金融関連メディアや経済学者の多くは、政府支出の削減と税率引き上げを伴う緊縮政策が、欧州の一部の国の景気回復を遅らせている元凶だと指摘している(たとえばBlanchard and Leigh 2013, Krugman 2015)。我々の分析によると、実際のところ、緊縮政策の差異が異なる景気の原因になっている可能性があり、こうした政策は政府債務GDP比率の高い国の比率をさらに高めるという逆効果をもたらすことがわかった (House et al. 2017)。
財政緊縮策の尺度
財政緊縮の度合いを計測するため、我々は政府支出の予測値と実績値の差を使用した (Blanchard and Leigh 2013)。政府支出に関する我々の予測には、経済情勢についての情報も反映されている。したがって、予測結果の誤差は、景気変動に対する財政政策の「正常な」反応からの逸脱と解釈できる。通常、不況期には支出が増加するが、金融危機後に支出が増えていない場合、このような支出のあり方を「緊縮的である」と分類した。
このモデルが実際の政策変更に対する欧州諸国の反応を再現している限り、そのモデルを使って異なる政策が採られた場合にどんなことが起きたかもしれないかについて検討できる。図2は、3つの反実仮想的なシナリオを示している。財政緊縮が実施されない場合、変動為替相場制を採用している場合、そして財政緊縮が行われた場合とそうでない場合の政府債務GDP比のダイナミクスである。図2の上段は、EU10諸国(ベルギー、ドイツ、エストニア、フランス、ルクセンブルク、オランダ、オーストリア、スロベニア、スロバキア共和国、フィンランド)についてシミュレーションにより得られたGDPの軌跡を示している。下段は、GIIPS(ギリシャ、アイルランド、イタリア、ポルトガル、スペイン)におけるその軌跡を示している。我々は最初の実験において、各国は名目金利がゼロ下限制約(ZLB)下にある状況に直面しているという条件を課した。Nakamura and Steinsson (2014) とよく似た結果となり、ZLBは政府支出とGDPの時間を通じた関係性を決める際には重要であるが、国レベルの横断的な乗数を説明する上では重要な役割ではない(実際のところ、ZLBは図1の近似線の傾きを不変のまま、すべての点を押し下げる)。
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