世界の視点から

米国製造業の回復:単なる上昇局面か、ルネサンスか?

Oya CELASUN
IMF 西半球局課長補佐

Gabriel DI BELLA
IMF 西半球局課長補佐

Tim MAHEDY
IMF西半球局リサーチアナリスト

Chris PAPAGEORGIOU
IMF 調査局エコノミスト

2008-09年の世界同時不況後に製造業生産が堅調に回復したため、アナリストや政策立案者は製造業に再び関心を寄せている。本稿では、詳細にデータを検討した結果、米国が製造業ルネサンスを迎えているという主張には根拠がないことを示す。その一方、今後の米国経済全体の成長において製造業の寄与が大きくなることを裏付ける要因も存在する。

米国の「製造業ルネサンス」についてのエピソードが増える中、米国の国内総生産 (GDP) や世界の工業生産において、今後、製造業による寄与がさらに拡大する、という論評が多くみられる(Financial Times 2012, New York Times 2012, McKinsey Global Institute 2012, Citi Research 2013など)。このような論評では、ドル安の進行、国内のエネルギー価格の低下、国際的な運送費の変動、新興国市場の人件費高騰など、米国製造業にとっての好条件をあげ、米国製造業の生産や雇用において、景気回復によって期待される以上の力強い成長が望めると指摘されている。さらに、成長著しいシェールオイルやシェールガス関連の活動によって需要の増加が見込める可能性も指摘される。

われわれは最近発表したIMFワーキング・ペーパーにおいて、米国のマクロ経済データ上、「ルネサンス」を読み取ることはできるのか、また実際に、製造業が米国の長期的成長に大きく寄与できるのかについて、調査を行った (Celasun et al. 2014)。

データ

製造業ルネサンスの概念は、世界同時不況後の生産回復によっても支えられている。ルネサンス仮説懐疑派は、世界同時不況の間に急激におこった景気循環的な落ち込み後の当然の帰結として今回の回復を捉えている。たしかに世界同時不況中に製造業の生産が急激に落ち込んだのは事実だが、生産全体の落ち込みと相対的に見た場合、製造業の生産の落ち込みは、それ以前の30年間に起きた不況の際と比較してみると、実際は小さいことがわかった。さらに、今回の不況は、1980年代初頭以降に起こった米国の不況のうち、米国GDPに占める製造業の割合が不況後に大幅に回復した、唯一の不況である。このように米国の過去のデータを考察したところ、今回のケースは、過去の米国データ上、通常見込まれる景気循環的な回復を越えた、製造活動の底力の強さが示唆される(図1)。

図1:不況後の製造業の回復(指数:不況の前年を100とし、総生産に占める製造業付加価値の割合を示す指数)
図1:不況後の製造業の回復
出典:Haver Analytics

その上、不況の余波の中で見過ごされているが、耐久財部門と非耐久財部門の業績にはかなりの隔たりがある。不況後の製造業の回復を牽引したのは、耐久財生産によるところがほとんどであり、耐久財部門は、米国全体の実質GDPよりも1四半期早く、不況前の水準に回復している。対照的に、非耐久財の生産は、おおむね停滞状態が続いている(図2)。

図2:米国の製造業:耐久財と非耐久財の比較(指標:2007年を100とする)
図2:米国の製造業:耐久財と非耐久財の比較
出典:Haver Analytics

さらに、耐久財部門の堅調さは、一部の業種に集中している。全10の中分類のうち3つの業種 (コンピュータ・エレクトロニクス、自動車、機械) が耐久財部門の回復に寄与している。自動車と機械の上昇はおおむね景気循環によるものといえるが、コンピュータ・エレクトロニクスは、世界同時不況の時期を含め、過去10年間を通して堅調な伸びを示している。一方、化学、プラスチック、ゴムなど非耐久財部門のほとんどの業種は、下降の一途をたどるか、不況後の回復ペースが鈍い。石油製品は例外で、不況中の減少幅もかなり小さく、世界金融危機前の水準に近づいている(図3)。

図3:米国製造業の構成要素
図3:米国製造業の構成要素
出典:Haver Analytics

次にG7諸国の耐久財・非耐久財の生産をみると、さらに本質が浮かび上がる。金融危機後、米国における耐久財生産は、他のG7諸国と比べてかなり堅調に回復した(2011年半ばまではドイツの回復がより堅調であったが、その後停滞)。対照的に、米国の非耐久財生産は、他のG7諸国と比較してその回復は明らかに劣っている(図4)。全体として見ると、G20諸国の製造業に占める米国の割合は、過去数十年にわたった衰退傾向に歯止めがかかり、世界同時不況以後は安定を取り戻したといえる。

図4:耐久財・非耐久財の製造状況(2013年4月時点)
図4:耐久財・非耐久財の製造状況(2013年4月時点)
出典:Haver Analytics

米国製造業の回復を牽引した短期的要因

米国製造業の回復を牽引した要因として、主に3つの条件が浮き彫りになった。

  • 米ドルの実質実効為替レートは、過去10年の間に下落した(競争力が高まった)。不況後の需要の低迷と景気循環的失業率の高さを背景としてドル安が進行、特に対新興国通貨のレートが下落した。
  • 米国の人件費は、新興国との比較で相対的に低下した。1990年代と2000年代の間、アジア新興国へと生産拠点の移転が大幅に進み、不況の影響で失業率が上昇したこともあいまって、過去10年の間、賃金に下落圧力が生じ、米国内の単位労働コストが低下した。
  • シェールガス採掘技術の飛躍的な進歩により、米国内のエネルギー価格が大幅に低下している。特に最近、掘削技術(シェールガス水圧破砕技術など)が進展した結果、米国内の天然ガス生産量が大幅に増加し、現在、アジアやヨーロッパの約4分の1の価格まで国内価格が低下している(図5)。
図5:天然ガスの生産量および価格
図5:天然ガスの生産量および価格
出典:米国エネルギー情報局

製造業は米国の長期的成長に大きく寄与できるのか?

過去10年の間、米国の経済成長において製造業が果たした貢献は、平均で全体の0.2ポイントを下回る。近い将来、製造業の貢献度は、大幅に上昇するのだろうか。

今後、米国の製造業がさらに目覚ましい成長を遂げるためには、製造業の輸出がカギを握るだろう。米国GDPに占める製造業の割合は低下したが、GDPに占める製造業輸出の割合はおおむね一定である。今後10年間、G20諸国の製造業輸出に占める米国の割合を2011年の水準で維持できれば、米国の年間GDP成長率を0.4ポイントという高い割合で押し上げることができる。

アジアにおいて米国製造業が占める市場シェアは、いまだ比較的低いが、米国が輸出基盤をアジア向けに多様化できれば、米国の製造業輸出が経済成長に果たす役割はより大きくなるだろう。

成長著しい石油・ガスの国内生産によって、米国の製造業の需要にさらなる弾みがもたらされるとの分析もある。米国エネルギー情報局による、石油・ガス生産量のベースライン予測、および石油・ガス採掘活動と製造業部門との投入産出関係に基づいてわれわれが行った計算の結果、今後10年間に石油・ガス部門による製造業全体の需要への寄与はそれほど大きくないことがわかった。しかしながら、恩恵を受ける業種の中には、化学製品、一次金属、金属製品など、これまで製造業ルネサンスの蚊帳の外にあった、非耐久財部門の業種が含まれている。したがって、このような業種に新たな需要が見込めることは、前向きな動きである。

主なポイント

米国の製造業ルネサンスに関して、過度に楽観的な主張に根拠はないが、製造業の一部の業種は実際のところ、不況後、堅調な回復を見せている。利用可能なデータによると、耐久財部門の中には、不況をうまく乗り切った業種、堅調な回復を見せている業種があり、米国のみならず世界市場において製造業の大きな存在感を示すことができるのではないか、という希望が持てる。

現在、米国の製造業を取り巻いているさまざまな好条件によって、今後も製造業の収益性にプラスの影響が予想される。とりわけ、生産コストの低下(天然ガス価格の低下、単位労働コストの低下、ドルの適度な実質的下落)と活況あふれる新興国へと輸出を多様化することにより、米国の製造業への新たな投資を呼び込み、成長を促進させる可能性がある。

本稿は、2014年2月24日にwww.VoxEU.orgにて掲載されたものを、VoxEUの許可を得て、翻訳、転載したものです。

本コラムの原文(英語:2014年6月18日掲載)を読む

2014年7月1日掲載
文献
  • Celasun, Oya, Gabriel di Bella, Tim Mahedy, and Chris Papageorgiou (2014), "The US Manufacturing Recovery: Uptick or Renaissance?", IMF Working Paper 14/28.
  • Citi Research (2013), "Is a Renaissance in US Manufacturing Forthcoming?", 31 May.
  • Financial Times (2012), "US set for industrial revival, says study", 21 September.
  • McKinsey Global Institute (2012), "Manufacturing the Future: The Next Era of Global Growth and Innovation", November.
  • The New York Times (2012), "Skills Don't Pay the Bills", 25 November.
  • US Energy Information Agency (2013), "Annual Energy Outlook, 2013", Washington, DC.

2014年7月1日掲載

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