著者からひとこと

サービス産業の生産性分析-ミクロデータによる実証

著者による紹介文

サービス産業の生産性を高めるにはどうすれば良いのか?

本書は、日本のサービス産業の生産性の実態とそれを規定する諸要因について、企業・事業所や労働者のミクロデータを用いて実証的に分析したものです。

日本を含む主要国において、サービス産業は経済の中で圧倒的なシェアを占めており、その生産性向上は経済全体の成長力を高めるためのカギとされています。こうした中、さまざまな取り組みが手探りで行われてきていますが、有効な政策を立案するためには実証分析を通じた客観的なエビデンスの蓄積が不可欠です。

ことに近年の経済理論・実証研究では企業の異質性が強調されており、産業レベルの集計値や平均値の観察にとどまらず、企業又は事業所のデータを用いた分析が不可欠になっています。しかし、基礎統計が整備されている製造業と異なり、サービス産業を対象とした生産性の実証分析は日本だけでなく海外主要国でも大幅に遅れており、その実態は十分解明されていない状況にあります。

こうした中、筆者はこの数年間、企業・事業所等のミクロデータに基づいて日本のサービス産業に関する実証研究を行い、学術論文として発表してきました。本書は、これらを加筆・再構成し、サービス産業に関する研究の一層の進展、政策論議の活発化に貢献することを意図したものです。本書の特徴は、1)「生産と消費の同時性」という製造業にはないサービス固有の性質、2)生産性を規定する「経営力」に焦点を当てた点にあります。

本書の実証分析を通じて、サービス企業・事業所の生産性の分布や生産性を規定する要因が製造業とはしばしば異なることが明らかになりました。たとえば、サービス産業の生産性が低いかどうかは比較に用いる指標や計測方法に依存すること、サービス産業の中でも企業間の生産性格差が非常に大きいこと、経済活動の地理的集積や時間的な需要変動がサービス事業所の生産性に対して強く影響すること、参入・退出や企業間のシェア変動を通じた「新陳代謝」が産業全体の生産性を高めるメカニズムが十分に働いていない可能性があること、IT投資などの背後にある「経営力」が生産性向上にとって本質的なこと、企業統治の仕組みや労使関係が生産性に重要な関わりを持っていることなど多くの知見が得られたと考えています。

これらの結果は、都市計画・土地利用規制、労働市場制度、企業法制といった基幹的な経済制度・政策が、サービス産業の生産性を向上させる上で重要な役割を果たすことを示唆しています。ただし、サービス産業は依然として利用可能な統計データが限られており、分析結果には様々な留保も必要です。逆に言えばこの分野の研究には更なる発展の余地も大きいと言えます。

筆者としては、本書が、経済政策や経営の実務に携わる方々の参考になること、また、サービス産業に関心を持つ研究者によって分析の深化・発展が図られていくことを期待しています。

森川 正之


3月13日(木)、「サービス産業の生産性向上―実証研究に基づく提言―」と題して、経済産業研究所(RIETI)副所長 森川正之によるBBLセミナーを開催いたします。
http://www.rieti.go.jp/jp/events/bbl/index.html

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