執筆者 | 柯 宜均(アジア成長研究所)/内田 真輔(名古屋市立大学)/日引 聡(コンサルティングフェロー) |
---|---|
発行日/NO. | 2024年9月 24-E-069 |
ダウンロード/関連リンク |
概要
異常な気温上昇は、作物収量へ負の影響を及ぼす一方、農家が田んぼの水管理や高温に強い品種の作物に転換するなど適応行動をとることで、その影響は緩和される。一方、農家の、気温に対する適応行動は、農家の年齢や所属するコミュニティーでの助け合いによっても左右される。本研究では、2000年から2018年までの日本のコメ生産に関する市町村レベルのデータを用いて、農家の年齢が、異常気温による収量の減少へ及ぼす影響やコミュニティーにおける農家の助け合いの果たす役割を明らかにする。分析の結果、異常気温のマイナス影響と年齢との間に逆U字型の関係があることがわかった。すなわち、50代後半の農家は異常気温に対する適応能力が最も高く、高気温の収量へのマイナス影響は最小限に抑えられるが、この年齢を超える高齢農家、あるいは、この年齢よりも若い農家では、50代後半の農家と比較して、収量へのマイナス影響が大きくなる。また、地域コミュニティーでの農業に関する集会の参加率(地域の助け合いなどの代理変数)が高い市町村では、農家が高齢であることによる、高気温の収量へのマイナス影響を軽減する機能があることを明らかにした。以上から、高気温による米収量の低下の影響を抑制するために、農業への参入を推進し、農家の高齢化を抑制すること、また、地域における農家同士の連携(助け合い)を推進することが、温暖化の適応策となることが示唆された。
概要(英語)
This study explores the mechanisms underlying farmers in adapting to climate change, with a focus on the effect of farmers’ age on the relationship between temperatures and crop yields. Using municipality–level data on Japanese rice production between 2001–2018, we find a nonlinear (inverted U–shaped) age effect on the temperature–yield relationship. Farmers in their late 50s exhibit the highest resilience to extreme temperatures, experiencing minimal yield loss, while farmers above and below this age threshold suffer more from extreme temperatures. We also find that active participation of local communities can help retiring and inexperienced farmers mitigate the negative temperature effects.