APEC2002スペシャル

ロス・カボス首脳会議を終えて

佐伯 英隆
上席研究員

「貿易・投資の自由化、貿易・投資の円滑化、経済・技術協力」を3つの柱として活動を行っているアジア太平洋経済協力(以下APEC)。1989年設立当時12のメンバーで始まったAPECは年々その規模を拡大し続けており、現在では21カ国・地域となっている。
日頃新聞等のメディアでAPECという文字を目にする機会は多い。しかし具体的なAPECの活動や成果、また、APECの活動が私たちの生活にどのような影響を及ぼしているのかはわからないという方も多いのではないだろうか? RIETI編集部では、通産省通商政策局審議官として、2000年ブルネイ、2001年中国、そして今年のロス・カボス会合を担当し、現場でさまざまな交渉に当たってきた経済産業研究所副所長/上席研究員佐伯英隆氏に、そもそもAPECとはどういう活動を行っているのかといった基本的なことから、2002年の成果などについて詳しくお話を伺った。

RIETI編集部:
まずはじめに基本的な質問をさせていただいてもよろしいでしょうか。APECの活動というのは、私たちの生活にどれだけ利益をもたらしているものなのか、なかなか具体的な面が見えてこないと思うのですが。

佐伯研究員(以下、敬称略):
その話をするには、そもそもAPECが作られた背景から話をしないといけないかもしれませんね。APECが作られようとした時代というのは、EUの統合がどんどん進んでいき、アメリカがNAFTAを発足しようとしている、つまりヨーロッパとアメリカに経済的統合ができつつある時代だった。
世界の三大ブロック圏のひとつにアジアがあって、このままだと日本はヨーロッパとアメリカのブロックから一種はじきだされる格好になる。当時GATT(ガット)の場で日本は終始一貫してEU、NAFTAの動きに対し、WTOのルールである一元的支配を崩すものだと警戒していた。かといって手をこまねいていていいのかというとそうではなく、日本は仲間作りをしないといけなかった。当時、日本と同様に仲間外れの危険性を一番感じていたのがオーストラリアです。そこで日本のアイデアにオーストラリアが乗るという形でAPEC構想が固まりはじめた。と同時にその頃EAECという、日本と東南アジア、いわゆる黄色い顔をした人だけで集まろうというアイデアもあり、それに乗るかどうかという議論も国内にはあった。EAECに対しては大東亜共栄圏の復活になるというアメリカ側の懸念も配慮して参加を見合わせ、結局はアメリカを入れた形で、日本と東南アジアとオーストラリアとアメリカというメンバーでAPECがスタートしました。

RIETI編集部:
APECの活動資金はどのくらいあるのでしょうか? また、資金源はどこですか?

佐伯:
APECは援助機構ではないし、大きなファンドを持っているわけでもない。APECの資金は各国からGDP比をもとに集めている一般会計が、規模として大体年間4億弱くらい。それからTILF基金という特別会計があって、これは大阪APECが開かれた95年に村山総理(当時)が100億円を上限として毎年5億くらいだすとコミットしたもので、日本国政府から出ている5億円の給付金です。他の国はやっていないので、一般会計とあわせて9億がAPECの全予算です。なにかハコものの経済協力をやるとか、インフラを作るとかそういうことができるような金額ではない。おまけにたとえば一般会計のところはGDP比でなんとなく割り振られるので日本とアメリカが18%、カナダ・中国が8~9%、その下だともっと少額になっていくわけで、9億円の予算の中の内訳を見ると日本が60%以上の資金を出している。これは中小企業でいえば、オーナーです。本来はAPECオーナーは日本。にもかかわらず、日本のいうことを聞がないメンバーが多くて不愉快なんですが(笑)。日本はそれだけ金も人も投入しているんですから、もっとAPECを使わないと損なわけです。

RIETI編集部:
アメリカも入れてのスタートということは、当初のもくろみからはだいぶ違った形でのスタートだったわけですね?

佐伯:
そうですね。APECは当初からEUのような関税同盟ではなかった。EUやNAFTAは域内関税だけを下げますが、APECは設立当初から関税同盟を目指すのではなく、APEC域内で貿易関税の自由化をし、それを域外にも適用するという「オープンリージョナリズム(開かれた地域主義)」を哲学としました。もちろん、EUやNAFTAと同じように日本が東南アジアをとりこんでいく選択肢もあった。いまその路線は日+ASEANやFTA交渉という形で結実しつつあります。「オープンリージョナリズム」という言葉はきれいですが、開かれた地域主義という言葉は言葉として矛盾している。リージョナリズムはそもそもクローズな意味を持ちますから。APECの哲学は考え方としては立派ですが、そういう方針をとった時点で、関税の交渉は意味を持たなくなる。純粋な形での自由貿易主義ならば、WTOの枠組みの中で関税を下げていけばいいわけで、APECで集まる意味がなくなる。そういうわけで、APECを通じて貿易の自由化をやるということは最初のところから若干無理があったのかもしれません。

また、APECのスタイルはOECDスタイルといいますか、EU設立条約のような国際約束ではなく、あくまでそれぞれの国の自主的な努力でという形です。その為、APECで関税引き下げをやっていこうというインセンティブが働かない。APECは当初から貿易と投資の自由化、貿易と投資の円滑化、経済協力・技術協力(エコ・テク)を活動の三本柱としています。しかし、APECというものに対する期待値が参加国によって違います。先進国は貿易、投資の自由化と円滑化のための組織だと思っているし、ASEANや中国は経済協力をする組織だと考えている。日本は両方に足をのっけているけれど、どちらに力点があるかというと、先進国側でしょう。今は東南アジア、中国の市場を開放させ、投資を円滑化させようとしています。オープンリージョナリズムやボランタリズムの観点から見ると、理想的にはジュネーブよりも先んじてAPEC域内で物事を自由化していくべきですが、現実はそうは進まないですね。

RIETI編集部:
貿易の自由化を行うにはAPECは不向きであるならば、APECが得意とする分野・活動は何なのでしょうか?

佐伯:
APECの役割は貿易の自由化分野には限界がありますが、円滑化分野はAPECの得意な部分です。この分野ではすでにいろいろな実績があがっています。関税を引き下げる話ではなく、貿易の交渉をしていく上でのコストを下げていきましょうという話等です。たとえば商取引とか、通関手続きを簡単にしましょうとか、電子媒体を使いましょうとか、あるいはその分野でのスタンダード、基準とか認証を進めていきましょうとか、相互認証といった部分ではAPECとして非常に進展があります。それから日本として長期的に見ると、APECの使い道にはISO(国際標準化機構:International Organization for Standardization)に向けての戦略的連携があります。ISOはジュネーブ本部で決めているわけですが、たとえば家電製品の標準化や規格化を決める時は、一カ国一票ですから、EUは黙っていても20投票権ぐらいあるわけですよ。だからたとえば日本の家電製品が国際標準になる為に、ヨーロッパのフィリップス等と争う時は、ヨーロッパの20票に対して日本は1票で戦わなければならない(笑)。最初から票数に違いがあるんです。まあ韓国がサポートしたりするわけですけども、ASEANなどの票も巻き込んで勢力を作らないといけない。この勢力を作る場所はどこかというとたとえばAPECなんです。ヨーロッパに対抗して日本製品をスタンダードにするべくアライアンスを組んだりする時に、APECは役に立ちます(編集部注:APECの成果としてISOを勝ち取った実績はまだない)。それから、APECの活動としては経済法制度整備があります。投資の環境をよくするためにはAPEC域内における企業法、独禁法とか破産法とか、企業活動でかかる法制度を整備していきましょうということです。それぞれの国に新しい法体系を作ってもらう為にAPECとして専門家を呼んでセミナーやシンポジウムを開催します。

(編集部注:今年のロス・カボス会合においては、経済委員会からAPEC域内の投資自由化・円滑化の経済効果分析が報告された。応用一般均衡世界貿易モデルを利用し、RIETI川崎研一客員研究員が中心となる研究チームが行ったもの。<参考>

RIETI編集部:
APECの精神はボランタリズムということでしたが、強制力が働かなくてもきちんと実現していくものでしょうか?

佐伯:
たとえば去年のAPECで上海アコードが合意され、その中で貿易のコストを5年間で5%削減することになった。去年から今年にかけて具体的にどういう対策をとるかという設計図が作られましたが、「税関手続きを簡素化する」とか「電子媒体を使う」とか、それぞれの国がこういう設計図に基づいてコストを下げていきますというリベラルアクションプランを報告する。APECには強制力がないから、各国がお互いをチェックしあい、約束(報告書)と違うじゃないかという圧力をかけあうんです。それがAPECの推進力です。

RIETI編集部:
21カ国・地域全ての合意をとるには相当な労力がかかりませんか?

佐伯:
2002SOM IIでの記念撮影 APECでは正式な高級事務レベル会合が年3回あるほか、年間数多くの分科会が開かれています。APECでは高級事務レベル会合をSOMと呼んでいますが、非公式のプレSOMが毎年12月に行われ、来年一年何をすべきかを決めます。高級事務レベル会合前後に、各委員会も会合します。SOMSOMと議論を詰めていって、SOMで仕上げます。それでも決まらなかったものはCSOM(コンクルーディングソム)に上げ、最後に閣僚会合にあげます。コンセンサスができなかった例を挙げれば、今年は知的財産権(IPR)サービスセンター構想が閣僚会合でもコンセンサスできなかった(編集部注:IPRサービスセンターは、日本が提案しているもので、APEC域内において、侵害情報交換ネットワークを構築し、各エコノミーに設置されたサービスセンターを通じて、権利者からの情報を侵害国の司法当局へ連絡すると共に、権利者への適切なガイダンスを提供することを目的としている)APEC知的財産権専門家(IPEG: Intellectual Property Rights Experts Group)会合では了解をとっていたんですが、中国がCSOMで日本との個別交渉が成立するまで合意できないと主張した。また、日本から資金協力を事前にもらわないと賛成できないというAPECの常識から外れたことを中国が言い出した為、日本がダメだといったら、CSOMでも決着が着かず、閣僚会合でもコンセンサスができなかった。なので今年はコンセンサスできずです。そういう案件もあります。

RIETI編集部:
最近の中国の台頭をどのように捉えていますか?

佐伯:
非常に脅威です。とりわけAPECにおいては日本が資金の60%出しているのになんでやつらはあんな大きな顔してるんだと思いますね。RIETIでは中国は脅威じゃない論が主流だそうですが、私から見るととんでもない。我々は日々APECやASEANの中で中国の対日妨害工作を見ています。そういうものに毎日接している者からすると、中国が脅威じゃないなんて、空想科学小説的というか、どこ見ていってるのかというのが正直な感想です(笑)。
中国は自分の金は使わずに、人の金を使いながらプレゼンスだけは大きくなる。なぜかというと、日本政府が根性がないからなんです。いろんなことで対立を嫌い、強く出た相手と争いごとを起こしたくなくてひっこんでしまう。

RIETI編集部:
今年のロス・カボス会合というと、テロ対策ばかりがクローズアップされた印象ですが、新聞等では伝わらなかったその他の成果があれば教えていただきたいのですが。

佐伯:
今年一年間全体を見た時に、投入した時間・コストでいうと先ほどのIPRサービスセンターに一番力を入れていましたが、これはコンセンサスに到らずでした。しかし、合意できなかったのは残念ですが、中国をあぶりだしたという成果があります。IPRの重要性と中国のおかしな反対意見がメディアでキャッチされた。これは将来的には中国への圧力になる。
それから実際にビジネスに直接影響する事例ということであれば、反テロ関連のさまざまな貿易措置。たとえばコンテナーセキュリティイニシアティブ。アメリカ向けのコンテナーの中身に拳銃や爆弾が入っていないかというチェックは本来はアメリカの税関が港で行います。それを事前に、たとえば日本からアメリカへの荷物の場合、日本の港でチェックしてしまいましょうと。そこにアメリカの税関が立ち会い、アメリカの港に着陸するまえに最初に危険度の高いものと低いものを選別してしまおうというものです。それから上海アコードで決められた貿易のコストを5%下げる目標に対しても、具体的なメニューができました。汚職とか、不明瞭な行政手続きをなくすため、パブリックコメントを導入させる等といったこともスタートしました。また、すでに目にみえるもので機能しているのはトラベルカード。あちこち飛び回るビジネスマンにカードを発行して、そのカードを持っていれば商用ビザをもらったのと同じ効果がある。日本も今年それに参加すると表明した。

RIETI編集部:
テロ対策が高じると貿易の円滑化を遮ることにはならないのでしょうか?

佐伯:
おっしゃるとおりです。APECは人や物の情報の流れを良くしよう、障壁を少なくしようということを長年やってきた。反テロは結構だけど、反テロ手続きはチェック機能を強化することです。テロがあるからといって、コントロール機能を強化しようとすると、大きくみるとベクトルがAPECの方針とは反対方向へいきます。日本としては、反テロに重点をおいて出してきたアメリカのいろんなイニシアティブを警戒し、これが本当に貿易の円滑化の阻害要因にならないかどうかチェックする必要があります。「リスクが高い貨物と低い貨物をあらかじめ分けることで、低いのものはむしろスムーズに流れるから貿易の円滑化は進んでいる」というのがアメリカの弁だけれども、それはきれいごとではないかと。コンテナの中に何が入っているか24時間前にアメリカに通報する義務を課すとなると、物流を効率化する観点からみると、コスト増加要因になる。
閣僚会合でも反テロ対策コンセプトそのものには賛成していますが、正当な貿易の阻害要因にならないようにと主張したので、閣僚宣言の中に入っています。閣僚宣言の中に文言が入れば、閣僚宣言で合意されているんだからここはこうしてくれという手がかりになるわけです。

RIETI編集部:
なるほど。お話伺うと、ロス・カボス会合ではいろいろな成果があったことがわかります。そう考えると、テロ一色のマスメディアの情報は不足している気がします。

佐伯:
APECというのは一年間あわせると50、60くらいの会合をやっている。知的財産権だのなんだのと、いろんな委員会でコンセンサスが得られ、成果が得られ、最後にまとめられるのが閣僚会議ですから、テロ対策はAPECの一年間の膨大な作業のごくごく一部です。しかし、新聞などではテロのことばかりだったりするわけです。北朝鮮問題なんかはAPECの今年一年の成果を100とすると0.01くらいにしか議論も何もされてないのに、新聞の見出しを飾ってしまうというのは、APECを真面目に担当しているものからすると、残念であり不愉快です。しかし、投資とか貿易自由化の成果は理解するのに勉強しなければいけないし、記事として地味なんでしょうね(笑)。それとAPEC閣僚会合は一種政治的イベントですから、メディアの経済部関係の記者と政治部関係の記者が一緒に取材にくる。我々は経済部関係の記者には事前にポイントをレクチャーして、体制を整えるんですが、紙面構成となると政治部に負けてしまう。それを払拭するために、経済関係のプレスにはサービスしているんですよ。中身も教えて、ポイントも教えて、場合によっては出してはいけない書類もサービスしたりして(笑)。それでも扱われるスペースは少ない。「しっかりせんかい」という感じですね。

RIETI編集部:
日本の農業自由化が期待されていると思うのですが、そのあたりはいかがですか?

佐伯:
APECでは進みませんね。農水省がカードを切るプライオリティは一にジュネーブ、二に日+ASEAN・FTA。三四がなくて五にAPEC。まずAPECではカードは切りませんよ。我々の農水省との争いは、ジュネーブでカードを切る前に日+ASEANでカードを切らせるというのが最大のイシュー。APECでは2010年の期限があるけど、域内の貿易自由化が、関税ゼロなのか、そうでなくてもいいのか、そこは曖昧のまま今日まできている。まだ7年あるからいまパンドラの箱を開けなくていいといって先延ばしにしている。

RIETI編集部:
その2010年ですが、順番からいうと、日本が主催国になってしまいますよね。

佐伯:
日本は2010年に主催するなんて危険なことをやるべきではない。しかし、主催国は2006年まで決まっている。ロス・カボスでオーストラリアが7年を取ってしまったから8しかない。早めにとりにいかないと。9はもうやばいんですよ。翌年までになんらかの道筋をたてないといけないから。このままだとアメリカとの押し付け合いだね。舞台裏ではそういう争いもある(笑)。さっさと決断すればいいのに、総理官邸のプロセスが入るからなかなか決まらない。日本はまったく問題のないことだけを首相に相談して、本当に議論しなくてはならないことをテーブルにのせない。そこがダメなんです。小泉さんになってからは徳川幕府の末期っていうのはこんなんだったんだろうなあという感じがしているよ。要するに実質的なことは何ひとつ議論せず、事なかれ主義もいいところ。日本の権力中枢があれじゃこの国は滅びるなと思いますよ。
ホワイトハウスのブリーフィングに出たことはないからわからないですが、問題のないところは省略して、「問題があるのはこれとこれ。これに関してこういう意見とこういう意見があります。なのでここを議論して結論を出しましょう」と話し合うのが本来の姿だと思うのに、まったく逆ですからね。

RIETI編集部:
なぜそんな状態に日本はなってしまうのでしょうか。

佐伯:
ことなかれ主義でしょう。この国の病ですよ。

RIETI編集部:
最後に、今年をふまえて今後の抱負があればお聞かせ下さい。

佐伯:
2002SOM II会議での佐伯副所長 私は来年のAPECには関わらないけれど、仮に来年私が担当するとしたら、APEC域内の教育をやりたいですね。現在、アジア域内からアメリカなどに知能が流出している。日本、東南アジアの流出した頭脳には帰ってきてもらわないといけないし、日本にしてみれば東南アジアの優秀な頭脳も日本にきてもらいたい。それぞれの国は自分の高等研究機関の水準をあげて、魅力的な研究環境を作りたいと考えているから、これはアメリカをのぞいて利害が一致する話です。たとえばASEAN+3とかの場では、東南アジア領域で共通する情報処理技術者試験を行い、合格者を域内の情報処理技術者として認定しようというプロジェクトをやっています。まあ、国際免許と一緒ですね。それをAPECでもやる。APEC大学は作りませんが、APEC認定高等研究機関のようなネットワークをまず作り、研究者の移動や交流を図りたい。ビザの面、学位の取得を自由にして、APEC認定高等教育機関同士では人材の流動がスムーズに行われるシステムにするといった感じです。これは100%教育イシューにしてしまうと経済産業省の手を離れるので、ITや情報処理を主眼にして、高等機関のIT技術者相互認定を進めますが、狙いは教育です。それから医療機関のネットワークもやりたかった。APECメディカルカードというのを作って、患者に与えた治療、投薬、試験の結果を全部ひとつのICカードの中に入れておく。そうすればある病院からある病院へ転院するときに、この時期にこの検査はしてるから再度する必要はない等ということになり、お金の節約にもなるし、患者の負担も減る。それをAPEC域内でやるというものです。台湾の患者の病気を治せるのは日本しかないという時などでもAPECメディカルカードを持っていれば自由に診察できるといった感じです。

RIETI編集部:
教育にしても医療にしても、実現したらとても便利ですね。APECをうまく利用すれば、日本やアジアの発展につながるたくさんの試みを行うことが可能であるということがよくわかりました。ありがとうございました。

(インタビューを終えて)
RIETIでは、東アジアの経済統合の可能性に関し、さまざまな研究を行っている。97年のアジア通貨危機を境に、何の対策も打ち出せなかったAPECに対する関心はもはや薄れ、各経済は、ASEANプラス3や二国間FTAを基本に据える戦略を採り始めた。しかし、APECが歴史的に果たしてきた役割は決して小さなものではなく、東アジア地域の経済統合に向けて、第一歩としての意義を持つものであったと考えられる。今後もAPECに関わる政府の方々には、せっかく築いたコミュニティと大きな資金拠出を無駄にすることなく、日本やアジア地域の経済発展にとって有効な「使い方」をしていただけるよう、強く希望するところである。

取材・文/RIETIウェブ編集部 谷本桐子 2002年12月4日

2002年12月4日掲載

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