過去30年にわたり、OECD加盟国・非加盟国の一部では、富裕層と貧困層の所得格差が拡大している(Piketty 2014, Piketty et al. 2017, OECD 2016)。このことから、成長と包括性について学界、政策の最前線で議論されるようになった(Furman 2016)。
賃金格差の大部分が企業内ではなく、企業間の賃金格差拡大によって説明できる、と多くの研究が示している。つまり、格差の大部分は、同一企業内の給料の高い人、低い人の差ではなく、賃金が最も高い企業と最も低い企業の差が拡大していることによるという(直近の論文では、Barth et al. 2014、Card et al. 2013、Goldschmidt and Schmieder 2015、Helpman et al. 2017、Song et al. 2015など)。
他方、最近のエビデンスによると、生産性が最も高い企業とそうでない企業との格差が世界的にかなり広がっているという(Andrews et al. 2017)。このことは、賃金格差の拡大と生産性格差の拡大の間には、正の相関がある可能性を示唆している。
我々は最近の論文(Berlingieri et al. 2017a)において、16カ国(オーストラリア、オーストリア、ベルギー、カナダ、チリ、デンマーク、フィンランド、フランス、ハンガリー、イタリア、日本、ルクセンブルク、オランダ、ノルウェー、ニュージーランド、スウェーデン)の新たな企業レベルのミクロデータを使用し、賃金と生産性格差の拡大に関する新たなエビデンスを示した。
格差に関する議論の多くでは、所得分布上位1%の富裕層とそれ以外との格差の拡大に注目されてきた。たとえば、大きな影響を持つことになったPiketty and Saez (2003) など、富裕層との所得格差に関する研究(2003)である。我々の研究は、所得分布の最下位においても賃金格差が生じていることを示している。
たとえば、高スキル労働者は給料の良い企業に集まることを示すエビデンスに加え(Bagger et al. 2013)、主力でない、低付加価値、低賃金の業務については、アウトソーシングの活用例も増えている(Goldschmidt and Schmieder 2015)。さらにレントシェアリング(利益率・生産性の高い企業に勤める労働者が、その企業の超過利潤の一部を享受すること)も、この傾向の理由の1つである(Card et al. 2014、Card et al. 2013)。
また、輸出入を行い、貿易に依存している産業についても検討した。こうした産業では、賃金格差が広がっているだけでなく、賃金格差と生産性格差との相関も強かった。我々の研究結果は、「グローバル化は企業間の賃金格差に間接的な影響を及ぼしている可能性がある」という一連の研究に寄与するものである(Helpman et al. 2017)。
Bagger, J, K L Sørensen, and R Vejlin (2013), "Wage Sorting Trends," Economics Letters 118(1): 63-67.
Barth, E, A Bryson, J C Davis, and R Freeman (2014), "It's Where You Work: Increases in Earnings Dispersion across Establishments and Individuals in the U.S.," NBER Working Paper No. 20447.
Berlingieri, G, P Blanchenay, and C Criscuolo (2017a), "The Great Divergence(s)," OECD Science, Technology and Industry Policy Papers No. 39.
Berlingieri, G, P Blanchenay, S Calligaris, and C Criscuolo (2017b), "The MultiProd Project: a Comprehensive Overview," OECD Science, Technology and Industry Working Papers No. 2017/04.
Card, D, F Devicienti, and A Maida (2014), "Rent-Sharing, Holdup, and Wages: Evidence from Matched Panel Data," Review of Economic Studies 81(1): 84-111.
Card, D, J Heining, and P Kline (2013), "Workplace Heterogeneity and the Rise of West German Wage Inequality," Quarterly Journal of Economics 128(3): 967-1015.
Goldschmidt, D, and J F Schmieder (2015), "The Rise of Domestic Outsourcing and the Evolution of the German Wage Structure," NBER Working Paper No. 21366.
Helpman, E, O Itskhoki, M A Muendler, and S Redding (2017), "Trade and Inequality: From Theory to Estimation," Review of Economic Studies 84(1): 357-405.
Mortensen, D (2003), Wage Dispersion: Why are Similar Workers Paid Differently?, Zeuthen lecture book series, MIT Press, Cambridge, Massachusetts.
OECD (2016), The Productivity-Inclusiveness Nexus, OECD Publishing, Paris.
Piketty, T (2014), Capital in the 21st Century, Harvard University Press, Cambridge, Massachusetts.
Piketty, T, and E Saez (2003), "Income Inequality in the United States, 1913-1998," Quarterly Journal of Economics 118(1): 1-41.