日本語タイトル:主要通貨圏の規模の推定とその決定要因

Size of Major Currency Zones and Their Determinants

執筆者 伊藤 宏之(客員研究員)/河合 正弘(東京大学)
発行日/NO. 2024年5月  24-E-059
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概要

米ドルは長い間、国際貿易、投資、金融取引の決済通貨として、また外国為替市場取引、中央銀行による外貨準備、為替レートのアンカー通貨としてなど、様々な分野で最も支配的な国際通貨である。本稿では、主要通貨圏(米ドル、ユーロ、日本円、英ポンド、中国元)の規模を推計し、その決定要因を明らかにする。そのために、Frankel-Wei(1994)とKawai-Pontines(2016)の推定モデルを用いて、各経済圏の主要なアンカー通貨と為替レートの安定性(ERS)を特定し、推定された通貨ウェイトを用いて、世界および各経済圏、地域での主要通貨圏の規模の変遷を表し、これらの通貨ウェイトの決定要因を定量的に特定する。この分析では、推定モデルの二乗平均平方根誤差(RMSE)に基づいたERSも考慮することにより、変動為替相場制を採用した経済圏、地域が排除されないために、特定の主要通貨圏を過大評価されることがないようにしている。そのために、より現実の国際金融システムの現状に近い為替相場制度の分類をすることができる。

これらの分析により興味深い結果を得られた。第一に、米ドル圏は依然として世界最大の通貨圏であるがその経済シェアは、ユーロ圏の出現と最近の人民元圏の急速な台頭により、近年低下してきている。ERSの程度を考慮した推定によれば、EUR圏の規模は人民元圏よりも大きい。為替変動制を採用する経済の世界経済に占める割合は、時間の経過とともに拡大している。第二に、米ドル圏は中東・中央アジアで最も大きく、次いでアジア新興国・発展途上国、アフリカ・サハラ砂漠以南で高く、欧州新興国・発展途上国ではユーロ圏が支配的である。中南米・カリブ海諸国での米ドル・シェアが急速に低下しており、人民元ゾーンはほとんどの地域で増加している。第三に、米ドルのウェイトは、対米貿易のシェア、輸出インボイスとクロスボーダー銀行負債における米ドルのシェアによってプラスの影響を受ける。同様に、ユーロのウェイトはユーロ圏との貿易シェア、輸出インボイシング、対内直接投資、クロスボーダー銀行負債におけるユーロのシェアにプラスの影響を受けている。人民元のウェイトは、対中貿易、対内直接投資、対中借入のシェアにはあまり左右されない。