世界の視点から

親の監視と子どものインターネット利用:情報、管理、通知の役割

Francisco GALLEGO
チリ・カトリック大学経済学部准教授

Ofer MALAMUD
ノースウェスタン大学人間開発・社会政策学准教授

Cristian POP-ELECHES
コロンビア大学国際公共政策大学院准教授

子どものコンピュータの利用に伴う潜在的なリスクとベネフィットは、親の関与に左右される可能性が高い。本稿は、チリにおける調査に基づき、子どものインターネット利用状況を監視する際に親の能力に影響を与え得る2つの要因、すなわち「情報不足」と「影響力不足」について検証する。子どものインターネット利用について具体的な情報を親に提供すると行動に影響が見られるが、子どものインターネット利用状況を親が直接的に管理できるようにサポートしても行動には影響が見られないことが分かった。

多くの研究が、コンピュータやインターネットの利用が可能になってもそれだけでは子どもの成績は上がらない、と示唆している。ペルーと米国におけるランダム化比較試験に基づいた研究では、効果が無いとされており(Failie and Robinson 2013, Beuermann et al. 2014, Malamud et al. 2018)、ルーマニアと米国における疑似実験的手法を用いた別の研究では、むしろ悪影響があるという結果が得られている(Malamud and Pop-Eleches 2011, Vigdor et al. 2014)。コンピュータは非常に多目的な用途を持つ技術であるため、コンピュータ利用に伴うリスクとベネフィットは、親の関与に左右される可能性が高い。実際、Malmud and Eleches (2011)は、宿題とコンピュータ利用に関する親が定めるルールによって、コンピュータ所有による悪影響が緩和されるという結果を得ており、親による監視・監督が重要な媒介要因であることを示唆している。

われわれは最近の研究において、子どものインターネット利用状況を監視する際に親の能力に影響を与え得る2つの要因を検証した(Gallego et al. 2017)。第一に、親は自分の子どものインターネット利用に関する情報を十分に得ていない可能性がある(注1)。子どもの方が新技術への適応が早く、親は子どもがどのように技術を利用しているのか理解するのに苦労する。第二に、親が完全な情報を得た場合でも、間接的な伝達や脅しを通じてでは、子どもの行動に影響を与えられない可能性がある(Winberg 2001, Berry 2015)。このような場合、親は子どもの行動を直接的に管理する可能性を望むかもしれない。そこでわれわれは、子どもの直近のインターネット利用を含む具体的な情報のSMSメッセージを毎週子どもの親に送信することの効果と、かつ(もしくは)、ペアレンタルコントロールのソフトウェアのインストールの推奨・支援の効果を検証するため、一連のランダム化介入を設計・実施した。子どものインターネット利用状況に関する情報を親に提供することは、情報不足問題の緩和につながるはずである。親がペアレンタルコントロールのソフトウェアをインストールし、運用できることが前提ではあるが、インストールを推奨すれば、親はコンピュータ利用状況に関して子どもにインセンティブを与える必要性やあるいはルールを押しつける必要性を回避しやすくなる。

この研究の一環として、われわれは、情報提供がどのように、そしてなぜ、行動に影響を与えるのか理解することに努めた。この目的のために、われわれは、情報内容とSMSメッセージに関連する通知とを分離できるような介入方法を設計した。さらに、親がメッセージを受信する際に予測できる方法かあるいは予測できない方法かで無作為に割り当てることにより、通知の強弱や突出性に関して変動をもたせようとした。これは、人間の反応が刺激の予測可能性や目新しさに関連していることを示唆する神経科学分野の研究から着想を得たものである(Parkin 1997, Berns et al. 2001, Fenker et al. 2008)。また、強化の予定が異なることにより行動がどのような影響を受けるかという心理学研究にも密接に関連している(Ferster and Skinner 1957)。

背景および実験の設計

われわれは、チリで2013年に実施された「Yo Elijo mi PC(YEMPC)」プログラムを通じて、無料のコンピュータと12カ月間の無料インターネットサービスを与えられた7・8年生の子どもたちから構成されるサンプルに着目した。われわれは、サンプルの子どもたちに提供された全てのコンピュータにサービスを提供しているインターネット接続事業者(ISP)から、インターネット利用度に関する日次データを入手した。これらのデータによると、子どもたちは1日あたり約150MB分のインターネット上のコンテンツをダウンロードしており、それは1日あたり約3時間インターネットを利用していることに換算される。このことは、チリの子どもたちが1日195〜230分の時間をオンラインで費やしているという2015年のPISAの調査結果を基にした最近の推定と類似しており、調査対象の経済協力開発機構(OECD)全加盟国の中で最も高い数値である(OECD, 2017)。このことを踏まえ、米国小児科学会(AAP)は、子どものスクリーンタイムを2時間以内に抑えるよう勧告している(AAP, 2016)。

実験では、実験サンプルの親7700人宛てに、14週間毎週1回、テキストメッセージを送信した。SMSメッセージは、内容も送信される曜日も異なる。内容については、以下の文面を用いて、3種類のSMSメッセージを送信した。

  • SMSのみ:「お子さまが、Yo Elijo mi PCプログラムによって獲得されたノートPCを正しく利用されていることを願っています。」
  • ISP:「お子さまが、Yo Elijo mi PCプログラムによって獲得されたノートPCを正しく利用されていることを願っています。お子さまは、○月○日の週、○メガバイトをダウンロードされており、平均的な子どものダウンロード量○メガバイトに比べて(多く/同程度に/少なく)なっています。」(注2
  • W8:「お子さまが、Yo Elijo mi PCプログラムによって獲得されたノートPCを正しく利用されていることを願っています。Windows 8のペアレンタルコントロール機能を使い、お子さまのコンピュータ利用状況を監督しやすくなります。お手伝いが必要な場合は、○○○-○○○○までお電話ください」

各集団の半数の親は決まった曜日に処置を受け(メッセージが送られる曜日はランダムに決定)、残りの半数の親は週によってランダムな曜日にメッセージを受け取った。さらにわれわれは、ISPの情報とWindow 8のペアレンタルコントロール機能による支援の両方を含む処置群を設け、これらの処置の間で生じ得る相互作用を検証しようとした。表1は、どのようにサンプルが異なる処置条件別に分けられたのかを示している。

表1
処置群 曜日固定 曜日ランダム 合計
T1 ISP 963 964 1927
T2 W8 965 963 1928
T3 ISP+W8 962 962 1924
T0 SMSのみ 964 964 1928
合計 3853 3854 7707

SMSメッセージに関連する通知から情報内容の効果と支援提供の効果を切り離すため、われわれはISPの情報とWindows 8関連情報を受信した処置群と、子どもたちはコンピュータを正しく利用すべきであるという全てのグループが毎週受け取るSMSメッセージのみを受信した対照群を比較した。

主な調査結果

我々は主に3つの研究結果を得た。

  • 第一に、インターネット利用に関するISPからの情報を親が受信した家庭では、処置期間中、対照群の家庭に比べて、インターネット利用度が6〜10%低下した。

処置が終了した後も、数週間・数ヶ月にわたってこの効果は持続した。これは親自身のインターネット利用の減少を反映するものではない。インターネット利用に関する情報を提供するというわれわれの一時的な介入が、家庭内の恒常的な均衡状態を変化させた可能性があることを示唆している。図1は、毎週のインターネット利用に関するISPの情報を提供することによる推定効果(および信頼区間)を対照群と比較して示している(垂直の赤線の間が介入期間)。

図1
図1

また、ISPから情報を受信した直後のまさしく数日間の利用が統計的に有意に減少しており、この効果は実験の初期の数週間により顕著であることを示している。さらに、インターネット利用をより大幅に減少させたのは、「悪いニュース」、つまり特定の週に子どもが参照グループと比較して長時間インターネットを利用したことを伝えるSMSメッセージによる介入の時である。そこで、図2において、各処置群に関してSMSメッセージ受信前後の推定効果を示している(0 dayは、各週におけるSMSメッセージの受信日)。「平均以上」事象とは、「子どものインターネット利用が参照グループの平均を上回っている」というSMSメッセージを親が受信した週を意味する。

図2
図2

以上の結果は、子どものインターネット利用状況に関して親に具体的な情報が提供されることによって、インターネット利用が顕著に減少するということを裏付けている。

  • 第二に、親が子どものインターネット利用を直接管理できるように支援しても有意な効果は見られなかった。

特に、ペアレンタルコントロールのソフトウェアのインストールを推奨され、そのための支援を受けた親と、単に一般的な通知を受けただけの対照群の親とを比較した場合、インターネット利用において両者の差異は見られなかった。図3は、対照群と比較した場合の、各週のインターネット利用についてのペアレンタルコントロールに関する処置の推定効果(および信頼区間)を示している(垂直の赤線の間が介入期間)。

図3
図3

われわれのメッセージに対して実際に親が反応したかどうかを測定したところ、介入を受け入れた割合はわずか15%であった。だが、介入を受け入れた親に関して、ペアレンタルコントロール機能をインストールした直後の日々においても、インターネット利用に変化は見られなかった。

  • 最後に、情報を伝えるメッセージがどのように行動に影響するのかという「ブラックボックス」の解明につながる複数の結果が得られた。

上述のように、情報量に差のあるメッセージを送信することによって、メッセージの情報内容がインターネット利用の抑制において果たす重要な役割を示すことができる。さらにわれわれの分析から、突出性の大切さを示唆する新たな発見が2つあった。実験的に通知の強弱を変化させてみたところ、SMSメッセージを固定スケジュールで受信した家庭よりも、ランダムなスケジュールで受信した家庭の方が、インターネット利用が大幅に減少し、その効果はISPからの情報受信に伴う主効果に匹敵するものであった。さらに、対照群に送信されたSMSメッセージでさえ、実験の最初の数週間は短期的に、インターネット利用状況に影響があったが、おそらく、メッセージの目新しさによるものだろう。

考察

まとめると、子どものインターネット利用に関する具体的な情報を親に提供することは行動に影響を及ぼすが、親にペアレンタルコントロールのソフトウェアを提供しても行動に影響を及ぼさないということが本研究結果から示唆される。情報提供の影響が実験終了後も続くということは、われわれの一時的な介入によってインターネット利用の均衡水準が変化し、おそらく親が子どもに関わる際の習慣やルーティーンが変化したことによって情報の不完全性の問題をより恒常的な形で緩和させた可能性がある。ペアレンタルコントロールのソフトウェアの効果が無いという事実は、子どもの監視・監督のための技術的な解決策の実施という点で、低所得層の親が大きな障害に直面していた可能性を反映しているかもしれない。

また、SMSメッセージを予測不可能なスケジュールで受信した家庭では、予測可能なスケジュールで受信した場合に比べ、インターネット利用が大幅に減少するという強力なエビデンスを見出したが、その効果はISPからの情報受信に伴う主効果に匹敵する大きさであった。さらに、対照群に送信されたSMSメッセージも、実験の最初の数週間においてはインターネットの利用状況に短期的な影響を及ぼしたが、おそらく、メッセージの目新しさによるものだろう。こうした結果からは、メッセージに関連する通知は行動に独立的に影響を及ぼすことと、こうした通知の強弱が今回の結果において重要な決定要因であることがうかがえる。この点から、行動に影響を与えるメッセージを組み込んだ介入を今後設計することが重要であるといえる。

本稿は、2018年4月8日にwww.VoxEU.orgにて掲載されたものを、VoxEUの許可を得て、翻訳、転載したものです。

本コラムの原文(英語:2018年5月11日掲載)を読む

脚注
  1. ^ 例えばBursztyn and Coffman (2012)は、ブラジルにおける親と子の間の情報の非対称性についてエビデンスを提示している。
  2. ^ 典型的な子どもによる週あたりの平均ダウンロード量(単位:メガバイト)を算出するため、無作為に選ばれた「参照グループ」を用いた。
文献
  • American Academy of Pediatrics (2016), "Policy Statement: Media Use in School-Aged Children and Adolescents," Pediatrics 138(5).
  • Berry, J (2015), "Child Control in Education Decisions: An Evaluation of Targeted Incentives to Learn in India," Journal of Human Resources 50(4): 1051-1080
  • Berns, G et al. (2001), "Predictability Modulates Human Brain Response to Reward," The Journal of Neuroscience 21(8):2793–2798
  • Beuermann, D, J Cristia, S Cueto, O Malamud, and Y Cruz-Aguayo (2015), "One Laptop per Child at Home: Short-Term Impacts from a Randomized Experiment in Peru," American Economic Journal: Applied Economics 7(2): 1-29.
  • Bursztyn, L and L Coffman (2012)., "The Schooling Decision: Family Preferences, Intergenerational Conflict, and Moral Hazard in the Brazilian Favelas," Journal of Political Economy 120(3): 359-397.
  • Fairlie, R, and J Robinson (2013), "Experimental Evidence on the Effects of Home Computers on Academic Achievement among Schoolchildren," American Economic Journal: Applied Economics 5(3): 211–240.
  • Fenker, D B, J U Frey, H Schuetze, D Heipertz, H-J Heinze, and E Duzel (2008), "Novel Scenes Improve Recollection and Recall of Words," Journal of Cognitive Neuroscience 20(7):1250–1265
  • Ferster, C B and B F Skinner (1957), Schedules of Reinforcement. Englewood Cliffs, NJ: Prentice-Hall.
  • Gallego, F, O Malamud and C Pop-Eleches (2017), "Parental Monitoring and Children's Internet Use: The Role of Information, Control, and Cues," NBER Working Paper No. 23982.
  • Malamud, O and C Pop-Eleches (2011), "Home Computer Use and the Development of Human Capital," Quarterly Journal of Economics 126: 987–1027.
  • OECD (2017), PISA 2015 Results (Volume III): Students' Well-Being, OECD Publishing, Paris.
  • Parkin, A J (1997), "Human memory: Novelty, association and the brain," Current Biology 7: 768–769
  • Vigdor, J, H Ladd and E Martinez (2014), "Scaling the Digital Divide: Home Computer Technology and Student Achievement," Economic Inquiry 52(3): 1103-1119.
  • Weinberg, B (2001), "An Incentive Model of the Effect of Parental Income on Children," Journal of Political Economy 109(2): 266-280

2018年6月27日掲載

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