著者からひとこと

グローバル化と中小製造業の選択:ミクロデータから「境界線の企業」を見る

著者による紹介文

日本は、2000年代以降、成長する世界経済の活力を取り込むことを経済政策における一大目標と定め、投資や人の移動等貿易以外の分野におけるルールも定め幅広い経済関係の強化を目的とする経済連携協定(Economic Partnership Agreement, EPA)等の締結により、貿易自由化を推進してきました。

しかし、世界では経済のグローバル化の反動ともいえる動きが近年顕著になり、保護主義的な主張が支持を集め政策として実現した国も少なくありません。日本ではこうした反グローバリズムの機運が高まっている訳ではありませんが、海外の動向を踏まえれば、経済のグローバル化について、期待される良い影響や懸念される負の影響を定量的に評価し、必要あれば負の影響について政策上の処方箋を提示し、多くの国民の理解を得ることの重要性が高まっていると思われます。

こうした問題意識の下、本書は、2000年代の日本の製造業を対象として、貿易自由化によって大きな行動変化を迫られると考えられる、①輸入により市場から退出する企業、②輸出を開始する企業、の2つの企業群、すなわち「境界線の企業」について分析を行いました。
具体的には、経済産業省『工業統計調査』の従業者数4人以上の事業所データを利用し、中国やASEAN諸国、EPA締結国からの輸入が事業所の退出や雇用、賃金に及ぼした影響、輸出開始事業所の属性、生産性と輸出開始の関係、分業と輸出開始の関係、輸出開始後の輸出からの撤退について、定量的に分析しています。

本書は国際貿易に関する学術書ですが、研究者のみならず、新たに輸出や海外進出を目指す中小企業関係者や、企業の海外進出支援政策の担当者の皆様にも御参考にしていただければ幸甚です。

2021年11月
伊藤公二

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