株式会社ビジョンケア 代表取締役社長

平松 淳
経済産業省経済産業政策局産業創造課 総括補佐

日本経済の復活のためには、勢いのあるスタートアップの出現が欠かせない。政府も2022年を「スタートアップ創出元年」と位置付け、さまざまな施策を展開している。今回の座談会では、国内最大級のスタートアップ支援拠点であるCIC Japanの梅澤高明会長に加え、スタートアップ企業の先鋭として活躍する株式会社unerry(ウネリー)の内山英俊社長、株式会社ビジョンケアの髙橋政代社長、そして経済産業省でスタートアップ政策に取り組む平松淳氏を迎え、スタートアップ新時代への動きについて語っていただいた。

司会:佐分利応貴 RIETI国際・広報ディレクター / 経済産業省大臣官房参事

自己紹介―スタートアップとの関わり

佐分利:
スタートアップの新時代が来たといわれる中で、今日は日本のスタートアップやそれらを支えるエコシステムの進化、そしてこのムーブメントを日本の大きな奔流にしていけるようなお話を伺えればと思っています。最初に、簡単な自己紹介をお願いいたします。

梅澤:
われわれが運営するCIC Tokyoは、スタートアップを中心とする国内最大級のイノベーションコミュニティーであり、2020年10月に立ち上げました。虎ノ門ヒルズのビジネスタワーに計6000m2のフロアを借り、約250社が入居する巨大な都心型イノベーションセンターを形成しています。うち3分の2がスタートアップで、残りはさまざまなエコシステムプレーヤーが入居しています。

われわれのパーパスはイノベーションを起こす人たちのコミュニティーを作ることなので、ほぼ毎日のようにさまざまなイノベーションイベントを開催しています。当然、入居企業も参加されますが、外からたくさんの方々が登壇者や審査員、聴衆としていらっしゃるので、イノベーションに関わる方がいろいろな口実でここに集まり、新たなプロジェクトを生むきっかけを作る場となっています。

内山:
株式会社unerryは2015年8月の創業で、人流データを大規模に集積・解析して、集客サービスやシステムソリューションを提供している、いわゆる人流ビッグデータの会社です。2022年7月にはCIC Tokyoの中で初めて東証グロース市場に上場しました。人流データは非常にプライバシー性が高いので、正しく取り扱える企業が少なかったのですが、unerryはコロナ禍において全国のいろいろな混雑データを毎日出し続けたことで、社会的インフラとしてもっと使っていけるのではないかと、大きなご支持を頂いています。私どものミッションは、リアルな社会をデータ化することであり、社会公益に資する取り組みをしっかり行っていきたいと考えています。

髙橋:
私はもともと大学病院で眼科医をしていたのですが、米国で神経幹細胞という新しい概念に出合い、再生医療の道を志すようになりました。眼科医のポジションを捨てて理化学研究所で研究を進め、世界で初めてiPS細胞から作った網膜の細胞を患者に移植する臨床研究の手術に成功しました。

しかしそこで、はたと、今の医療システムではあまりにも規制で縛られていて新しい治療ができないことに気付き、事業化を目指したのですが、アカデミアにいてはどうも思う方向に行かないなと思って自分で会社を起こす決心をしました。3年前から株式会社ビジョンケアと子会社2社の代表取締役を務めています。

平松:
私が所属する経済産業省のスタートアップ創出推進室は2021年末に新しく創設された部署で、経済産業省のスタートアップ政策を司令塔としてドライブする役割を担っています。岸田総理が2022年の年初に「スタートアップ創出元年」を掲げたことに呼応する形でこの1年スタートアップ政策の検討をしてきました。直近では本年度第2次補正予算においてスタートアップ関連予算を過去例のない1兆円規模で計上し、まさに政府も本気となって取り組んでいるところです。

エンジニアのマインドから起業家のマインドへ

佐分利:
次に、日本の代表的なスタートアップであるお二人にお聞きしたいと思います。内山さんは、なぜスタートアップを立ち上げようと思われたのでしょうか。

内山:
私は1990年代、AIのエンジニア兼研究者をしていたのですが、米国のミシガン大学にいた頃、Google創業者のラリー・ペイジ氏が卒業生としてよく訪れていて、Googleの初期のサービスを見たことがあります。それから1年ぐらいもするとGoogleは大きな会社になっていました。そのとき分かったのは、1人のエンジニアが世界を変えられるのだということです。そして自分でもサービスを始めたのですが、木っ端みじんに砕け散り、力量の差は大きいと感じました。その後、エンジニアからビジネスパートにきちんと切り替えるためにコンサルティングの世界に入り、梅澤さんのおられるA.T. カーニーでお世話になりました。

やはり1人のエンジニア、1人の起業家が世界を変えられるということを肌身で知ることはとても重要です。大企業で何かをするよりも一起業家としてやっていって、新しいうねりを作りたいという思いを込めてunerryという会社を作りました。

佐分利:
1人のエンジニアが世界を変えられる、というのは素晴らしい言葉だと思います。エンジニアと起業家は別の人種ではなく、同じ人間がどちらにもなれるというお話も興味深いです。

内山:
エンジニア出身の人間として、マーケットインの発想とテクノロジーアウトの発想がバランスされた会社にしていくことがとても重要だと思っています。一般的な日本企業はどちらかが強いと思うのです。

売り上げ、投資をどうするのか、人材のバランスをどうするのかということにかなり意図的に取り組んでいます。

ルールでがんじがらめの医療を変える

佐分利:
髙橋さんはどのような経緯でスタートアップを始められたのでしょうか。

髙橋:
実は再生医療にはビジネスモデルがまだないのです。医薬製品開発をする仕組みとして低分子医薬に関して40年ぐらいかけて作られたシステムがあるのですが、手術を伴う細胞医療にそぐわないところが多々あります。しかし、なんとかそのシステムに当てはめようと四苦八苦して、規制当局にようやく承認されてもなおビジネスとしてなかなか成り立っていないのが現状です。

幸い日本は再生医療学会と厚生労働省が協力して仕組みを作っているので、日本では新しい仕組みができるかもと思いました。それでもなお、産学連携には問題が多いので、そこを打破するために社長となり、ちゃんとペイするビジネスモデルを作りたいと考えたのです。新しいことをしようとすると窮屈になってきて、「社長になればいいのだ」と思い付き、社長になったという経緯があります。

アカデミア側から起業すること、そうしたモデルを作ることは非常に重要です。米国では基礎研究者のゴールの1つが起業であるのに対し、日本ではそこのマインドがだいぶ薄いと思います。

佐分利:
どのようなところが壁になるのでしょうか。

髙橋:
医療が人流と似ていると思ったのは、情報データとプライバシーの問題でがんじがらめになっている点と、公的保険で縛られている点です。私が解決法だと思う医療の仕組みは、法律としてはすでにあり誰でもできるのだけれども、なぜか多くの医師がやれないと思っているのです。そして、周りの多くは厚生労働省に言って解決してもらおうとしますが、私は規制改革会議に出ているうちに、しがらみがあって無理だなと分かったので、現場から可能な方法で変えたいと思っています。

平松:
先ほど補正予算1兆円の話をさせていただきましたが、政策を検討するに当たって声が大きい人や企業の声が届きやすいという側面があります。スタートアップ企業はその点、経営資源が少なく、例えばロビーイングを行う余力もないので声が届きにくいという構造があると思います。しかし、総理が「スタートアップ創出元年」と宣言したことにより、小さな声も拾って政策に反映していく雰囲気が醸成されてきた点はだいぶ変わってきたと思います。大きな声に動かされて政策にするのではなく、真に社会を変えようとする人たちの声に耳を傾けながらいろいろなことに取り組みたいと思っています。

佐分利:
ビジネスを引っ張っていく立場は何が大変ですか。実際に立場が変わってみてどうでしょうか。

髙橋:
私は理化学研究所で60人ぐらいのラボを長年運営していたので、中小企業を経営していたという感じでした。ただ自分のやりたいことをやると言っていたら、同じ考えの人が集まってきたという感じです。

佐分利:
それは人徳でもありますよね。

髙橋:
人徳というか、やりたいと言っているだけなのです。でも、その目的が社会のためであるということが分かることが大事で、自分のためということが少しでも見えたらみんな離れていくと思います。

佐分利:
内山さんはいかがですか。

内山:
大変かどうかと言われると、立場なりの苦労がある程度あると思います。ただ、組織の一員としての立場と組織を引っ張っていく立場に違いがあるとすれば、誰の指示に従ってやるかというところが根本的な違いだと思っています。私は残念ながら、大組織の一員として活動することが得意なタイプではないので、組織を引っ張る方が合っていたのかもしれません。

グローバルで戦えるポテンシャルを

梅澤:
先ほど髙橋さんがおっしゃった、アカデミアから起業家が出てくればいいという話は本当にその通りだと思っています。特に日本はそこを今からブーストしなければならないと思っています。日本は経済規模が世界第3位なのに、ユニコーンの数が米国や中国に比べて決定的に少ないのには構造的要因があります。国内市場が米中ほど大きくないし、成長率もだいぶ低いため、米中の同じようなビジネスモデルの企業と比べると時価総額が1桁小さくなりがちです。

しかし、もう1つ理由があって、日本の既存のスタートアップエコシステムは、古くはBtoCのITサービスやモバイルサービス、ゲーム、そしてここ数年はBtoBのSoftware as a Services(SaaS)がけん引しており、ベンチャーキャピタルの資金もほとんどがこうした分野に流れていたのですが、日本が世界で初めてそれらのサービスを実現したわけではなく、米国や中国に少なくとも類似のサービスがあるケースが多い。米中ではあっという間に10倍の時価総額になる中で、日本発のスタートアップが世界に出ていくハードルは圧倒的に高いのです。これではユニコーンを量産できません。

なので、グローバルで戦うポテンシャルを持つスタートアップを量産しなければなりません。ディープテックのいくつかの領域は高いポテンシャルを秘めているし、世界で日本がユニークだといわれるものを素材にしたコンテンツや食などで世界の需要を取り込む戦い方もあり得るでしょう。

ディープテックについては、ライフサイエンスやバイオテックも、それからロボティクスも素材も、日本に極めて分厚い基礎技術の蓄積があります。でも、そこから出てきたビジネスはほとんどが大企業によるものであり、スタートアップによるものではありません。アカデミアからそうした基礎技術を商用化するところまで持っていくスタートアップがどんどん出てくるようなエコシステムに進化すれば、世界で戦えるスタートアップは相当量産できるかもしれません。

そのためには、髙橋さんがおっしゃったように、技術のことがよく分かっている人たちがリードするスタートアップが増えないといけないでしょう。CICは立ち上げたときから、既存のスタートアップエコシステムで欠けていた部分を応援することを大事なミッションにしていて、結果的にいろいろな大学の方々がしょっちゅう出入りしていますし、大学発ベンチャーの卵たちがいつもピッチをしている場になってきました。

佐分利:
梅澤さんは、「日本のエンジニアよ、イノベーションのど真ん中にいるのは君たちだ」といつもおっしゃっていますね。

梅澤:
正確に言うとエンジニアとリサーチャーなのです。髙橋さんは両方やられていますよね。

髙橋:
過去にはアカデミアは清貧を尊び、お金の話をしてはいけない雰囲気でした。日本の研究者は、非常に優秀だけれども、企業に行くのは都落ちという間違ったイメージもあって、問題だったと思います。でも、今は非常に変わってきました。私はいくつかの大学の医学部で授業をしているのですが、医療の世界ではいろんなことが本当に遅れていて、学生には起業の意思もビジネスマインドもほとんどありませんでした。しかし今は東京大学の医学部生の3分の1は医者にならずに、コンサルや起業の道を考えているそうです。私たちも理研ベンチャーとして起業したので、アカデミアの人たちも身近に感じるようで入社希望者が増えています。

梅澤:
産業総合研究所も、本気で起業支援の仕組みを作ろうと動いていますね。

髙橋:
やはり意識が変わってきましたし、そうして旗を振ってもらえるとみんなも「行っていいんだ」と思うようになります。

内山:
別の観点からすると、日本の企業であることと、日本を市場にすることと、日本の人を雇うことと、私が日本人であることは分離されていると思っています。これらは一体だと思われがちですが、実際には英語を話せるし、海外にも法人は作れるし、外国人を雇うこともできるし、市場もいろいろある。起業家の観点でグローバルに視点を移せば、日本の政策や見直すべきカルチャーにとらわれないくらいのドライな時代になっていると思っています。特に新型コロナによって世界中の労働者がリモート化されたこの数年間で、流れは加速したと思っています。一方、国としては日本のために何かしようと思う起業家を大事にしていただきたいとも思っています。実はわれわれも、新型コロナが急速に感染拡大した際に混雑データの提供を国に申し出たのですが、しばらく連絡がなかったなど苦い経験があります。

平松:
そういう意味では、日本のスタートアップが世界へ飛び立つ上でハードルになるものをなるべく少なくし、リスクを取ってチャレンジする人にちゃんと恩恵が与えられる環境を作ることが一番重要だと思っています。

髙橋:
確かに日本の中だけで考えない方がいいと思いますね。私たちもグローバルに考えていますし、ビッグファーマとも提携しているのですが、省庁にも日本を良くしたいと思っている人がたくさんいらっしゃることを知っているし、私も日本のために何かしていきたいとは思っています。

内山:
お互いに甘えの構造があると思っていて、日本人なのだから日本を良くしたいという気持ちがあるだろう、日本の企業だから国が守るだろう、という前提がお互いにあるような気がするのです。その甘えを全て除外したときに、国はどんな政策を取るべきなのかを真剣に考えた方がいいと思います。

平松:
環境が醸成されれば国の支援がなくても突き抜けた人材がどんどん出てきて、自然と世界に羽ばたいていくと思っています。ただ、現時点ではそこが未成熟で、まずは起業支援を集中的に行い、環境が整備されることで突き抜けた方がたくさん出てくるようになればと思っています。

梅澤:
後は、そういう人材が集まるような国になることが必要だと思います。そうなれば、少なくとも日本で研究したら面白そうな分野に関しては世界中から研究者が集まってきて、結果的に起業や経済成長にもつながります。そのような可能性のある研究分野はいくつかあって、再生医療やロボティクスはその代表例ですけれども、ITエンジニアはアニメやゲームが大好きなので、「クールジャパン」は人材誘致のために使えばいいと思いますし、食や観光資源が世界のトップクラスであることも可能性を秘めていると思います。

日本は何を目指せばいいのか

佐分利:
政府はスタートアップの育成を目指しているわけですが、われわれは将来的に何を目指せばみんながハッピーになるのでしょうか。分かりやすくてみんなが納得できる目標はありますか。

内山:
私の勝手な考えとしては海外の優秀な方をもっと積極的に雇用できる環境が必要だと思います。スタートアップにとって、より自由な働き方のもと、日本人の数分の1のコストでオフショア契約することは理にかなっていると思います。つまり、日本に住む日本人中心にメンバーを集める妥当性が失われつつあります。東京にいても、インドにいても、欧州にいても、どこにいても英語が話せれば一緒なのです。

髙橋:
日本はルールが目的化しており、企業の大半はイノベーションとか自立した人材といいながら労務管理をしているのです。イノベーティブな人を厳しく労務管理しては駄目ですよね。そういうことが足を引っ張っていると思います。

佐分利:
日本の「規制ジャングル」を自力で突破するのはやめて、最適な場所で大きくなってもらって、その後日本がその会社を買えばいいということでしょうか。

髙橋:
私も、自分の居場所(医療)の中にいてはがんじがらめで身動きがとれなかったから、外に出て自由にやろうと思ったのかもしれません。

平松:
耳が痛いお話ですが、技術をはじめ日本にもまだまだ強みがある中で、その上に成り立った強みを、それが芽吹いて大きくなるところを支えるのは必要だと思います。芽が出た後に海外に行くのをがんじがらめにしては大きくはならないので、そこは縛ってはいけないと思っています。

髙橋:
私が会社を起こしたのは、サイエンスを究めても社会システムが追い付いてこないために実装ができないので、社会の仕組みを変えようと思ったからです。今までもそういう試みはいくつかあったと思うのですが、これまでの日本では途中でつぶされてしまうのです。そこを経済産業省もちゃんと守ってあげることが必要だと思います。

日本の省庁は調整型なので、リーダーシップをもう少し取ってほしいと思っています。例えば台湾の省庁は専門家がトップなので、話がツーカーなのですが、日本の省庁トップは違うのでリーダーシップを取れず、偉い先生方が調整をしています。調整型にすると、従来型の考え方がかなり反映されますよね。そして担当者も2~3年で代わるので、前に進まないのです。

梅澤:
同感です。ちなみに経済産業省に特にお願いしたいのは、大企業から経営資源を大量放出させることです。大企業はコア事業を徐々に絞り込む一方で、投資対象とならないノンコア事業を抱え込んでいます。このようなケースでノンコア部門で働く人材は、嫌になって転職していきますが、知財は企業が囲い込んだままです。やめていった人材は、自分が開発した知財にアクセスができないので、使われない知財は2~3年で陳腐化して価値がなくなってしまう、というもったいない事態が起こっています。このようなノンコア事業について、知財と人材をセットにしたカーブアウトを後押しすれば、大企業発のスタートアップがたくさん出てくると思います。

平松:
われわれもそうした問題意識はずっと持っています。おっしゃる通り、日本全体を見渡すと人や資金というアセットが大企業に集中しているのは事実です。このように大企業に閉じ込められたアセットをどうやって吐き出させ、スタートアップなどイノベーションが生まれる先に供給していくのかが、経産省の大きなミッションの1つだと思っています。

梅澤:
パテントボックス税制で知財を活用することのメリットを高める一方で、知財を保有するコストも高めてもいいと思うのです。つまり、使わない知財を放出するインセンティブを作るということです。

佐分利:
知財の保有コストを上げてしまうと大企業が持ち切れなくなって放出し、その知財を外国企業が全部買ってしまうという議論もありますが、いかがでしょうか。

髙橋:
ベンチャーは安く保有できるようにしていただきたいです。バイオのベンチャーでは最近、医師がたくさん起業していますが、確かに経営人とのマッチングが少ないのです。

佐分利:
どうしたら、そういう大企業に埋没してしまっている皆さんを救い出せるかということですよね。

内山:
日本経済はシュリンクしているといっても、世界第3位の経済大国であり、まだまだ世界の上位です。大企業の新卒で年収350万円がもらえたら、世界で上位2割以内の収入となります。 日本の企業であることと日本人であることが切り離されているとはいえ、日本に生まれ育ち日本の企業に勤めることで受けた「投資」により今の自分があるのだという感覚を持てることは重要なのだと思います。頂いた投資をどう返すか、言い換えると頂いた恩を自らのスキルでどう社会に還元するかという考え方ができれば発想は変わると思うので、その感覚をうまく日本の組織人に伝えたいと私は思っています。

髙橋:
日本には資源がたくさんあるのにもったいないですよね。ルールは変えられないと思い込んでいる人が多いので、ルールは変えるものなのだという教育をしなければならないと思います。

梅澤:
企業ですら「環境変化に適応しよう」という議論がほとんどで、競争環境や競争のルールを自ら変えようという強い意志を持っているところは本当に少ないです。

髙橋:
日本人が変われば、日本人を雇ってもいいわけですよね。

内山:
年収が350万円の日本人と130万円の外国人を同時に雇ったら、350万円の日本人は3倍すごいということを証明しなければならなくなります。

髙橋:
そうですね。日本人はもっと可能性があるのに。もともと1m飛べるノミを50cmの箱に入れると50cmしか飛ばなくて、1m飛ぶノミと一緒にすることで初めて、同じように1m飛べるという有名な話がありますが、ごちゃ混ぜにすると日本人も目覚めるかもしれません。

梅澤:
わが道を行く変人がたくさん出てくるような社会にしたいですね。実際、東京大学や京都大学のトップ数パーセントの学生たちは、若くして起業し成功した人たちの背中を見て、起業を志す人が増えています。

佐分利:
そういう意味では、日本人のアイデアを生かすためには逆に脱日本すべきというのも1つの重要なメッセージですし、変わりつつある部分も結構あります。そうはいっても、いまだに優秀な人はみんな大企業や医学部に行ってしまって、社会にイノベーションを起こすような形のキャリアパスにはなっていませんよね。

梅澤:
でも、東京大学医学部の3分の1が医者以外のキャリアパスを望んでいるのは重要なことですね。

髙橋:
そうして旗を振るとともに、CICのようにおしゃれ感やかっこよさというのも必要だと思います。

梅澤:
世界とつながる場にしないといけないと思っているので。CICには外国人も、女性も、若者もたくさんいますし、スタートアップの環境はこんなに多様な人がいて当たり前なのだということを見せられる場にはしようと思っています。

髙橋:
やはり魅力的に見せないと駄目ですよね。魅力的な分野にしないと。ただ「人が来ない」と言っているだけでは駄目だと思います。

読者へのメッセージ

佐分利:
最後に、読者の方々にメッセージをお願いします。内山:リモートワークとデジタル化が進んだ世界において、ほとんどの日本企業は、日本人を採用する妥当性を失っていくと思うのです。人材はこれから海外に膨大に存在するようになるので、今の若い方々は就職するにしろ何をするにしても、その人たちとどう戦うかという時代に突入することは間違いありません。そんな時代だからこそ、自分が置かれている環境の恵まれている部分と厳しい部分の両方を正しく理解し、甘えずにやり切ることが必要だと思います。そのためにはわれわれミドルエイジが背中を見せていくことも大切だと思っています。

髙橋:
若い人にはいろいろな分野を見て視野を広げてほしいですね。大企業において、大企業の中のことしか知らないで人生を送る人が多いと思うのですが、医療も同じで、医師は医療のことしか知らないままにこき使われて疲弊しているのが現状です。しかし一歩外に出て見れば自分たちの価値にも気付くはずなのです。ですから、もっと社会に出ることが必要だと思います。視野を広げると視座が上がることにもなるということに気付きました。

平松:
スタートアップ政策もその一貫だと考えていますが、経産省はリスクを取って新しいことにチャレンジする人を応援するという観点でいろいろな政策に取り組んでいます。今後もチャレンジする人を後押ししていきたいと思っております。

梅澤:
第一に、研究者やエンジニアに強く起業をお勧めします。第二に、才能があるのに大企業でくすぶっている人には飛び出すことをお勧めします。第三に、特定の分野を深く掘っているオタクの人は、その道をさらに突き進むことをお勧めします。そうしたユニークさが「ゼロイチ」の可能性を生みます。CICは、そんな人たちのために応援の旗を振りたいです。

佐分利:
日本の明るい未来は見えますか。

梅澤:
世界中の変人、ユニークな人が集まる国にできると思います。日本にはそのポテンシャルが十二分にあって、まだ国としてそういう意志を持てていないだけだと思います。

佐分利:
今後10年で日本のグローバル化、「第3の開国」は一気に進むでしょう。AIの翻訳精度が高まって外国企業との仕事がしやすくなりますし、ブラックボックスだった日本のことが自動翻訳でどんどん伝わるようになると思います。

髙橋:
日本の価値はたくさんあるので、それをどう使って事業にしていくかということですよね。

梅澤:
日本は「ゼロイチ」が得意な国なのですが、「イチヒャク」ができていないのです。

髙橋:
10ぐらいになるとたたかれるのですよね。

梅澤:
そこをどうするかがスタートアップ政策でもあると思います。ゼロイチ、イチジュウは起業家が単独でできます。しかし十から百にするには、大企業が持つ事業資産を使った方が効率が良い。スタートアップと大企業の協業によるオープンイノベーションの本質は、そこにあると思います。

内山:
「イチジュウ」を作る人と「ジュウヒャク」を作る人のベストミックスを作れるといいと思います。英国型では育ったものを買収して組み合わせるモデルなのですが、日本のモデルではオープンイノベーションが緩いので、「ジュウ」まで育ったものを企業の支援をうまく使って大きくするしかありません。

梅澤:
大企業は、資本と事業資産を気前よく出すが口は出さずにスタートアップに勝手に育ってもらう。うまく育ってくれたら、大きなフィナンシャルリターンがあるのだからそれでいい、というふうになぜ割り切れないのだろうと思います。

内山:
これは素晴らしい考えだと思います。そうなったら明るいと思います。

佐分利:
本日はありがとうございました。

2022年12月14日掲載

この著者の記事