イベント概要
- 日時:2024年2月29日(木)13:00-17:00
- 主催:独立行政法人経済産業研究所(RIETI)
議事概要
コロナ危機は過去に例のないショックとして、2020年から3年以上にわたり世界の経済・社会に大きな影響を与えた。2023年5月の新型コロナ感染症5類移行後、日本の経済・社会活動はほぼ正常化してきたものの、さまざまなプラスマイナスのヒステレシス(Hysteresis:履歴効果)があると考えられている。本シンポジウムでは、コロナ禍に苦しんだ4年間のRIETIの研究活動を統括してきたプログラムディレクターが一堂に会し、日本経済と経済政策を回顧するとともに、その教訓を踏まえた政策課題を議論した。
開会挨拶
浦田 秀次郎(RIETI理事長 / 早稲田大学名誉教授)
日本経済は、少子高齢化、エネルギー環境問題、低い生産性や地域の空洞化など、多くの課題を抱えています。RIETIの第5期中期計画(2020年度〜2023年度)では、文理融合、ビッグデータの構築と活用、EBPMの3つのテーマを柱とし、①マクロ経済と少子高齢化、②貿易投資、③地域経済、④イノベーション、⑤産業フロンティア、⑥産業・生産性向上、⑦人的資本、⑧融合領域、⑨政策評価の9つのプログラムで研究を進めてまいりました。本シンポジウムでは、この4年間のRIETIの研究成果について各プログラムディレクターからご報告いただき、新型コロナ後の世界経済・日本経済の課題と対策について議論します。ぜひ最後までお付き合いいただければ幸いです。
来賓挨拶
齋藤 健(経済産業大臣)
世界はコロナ禍を経て激動の時代を迎えるとともに、日本経済も潮目の変化を迎えています。この成長のチャンスをしっかりとつかむべく、政府も一歩前に出て、産業政策を強化し始めています。かつて、政府はレッセフェールで、民間のビジネスの障壁となる規制を取り除く対応が求められましたが、今は、官民連携および産学官連携が重要な時代と実感しています。
RIETIは国際的にも高い評価を受けており、経済産業省の枠にとどまらずわが国全体の経済政策を支えています。2020年度からの第5期中期計画期間では、Society5.0の実現に向け、社会科学の枠を超えた文理融合研究とEBPM研究活動を軸として取り組んでいただきました。本日のシンポジウムは、この4年間の集大成としての最新の研究成果と政策提言をご披露いただく予定であり、活発な議論を期待しています。
4月からRIETIは新たな中期計画期間に入りますが、次の5年間もEBPMセンターによる政策アドバイス機能の強化、経済産業政策の新機軸を切り開くような分析、自発的な政策提言等を通じ、さらなる政策貢献を期待しています。経済産業省としても、引き続きRIETIをしっかりバックアップしてまいります。
来賓講演
「ポストコロナにおける経済産業政策の方向性について」
山下 隆一(経済産業省経済産業政策局長)
過去30年間の日本の大企業の財務状況を見ると、売り上げが微増、売上原価が微減、売上総利益が拡大しており、経常利益は過去最高の数字となっています。また、日本企業の資産構成比からは、国内投資が減少する一方で海外投資やM&Aが進んでいる状況が分かります。
世界的には西側先進国と権威主義国家との分断が一層深まる中、各国で産業政策が活発化しています。日本では低水準な物価価格と他国との金利差の拡大により、実質実効為替レートが50年ぶりの円安になるとともに、インフレをめぐっては消費者物価と企業物価に差が生じています。
こうした状況を背景に、経済産業省は「経済産業政策の新機軸」を打ち出しました。同政策は「社会課題を起点とし、ミッション志向かつ官民連携でその解決を図る」もので、国内投資、イノベーション、所得向上の3つの好循環を目指しています。ミッション志向の産業政策として、GX、DX、経済安全保障、健康、レジリエンス、バイオものづくり、資源自律、地域の包摂的成長の8分野を重視し、社会基盤(OS)の組み替えとして、人材、スタートアップ・イノベーション、価値創造経営、グローバル化、EBPMの5分野を掲げています。
国内投資については、11府省庁連名で、予算・税制・規制を含む200強の国内投資推進策を掲載した「国内投資促進パッケージ」をとりまとめました。3つの好循環を持続するため、経済産業省としてもさまざまな政策を講じていきます。
第1セッション:イノベーション・生産性と産業政策
「日本の潜在成長率向上に何が必要か:JIPデータベース2023を使った分析」
深尾 京司(RIETIプログラムディレクター・ファカルティフェロー / 一橋大学名誉教授・経済研究所特命教授 / 日本貿易振興機構アジア経済研究所所長)
日本産業生産性データベース(JIPデータベース)の成長会計分析から、労働生産性の停滞は主に資本蓄積の低迷と労働の質の低下に起因していることが分かります。この労働の質低下は高齢者や女性を中心に非正規雇用が増加したことによりますが、内閣府の今後10年間の経済成長予測には労働の質が考慮されていないので、われわれは問題視しています。労働の質を改善し、資本係数や全要素生産性(TFP)を上昇させることで、日本経済が成長する余地は大きいと考えます。
労働生産性が向上しているにもかかわらず、日本の実質賃金の上昇が鈍い原因としては、GDPデフレーターとCPIの消費者物価指数の乖離が考えられます。中でも家計最終消費デフレーターと消費者物価指数の差が大きいことが見てとれます。これは統計の作り方にも依存するため詳しい検証が必要ですし、交易条件の改善も併せて検討していく必要があると思います。
「イノベーション」
長岡 貞男(RIETIプログラムディレクター・ファカルティフェロー / 一橋大学名誉教授)
日本産業のイノベーションパフォーマンスの低下要因は、マクロ経済要因による研究開発・設備投資の停滞と、産業の研究開発能力の高度化も日本では停滞したことにあると考えています。2010年代において、かつて世界的に最上位にあった研究開発のスピード(先行技術から発明までのラグの短さ)において韓国、台湾、中国産業にキャッチアップされ、サイエンスに依拠した、研究開発の高度化では米国等先進諸国に後れを取る状況にあります。
企業の研究開発能力の強化には人材投資や制度改革が必要であり、また多様な先端的な研究を政府がサポートしていくことが非常に重要です。コロナ禍でプル・インセンティブの導入で迅速に新ワクチンの開発と供給が実現したことが示すように、社会的課題に対応するイノベーションには需要側からのインセンティブも欠かせません。
スタートアップに関しては、日本でもエクイティクラウドファイナンスの拡大をはじめ、ポジティブな動きも見られる一方で、起業エコシステムがまだ十分に機能していないので、クリティカル・マスを実現するように持続的な制度改革・政策支援を行うことが重要です。
「大規模ゲノムコホートを用いたヒト生物学研究」
松田 文彦(京都大学大学院医学研究科附属ゲノム医学センター長・教授)
総括的な研究を行うためには、学際的な研究グループで専門性を補完し合い、質の高い研究を実施する必要があります。今回の新型コロナウイルス抗体検査に関する国際共同研究では、京都大学が連携する医療従事者と滋賀県長浜地域のコホート参加市民とに協力をいただき、パスツール研究所の抗体検査キットとRIETIの質問票を用いて、医学・生命科学データと社会科学データを融合した解析を行いました。
その結果、現在より感染者がはるかに少なかった一昨年(2022年)の夏の調査においてすら、参加者の16.3%が長浜のような比較的人口密度の低い地域でも感染しており、その半分近くの方が感染を自覚していなかったこと、さらにどういった社会層の方が感染していたかも分かりました。
これらの結果からも、文理融合研究の重要性が示唆されます。また、本研究では、秘匿性の高いブロックチェーン技術を用いて参加者に診断結果を返却しましたが、この技術はさまざまな分野の情報開示モデルになると思います。
「新たな産業政策の論点」
大橋 弘(RIETIプログラムディレクター・ファカルティフェロー / 東京大学副学長・公共政策大学院教授・経済学研究科教授)
本日は、研究成果のうち適正な価格形成の論点と新しい産業政策の論点について説明させていただきます。
価格形成については、現行の「マクロ」・アプローチでは市場支配力のモデル化がなされていないこと、問題とすべき(不当な)市場支配力と適切な価格形成(正当な市場支配力)の区別がつかないことが課題です。労働市場の買い手独占や日本の特殊な商慣習も議論されるべきでしょう。
産業政策の正当性には、外部性、協調の失敗、公共性ある投入の存在等がありますが、一方で、情報の非対称性、「政治のとりこ」仮説、成功の尺度が難しいといった政策への批判もあります。
山下局長のお話にあるように、産業政策の在り方が長期かつ大規模な方向にシフトしてきていることから、どのような行政側の施策へのコミットや評価軸の取り方が、長期的な企業のインセンティブを保つことにつながるかという論点も重要になってきます。どのような政策介入が成果の違いにどうつながるのかといった、経済学的なメカニズムを明らかにする研究の厚みがさらに必要でしょう。
ディスカッション
モデレータ(水野 正人(RIETI研究調整ディレクター)):
感染対策と経済の両立を考える上で、文理融合への向き合い方に変化はございましたか。
長岡:
今回のコロナを克服する創薬への米国での政策には、文理それぞれの知見が用いられました。米国を中心に文理融合研究による発明も増えており、その研究は今後1つのフロンティアになると思います。
松田:
多くの生物と同じように生命活動を営む生物学的種の1つとしてヒトを見るのではなく、精神活動を伴う知的な生物種として分析するために、文理融合のアプローチは不可欠なものだと思います。
大橋:
技術の社会実装には人文社会系の知識が不可欠だと思います。企業と大学との産学競創が今後ますます増えてくるのではないでしょうか。
モデレータ:
国際情勢が大きく変化する中、RIETIは今後どのような方向で研究を進めていくべきでしょうか。
長岡:
組織や個人の相互補完・相互依存の全体像を把握するような研究が政策的にも非常に重要です。“Strategic Complementarity”という補完性の研究がフロンティアになっていますし、今後はより高いレベルでの分析が重要だと思います。
深尾:
労働の質の問題が非常に大事です。非正規雇用の増加の流れを止めていくとともに、人的資本を蓄積し、子供が作りやすい・育てやすい社会に向けた研究がさらに進むことを願っています。また、政府内でも経済安全保障面の検証や分析ができるとよいと思います。
大橋:
国家間の交渉にも民間企業が加わるなど、官民の協調は一層重要になっています。政策的介入も重要ですが、財政事情も厳しくなってきており、政策に共創の概念を取り入れることも重要でしょう。
モデレータ:
研究活動を通じた政策貢献という観点で、どのようなことをRIETIに期待されますか。
松田:
文理融合によるCOVID-19の研究で罹患の傾向が分かれば、次に同じようなパンデミックがあったときにDay1から国民に対してメッセージが出せます。これが社会科学研究の非常に強いところだと思います。
長岡:
本格的なプログラムの開始前にパイロットプロジェクトで有意性や効果を確立してから政策に移すという方法が今後あり得ると思います。また、政策担当者と研究者の交流の機会を拡大していくことも重要です。
大橋:
また、政策と学術をつなぐプロジェクトマネージャー的な人材も必要ではないでしょうか。RIETIがこうした人材育成も先導できるのであれば波及的なメリットも大きいと思います。
会場参加者:
ペンタゴン(米国国防総省:DOD)による産業政策が米国経済に良い結果をもたらしたのどのようなメカニズムなのでしょうか。
長岡:
DODはコロナ禍の前のmRNAワクチンの基盤技術開発にも大きく貢献をしました。これはDODは安全保障にかかわる広い分野で基礎応用研究にも助成をしており、米国国立衛生研究所(NIH)等が取りこぼしたところもサポートする結果となったという面があります。予算的には経済安全保障とイノベーションは異なりますが、実際には補完しており深い関係があると思います。
深尾:
政府の情報不足問題を解決しつつ、ランダム化実験を行いながら政策を進めていくことが大事だと思います。
モデレータ:
最後に若い方に向けてのメッセージがありましたら、お願いします。
長岡:
(海外から智識を求めて、国家を発展させることを唱った)五箇条の御誓文ではありませんが、語学力に加えて、幅広く知識を吸収できる力をつけることが重要だと思います。
松田:
より多くの若い人が外国にも出て、いろんな会議にも出て、発言できるようになってほしいと思いますし、女性が活躍する場が整えば、優秀な女性が伸びていくと思います。
深尾:
正規雇用を維持しながら、生きやすく、子供を育てやすい社会にできればよいと思います。
大橋:
若い人に日本経済に対する研究への取り組みをさらに促すためには、キャリアにおける業績評価の在り方にも目を向ける必要があるかと思います。
第2セッション:変容する日本経済と政策決定
「政策決定プロセスについてのコロナ禍の教訓」
小林 慶一郎(RIETIプログラムディレクター・ファカルティフェロー / 慶應義塾大学経済学部教授 / キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 / 公益財団法人東京財団政策研究所研究主幹)
日本でPCR検査の拡大が遅れた要因は、医療者側は「無作為な検査は医療資源の無駄」と考え、経済界側は「検査は(感染をめぐる)不確実性という情報の公害を是正するツール」と考え、異なる正義が衝突したことにあります。
この異なる正義の衝突は、不良債権処理の遅れ問題にも類似しています。私は、これらの共通する要因に「再帰的思考(他人の思考について思考すること)の欠如」があったと考えていまして、当事者が当事者以外の感じる不確実性に思いを致しているかどうかが課題だと思います。
これら2つの事象によって、日本の政策当局やプロ意識は、縦割り的あるいは自分の領域に閉ざされている傾向が諸外国より若干強いことが観測されました。この再帰的な思考は民主制における政策決定の基礎となる倫理的な原則とも言えますし、より深い政策の考え方の基盤にすべき事柄だと思います。
「貿易投資」
冨浦 英一(RIETIプログラムディレクター・ファカルティフェロー / 一橋大学大学院経済学研究科教授)
かつては効率化を可能としたグローバルに伸び切ったサプライチェーンは、今では脆弱と評価され、世界の貿易は急拡大の時代から停滞期に入ったと見ることができます。米中対立によって米国と中国の直接貿易額は減少しているものの、その分ベトナムやメキシコ経由の貿易が膨らみ、結果的にサプライチェーンは伸びています。また、モノの貿易は停滞傾向にあるものの、サービス貿易は依然として高い成長を続けており、グローバル化の主役が形のない無形資産へと移動してきていることが分かります。
このような現状に対応していくには、企業はサプライチェーンを組み替える必要があり、そこに対する支援が求められます。それと同時に、サービス貿易、デジタル貿易、紛争処理等に関する国際的なルールの形成や、先進国のグローバル化の実態を正確に把握し、それらが政策検討に反映される仕組みを考えていく必要があります。
「アフター・コロナの地域産業政策」
浜口 伸明(RIETIプログラムディレクター・ファカルティフェロー / 神戸大学経済経営研究所教授)
日本は、人口減少のみならず、設備投資の伸び悩みにも直面しています。相対的に生産性が高い産業が多様に存在する地域には人口の集中が続いていますが、このような集積はイノベーションを促進するという予測もあります。
各都市の人口規模は周辺都市の人口規模の制約を受けるため、地域産業政策には、人口の奪い合いにならないように、国全体を最適化するような空間政策や国土利用政策の実施が求められます。大都市においてはITと人間が一体化した働き方を実現し、知識創造型社会にふさわしい都市の形にインフラを作り替えていくことが必要です。
そして人口減少が続く地方においては、1人あたりで増え続ける自然資源を農林水産業、大規模な製造業、観光業等によって革新的に活用していく政策が望まれます。地域産業政策は都市や地域の機能を高める水平的・基盤的な集積化政策に焦点が当てられるべきで、地方の経済を牽引する中堅企業のニーズに向けた政策メニューの拡大を政府でも検討しているところです。
「コロナ下で日本の働き方はいかに変わったか:その評価と展望」
鶴 光太郎(RIETIプログラムディレクター・ファカルティフェロー / 慶應義塾大学大学院商学研究科教授)
在宅勤務と生産性を両立するには、在宅のインフラ整備とともに、人間関係やコミュニケーション課題も乗り越えていけるという意識の改革が非常に重要です。コロナ期における副業はセーフティーネットの役割を果たしましたが、政策的に副業を推進していくには、より自発的本意型の副業の推進が望まれます。
独立自営業向けの政策としては労働者制の有無や程度に応じた支援が求められ、プラットフォームを活用したギグワーカーにおいても収入の不安定さという問題があるので、引き続き対応が必要です。
オフィスワーカーの生産性を上げるためにはデジタル活用による見える化が欠かせません。今の生成AIは汎用的で、低スキルの労働者ほどその恩恵が大きいことから、AIとの補完的な関係を目指していくべきだと思います。さらにウェルビーイングの向上は人的資本経営の観点からも稼働率を向上させるとともに、政策的観点からも重要なので、引き続き推進していただきたいと思います。
「EBPMの深化に向けて」
川口 大司(RIETIプログラムディレクター・ファカルティフェロー / 東京大学大学院経済学研究科教授・公共政策大学院教授)
日本の労働人口の減少は非常に深刻で、15歳から64歳の生産年齢人口は毎年70万人のペースで減っています。問題はこの生産年齢人口が減っていき、それ以外の年齢の人口が相対的に増えていることです。
そういった社会に対応するには、学び直しやリスキリングによって一人一人が高い能力を持ち、生産性を向上させる社会を実現することです。そして能力を育成すると同時に、すでにあるスキルを十分に活用する仕組みが必要です。
民主主義において変革を促進するためには、エビデンスが必要になります。エビデンスに基づく政策形成はすでに政府や自治体が取り組んでいますが、現状ではロジックモデルの作成にとどまっています。
その原因は、人材不足とデータへのアクセスの悪さにあります。政策のプロセスをよく知る行政官がデータ分析を理解するとともに、担当者が安心してデータを外部に開示できるようなルールを作成、整備していく必要があるでしょう。
ディスカッション
モデレータ(森川 正之(RIETI所長・CRO・EBPMセンター長 / 一橋大学経済研究所特任教授)):
コロナ危機の政策から得た教訓はありますでしょうか。
小林:
初期の段階で十分に感染のレベルが抑えられるまで行動制限を厳しめにかけ続けることが時間稼ぎの政策としては非常に有効だったと思います。また、ワクチンの治験などの手続きをスピードアップすることも、将来のパンデミックに向けた教訓だと思います。
川口:
休校措置や黙食は感染予防におけるベネフィットが限定的で、休校期間が長いと、特に親御さんの社会的なステータスが低い家庭で学力形成が阻害されることが明らかになっています。
浜口:
イノベーションには対面によるコンタクトが不可欠なので、将来のパンデミックに備えて、オンライン技術でどの程度それを代替できるかについての検証が必要です。観光に関しては、地方の観光の在り方もより付加価値の高いものへと改善されていくと思います。
鶴:
不正受給の問題やゾンビ企業を助けることになってしまったという研究報告もあります。日本の場合は海外と比較してもデジタル化が遅れているので整備が必要ですし、日本は一度制度を導入すると廃止することが難しいという点は十分に検討する必要があると思います。
モデレータ:
中長期の日本経済の課題を踏まえて、どのような政策を進めるべきでしょうか。
冨浦:
企業がグローバルサプライチェーンをどう再組織化し、それをどう政策的に支援するのかが重要で、経済安全保障に関するルール形成も非常に大きなテーマだと思います。
小林:
債務調整の仕組みの改革を進めるとともに、財政の運営を議論するための中立的機関が作った長期推計を提供する仕組みが必要だと思います。その推計を見ながら国会で政策を議論するような場の醸成が必要だと思います。
鶴:
日本の場合は人手不足をテクノロジーでどのように解決していくのかという視点を持つことが重要で、ジョブ型雇用を実現するため、キャリアの自律性や手挙げ文化を定着させていくことが大事です。
浜口:
距離障壁を縮めていくことが重要です。地方ではコンパクトな形で集積しながら、安定的に人口を維持していくという未来もあり得ると思います。地域の現状を把握し、周りの自治体との連携の検討にRIETIの研究成果を活用していただければと思います。
川口:
RIETIの研究成果を有効に使っていただくためにも、行政官の方々にも実証分析や理論分析を理解するリテラシーを身に付けていただくと同時に、研究者が自分の研究を分かりやすく発信していくことが大切です。
モデレータ:
望ましい施策形成のプロセスあるいはRIETIの役割について、お考えをお聞かせください。
冨浦:
産業界、研究者、行政府、それぞれの努力によってデータをそろえて、正確に現状を把握する必要があります。行政府の中に蓄積されている情報を調査客体の秘密を守った上で研究者に提供する試行をするには、RIETIは適した場所だと思います。
川口:
特定のルールの中でデータを使える仕組みを作ることは非常に価値がある長期的な投資だと思います。
小林:
将来世代の効用を自分事として考える「フューチャー・デザイン」という手法があり、いろいろな自治体で面白い成果を得ているので、社会思想や政治哲学領域の人たちとの議論も政策研究をやる上では必要だと思います。
総括
森川 正之(RIETI所長・CRO・EBPMセンター長 / 一橋大学経済研究所特任教授)
2024年4月からRIETIは新しい中期計画期間に入ります。研究内容は経済社会情勢の変化に伴って変わりますが、学術的な評価にも耐え得る質の高いエビデンスを提供し、政策立案に貢献するというRIETIの本質は発足以来変わっておらず、これからも変わりません。引き続きRIETIの活動に関心を持っていただければありがたく思います。本日は、ご参加いただきまして誠にありがとうございました。