RIETI年末年始特集 フェローが選ぶ重大ニュース'02

個人情報保護騒動

安延 申顔写真

安延 申(コンサルティングフェロー)

常識的に考えれば、北朝鮮拉致被害者事件とか金融再生問題とかを掲げるべきなのだろうし、ちょっとひねれば日韓ワールドカップ共催などというのも面白いかなと思う(それにしても、今年冬季オリンピックがあったことを覚えている人が何人いるのだろうか?)のだが、ここは、強引に自分のフィールドに話を持っていってしまいたい。

私は、「個人情報保護法」と「住基ネット騒動」を取り上げてみたい。決して、プライバシー保護は如何にあるべきかといった大上段な視点を振りかざすわけではない。それにしても、我が国における個人情報保護騒動は、終始一貫して、「メディア規制」が論点になっていたように思う。元々、個人情報保護法案は、「個人情報保護に関する基本原則」と「個人情報保護に関する義務とガイドライン及び罰則」という二段構えの法制になっており、前段の原則は全ての者に対し、適用されるが、後段の義務、ガイドライン、罰則の部分からは、報道機関、教育・研究機関、宗教団体、政治団体は「適用除外」として除かれている。しかし、この規定ぶりでは、個人としてのジャーナリスト、文芸家などが除かれるのかどうかは定かではない。このため、先ず、適用除外の対象を拡大し、これら「個人として活動している者」を除くべきであるという意見が出て、次に、「そもそも、表現の自由は憲法で認められた活動なのだから、基本原則からも除くべきだ」という意見も出てきた。現に、某大新聞社が提案した修正案は、メディアは個人・機関ともに法律の対象から除かれている。表現の自由が「尊い権利である」ことは、十分理解するが、他方、それでは教育・研究機関や宗教団体はどうなるのだろう? 信教の自由も憲法で認められた権利である。今回の一連の報道を見ていると、メディアが「自分の利害」が絡んだ途端に、如何に利己的な機関になるかを、いみじくもさらけ出したとも考えられる。

今や、インターネットは「自律的に発展するメディア」として急激な拡大を遂げつつある。米国ブッシュ大統領の対イラク、対中東戦略について、米国民の「最も本音に近い」声を探ろうと思えば、数時間のネットサーフィンに勝る手段はないだろう。最早「情報の大量発信」はメディアだけに許された特権ではなくなってきているのである。にも関わらず、今回の一連の騒動は、既存メディア及びそれに携わる人達の『特権意識』を浮き彫りにしたように感じられるのは私だけだろうか。今後、既存メディアとインターネットの関係がどのように展開していくのかは定かではない。しかし、案外、今年の「個人情報保護騒動」が日本の従来型メディアの変質・没落の「基準点」として後年語られるときが来たりするのではないだろうか?