Special Report

企業の声に聞く景気情勢

福山 光博
コンサルティングフェロー

慎重な景気認識

10月16日、新政権としては初めてとなる月例経済報告が関係閣僚会議に提出されたが、そこでは、「持ち直してきているが、自律性に乏しく、失業率が高水準にあるなど依然として厳しい状況にある」との景気認識が示された。

内外の在庫調整や政策による下支えもあり、本年2月を底に生産が6カ月連続で増加するなど、景気の持ち直しの動きは続いている。しかしながら、生産水準はピーク時を約2割下回り、企業の設備や雇用の過剰感は依然として根強い。こうした中、失業率は7月にこれまでで最高となる5.7%に達し、8月も引き続き5.5%にとどまっていることなどが、「厳しい状況にある」との慎重な景気認識の背景となったと考えられる。

厳しさの残る景気情勢と企業の声

政府全体の景気認識は、毎月、月例経済報告として示されるが、これと並行して、経済産業省では、概ね4半期に1回程度、地域の企業のヒアリングをもとにした「地域経済産業調査」のほか、全国の各産業の主要企業130社程度へのヒアリングをもとにした「経済産業定点調査」(以下、「定点調査」と略)を行い、企業の声を背景にした景気情勢の把握を行っている。ここでは、10月7日の拡大経済産業局長会議に提出された定点調査について、簡単に紹介したい(注1)

10月に示された定点調査は、昨年の開始以来6回目の調査となるが、8・9月にヒアリングが行われ、全体として厳しい状況の中にある企業の声が示されている。これを受け、定点調査も、月例経済報告と同じく、「景気は、一部に持ち直しの動きが見られる一方で、雇用情勢が厳しさを増すなど、総じて見れば、厳しい状況にある」との慎重な景気の全体感を示している。

自動車産業や電機産業、その関連産業などは、政策による支援もあり、生産の増加などの経営環境改善についての指摘もある。定点調査では、本年6月時点と比較して、業況が悪化したと回答した企業が1割にとどまったのに対して、改善と回答した企業は3割となっている。特に、アジアとの取引環境が改善したとの回答は、回答企業のほぼ半数にのぼっていることが、注目される。アジアについては、「景気刺激策や在庫調整進展の効果もあり、中国を中心に持ち直しの動きが見られている。潜在的な成長率も高く、市場としても生産拠点としても、今後も有望な地域であることから、今年度から、現地戦略拠点を強化し、その活用を図っている」など、その潜在性に着目する企業の声も示されている。

しかしながら、全体としては、企業の景気認識は楽観的ではなく、特に景気の先行きについては不透明とする企業も少なくない。今回の定点調査では、生産(製造業)・売上(非製造業)水準について07年度の水準に回復する時期についての質問が行われたが、製造業では実に半数近くの企業は11年以降ないしは「回復の目途が立たない」との回答であった(図1)。リスク要因については、製造業・非製造業とも、およそ6割の企業が国内消費市場の悪化を懸念しているほか、製造業は米国・アジア経済の状況を懸念していることが伺われる(図2)。

図1 生産(製造業)・売上(非製造業)の07年度水準回復時期
図1 生産(製造業)・売上(非製造業)の07年度水準回復時期
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図2 今後懸念されるリスク要因(複数回答)(製造業・非製造業)
図2 今後懸念されるリスク要因
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個別の分野では、設備投資は、太陽光発電や電池などの環境対応向けの投資に意欲的に取り組む企業の声もあるが(「太陽電池の需要拡大に伴い、関連部材の生産規模拡大を計画中」、「電気自動車の生産に対応するため、リチウム電池製造に係る生産能力の拡大を予定」等)、全体としては投資の規模は低迷している。日銀短観の設備投資計画や機械受注などの先行指標を見ても、設備投資は増加トレンドには転じておらず、注意が必要である。また、厳しい状況の続く雇用情勢については、一部に残業時間や社員数の増加措置を行ったと回答した企業もあったものの、「ボーナスの調整」、「残業時間の減少」などによる対応が比較的多くみられた。

また、定点調査の報告に当たっては、9月下旬に円の対ドル・レートが90円を下回る水準となったことを踏まえて行った、円高に関する緊急ヒアリングの結果もあわせて公表された。同調査では、約8割の回答企業(製造業)が為替予約を行っているなど、為替リスクをヘッジする取組が行われていることもあり、「『深刻な減益』ないし『多少の減益』と回答する企業は3割強」とし、「素材系の企業には、円高のプラス効果を指摘する声もある一方で、想定為替レートを上回る形で更なる円高が急激に進展することに伴う影響を懸念する声は、輸出企業や中小企業を中心に根強く、今後の為替レートの推移およびその経済・産業への影響については、引き続き細心の注意を払っていく必要がある」としている。

今後の見通し

経済企画協会がエコノミスト40人の予測を集計した「ESPフォーキャスト」(10月13日公表)においては、10年度には実質GDP成長率はプラス成長(40人平均でプラス1.22%)に転じる見込みとなっている。10月の月例経済報告も、景気の先行きについては、海外経済の改善などを背景に持ち直し傾向が続くことに期待を示している。一方、同報告は、雇用情勢の悪化、海外景気の下振れ、金融資本市場の変動などのリスク要因についても指摘している。定点調査でも聞かれた企業の声は必ずしも楽観的ではなく、こうしたリスク要因にも配慮しつつ、景気情勢を点検していくことが必要であろう。

2009年10月30日
脚注

2009年10月30日掲載

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