またイエレンは重要な点として、「中立金利が中期的にかなりの低水準で推移し続ければ、…テイラー・ルールでは、適切な均衡実質利子率(R-Star)がおそらくゼロとなり、FF金利がさらに低下の一途をたどることになるだろう」と述べた。イエレンは持論の裏付けとして、Holston et al.(2017)によるR-Starの推計値に言及している。
イエレン・テイラー・ルールは、代わりにLaubach and Williams(2003)とHolston et al.(2017)の手法に基づく均衡実質利子率の推計値を使用している(計算については、Beyer and Wieland(2014)とGCEE(2015、2016)を参照のこと)。中期均衡利子率であるというのが最大の特徴であり、総需要曲線、フィリップス曲線、潜在GDPと均衡利子率/R-Starを結び付ける定義から構成される3方程式モデルの範囲内で推計される。この仕組みには、一時的・恒常的なショックの多くが含まれている。中期均衡利子率の推計値は短期間に大きく変動する可能性がある。図3のオレンジの線が示すとおり、中期均衡利子率は2008年/2009年の景気後退局面で急低下し、以降はゼロ付近で推移している。
しかし、潜在GDPの推計値やLaubach and Williams(2003)の手法で算出された産出量ギャップは、長期自然失業率から算出されるイエレン・テイラー・ルールの推計や産出量ギャップとかなり異なる。中期産出量ギャップ(図2のオレンジの線)は2008/2009年の景気後退局面での低下がかなり緩やかで、-2%前後で底を打ち、2011年までにプラスに戻っている。推定されたフィリップス曲線によると、産出量ギャップの水準がさらに低下し、長い間マイナスが続いていれば、大幅なデフレに陥っていたことになる。デフレでなければ、潜在GDPは下方修正され、産出量ギャップは上方修正される。潜在GDPとトレンド成長率が下方修正されれば、均衡利子率の推計値は低下する。結果として、潜在GDPの推計値と整合する中期均衡実質利子率の推計値と、産出量ギャップを使用することによって、整合型イエレン・テイラー・ルールに基づいて設定されるFF金利は、長期自然失業率に基づく産出量ギャップを使用した場合よりもかなり高めになる。
結論として、単純な参照ルールを使用することにより、R-Starや潜在GDPの変化が金融政策の方向性に与える影響を明確に示すことができる。この点で、FORM法第2節で義務付けられることになる比較アプローチは非常に有用である。さらに、産出量ギャップと均衡利子率という尺度の整合性にこだわることは、現行政策を解釈するうえで重要な意味があることを示すことができる。すなわち、R-Starの推計値が低下しても、現行の政策スタンスを正当化する理由にはならないのである。むしろ、整合的なアプローチによれば金融政策は引き締められるべきだということが示唆される。Laubach and Williams(2003)に基づくこうした中期の推計値に注目すべきかどうかは別問題である。その理由は、図3の信頼区間の広さが示すとおり、これらの推計値は非常に不正確で、Laubach and Williams(2003)の強調したとおり、テクニカルな前提条件に非常に左右されやすい(Beyer and Wieland 2015, GCEE 2015)。また、これらの推計値に欠落変数バイアスがかかる可能性とその理由が多数、指摘されている(Taylor and Wieland 2016, Cukierman 2016)。したがって、政策スタンスを決定する重要な要素としてこれらの推計値は使わないのが良さそうである。
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