人口高齢化による公共政策の問題に効果的に対処するには、補完的なイニシアチブの統合的ポートフォリオが必要となるだろう。日本では、何年にもわたってこれらの問題に重点的に対処する一連の対策を導入している。例えば、新エンゼルプラン(1999年)やプラスワン政策(2009年)は、新しい保育施設に資金を充当、教育費負担の軽減、家族用住宅の改善などのイニシアチブにより、子供を産みやすくするよう策定されている。(Centre for Public Impact 2017)。安倍総理の総合的経済政策パッケージ、いわゆるアベノミクスでは、女性労働力の参画を奨励することで労働力の規模の拡大を目指している。アベノミクス・パッケージにはまた、生産性を高め(例:効率向上と肉体労働の最小化)、介護者の負担を軽減し(例:無人輸送や人工知能)、医療費を最小限に抑える(例:連絡の合理化と遠隔診断)手段として技術革新に重点を置いたプログラムが含まれている。他の注目すべき政策変更には、子供の教育に投資するプログラムがある。これにより、労働年齢の有効数拡大につながるだろう。また、日本の移民制限の緩和により労働力の規模が拡大するだろう。さらに、社会保障制度の完全性を強化するため、日本は消費税の増税を予定している。(ただし、この政策は、労働意欲の低下や世代間不平等が認識されれば確実に効果が薄まるだろう。)
日本は同時に、退職に関連しない年金受給年齢を調整し、人口高齢化の財政的圧力を軽減しようとしている。現在、年金受給資格のある日本人は、厚生年金制度では60才から、国民年金制度では60才から70才の間(年金受給額は受給開始年齢によって調整される)で、年金受給の時期を選択することができる(注4)。日本は、厚生年金制度の受給年齢を、男性では2025年までに、女性では2030年までに65才に徐々に引き上げようとしており(Clemens and Parvani 2017)、安倍総理は、70才以降の国民年金の受給開始を選択できる対策を検討している(Obe 2018)。定年年齢と年金受給年齢を引き上げるこれらの対策により、生産労働年齢が拡大され、年金支払義務の財政負担を軽減することができるだろう。しかし、これが大きな制約となるのだが、この対策は、高齢者が仕事をし、長い時間働け、年齢に応じて生産的に仕事ができる健康な状態である場合にのみ有効となるだろう。
収入(原因)と健康(結果)の因果関係は、医療経済学や開発経済学で十分に確立されている(Pritchett and Summers 1996)が、数多くの研究により、健康(原因)と収入(結果)の因果関係も存在することが明らかになった(Bloom and Canning 2000)。健康な人はより長く働くことができ、よりエネルギッシュである。これは、高齢者の健康を守ることで、その生産性と労働力への参加を高められることを示している(これにより退職年齢の引き上げなどの他の対策の有効な経済効果を拡大できる)。医療費抑制に加え、効果的な健康促進プログラムにより、生産労働時間と生産量の向上につながるだろう。国民が健康であれば、貯蓄率が高まり、医療費が削減され、海外直接投資が増える。これらはすべて、前述のタイプの政策を補完するものである(Bloom et al. 2018, Alsan et al. 2006)。これらの見解は、健康に介入することで、専門家や政策立案者が人口高齢化に対処する戦略を策定する上で慎重に検討すべき社会経済的利益をもたらすという事実を示している。
中期および長期的な政策は、食事の改善、より活発なライフスタイル、喫煙と危険なアルコール摂取の削減、予防接種など、健康を守り促進する多面的なアプローチの一環として機能するべきである。ワクチン接種は、インフルエンザ、肺炎、帯状疱疹などのワクチンで予防できる病気に特に罹りやすい高齢者には、特に大きな結果をもたらすだろう(Yoshikawa 1981)。例えば、肺炎は2016年の日本の高齢者の死亡原因で第3位であった(注5)。感染症にかかる際の費用を考えると、高齢者の予防接種費用は微々たるものであることがすぐに分かる。高齢者は入院が必要になったり、ワクチンで予防可能な疾病で悪化する可能性のある合併症(高血圧や鬱血性心不全など)に罹りやすいためである(Konomi et al. 2017, Stupka et al. 2009)。この予防接種の基本的な利点は、「1オンスの予防は1ポンドの治療に匹敵する」という古い格言に表されている。Konomura et al.による最近の研究(2017)によると、日本の高齢者の市中肺炎の平均治療費は、外来患者の症例当たり346ドル、入院患者で4,851ドルであった。一方、23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(PPV23)のコストは90ドル未満である(高齢者向けの補助金があればさらに低くなる)(Natio et al. 2018)。これらの費用は直接比較することはできないが、予防接種費用の一部は医療費回避という形で回収される可能性があることを示している。インフルエンザなど他の病気にかかると、さらに肺炎にかかりやすくなる。従って、インフルエンザ・ワクチン(東京のある診療所ではわずか32ドルと宣伝されている)(注6)は、肺炎に対する間接的な予防的利益を生み出す可能性がある。今年初め、日本で爆発的にインフルエンザが流行し過去最高のレベルに達した(Japan Times 2018)が、効果的なインフルエンザ・ワクチンを広く入手できれば、高齢者の肺炎罹患数(おそらく死亡率も)を減らすのに役立つだけでなく、入院やその他の治療費、欠勤や介護労働、感染の可能性を取り巻く不安をなくすこともできただろう。
Sevilla et al.による最近の調査(2017)では、肺炎球菌ワクチン接種はデンマークの高齢者の間で肺炎球菌疾患の社会経済的費用をなくす上で非常に効果的であることを示している。筆者らは、デンマークで肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)を調査し、50~85才の成人の間で、このワクチンは、控えめに見積もっても約150%の利益率を出したことが分かった。さらに注目すべきは、65~85才の糖尿病患者では、PCV13は1,200%の驚くべき利益率を示したことである。これらの利益は、回避された医療費と生産性向上(市場および非市場)の観点での予防接種の利点を示しており、直接的および間接的な利点の手段を介した高齢者予防接種の大きな潜在的価値を示している。制度の違いがあるため、デンマークの結果が日本の同様の仮説研究の結果には当てはまらないかもしれないが、この結果はこのような高い利益の妥当性を証明しており、日本の政策立案者は、人口高齢化の悪影響に対処する対策の観点から、高齢者ワクチン接種を大きな利点の潜在源と見なすべきである。
Alsan M, DE Bloom and D Canning (2006), "The effect of population health on foreign direct investment inflows to low- and middle-income countries," World Development 34(4): 613–30.
Bloom D E, M Kuhn and K Prettner (2018), "Health and economic growth," Oxford Research Encyclopedia of Economics and Finance, forthcoming.
Konomi L, A Simaku, N Ҫomo, E Kolovani, E Ramosaҫo and E Roshi et al. (2017), "Influenza associated comorbidities," International Journal of Science and Research 6(4): 1739–40.
Peterson, P G (1999), "Gray dawn: the global aging crisis," Foreign Affairs 78(1): 42–55.
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Sevilla J P, A Stawasz, D Burnes, P B Poulsen, R Sato and D E Bloom (2017), "Calculating the indirect costs of adult pneumococcal disease and the rate of return to the 13-valent pneumococcal vaccine (PCV13) in older adults, with an application to Denmark," Value in Health 20: A787.
Stupka J E, E M Mortensen, A Anzueto and M I Restrepo (2009), "Community-acquired pneumonia in elderly patients," Aging Health 5(6): 763–74.
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