コラム

どのような企業が持株会社を選択しているのか?

外松 陽子
早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程

宮島 英昭
ファカルティフェロー / 早稲田大学教授・同大学高等研究所所長

財閥復活の阻止を目的とした独占禁止法 (第9条)のため、日本企業がその組織形態として純粋持株会社を選択することは、戦後50年にわたって禁止されていた。しかし、1997年の同法改正と、その後の関連法・諸制度の整備によって、2002年以降から純粋持株会社が急速に増加することとなった(図参照)。新聞やニュースにおいても、「XXホールディングス」や「XXグループ」といった社名を目にしない日はない。

図 持株会社数の推移
図1 持株会社数の推移
出所) 外松陽子・宮島英昭「日本企業はなぜ持株会社制度を採用したのか?:事業成熟度とコーディネーションの必要度」(2013年日本ファイナンス学会予稿集)。調査時点は、各年末。なお、2013年(予定)は、2012年10月1日において2013年中に移行を公表している企業を2012年末の現在数に加えて算出。

2012年10月1日時点において、既に持株会社である、あるいは、今後移行を予定している企業は、われわれの調査によれば、全上場企業約3600社のうち425社に達し、東証一部上場企業に限定すると、約1700社のうち201社、その比率は13%を占めている。持株会社は、いまや日本企業の新たな組織形態として、重要な地位を占めつつあるといえる。

では、企業は何のために持株会社を選択するのか。

一般に、その目的は、個別企業グループ内の経営効率向上のための「内部組織再編」と、規模・範囲の経済を実現するための複数企業同士の「経営統合」の2つに大別できる (下谷 2009)。われわれの調査によれば、前者が約70%、後者が約30%であり、近年は前者の「内部組織再編」を目的とするケースが増加している。

このうち、「経営統合」を目的とする持株会社化は、合併にともなう組織融合のコスト回避が可能となるため、その選択の理由は比較的明白である。 他方、「内部組織再編」を目的とする持株会社化には、いまだ大きなパズルが残っている。「内部組織再編」のためには、事業部制、カンパニー制/コーポレート制、分社化など、その他の組織形態を取っても同じ目的の実現が可能だからだ。

では、「内部組織再編」を目的とする場合に、他の組織形態ではなく、なぜ持株会社を選択するのか。それは、どのような特性をもつ企業なのか。現在、この点の解明に焦点を置いて研究を行っており、以下ではその暫定的な分析結果を報告する。

これまでにも、日本企業の持株会社の選択に関して、小本(2005)、大坪(2005)、淺羽(2012)などにより、幾つかの仮説が提示されてきた。第1は、持株会社の固有の機能が本社による企業(グループ)内部の資源の再配分(内部市場)にある点に注目し、事業ポートフォリオの「多角化」の進展が持株会社の選択を促すという見方である。ただ、これまでの日本企業に関する実証研究は、われわれの研究を含めて、この「多角化度」が組織選択には有意な影響を与えるという見方を支持していない。多角化の進展が単調に分権化・分社化を促すわけでもない。

第2に、持株会社が企業の分社化が最も進展した形態であることに注目して、「グループ化」の進展が持株会社の選択をもたらすという見方である。「グループ化」の指標としては、通常、売上高連単倍率および連結子会社数が利用される。これらを代理変数とした、従来の研究や、われわれの推計結果は、いずれも、「グループ化」の進展している企業が持株会社を選択する確率が高いという仮説を支持している。もっとも、グループ化の進展は、持株会社化の必要条件ではあっても、十分な条件ではない。たとえば、子会社数の多い、電気、機械および卸売業のうち商社といった産業群においては、持株会社の選択が進展していない。

そこで、われわれは、上記の従来の仮説に加えて、持株会社を選択する企業の特性として、ミルグロム・ロバーツ(1997)などの近年の組織の経済学の成果を応用し、企業の営む「事業」そのものがもつ特性が組織選択に与えた影響に注目した。

われわれの注目した第1の特性は、各企業の「事業ポートフォリオの再構成の必要度」である。

事業ポートフォリオの中に、これ以上の自律的な成長が望みにくい事業、たとえば、イノベーションが起こりにくい(技術が成熟している)、あるいは、市場成熟度が既に高い事業が存在する場合には、事業ポートフォリオの最大化のために、一方で新しい事業の追加と、他方で該当事業の削減・圧縮といったポートフォリオの再構成を行う必要が増加すると考えられる。持株会社においては、この事業再構成を他の組織形態と比較して容易に行えると想定される。 そこで、われわれは、既存公表データから、東証一部上場企業の事業ポートフォリオの成熟度を示す変数(市場成熟度・技術成熟度)を作成し、持株会社の選択との関連性を分析した。

第2は、各企業の「事業環境の変化および事業に関連する技術の特性」(以下、コーディネーションの必要度)である。

Belenzon et al. (2013) は、事業をとりまく環境変化が急速であるか、あるいは、製品化・実用化に要する技術が多岐多数(複合的)にわたり、アウトプットを出すために何らかのコーディネーションが組織内で必要な場合には、企業は集権化した組織を選択することが合理的であり、逆に、事業環境変化が緩やかで、また、事業に関連する技術が単一なため組織内のコーディネーションが不要な場合は、企業は分権的組織を選択することが合理的であるとした。もし、この見方が妥当であるとすれば、既存の組織形態の中で、もっとも分権化が進展している持株会社は、事業の直面する環境変化が緩やかで、関連する技術がシンプルである企業で採用されることとなる。筆者らは、この見方に従って、事業環境の変化および事業のもつ技術的特徴を示す変数を新たに作成し、企業の組織選択のモデルに導入した。

いうまでもなく、上記の各企業の「事業ポートフォリオの再構成の必要度」および「コーディネーションの必要度」を示す代理変数には、唯一の作成方法があるわけではない。したがって、結果はいまだ暫定的にとどまるが、現時点で次の点を指摘できる。

  • 事業ポートフォリオの再構成の必要度と、コーディネーションの必要度という2つ要因とも持株会社の選択に影響を与える。
  • この2つの要因の影響は、特に製造業企業においては強く確認できる。このことは、製造業の組織選択では事業特性が重要な決定要因であることを示唆する。
  • 上記の2つの要因の効果は、とくに、2005年-07年の持株会社の設立のピークの時期に明瞭に確認できる。
  • 以上の事実は、日本企業の組織選択が、たんにグループ化の進展だけではなく、技術的な特性に従って合理的に選択されているという見方と整合的である。

    2013年9月2日
文献
  • 淺羽茂(2012)、「なぜ企業は純粋持株会社に移行するのか?」、東京経済研究センター、Working Paper J-7
  • 小本恵照(2005)、「純粋持株会社への移行の動機」、『経営分析研究』第21号
  • 大坪稔(2005)、『日本企業のリストラクチャリング―純粋持株会社・分社化・カンパニー制と多角化―』、中央経済社
  • 下谷政宏(2009)、『持株会社と日本経済』、岩波書店
  • ポール・ミルグロム, ジョン・ロバーツ 著、奥野正寛、伊藤秀史、今井晴雄、西村理、八木甫 訳(1997)、『組織の経済学』、NTT出版株式会社
  • Belenzon, Sharon Bolton, Patrick and Tsolmon, Ulya (2013), "The Organization of Innovation across Countries and Industries", Working paper, Columbia University.

2013年9月2日掲載

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