1) 北東アジア:Benjamin L. Self (ベンジャミン・セルフ)
日本は安全保障面の積極的な貢献を
RIETI編集部:
2001年9月の米国同時多発テロ事件以後、中国は、米国が「既存の国際秩序を守る要塞」として振舞うことを支持しているように見えます。このように中国が米国の「サポーター」になると、米国が期待する日本の役割は変化するとお考えですか。
Self:
日中を含め、北東アジアの全ての国は、核不拡散における米国の姿勢への支持を期待されています。日本は北東アジア地域、また対北朝鮮のみならず、「対テロキャンペーン」において積極的な役割が果たせると思います。中国は米国にとって協力的なサポーターかもしれませんが、日本は米国の同盟国であり、それぞれ期待される役割や重要性の次元が違います。中国が米国の役割を支持することは日本の安全保障環境をむしろ助けるものです。日本は良き隣人として、北東アジアに限らず、世界的な規模で安全保障上の建設的な役割を果たすべきです。これまでも日本は東ティモールやゴラン高原などでのPKO活動を支持していますし、今後、世界的な規模で人道援助や災害救助を要する地域への援助をさらに進展させることもできるのではないでしょうか。
RIETI編集部:
2003年に世界が日本に期待する安全保障上の役割は何でしょうか。
Self:
国連を通じて世界の安全保障への積極的な貢献を続けることが求められています。たとえばアフガニスタン復興支援や、またペルシャ湾岸地域での戦争が現実のものとなれば難民に対する人道援助や復興支援といった役割が重要になります。またこの戦争においては、日本は実際に戦闘に加わることはなくとも、対イラク連合に参加するべきでしょう。日本の安全保障上の関与は2タイプにわけられます。第一はASEAN地域フォーラム(ARF)での協力や、平和維持活動など、北東アジアにおける国連を通じた協力です。第二は日米同盟です。ミサイル防衛を含む戦略問題や防衛面での対米協力が期待されます。
北朝鮮に対しては穏便な封じ込め戦略を
RIETI編集部:
北朝鮮と日本、米国の間の交渉は進展するでしょうか。
Self:
北朝鮮は「予測不能な」政策を採用して生き延びてきたともいえます。ですから突然、譲歩を示すことにより、国交回復や日本の経済援助、米国からテロリスト扱いされないこと、アジア開発銀行による開発援助を狙う可能性はあります。また同時に、ブッシュ政権の対北朝鮮レトリックが以前より柔らかくなる可能性もあります。これは米国が北朝鮮に対して譲歩すればよいとは思いませんが、威嚇的な態度を少し和らげるオプションもあるということです。「タカ派的な関与」(hawk engagement)ではなく、「穏便な封じ込め」(benign containment)を行う戦略をとることが望ましいのではないかと思います。
2) 中央アジア:Mehrdad Haghayeghi (メフダド・ハガヤジ)
米中ロ間でゆれる中央アジア
RIETI編集部:
米国同時多発テロ事件以降、米国はウズベキスタンとの戦略的同盟関係を強化していますが、2003年の中央アジアにおける安全保障情勢はどうなるでしょうか。また、この地域と米国、ロシア、中国、EUとの関係はそれぞれどうですか。
Haghayeghi:
歴史的にみて、ウズベキスタンは常に中央アジア最大の大国として君臨してきており、タジキスタンやキルギスタンはウズベキスタンに従属していました。ロシア・ソビエト支配の時代、レーニンやスターリンはキルギスタンを分割しました。その結果、100年の間に他の民族はそれぞれのアイデンティティーを持つようになり、政治的エリートも出現しました。
米国とウズベキスタンとの戦略的同盟関係の強化により、ウズベキスタンは再び、中央アジアでの支配的な立場を手にいれつつあります。その結果、他の国との間での摩擦も起こっています。また、ロシアは常に中央アジアにおける主要大国の地位を守ってきました。その影響力は弱まったとはいえ、続発するテロ事件や米国のプレゼンス拡大によって地歩を失うことを嫌い、活発な動きを見せています。中国は天然資源や貿易、軍事的・安全保障上の観点で中央アジアにおける影響力の強化を狙っています。歴史的に中央アジアは中国に対して不信感を抱いています。いまや中国は大国ですし、隣接していることもあって、中央アジアは中国、ロシア、そして911以降は米国との間の利害関係のバランスをとらざるを得ない、という難しい立場にあります。EUは安全保障協力機構(OSCE)を通じ、中央アジアで建設的な役割を果たしていますが、米国、中国、ロシアとの関係が今後もやはり大きな比重を占めることになるでしょう。
3) 南アジア:Kanti Bajpai (カンティ・バジパイ)
テロの続発と政治的過激派の横行
RIETI編集部:
米国同時多発テロ、またその後の南アジアにおける米軍プレゼンスによって南アジアの安全保障環境はどのように変化したのでしょうか。印パ関係やその他諸国の関係は2003年、どのように変化するのでしょうか。
Bajipai:
2003年の南アジアにおける安全保障のキーワードは前年に引き続き、「テロ」でしょう。911後の大規模な米軍プレゼンスにもかかわらず、テロ事件が続発しました。2001、2002年にはスリナガルやニューデリを含むインド各地域の象徴的な場所で、カシミール過激派によるテロが多発しました。インドもこれに激しく反応し、2002年の夏には印パ関係が一触即発のところまで悪化しました。2003年もこの予測不能な危険な状況が続くと思われます。またそれ以外の国においても政治的過激派の躍進がみられました。バングラデシュではイスラム右派が力を増し、ネパールでも政治的過激派が勢力を増進しています。スリランカではタミル派と政府の間の和平プロセスが始まりましたが、インドがLTTE(タミルイーラム解放の虎)を正式に認めれば、インドとスリランカの関係が悪化する可能性もあります。911後の米軍プレゼンスは、この地域を安定させるどころか、むしろ印パ関係を大幅に悪化させましたし、政治的過激派が地域全体で横行するようになりました。
RIETI編集部:
南アジア地域における対米感情はどうでしょうか。
Bajipai:
インドでは反米感情が増幅しています。米国がパキスタンを安全保障上のパートナーとして優遇している、と反発が強まっています。バングラデシュでも反米感情が悪化していますが、ネパールやスリランカではあまり反米感情はみられません。
4) 東南アジア:Derek da Cunha (デレク・ダクンハ)
ASEAN諸国間安保協力の明るい兆候
RIETI編集部:
昨年10月にバリ島で爆弾テロ事件が起こるなど、東南アジアは「対テロ戦争」の第二の戦線と評されているようです。その一方、東南アジアの各国は、テロではなくむしろ従来型の脅威を意識した、通常兵器の最新化、増強に力を入れているようです。このような中、ASEANは共通の目的を共有し続けられるのでしょうか。
Da Cunha:
2つのレベルにわけて考えてみる必要があります。ある意味、ASEANは対テロキャンペーンのお陰で再活性化されたといえるでしょう。米国はアルカイダの資金源追追跡をASEANに依頼しています。またASEAN各国の警備機関は情報共有を進めており、このような安全保障上の協力はASEANにとって明るい兆候だといえます。そして軍備拡張についてですが、ある国が新兵器を導入すると、それが地域での新しい水準になり、他の国も歩調を合わせるのは自然です。軍備増強が抑止をもたらすという独自の力学がはたらいているといえます。
RIETI編集部:
このような流れは2003年も続きますか。
Da Cunha:
マレーシア、インドネシア、タイは97年の経済危機後、軍事力を削減しましたが、経済危機からも脱却した現在、他国からの遅れを取り戻そうとしています。ASEANにおける軍備増強、最新化の流れは今後も続くでしょう。
良好な米ASEAN関係
RIETI編集部:
ASEANと米国、中国、日本との関係はそれぞれどうなりますか。
Da Cunha:
ミャンマーを除き、ASEAN各国は米国と良い関係を築いています。ASEANと米国の関係は軍事、政治、経済、外交、文化など多岐にわたっており、包括的で良好です。ASEANと中国は経済、外交面では良い関係にあります。ASEANと日本の関係は経済、外交、文化面に限られています。その意味でASEANと米国との関係は突出しており、今後もその状況は続くと思います。