世界の視点から

失われたアインシュタインたち:イノベーションとの接触は、発明者の育成にどう影響するか

Alex BELL ハーバード大学大学院生

Raj CHETTY ハーバード大学経済学教授

Xavier JARAVEL LSE経済学助教

Neviana PETKOVA 米財務省リサーチエコノミスト

John Van REENEN MIT応用経済学教授

人々を発明に駆り立てる要因についてはほとんど知られていない。本稿では、米国の100万人以上の発明者の生活に関するデータを用いて、イノベーションを促進する上で最も効果的な政策を明らかにする。とりわけ、女性やマイノリティ、低所得世帯の子どもたちがイノベーションに接触できる機会を増やすことは、減税など従来の方策と比べて、イノベーションと成長を刺激する潜在力が大きいということを示す。

一般に、イノベーションは経済成長の原動力であるとみなされている(例:Aghion and Howitt 1992, Romer 1990)。その結果、減税やSTEM(科学、技術、工学、数学)教育投資など、イノベーション推進のための政策が数多く提案されてきた。しかし、人々を発明に駆り立てる要因はほとんどわかっていないため、残念ながら、こうした政策の有効性は明らかではない。米国で最も成功した発明者とはどのような人達なのか、そしてイノベーションの刺激策を設計するにあたって、彼らの経験から何を学べるのだろうか?

我々は、特許発明者の記録に納税・学区記録データをリンクし、匿名化した新しいデータベースを利用し、米国の100万人以上の発明者の生活について研究した(Bell et al. 2017)。出生時から各個人を追跡し、誰が特許を申請して発明者になるのかを決定する主要な要因を特定した(注1)。我々の研究結果は、イノベーションを促進する上で最も効果的な政策とは何かを明らかにし、とりわけ女性やマイノリティ、低所得世帯の子どもたちがイノベーションに触れる機会を増やすことは、減税など従来の手法よりもイノベーションと成長を刺激する可能性が高いということを示した。

分析の結果、主に3つの教訓が得られた。

教訓1:社会経済的階層、人種、性別によって発明者になる確率が大きく異なる

所得分布上位1%の家庭で育った子どもは、所得中位層以下の家庭で育った子どもと比べ、発明者になる可能性が10倍も高い(図1)。人種や性別についても同様の格差があり、白人の子どもは黒人の子どもよりも発明者になる可能性が3倍も高く、女性は発明者全体の18%に過ぎない。イノベーションにおける男女差は徐々に縮小しつつあるが、現在のペースのままだと男女差が無くなるまでに118年かかる計算だ。

図1:特許出願率と親の所得との関係
図1:特許出願率と親の所得との関係

こうした格差を幼少期のテストの得点で測定した能力の違いによって説明することはできない。小学3年生のときに算数の成績が最上位だった子どもは発明者になる可能性が非常に高いが、それは子どもの家庭の所得が高い場合に限られる(図2)。低所得またはマイノリティの家庭で育った子供は、たとえ高得点であったとしても、発明者になる可能性は低い。つまり、米国で発明者になれるかどうかは、数学と科学に秀でていること、家庭が裕福であるという2つの要素に左右されるのである。

図2:小学3年生時の算数のテスト成績と特許出願率との関係(低所得層と高所得層の比較)
図2:小学3年生時の算数のテスト成績と特許出願率との関係(低所得層と高所得層の比較)

「イノベーション格差」のうちテストの得点で説明できる部分は、学年が上がるにつれて大きくなる。中学2年になると、所得によるイノベーション格差の半分は、テストの得点の差によって説明できる。これは、おそらく学区や幼少期の環境の違いから、学年が上がるにつれ、低所得世帯の子どもたちが高所得世帯の子どもたちに遅れを取るようになることが原因である。次に、具体的にどのような環境的要因によってこうした違いが生まれているのかについて分析する。

教訓2:イノベーションに触れる機会が多ければ、子どもが発明者になる可能性は大幅に高まる

発明者が多く住む地域で成長し、成長過程でイノベーションに接する機会が多い子どもは、自らも発明者になる可能性が高い。成長過程でのイノベーションへの接触は、将来的に発明者になるかどうかだけでなく、発明の種類にも影響を及ぼす。たとえば、同じボストン在住でも、シリコンバレー出身者は特にコンピュータ関連の特許を取る傾向にあり、医療機器メーカーが多いミネアポリス出身者は、医療機器関連の特許を取る傾向にある。同様に、両親がある特定の技術分野(例:増幅器)で特許を持っている場合、その子供は他の関連分野(例:アンテナ)ではなく、まったく同じ分野で特許を取ることになる可能性が高い。

図3:発明者の出身地:成長期の居住地域別に見た特許出願率
図3:発明者の出身地:成長期の居住地域別に見た特許出願率
注:濃い色で示された地域ほど、発明者になる子どもが多い。米国で人口あたり最も多くの発明者を輩出している5都市は赤で表示。

イノベーションへの接触による影響は男女特有である。女性は、ある特定の技術分野で活躍する女性発明者が多い地域で育つと、その技術分野で発明を行う傾向にある。たとえ男性発明者が身近にいる環境で育っても、女性がイノベーションを生み出すことにはつながらない。男性の場合も、身近な女性ではなく男性発明者との接触によってイノベーションを創出する確率が大きく左右される。

我々の研究結果は、「子ども時代を環境の良い地域で過ごすと良い人生を送ることができる」という最新のエビデンスと整合的である。通常、地域環境がもたらす影響は、学校の質や居住による棲み分けといった要因によるものである。一部の地域や学校が、ある特定の分野のイノベーションに向けた教育を子どもに行っているとは考えにくく、イノベーションへの接触効果とは、メンター効果や情報伝達、ネットワークといったメカニズムに起因している可能性が高い。

低所得世帯の子ども、マイノリティ、女性は、家族や居住地域を通じたイノベーションへの接触の機会が少なく、イノベーション創出率が著しく低い理由の1つとなっている。たとえば我々の推計によると、男子が男性発明者と接触するのと同程度、女子が女性発明者に接触することができれば、イノベーションにおける性差は半分に縮小するはずである。

子どもが成長し、進学する大学によってイノベーション創出率は大きく異なるが、最もイノベーティブな大学(例:マサチューセッツ工科大学)においては、低所得層の学生も高所得層の学生も、特許を取得する確率にほとんど差がないことがわかった。こうした研究結果からも、我々が明らかにしたイノベーション格差の大部分は、労働市場に参入する前の子どもたちに影響を与える諸要因(幼少時の環境やノベーションとの接触など)によって説明できるという見解が正しいということがわかる(注2)。

教訓3:最も優れた発明者は年収が100万ドルを超えており、金銭的インセンティブの引き上げや減税などの追加策を講じても、イノベーションへの効果は限定的である可能性が示唆される

平均的な特許保有者は、40代半ばで年収約25万6000ドルを得ている。一方、科学的インパクトが最も大きい発見を成し遂げた発明者(すなわち、最も頻繁に引用される特許を生み出した発明者)は、平均で100万ドル以上の年収がある(図4)。科学の進歩は、最も優れた少数の発明者によって牽引されており、彼らはその業績に対し、市場から莫大な報酬を受けている。

図4:発明者の年収(科学的インパクト別)
図4:発明者の年収(科学的インパクト別)

女性やマイノリティ、低所得世帯出身の発明者が発明者全体に占める比率が低いのと同様に、トップ発明者に占める割合も低い。我々の研究結果によると、各集団でイノベーション能力に大きな差はなく、この結果は、発明家になる割合が少ないこれらの集団の中に、「失われたアインシュタイン(もし発明者になっていれば、インパクトの大きい発明を行った可能性のある人)」が多数存在する、ということを示唆している。

これらの研究結果は、たとえ金銭的なインセンティブを変更(例:減税)しても、2つの理由により、イノベーションを促進する効果は限定的であることを示唆している。第1に、インセンティブを変更しても、イノベーションに接触する人のうち、ごく一部にしか影響を及ぼすことはできない。第2に、こうした政策は、経済を成長させる上で最も重要な、「スター発明者」の判断に影響を与える可能性が低い。年収100万ドル以上の典型的なスター発明者は、たとえ年収が100万ドルから95万ドルに減ったとしても、喜んで同じ分野で仕事を続けるだろう(注3)。ただし、こうした予測は引き続き実証的に分析する必要があり、税は他の経路(例:企業や他の労働者の行動変化)を通じて経済成長に影響を及ぼす可能性がある。

政策的インプリケーション

女性やマイノリティ、低所得世帯の子どもたちが、高所得世帯(上位20%)出身の白人男性と同じ割合で発明を行うことができれば、米国のイノベーション創出率は4倍に上昇するだろう。したがって我々の研究結果は、こうした集団に埋もれている十分に活用されていない才能の持ち主を発掘し、イノベーションに接触する機会を増やす政策を推進する重要性を示唆する。たとえば、メンタープログラムやインターン、ソーシャルネットワークを通じた介入などの政策が挙げられる。我々の分析結果は、最も効果的なプログラムについて明らかにしていないが、目指すべき一定の方向は示している。発明者を輩出している割合が低い集団のうち、幼少期に数学と科学に秀でた子どもたちに的を絞った接触プログラムを行えば、最大限の効果を得られる可能性が高い。さらに、参加者の経歴に応じたプログラム(たとえば、女性は男性発明者よりも女性発明者から影響を受けやすい)も有益だと思われる。

より一般的に、我々の研究結果は、貧困家庭の子どもたちにより良いチャンスを与えることは、格差を縮小できるだけでなく、イノベーションと成長促進の上でも有効であることを示唆している(Aghion et al. 2017)。

本稿は、2017年12月24日にwww.VoxEU.orgにて掲載されたものを、VoxEUの許可を得て、翻訳、転載したものです。

本コラムの原文(英語:2018年1月23日掲載)を読む

脚注
  1. ^ すべての特許が、意味のある新発明というわけではない。しかしながら、科学的インパクト(将来的な引用数によって測定)が最も大きい特許だけに注目した場合でも、以下で述べる結果とほぼ同じが得られるだろう。
  2. ^ またこの研究結果は、「資金へのアクセスがない、リスクを避けたいとの理由で、低所得の学生たちは、イノベーションの追求を思いとどまる」という仮説と矛盾する。こうした要因は、同じ大学に通う学生の間でも、イノベーション創出率の格差が生じることになるからである。
  3. ^ イノベーションを追求するかどうかを決める時点で、スター発明者になれる確信がない場合でも、税制の変更に大きな影響を受ける可能性は低い。イノベーションの見返りは、宝くじを買うようなものである。ほとんどの場合、勝つことはない(この場合、税率は全く関係ない)。しかし大当たりを引いて数百万ドルを手に入れる場合もある(この場合、手に入る金額が多少減るからといって、宝くじ購入への関心が大きく低下することはない)。
参考文献
  • Aghion, P, U Akcigit, A Hyytinen and O Toivanen (2017), "The Social Origins of Inventors" Centre for Economic Performance Discussion Paper 1522 (see also the Vox column here).
  • Aghion, P and P Howitt (1992), "A Model of growth through Creative Destruction" Econometrica 60(2): 323-351
  • Bell, A, R Chetty, X Jaravel, N Pektova and J Van Reenen (2017), "Who Becomes an Inventor in America? The Importance of Exposure to Innovation," The Equality of Opportunity Project.
  • Romer, P (1990), "Endogenous Technological Change," Journal of Political Economy 98(5): S71-S102.

2018年2月21日掲載