多くの研究が、コンピュータやインターネットの利用が可能になってもそれだけでは子どもの成績は上がらない、と示唆している。ペルーと米国におけるランダム化比較試験に基づいた研究では、効果が無いとされており(Failie and Robinson 2013, Beuermann et al. 2014, Malamud et al. 2018)、ルーマニアと米国における疑似実験的手法を用いた別の研究では、むしろ悪影響があるという結果が得られている(Malamud and Pop-Eleches 2011, Vigdor et al. 2014)。コンピュータは非常に多目的な用途を持つ技術であるため、コンピュータ利用に伴うリスクとベネフィットは、親の関与に左右される可能性が高い。実際、Malmud and Eleches (2011)は、宿題とコンピュータ利用に関する親が定めるルールによって、コンピュータ所有による悪影響が緩和されるという結果を得ており、親による監視・監督が重要な媒介要因であることを示唆している。
われわれは最近の研究において、子どものインターネット利用状況を監視する際に親の能力に影響を与え得る2つの要因を検証した(Gallego et al. 2017)。第一に、親は自分の子どものインターネット利用に関する情報を十分に得ていない可能性がある(注1)。子どもの方が新技術への適応が早く、親は子どもがどのように技術を利用しているのか理解するのに苦労する。第二に、親が完全な情報を得た場合でも、間接的な伝達や脅しを通じてでは、子どもの行動に影響を与えられない可能性がある(Winberg 2001, Berry 2015)。このような場合、親は子どもの行動を直接的に管理する可能性を望むかもしれない。そこでわれわれは、子どもの直近のインターネット利用を含む具体的な情報のSMSメッセージを毎週子どもの親に送信することの効果と、かつ(もしくは)、ペアレンタルコントロールのソフトウェアのインストールの推奨・支援の効果を検証するため、一連のランダム化介入を設計・実施した。子どものインターネット利用状況に関する情報を親に提供することは、情報不足問題の緩和につながるはずである。親がペアレンタルコントロールのソフトウェアをインストールし、運用できることが前提ではあるが、インストールを推奨すれば、親はコンピュータ利用状況に関して子どもにインセンティブを与える必要性やあるいはルールを押しつける必要性を回避しやすくなる。
この研究の一環として、われわれは、情報提供がどのように、そしてなぜ、行動に影響を与えるのか理解することに努めた。この目的のために、われわれは、情報内容とSMSメッセージに関連する通知とを分離できるような介入方法を設計した。さらに、親がメッセージを受信する際に予測できる方法かあるいは予測できない方法かで無作為に割り当てることにより、通知の強弱や突出性に関して変動をもたせようとした。これは、人間の反応が刺激の予測可能性や目新しさに関連していることを示唆する神経科学分野の研究から着想を得たものである(Parkin 1997, Berns et al. 2001, Fenker et al. 2008)。また、強化の予定が異なることにより行動がどのような影響を受けるかという心理学研究にも密接に関連している(Ferster and Skinner 1957)。
背景および実験の設計
われわれは、チリで2013年に実施された「Yo Elijo mi PC(YEMPC)」プログラムを通じて、無料のコンピュータと12カ月間の無料インターネットサービスを与えられた7・8年生の子どもたちから構成されるサンプルに着目した。われわれは、サンプルの子どもたちに提供された全てのコンピュータにサービスを提供しているインターネット接続事業者(ISP)から、インターネット利用度に関する日次データを入手した。これらのデータによると、子どもたちは1日あたり約150MB分のインターネット上のコンテンツをダウンロードしており、それは1日あたり約3時間インターネットを利用していることに換算される。このことは、チリの子どもたちが1日195〜230分の時間をオンラインで費やしているという2015年のPISAの調査結果を基にした最近の推定と類似しており、調査対象の経済協力開発機構(OECD)全加盟国の中で最も高い数値である(OECD, 2017)。このことを踏まえ、米国小児科学会(AAP)は、子どものスクリーンタイムを2時間以内に抑えるよう勧告している(AAP, 2016)。
American Academy of Pediatrics (2016), "Policy Statement: Media Use in School-Aged Children and Adolescents," Pediatrics 138(5).
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Berns, G et al. (2001), "Predictability Modulates Human Brain Response to Reward," The Journal of Neuroscience 21(8):2793–2798
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Bursztyn, L and L Coffman (2012)., "The Schooling Decision: Family Preferences, Intergenerational Conflict, and Moral Hazard in the Brazilian Favelas," Journal of Political Economy 120(3): 359-397.
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Fenker, D B, J U Frey, H Schuetze, D Heipertz, H-J Heinze, and E Duzel (2008), "Novel Scenes Improve Recollection and Recall of Words," Journal of Cognitive Neuroscience 20(7):1250–1265
Ferster, C B and B F Skinner (1957), Schedules of Reinforcement. Englewood Cliffs, NJ: Prentice-Hall.
Gallego, F, O Malamud and C Pop-Eleches (2017), "Parental Monitoring and Children's Internet Use: The Role of Information, Control, and Cues," NBER Working Paper No. 23982.
Malamud, O and C Pop-Eleches (2011), "Home Computer Use and the Development of Human Capital," Quarterly Journal of Economics 126: 987–1027.
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