世界の視点から

欧州における「テレワークの可能性」と新たなデジタル・ディバイドのリスク

Santo MILASI
欧州委員会共同研究センター エコノミスト

Martina BISELLO
欧州生活労働条件改善財団(Eurofound) 研究員

John HURLEY
欧州生活労働条件改善財団(Eurofound) シニアリサーチマネージャー

Matteo SOSTERO
欧州委員会共同研究センター 研究員

Enrique FERNÁNDEZ-MACÍAS
欧州委員会共同研究センター 研究員

コロナ危機の間にテレワークが増加したが、それは高賃金の業種やホワイトカラー職に大きく偏っており、リモートで仕事ができる人とできない人との間に新たな格差が生じることが懸念されている。一方で、新型コロナウイルスの封じ込め措置によって強制的に経済活動が停止されたことにより、これまではテレワークの利用が制限されていた、中・低スキルの事務や管理業務に従事する人たちの間に、新たに多くのテレワーカーが誕生している。本コラムでは、テレワークが可能なEU内での雇用の割合について新たな推計値を提示し、実際にテレワークを行っている仕事と潜在的にテレワークが可能な仕事との間にある隔たりを生む要因(作業組織の問題も含む)について論じる。また、テレワークのパターンは将来どのように発展する可能性があるのか、関連する政策的な含意についても論じる。

「テレワーク革命」については40年以上にわたって断続的に予測されていたが、実現することはなかった。実際、主要な労働力調査の数字によると、コロナ危機が到来するまでは2019年の時点でも、EU27内で雇用されている労働者のうち20人に1人程度しか、日常的に在宅勤務をしている人はいなかった。しかし、新型コロナウイルスの大流行と、その結果としてウイルスの拡散を遅らせるために実施された封じ込め措置により、必要に迫られて、突然状況は一変した。2020年前半には、EUや世界中の何百万人もの労働者にとって、在宅勤務は一般的なものとなった。

コロナ禍の雇用と生産を維持する上でテレワークが果たす重要な役割については、欧州委員会が最近発表した2020年の国別勧告(European Commission 2020)の中でも強調されている。しかし、テレワークは、すべての人にとって可能なものではなく、テレワークができる人とできない人との間に新たな格差を生む可能性がある。このような背景から、どれだけの、そしてどのような仕事がリモートでできるのかを特定することは、新型コロナウイルスの大流行による経済や流通への影響を理解する上で重要な要素となる。

技術的な「テレワークの可能性」の実現性(しかし、それだけではない)

欧州委員会共同研究センターと欧州生活労働条件改善財団(Eurofound)が共同で作成した最近の報告書(Sostero et al. 2020)は、新型コロナウイルスの流行前と後とで、欧州ではテレワークの普及率に大きな変化があったことを提示し論じている。特に、Fernández-MacíasとBisello (2020)による先行研究を分析の軸とすることで、どのような要因が仕事を「テレワーク可能」にするのか、またそれがどの程度のものなのかを明らかにしている。筆者らの研究は、「テレワークの可能性(’teleworkability’)」という概念に明確な理論的枠組みを提供し、欧州の職業に関するデータに基づき推計を行うことで、活発化している「テレワークの可能性」についての議論に貢献するものである(Dingel and Neiman 2020, Berg et al.)。

この報告書のために、筆者らはイタリアの「職業に関するサンプル調査(Indagine Campionaria delle Professioni)」に記載されている職業上のタスク内容に、「欧州労働条件調査(European Working Conditions survey)」の指標を加えて、130以上の仕事についてのタスク情報を調べた。現在の技術では、物理的に物を操作することがリモートワークを行う上での真のボトルネックであるため、物の移動や機器の検査、車両の操作など、物理的な作業を各業種の労働者がどの程度行う必要があるのかを測定した。かなりの量の物理的作業を必要とする仕事は「テレワーク不可」に分類し、それ以外の仕事は技術的に「テレワーク可能」とみなした。

この分類を職業に関するデータに適用すると、技術的には、EU27における従属型雇用者の37%はリモートワークが可能であると推定される。この推定値は、コロナ危機の間に実施されたリアルタイム調査、とりわけ欧州生活労働条件改善財団(Eurofound)が行ったインターネット調査「Living, Working and Covid-19」(Eurofound 2020)で示された値に非常に近いものである。テレワークが可能な雇用者の割合については、EU加盟国の3分の2の国で35%から41%の範囲と推計されており、ルクセンブルクが最も高く(54%)、ルーマニアが最も低い(27%)(図1参照)。

図1:EU27加盟国別のテレワークが可能な仕事に就いている雇用者の割合
図1:EU27加盟国別のテレワークが可能な仕事に就いている雇用者の割合
注:雇用者のみ。
出所:EU LFS(European Union Labour Force Survey)より筆者らが算出。

全体として、これらの推定値は、リモートでも効率的にできる仕事の割合の「上限」を示している可能性が高い。テレワークが可能な仕事の多くは、広範な社会的交流を必要とするため、リモートでの作業は必ずしも最適ではないことが多い。たとえ最新式のビデオ会議システムを使っても、それが、医療相談、カウンセリング、教育などにおいて、対面でのコミュニケーションの質に匹敵するとは考えにくい(Schoenenberg et al. 2014)。

これを踏まえると、人と関わることがない、もしくは人と関わることが限定される仕事(例えば、販売職や、教育関係、人の世話をする仕事、公共の仕事などはこれに当てはまらない)で、なおかつリモートで行っても原則として質の低下がない、もしくは質の低下が限定される仕事のみがテレワークの可能な仕事であり、EUにおける雇用のうち、これに従事する人はわずか13%にすぎないと推定される。技術的にはテレワークが可能とされる残りの24%の仕事は、広範な社会的交流を伴うため、サービスの質を大幅に落とさずに行うためには、部分的な業務しかリモートで提供することができない(リモートで行えるのは一部の業務のみで、すべての業務をリモートで行うことはできない)。

在宅でできる仕事とは?

技術的な「テレワークの可能性」についての数値を大まかに職種別のグループに分けてみると(図2参照)、まず、ホワイトカラーとブルーカラーの間に顕著な違いが現れる。後者は主に仕事の物理的要件とそれに伴う場所への依存により、「テレワークの可能性」が大幅に低い。

もう一つの非常に興味深い結果は、実際にテレワークを行っている仕事と潜在的にテレワークが可能な仕事との間にある隔たりの分布に関するもので、数値が最も高かったのは、低スキルのホワイトカラー職である。実際、事務補助の仕事に従事する人の大部分(84%)はテレワークが可能であるにもかかわらず、コロナ危機以前に在宅勤務を行っていた人はわずか5%である。このような調査結果は、技術的に実現が可能かどうかということ以前に、職種によってテレワークへのアクセスのしやすさが違うのは、仕事のタスク内容ではなく、作業組織や職業階層における地位(およびそれによる特権)等によるものであることを示唆している。以前Voxコラム(Fernández-Macías and Bisello 2016)でも論じたように、作業組織は仕事のタスク内容について考える上で重要な要素であり、特定のケースではテレワークへのアクセスのしやすさにも影響を与える可能性がある。コロナ危機以前に管理職のテレワークの普及率が高かったのは、一般的に管理職の方が秘書よりも仕事の自律性が高く、仕事への取り組みを監視する必要が少ないという事実によるものと考えられる。秘書の仕事も技術的にはテレワークが可能な仕事であったにもかかわらず、である。以前はあまりテレワークが普及していなかった職種へも突然にテレワークが拡大したことは、リモートでの操作や仕事への取り組みを監視するためのデジタルツールの利用拡大など、作業組織に重要な変化をもたらしていると思われる。

図2:職業グループ別に見た、雇用における「テレワークの可能性」と実際にテレワークを行っている人の割合(EU27)
図2:職業グループ別に見た、雇用における「テレワークの可能性」と実際にテレワークを行っている人の割合(EU27)
注:従業員のみ。
出所:EU LFSより著者らが算出。

テレワークが可能な仕事に就いている労働者の社会経済上のプロフィールを見ると、高賃金の労働者と低賃金の労働者の間に明らかな差が見られる。高賃金の仕事に従事する労働者の4分の3(74%)はテレワークが可能なのに対し、低賃金の仕事に従事する労働者でテレワークが可能なのはわずか3%に過ぎない(図3参照)。学歴による差を見ると、高等教育を修了した人の約66%がテレワークの可能な仕事に就いているのに対し、それ未満の学歴の人の割合はかなり低い。性別による差異も見られ、テレワークが可能な仕事に就いている女性の割合は男性よりもはるかに高い(男性が30%に対して女性は45%)。これは、農業、鉱業、製造業、公益事業、建設業など、テレワークが制限される業種には女性の割合が低いことなど、業種別の偏在性をある程度反映したものと言える。また、男性優位の業種でも男女で仕事の内容に違いがあり、女性はリモートワークに適したオフィスベースの秘書業務や管理業務に就く可能性が高いこともその理由であろう。

また、都市に住む雇用者のうち40%以上はテレワークが可能な仕事に就いているのに対し、地方に住む雇用者でテレワークが可能な人は30%未満である。これは知識集約型産業やICT系の仕事に従事している人の割合が、郊外や地方よりも都市で高いという事実を反映している。また、大・中企業の従業員は、零細企業の従業員に比べ、テレワークが可能な仕事に就いている可能性が非常に高いと思われる。

図3:EU27内の労働者の属性別に見た、テレワークが可能な仕事に就いている雇用者の割合(%)
図3:EU27内の労働者の属性別に見た、テレワークが可能な仕事に就いている雇用者の割合(%)
注:雇用者のみ。雇用賃金の五分位値は2014年のSESデータをもとに筆者らが算出した。
出典:EU LFS と Structure of Earnings Survey のデータをもとに筆者らが算出。

新型コロナ後のテレワークのパターンは新たなデジタル・ディバイドとなるか

目下進行している臨時的で大掛かりなテレワークの試みは、仕事の未来にどのような意味を持つのだろうか。私たちの研究から得られたエビデンスからは、ホワイトカラー職ではコロナ禍でテレワークがより均等に可能になり、中・低スキルの事務や管理部門の仕事では新たな可能性が生まれたことが示唆される。テレワークでは、個々の仕事への取り組みを監視することがはるかに困難であり、それゆえに高いレベルの信頼が必要となる。こういった意味で、テレワークの拡大は、これまでの文化的または組織的な慣習を変化させ、仕事の自律性の範囲を拡大し、これまで高い専門性のある仕事に就いている者のみが享受していた特権をより多くの人に利用しやすくする可能性がある。しかし、企業や労働者がデジタルツールに慣れていないことやリモートで仕事をした経験が浅いということは、テレワークの普及とその有効性を制限する可能性がある(Milasi et al. 2020)。また、組織がテレワークの課題に対応しようとして、仕事への取り組みを監視するために、仕事の質、プライバシー、自律性の面で侵害的なデジタルツールを使用してしまう危険性もある。

同時に、テレワークができる人とできない人の間に新たな格差が生まれている。実際、賃金や教育レベルによって、「テレワークの可能性」には劇的な違いが見られる。コロナ禍でテレワークを行う率が最も高かったのは、ホワイトカラーの経験豊富な従業員(多くは知識集約型産業に従事している)であるという。テレワークにおける格差を回避するためには、若年層や学歴の低い従業員もリモートで仕事をしやすくするべきである。高いデジタルスキルを持つ労働者は、現在のコロナ禍でリモートワークの需要に対応するのに有利な立場にあると考えられるため、幅広くトレーニングの機会を提供することが重要である。しかし、物理的な作業のボトルネック(手作業が多い仕事はテレワークができない)が残る限り、テレワークの拡大は、特定の場所で手を動かして作業する必要のある人と、どこからでも知的・社会的サービスを提供できる人との間の社会的な格差の拡大を避けられないだろう。

本稿は、2020年8月14日にwww.VoxEU.orgにて掲載されたものを、VoxEUの許可を得て、翻訳、転載したものです。

本コラムの原文(英語:2020年9月11日掲載)を読む

参考文献

2020年11月6日掲載