近年出版されたスタートアップ企業に対する公的支援の効果に関する論文を基に、(1) 政府による融資、(2) 公的補助金、(3) 政府系ベンチャーキャピタルによる投資、(4) ソフトな支援の効果という4点に絞って研究のサーベイを行いました。以下では、これらの研究から得られた結果についてまとめています。
(1) 政府による融資
- スタートアップ企業対象の政府による融資プログラムは、雇用創出と売上成長に正の効果を持つ(Bertoni et al., 2018: スペイン、Hottenrott and Richstein, 2019: ドイツ)。
- 研究開発型スタートアップ企業に対する研究開発資金の融資プログラムは、生存確率とベンチャーキャピタル(VC)からの投資確率を高める効果を持つ(Zhao and Ziedonis, 2020: 米国ミシガン州)。
(2) 公的補助金
- Small Business Innovation Research(SBIR)プログラムの効果:助成を受けた企業は、それ以外の企業と比較して、助成後にVCからの調達確率が上がった(Lerner, 1999, Howell, 2017: 米国)(「認証効果」)。また、この効果は資金制約の強い企業で顕著であった(Howell, 2017)。他方で、SBIRプログラムの助成は雇用に影響を与えておらず、企業の研究開発支出をクラウドアウトする効果を持つ(Wallsten, 2000: 米国)。
- スタートアップ企業に対する公的補助金投入は、VC投資を受ける確率を高める効果を持つ(Islam and Marcus, 2018: 米国、Berger and Hottenrott, 2021: イタリア)。
(3) 政府系ベンチャーキャピタル(GVC)による投資
- GVCによる投資は民間(VCなど)からの投資を増やす効果を持ち(「認証効果」)、民間投資をクラウディングアウトする効果は見られない(Brander et al., 2015: 世界各国、Guerini and Quas, 2016: 欧州)。
- GVCは投資先のスタートアップ企業の成長には直接は影響を与えない。ただし、GVCが民間VCとシンジケーションを組んで投資する場合のみ成長に効果が見られた(Grilli and Murtinu, 2014: 欧州)。
(4) ソフトな支援の効果
- インキュベーターによる創業支援やネットワーキング支援: 支援を受けたスタートアップ企業は、そうでない企業に比べてパフォーマンスが改善する傾向にあった(Colombo and Delmastro, 2002: イタリア、Soetanto and Jack, 2016: 英国、オランダ、ノルウェー)。