オフショアリングと技術変化の偏向は、国内の労働需要に対して観測上同等の効果を示すため、その相対的な影響力を定量化するのは困難である。本稿は、国内外の全生産工程を含むグローバルバリューチェーン (GVC)を調査することによって、偏向型技術変化を特定する方法を示す。調査の結果、技術変化によって低スキル労働者の雇用が減る一方で、高スキル労働者の雇用が増え、資本の使用を増やす効果があったことがわかる。
先進国のスキルプレミアム(賃金格差)や雇用の二極化を促す二大要因は、偏向型の技術変化とオフショアリングであるということは、経済学者の間で共通の認識となっている。同時に、この2つは同時に観察されることが多いため、その相対的な重要性ははっきりしない。
オフショアリングと偏向型技術変化の観測同等性
これを調査するため、ある企業の生産技術は一定だが、技能を必要としない生産工程が海外移転を決定すると仮定する。その結果、国内の低スキル労働者の雇用が減少する。他方、オフショアリングは存在せず自動化などを通じて、非熟練労働に偏向した技術変化が起こると仮定する。いずれのケースも、国内の労働需要への影響は同様であり、オフショアリングと偏向型技術変化の効果は観測上同等である。しかし、多くの理論的、実証的な疑問について、我々はこの要素需要の2つの要因を区別したい (Feenstra and Hanson 2003)。
我々は最近の論文で、観測同等性の問題の解決を試みた (Reijnders et al. 2016)。これまでの一般的な方法では、国別(産業別)データで回帰分析を行い、偏向型技術変化が雇用に影響する可能性、あるいは雇用がオフショアされる可能性という指標で労働需要の変化を説明しようとしてきた。たとえばGoos et al. (2014)とMichaels et al. (2014)によると、二者の「比較」を行った結果、低スキル労働者に対する需要に及ぼすマイナス効果は、オフショアリングよりも偏向型技術変化のほうがかなり大きかったという。しかし、これらの研究は生産工程のごく一部、すなわち国内の工程の分析にとどまっている。我々は、オフショアリングが存在する場合は、国内外の全生産工程を分析しなければ偏向型技術変化は推定できないと考える。そのために輸入中間財の要素含有量に関する新しいデータを使って、(潜在的ではなく)実際のスキル偏向型技術変化の効果を純粋に測定できる手法を提供する。
Antràs and Chor (2013)を基に、我々はGVCとして多数の国にまたがる、垂直統合型の生産工程を参照した。実証研究の枠組みとして、GVC生産において数種類のタスクが必要となる基本モデルを構築した。各タスクは単一要素の投入が必要で、国内外どちらでも実施できるタスクである。タスクの価格を所与として、企業はGVC内で各タスクをどの程度実施すべきか選択する。我々はタスクへの最適な需要と、それに対応する要素費用シェアを導き出し、各国へのタスク配分、各国の要素価格、技術偏向の相互作用によってどのような影響を受けるのかを示した。
GVCにおけるスキル偏向型技術変化の測定
我々は最終財を、世界各国の雇用・資本による付加価値と結びつけた。Valentinyi and Herrendorf (2008)やLos et al. (2015)を基に、世界経済の投入・産出構造に関する情報を用いて、中間投入額を求めるというのが基本の考え方である。世界産業連関表データベース(WIOD、Timmer et al. 2015を参照)を用いて、最終的な生産工程が先進国で行われる291種類の製品のGVCを調査した。図1は、GVCにおける要素費用シェアの変化を示す。大卒労働者と資本の費用シェアが急増する一方、非大卒労働者のシェアは大きく減少している。この傾向は広範にわたって見受けられ、非大卒労働者の場合は291のGVCのうち280(平均8.2%の減少)において、大卒労働者の場合も280(平均4.4%の増加)のGVCにおいて観測されている。また、資本の費用シェアも223のGVCで平均3.8%増加している。
図2は、我々が調査したGVCにおける、タスクの平均価格の(対数)変化のカーネル密度推計で示している(1995〜2007年)。これは、あるタスクを実行する要素に対して支払われた価格を示しており、特定のGVCに参加しているすべての国で平均したものである。非大卒労働者(実線)と大卒労働者(破線)のそれぞれのタスク1時間あたりの価格の変化が、資本価格の変化との比較で示されている。非大卒労働者のタスク価格は、大卒者と比べて平均8.4ログポイント低く、どちらのタスクも資本に比べると高くなっている。資本タスクに支払われた平均価格は、非大卒労働者のタスクよりも5.3ログポイント、大卒労働者のタスクよりも13.7ログポイント低かった。
我々はMichaels et al. (2014)と同様にGVCの費用シェアの方程式を用いて、タスクの価格弾力性と技術変化の偏向を推定した。国内の生産工程のデータだけに基づく従来の分析とは異なり、国内外の要素を使用することがあらかじめ考慮されているため、回帰分析でオフショアリングの効果を調整する必要がない。ここで明らかになったのは、技術変化の全体的なバイアス効果によって、費用シェア変化の大部分が説明できるということで、統計的に有意なだけでなく、経済的にも有意性が高いということである。対照的に、要素価格の動きで説明できる部分はごく限られていた。以上の主な結果は、さまざまな代替的なモデルの特定化に対して頑健であることが示された。
オフショアリングと偏向型技術進歩の雇用効果
偏向型技術進歩の純粋な効果の推定値を用いて、先進国の労働需要を左右する要因が何かという議論を再考した。我々は、GVCにおける各国へのタスク配分を一定に保ちつつ、偏向型技術変化の効果についてシミュレーションを行った。、偏向型技術変化がないという設定で、(オフショアリングを含む)タスク再配分の効果についてもシミュレーションを行った。この分析は製品のGVC生産に関連する雇用と関係している。先進21カ国それぞれについて、非大卒労働者と大卒労働者に分けて実施した。図3はすべての国の(非加重)平均効果を示す。結論としては、偏向型技術変化とGVC再編は定量的に同等の効果を持ち、非大卒労働者の需要を押し下げる。対照的に、大卒労働者の場合は、偏向型技術変化のプラス効果がGVC再編のマイナス効果を大きく上回ることがわかった。この傾向はすべての先進国に見られる。
結論
オフショアリングと技術変化の偏向は、国内の労働需要に対して観測上同等の効果が見られる。そのため、相対的な影響力を定量化することが困難となる。我々は、国内外の全生産工程を含むGVCを調査することによって、どうすればスキル偏向型技術変化を特定できるかを示した。以上からわかったことは、技術変化が低スキル労働者に対しては大きなマイナス、高スキル労働者と資本にとってはプラスに偏向してきたということだ。もちろん、我々の分析は部分均衡分析であり、最終財の生産における雇用に限られている。価格や生産場所、技術の変化が単独で起こることはまれであり、それらを完璧に分析できると述べるつもりはない。しかし、GVCの視点を取り入れることが労働需要の研究に役立つということを示せていれば幸いである。
本稿は、2016年10月25日にwww.VoxEU.orgにて掲載されたものを、VoxEUの許可を得て、翻訳、転載したものです。