RIETI年末年始特集 Part1 フェローが選ぶ重大ニュース'03

関東のJRや私鉄など17社が携帯電話のマナーを統一

玉田 俊平太顔写真

玉田 俊平太(上席研究員)

何でこんなことが重大なんだ? といぶかる方も多いに違いない。自衛隊のイラク派遣問題など、もっと重大なことがいくらでもあったのではないか、と。政府の政策の変更でもない、民間企業が乗客に 「お願い」するマナーが統一されたことが、どのような含みを持つというのか?

私は、このことが今後の携帯電話やそれを通じて提供されるサービスの進歩を大いに加速させると考え、これを2003年の重大ニュースに選んだ。9月15日より前は、たとえばJRでは混雑時には携帯電話の電源を切り、混雑時以外にも「使用を遠慮する」ことが「マナー」だった。乗車中に携帯電話でメールを打つことはもちろんのこと、受信したメールを確認することやアプリケーションを起動することなど、電車の中で携帯電話に触ることは全て憚られる雰囲気があった。せっかく携帯電話にメールのやりとりやデータのダウンロード、アプリケーションの実行などの機能があっても、電車の中では宝の持ち腐れだった。混んだ電車の中でできることといえば、文庫本を読むか、ヘッドホンステレオで音楽を聴くか、つり広告を読み終えたあとはひたすら黙って我慢するしかなかった。首都圏で通勤・通学に電車を使う数百万の人々が、毎日何時間かはこのようにして時間を過ごしていたわけである。

しかし、9月15日以降、優先席以外での携帯電話のマナーモードでの使用が「解禁」された。これは、携帯電話を通じたサービスに対する需要を不連続的に、爆発的に増大させることになったと考えられる。実際私はメールチェックやインターネットアクセスを電車の中でするようになったし、妻はテトリスに夢中だ。昨夜録画した番組が入ったメモリーカードを入れれば携帯電話で見逃したドラマが見られる。定額制のサービスに加入すれば、知らないうちに雑誌が配信されてくるし、小説なども読み放題だ。そのうちドラゴンクエストも携帯電話でできるようになるし、デジタル地上波を見るのも当たり前になるだろう。内蔵されたハードディスクに音楽をダウンロードして、携帯電話がジュークボックスになる日も近い。バッテリーの問題は、燃料電池が解決してくれるかもしれない。クリステンセンの言う、無消費(nonconsumption)に対抗する破壊的イノベーションの機会が、突如として出現したのだ。

ポーター流にいえば、満員電車における、片手で使用可能なポータブル通信情報端末に対する、おそらく世界で最も切実な需要が、企業の競争優位を誘発するということになろう。そして、この、世界でもかなり所得水準が高く、極めて競争の激しい市場で勝ち抜いた企業やその製品・サービスは、将来、同じように都市に人口が集中するアジアの国々で、幅広く受け入れられることになるだろう。

もっとも、私個人としては、その前に満員電車のない国に住みたいが・・・。