近年、既成の政治制度や政党に対する信頼が低下する一方、ポピュリズムの動きやその政策への支持が急速に拡大している。とりわけ欧州では、欧州連合(EU)に対する懐疑的な見方が顕著となっており、一部では露骨な敵意さえみられる。本稿では、CEPRの「Monitoring International Integration series(国際統合の観測シリーズ)」の最初の報告書を紹介する。同報告書は、各国の政治制度および欧州の政治制度に対する信頼が低下している原因を分析するとともに、信頼低下の結果、EUが崩壊の危機に直面しているのかについて分析している。
ポピュリズム台頭の要因はいくつか存在する。たとえば、国際貿易が所得分配に与える影響(例:Colantone and Stanig 2016, Dippel et al. 2015)、金融危機によって政府や国際機関への信頼が低下していること(例:Funke et al. 2016)、移民増加による地元住民への影響(例:Dustmann et al. 2005)などである。
ポピュリスト政治の台頭に象徴されるように、各国の政治制度および欧州の政治制度に対する信頼は低下しつつある。我々は、CEPRの国際統合の観測シリーズの最初の報告書「Europe's Trust Deficit: Causes and Remedies(欧州の信頼赤字:原因と処方箋)」において、こうした信頼低下の原因を分析している。
ポピュリズムと各国制度・EU制度への信頼
まず、各国の政治制度および欧州の政治制度に対する信頼の欠如が、ポピュリズムを決定づける特徴の1つであることを示す。我々は、EU15カ国について2002年から2014-15年に収集されたEuropean Social Survey(欧州社会調査、ESS)のデータを使用した。このデータは、(右派であれ左派であれ)ポピュリスト政党に投票した有権者は、自国の議会や欧州議会への信頼が低く、欧州統合にも反対している、ということを示唆している。これは年度や各国特有の影響に加え、有権者の年齢、性別、学歴をコントロールしてもなお、明らかな傾向である。図1の左上のパネルの各点は、直近の総選挙においてポピュリスト政党に投票した平均確率を、自国の議会に対する信頼レベル別に示したものである。年齢、性別、学歴を一定とし、タイムトレンドと各国に特有の差異をコントロールしている。この図は、この傾向を明確に示している。
加盟各国における反EU政党の得票率の傾向を調査するため、我々はChapel Hill Experts Survey(CHES)による反EU政党の分類に基づき、1999年から2014年までに行われた欧州議会選挙における反EU政党の得票率を地域ごとに調べた(注1)。図3は、各国とEU全体の平均得票率をそれぞれ示している。2014年の選挙においては、ほぼすべての国で反EU政党が得票を伸ばしている。しかし、50%を超えたのは英国とイタリアのみであり、2014年においては、EU全体での得票率は30%に過ぎない。2009年と2014年の差が最も大きかったのがイタリアである。
Colantone, I and P Stanig (2016), "Global Competition and Brexit," BAFFI CAREFIN Centre Research Paper No. 2016-44, Bocconi University.
Dippel, C, R Gold and S Heblich (2015), "Globalization and its (dis-) content: Trade shocks and voting behaviour," NBER Working Paper No. 21812.
Dustmann, C, B Eichengreen, S Otten, A Sapir, G Tabellini and G Zoega (2017), Europe's Trust Deficit: Causes and Remedies, Monitoring International Integration 1, CEPR Press.
Dustmann, C, F Fabbri and I Preston (2005), "The Impact of Immigration on the British Labour Market," The Economic Journal 115(507): F324-F341.
M, M Schularick and C Trebesch (2016), "Going to the extremes: Politics after financial crises, 1870-2014," European Economic Review 88: 227-260.
Inglehart, R and P Norris (2016), "Trump, Brexit, and the Rise of Populism: Economic Have-Nots and Cultural Backlash," HKS Working Paper No. RWP16-026.