1990年代に欧米で再燃したナショナリズムは、極右政党への支持を拡大した。本稿は貿易と選挙のデータを使用し、中国の輸出による影響が最も大きい地域において極右勢力が有権者の支持を最も拡大していることを示す。影響を受ける産業で働いているかに関わらず、こうした地域コミュニティの投票は均質的であった。
欧米の民主主義国家でナショナリズムが再燃している。特に、英国の国民投票によるEU離脱決定(Brexit)と米国のドナルド・トランプ政権誕生の事例は、この傾向を象徴的に示している。欧州ではこの傾向が1990年代に始まり、それに伴って極右政党への支持が広がりをみせている (Mudde 2007)。
私たちは最新の論文で、グローバル化がこの現象の主な要因であることを示した (Colantone and Stanig 2017)。注目したのは、1988年から2007年にかけて急増した中国製品の輸入による競争力へのショックである。こうしたショックは、欧州域内の歴史的な雇用構成によって各地域に異質な影響をもたらしてきた。西欧15カ国の議会選挙データを用いて調査した結果、域内で輸入のショックにさらされた度合いが高まれば、国家主義政党への支持が高まり、有権者が全般的に右傾化し、極右政党への支持が広がることがわかった。これら政党の政策提案は、国内の自由市場政策への支持と強硬な保護主義的スタンスがセットになっている傾向があり、この組み合わせは「経済ナショナリズム」と呼ばれている。こうした政策ミックスを掲げる政党はしだいに勢力を増しており、世界はグローバル化の終焉、あるいは破綻につながる可能性がある。
中国製品輸入によるショック
Autor et al. (2003) の手法に従い、中国製品の輸入にさらされる度合いを示す地域別指標を構築した。この指標は、中国からの各国の年間輸入額(産業別)の情報と、各地域における過去の雇用構成データを組み合わせたものである。各地域が中国製品の輸入増が各地域に及ぼす影響は、事前に特化している産業に左右される。直感的には、製造業に従事する労働者の割合が高い地域ほど輸入のショックが大きい。また、製造業に従事する労働者の割合が同程度の場合、各地域が特化している製造業の種類によって、それぞれ中国製品の輸入による影響は異なるだろう。
中国製品の輸入の伸びが最も大きい産業(たとえば繊維や電気製品)にもともと雇用されていた労働者が相対的に多い地域において、また、中国からのこうした産業分野の輸入が急増した年においてより強いショックが予想される。
私たちはNUTS2(第2種地域統計分類単位)レベルで分析を実施した。全体のサンプル数は15カ国の198地域である(注1)。雇用データの出典元は国によってEurostat(EU統計局)か、各国の統計のいずれかである。貿易データはEurostat Comext、もしくはCEPII(フランス国際経済予測研究センター)の貿易データベースBACIから得た。産業分類は「経済活動に関する統計的分類基準」(NACE Rev. 1.1)の小分類である。図1は、各地域の平均値に基づき、輸入ショックの違いを地域別に示している。色の濃い地域ほど強い影響を受けていることを表す。
地区レベルのエビデンス
次に、1988〜2007年に行われた76回の総選挙について地区レベルの選挙データを集計した。データの出典元は、選挙区レベル選挙アーカイブ(Constituency-Level Election Archive; CLEA)(Kollman et al. 2016)、グローバル選挙データベース(Global Election Database; GED)(Brancati 2016) および各国の統計である。各地区、各選挙における政党レベルの得票率の情報を得た。
選挙における各地区のイデオロギー的傾向を評価するため、選挙結果と各政党の「イデオロギースコア」を連動させた。これには、政党の選挙マニフェストの内容分析を用いて政策的立場の帰属を比較する、比較マニフェストプロジェクト(Comparative Manifesto Project ; CMP)のデータを使用した。Laver and Budge (1992)、Lowe et al. (2011) で使用された定評ある手法に基づき、各選挙における各政党の「ナショナリズム」と「右派的立場」の2つのスコアを算出した。次に2つのイデオロギースコアと政党の得票率を結合し、各選挙の地区レベルの集計値を複数種類割り出した。ナショナリズムと右派的立場について算出した数値は以下の通り。
- 地区レベル加重平均
- 中位投票者のスコア
- その次元の国の中位を上回る政党の合計得票率
最後に、グローバル化と極右勢力躍進の関連を直接特定すべく、極右政党の投票率に関して地区レベルの集計値も算出した。これらの政党の特定には以前の研究を用いた(注2)。図2は、サンプル内における極右政党の得票率の伸びを示している。図の各ポイントは3年移動平均。
グローバル化が投票に及ぼす影響を調べるため、中国製品の輸入による地域特有のショックを地区レベルで集計した値を回帰分析し、各選挙に先立つ2年間について計算した。輸入ショックの潜在的内生性を考慮し、Autor et al. (2013)、Colantone et al. (2015)、Bloom et al. (2016) などと同様に、欧州の中国製品輸入の操作変数として米国の中国製品輸入を用いた。この戦略は、欧州の内生的な国内要因による変化ではなく、中国における供給条件の変化の結果、変化する中国製品輸入について捉えることを目的としている。たとえば国の景気など、ある時点において国内すべての地区に影響する要因をコントロールするため、常に選挙の固定効果を含めた。その結果、調査で採用した特定の集計指標にかかわらず、より強い輸入ショックは以下の現象につながることがわかった。
- 国家主義政党への支持の高まり
- 有権者の右傾化
- 極右政党への支持の高まり
私たちの研究では、他の条件が一定である場合、輸入ショックが大きい第3四分位点の地域は、第1四分位点の地域と比較して極右政党への支持が0.7ポイント高くなると予測した。極右政党の平均得票率が5%、標準偏差が7%であることを考えると、この結果は無視できない。
研究結果は、グローバル化が選挙に与える影響に関する多数の最新研究に貢献している。米国については、すでに他の研究者が、二極化や投票率、反現職への投票に貿易が及ぼす影響について調査を行っている (Autor et al. 2016、Che et al. 2016、Margalit 2011、Jensen et al. 2015)。フランスでは、Malgouyres (2014) が貿易による極右支持への影響を調査したほか、ドイツについてもDippel et al. (2016) が同様の調査を行っている。私たちも以前の研究で類似の識別戦略を採用し、中国製品の輸入ショックが英国のBrexitにおける「離脱」選択の支持に正の影響を及ぼしたことを示した (Colantone and Stanig, 2016 a and 2016 b)。
個人レベルのエビデンス
さらに、欧州社会調査(European Social Survey)の個票データを利用し、追加のエビデンスを得た。基本的な人口動態の特性と選挙の固定効果を考慮すると、居住地域において輸入ショックが強いほど、有権者は国家主義的で保守的な政策的立場をとり、極右政党支持の確率も高いという結果で、これは地区レベルのエビデンスと一致していた。また、有権者の雇用状況と職業に基づき、異なる有権者の区分別で輸入による競争への影響に違いがあったのか、交差項を用いて検証した。これらの影響は、中国製品の輸入によって直接的に仕事への影響がないサービス業と公的部門の労働者を考慮にいれても、グループ間でおおむね違いはなかった。輸入による競争効果は、中国製品の輸入に直接影響を受けやすい失業者や製造業に従事する労働者など一部のグループに限定されているわけではないことがエビデンスによって示された。それどころか、グローバル化によって工業地区全体の繁栄と存続が脅かされるため、影響を受けるコミュニティは、各有権者の個人的な状況に関わりなく均質的に投票を行っていた可能性がある。
より包摂的なグローバル化へ
グローバル化によって国家主義と極右政治プラットフォームへの支持が急激に高まっている。これにより、過去30年続いてきたオープンな世界の存続が脅かされるかもしれない。トランプ大統領による環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱はその方向への第一歩のようにみえる。しかし、保護主義への回帰は、「敗者」への適切な補償がなければ、グローバル化によって行き場を失った人々の問題を解決できないうえ、特に新興国の成長を確実に阻害するだろう。むしろ世界にはより包摂的なグローバル化のモデルが必要である。
本稿は、2017年2月20日にwww.VoxEU.orgにて掲載されたものを、VoxEUの許可を得て、翻訳、転載したものです。