欧州委員会共同研究センターと欧州生活労働条件改善財団(Eurofound)が共同で作成した最近の報告書(Sostero et al. 2020)は、新型コロナウイルスの流行前と後とで、欧州ではテレワークの普及率に大きな変化があったことを提示し論じている。特に、Fernández-MacíasとBisello (2020)による先行研究を分析の軸とすることで、どのような要因が仕事を「テレワーク可能」にするのか、またそれがどの程度のものなのかを明らかにしている。筆者らの研究は、「テレワークの可能性(’teleworkability’)」という概念に明確な理論的枠組みを提供し、欧州の職業に関するデータに基づき推計を行うことで、活発化している「テレワークの可能性」についての議論に貢献するものである(Dingel and Neiman 2020, Berg et al.)。
この報告書のために、筆者らはイタリアの「職業に関するサンプル調査(Indagine Campionaria delle Professioni)」に記載されている職業上のタスク内容に、「欧州労働条件調査(European Working Conditions survey)」の指標を加えて、130以上の仕事についてのタスク情報を調べた。現在の技術では、物理的に物を操作することがリモートワークを行う上での真のボトルネックであるため、物の移動や機器の検査、車両の操作など、物理的な作業を各業種の労働者がどの程度行う必要があるのかを測定した。かなりの量の物理的作業を必要とする仕事は「テレワーク不可」に分類し、それ以外の仕事は技術的に「テレワーク可能」とみなした。
この分類を職業に関するデータに適用すると、技術的には、EU27における従属型雇用者の37%はリモートワークが可能であると推定される。この推定値は、コロナ危機の間に実施されたリアルタイム調査、とりわけ欧州生活労働条件改善財団(Eurofound)が行ったインターネット調査「Living, Working and Covid-19」(Eurofound 2020)で示された値に非常に近いものである。テレワークが可能な雇用者の割合については、EU加盟国の3分の2の国で35%から41%の範囲と推計されており、ルクセンブルクが最も高く(54%)、ルーマニアが最も低い(27%)(図1参照)。
図1:EU27加盟国別のテレワークが可能な仕事に就いている雇用者の割合
注:雇用者のみ。
出所:EU LFS(European Union Labour Force Survey)より筆者らが算出。
全体として、これらの推定値は、リモートでも効率的にできる仕事の割合の「上限」を示している可能性が高い。テレワークが可能な仕事の多くは、広範な社会的交流を必要とするため、リモートでの作業は必ずしも最適ではないことが多い。たとえ最新式のビデオ会議システムを使っても、それが、医療相談、カウンセリング、教育などにおいて、対面でのコミュニケーションの質に匹敵するとは考えにくい(Schoenenberg et al. 2014)。
もう一つの非常に興味深い結果は、実際にテレワークを行っている仕事と潜在的にテレワークが可能な仕事との間にある隔たりの分布に関するもので、数値が最も高かったのは、低スキルのホワイトカラー職である。実際、事務補助の仕事に従事する人の大部分(84%)はテレワークが可能であるにもかかわらず、コロナ危機以前に在宅勤務を行っていた人はわずか5%である。このような調査結果は、技術的に実現が可能かどうかということ以前に、職種によってテレワークへのアクセスのしやすさが違うのは、仕事のタスク内容ではなく、作業組織や職業階層における地位(およびそれによる特権)等によるものであることを示唆している。以前Voxコラム(Fernández-Macías and Bisello 2016)でも論じたように、作業組織は仕事のタスク内容について考える上で重要な要素であり、特定のケースではテレワークへのアクセスのしやすさにも影響を与える可能性がある。コロナ危機以前に管理職のテレワークの普及率が高かったのは、一般的に管理職の方が秘書よりも仕事の自律性が高く、仕事への取り組みを監視する必要が少ないという事実によるものと考えられる。秘書の仕事も技術的にはテレワークが可能な仕事であったにもかかわらず、である。以前はあまりテレワークが普及していなかった職種へも突然にテレワークが拡大したことは、リモートでの操作や仕事への取り組みを監視するためのデジタルツールの利用拡大など、作業組織に重要な変化をもたらしていると思われる。
出典:EU LFS と Structure of Earnings Survey のデータをもとに筆者らが算出。
新型コロナ後のテレワークのパターンは新たなデジタル・ディバイドとなるか
目下進行している臨時的で大掛かりなテレワークの試みは、仕事の未来にどのような意味を持つのだろうか。私たちの研究から得られたエビデンスからは、ホワイトカラー職ではコロナ禍でテレワークがより均等に可能になり、中・低スキルの事務や管理部門の仕事では新たな可能性が生まれたことが示唆される。テレワークでは、個々の仕事への取り組みを監視することがはるかに困難であり、それゆえに高いレベルの信頼が必要となる。こういった意味で、テレワークの拡大は、これまでの文化的または組織的な慣習を変化させ、仕事の自律性の範囲を拡大し、これまで高い専門性のある仕事に就いている者のみが享受していた特権をより多くの人に利用しやすくする可能性がある。しかし、企業や労働者がデジタルツールに慣れていないことやリモートで仕事をした経験が浅いということは、テレワークの普及とその有効性を制限する可能性がある(Milasi et al. 2020)。また、組織がテレワークの課題に対応しようとして、仕事への取り組みを監視するために、仕事の質、プライバシー、自律性の面で侵害的なデジタルツールを使用してしまう危険性もある。
Schoenenberg, K, A Raake and J Koeppe (2014), "Why are you so slow? Misattribution of transmission delay to attributes of the conversation partner at the far-end," International Journal of Human-Computer Studies 72(5): 477-487.