Special Report

State of Southeast Asia 2021(東南アジア10カ国の有識者を対象にした意識調査)-ASEAN諸国から見た日本と中国(動画)

Sharon SEAH LI-LIAN
ASEAN研究センター コーディネーター、東南アジア気候変動プログラム コーディネーター

Malcolm COOK
ASEAN研究センター客員上席研究員

矢野 誠
RIETI理事長

渡辺 哲也
RIETI副所長/東京大学公共政策大学院 客員教授

リードシンガポールのトップシンクタンクの1つであるISEAS(アイセアス)は、2019年より東南アジア10カ国の有識者を対象に毎年意識調査を実施している。米中対立が続き、中国の影響力増大に対する警戒感も高まる中で実施された今回の調査結果のポイントについて、調査結果を取りまとめたSharon SEAH LI-LIANコーディネーターとアジアの政治経済学の専門家であるMalcolm COOK客員上席研究員にお聞きした。

本コンテンツはrietichannel(YouTube)にて提供いたします。

プレゼンテーション資料 [PDF:1.7MB]


東南アジア地域の展望

SEAH LI-LIAN:東南アジア諸国の人々にとって最大の課題はCOVID-19であり、これに続くのが失業と景気後退、そして社会経済的なギャップの拡大と所得格差への懸念です。ASEANが主要大国間の対立の舞台になるリスクもあります。COVID-19への対応でASEAN諸国の中でリーダーシップという点で最も優れた評価を得たのはシンガポールで、これにベトナムが続きました。域外対話国の中でCOVID-19に関してASEANに最も支援を提供した国は中国であり、これに日本が続いています。

米中間の貿易紛争は、東南アジアが中国・米国の主導する2つのブロックに分裂するという「デカップリング」の脅威を生んでいます。米中関係は、今後1年間でどのように進展していくと思うかという質問に対して、多くは「対立は緩和されるが、米中関係は引き続き不安定なものになる」と答えています。南シナ海をめぐる情勢は緊迫しており、排他的経済水域と大陸棚において中国が囲い込みを進めています。米中の軍事的対立も懸念材料です。

多くの回答者が自国にとって最も経済的な影響力が大きい国は中国であるとしている一方で、72.3%の回答者は東南アジア地域におけるこうした中国の経済的な影響力の増大に懸念を示しています。中国は引き続き、政治的・戦略的いずれの側面においても最も影響力の強いアクターであると考えられており、この影響力は、東南アジアの島嶼国よりも大陸国において強く感じられています。政治的・戦略的な影響力という点では、米国は中国に後れをとっています。

「中国は、東南アジアを影響圏に組み込む意図を有する、修正主義的な大国である」と考えられており、「中国は徐々に米国に代わって地域リーダーとしての役割を担いつつある」を選ぶ回答も31.5%見られました。回答者の多くは、自国における中国による経済的支配・政治的影響力の拡大を憂慮しているとしました。

私たちの「信頼感ベンチマーク調査」では、日本は最も信頼できる大国とされており、その比率も2019年の65.9%から2021年は67.1%に上昇しています。2位がEUで、3位は米国でした。日本は国際法を尊重・推進する責任ある大国と見られており、信頼できる戦略的大国とされています。自由貿易を推進する力を持つのはどこかという点で、回答者の評価は米国、欧州連合(EU)、ASEANの間で分かれています。2020年に14.5%だった米国は22.5%へ回復しており、バイデン政権誕生の効果であると見られます。日本はASEANと僅差の15.4%で4位でした。

COOK:東南アジアのエリート層は、その国力・影響力の点から各国を3グループに分類しています。つまり、米国と中国、次いで日本とEU、さらにその下にオーストラリア、韓国、インド、ニュージーランド、その他です。COVID-19に関して、中国の東南アジアに対する貢献は、他のどの国よりも高く評価されています。

東南アジア諸国政府による対中政策の多くは、たとえ中国が各国に対して有害な行動をとっているにせよ、中国の要求に応じていくことを基礎としています。覇権という意味において、中国は東南アジア地域において愛されてはいないにせよ、十分に恐れられていること、そして、他国にとって好ましい展望ではないとしても、東南アジア諸国が対中関係を緊密にしていくことに強い支持があることが分かります。

東南アジア10カ国のうち7カ国において、日本は観光旅行の行き先として高く評価されています。子女の留学先として好まれているのは日本・EUです。これは、東南アジア諸国向けに文部科学省が提供している奨学金を中心とした長年にわたる取り組みが貢献しているものと思われます。米中のような「脅威対機会」という緊張を伴わず、東南アジアに影響力を及ぼし得る大国は日本のみです。

Q&A

渡辺:今日の難しい情勢の中で、どのような分野・セクターで日本とASEANは協働できるでしょうか。

COOK:日本は伝統的に、インフラ分野に関する譲許的融資や一般融資を提供する国として、圧倒的に大きな存在でした。東南アジアのインフラと、その提供・融資は、特に中国への依存をめぐる懸念を緩和する方法としてますます重要になりつつあります。

SEAH LI-LIAN:1970年代・80年代には、日本はこの地域の諸国へのインフラ関連支援で最も大きな存在でした。例えば、タイ日友好橋は有名ですし、COVID-19復興計画の強化に向けた疾病管理センターの設立などは着目すべきでしょう。

矢野:日本のポジティブな印象は一時的なものなのでしょうか。東南アジア諸国との良好な関係を築くために、私たちは多くの努力を重ねてきました。日本と東南アジア諸国の将来的な関係については、どのように考えていらっしゃいますか。

SEAH LI-LIAN:日本はASEANの人々にとって、特に雇用創出で大きな恩恵をもたらしています。日本に対するポジティブな印象は一時的なものではありません。日本はテクノロジー、AI、デジタル化における先駆者です。これらは、東南アジア地域がもっと学ぼうとしている分野であり、第四次産業革命と低炭素経済への移行で重要なものだと考えています。

中国、EU、インド、日本、米国の信頼度についてASEANの有識者について聞いたところ、2019年、2020年、2021年の3回の調査すべてで日本が最も信頼できるパートナーであるとされた。


Sharon SEAH LI-LIAN
(Coordinator, ASEAN Studies Centre and Coordinator, Climate Change in Southeast Asia)

[Short Biography]
Sharon SEAH LI-LIAN is a Coordinator of the ISEAS Yusof-Ishak Institute. Prior to joining the Institute, she was the Associate Director of the National University of Singapore (NUS) Centre for International Law. She has spent 14 years in the National Environment Agency and Ministry of Foreign Affairs of Singapore prior to entering academia, including a diplomatic posting to the Singapore Embassy in Bangkok, Thailand from 2003 to 2007. She maintains an interest in climate change and environmental issues, multilateralism and ASEAN development. She graduated with a Master's degree in Public and International Law from the University of Melbourne in 2018.


Malcolm COOK
(Visiting Senior Fellow, ASEAN Studies Centre (ISEAS))

[Short Biography]
Malcolm COOK joined ISEAS in 2014, where he is a Visiting Senior Fellow. Before ISEAS, he was a Professor and the founding Dean of the School of International Studies at Flinders University of South Australia (2011-2014); the founding East Asia Program Director at the Lowy Institute in Sydney (2003-2010); and a Lecturer at the Ateneo de Manila University in the Philippines (2000-2003). He has lived and worked in Canada, Japan, South Korea, the Philippines, Australia and Singapore. His research interest covers Southeast Asian regional strategic order, Major power interests in Southeast Asia, Southeast Asian economic integration, Philippine foreign policy, and Philippine domestic politics.

2021年3月18日掲載