RIETIワークショップ

新型コロナ感染症の文理融合研究-感染拡大と行動変容(開催報告)

イベント概要

  • 日時:2022年5月26日(木) 16:00-18:20
  • 開催方法:オンライン開催(Live 配信)
  • 講演者:松田文彦氏(京都大学医学研究科附属ゲノム医学センター長)
        山本正樹氏(京都大学大学院医学研究科臨床病態検査学 講師)
        広田茂氏(京都産業大学経済学部 教授/経済産業研究所 ファカルティフェロー)
        江里俊樹氏(パスツール研究所自然免疫分野 博士研究員)
  • 開催言語:日本語
  • 主催:独立行政法人経済産業研究所(RIETI)

開催報告

冒頭挨拶では、矢野誠経済産業研究所(RIETI)理事長から、RIETI・京都大学・パスツール研究所の共同研究の位置づけとその意義について説明がなされた。特に、日本経済の長期停滞の打破にはイノベーションが不可欠であり、その本質は異質のアイデアの融合にほかならず、社会科学と自然科学の知見をぶつけ合う文理融合研究が重要であることが強調された。

松田文彦京都大学医学研究科附属ゲノム医学センター長による第1講演「新型コロナウイルスに対する新たな抗体検出法の開発とながはまコホートへの応用」では、今回のコロナ禍における不顕性感染の検出や、人々の規範性や利他性などを反映した行動様式の把握の重要性と、それらを踏まえた今回の共同研究の全体像が示された。その上で、抗体検査の原理、およびパスツール研究所の開発になる検査の優位性が解説され、ながはまコホートおよび京大病院における抗体検査結果についての中間報告が行われた。

山本正樹京都大学医学研究科臨床病態検査学講師による第2講演「新型コロナウイルス感染症における抗体検査の役割(地域・社会でのサーベイランスをふまえて)」においては、各種抗体検査のメリットとデメリット、性能などが概観された上で、パスツール研究所の検査系の特徴が説明された。また、京都市のエッセンシャル・ワーカーと医療職を対象とした疫学調査の結果の紹介や、ながはまコホートと京大病院医療従事者を対象とした本研究における検査系の評価が行われた上で、抗体検査の限界と問題点の指摘、考えられる対応と展望が示された。

広田茂京都産業大学教授・RIETIファカルティフェローによる第3講演「新型コロナパンデミックに関する社会・生命科学的データ構築とデータ特性」では、ながはまコホートおよび京大病院を対象とした社会科学アンケート調査の結果の概要が紹介され、行動変容を促していくためには男性や若年層、リスクを選好する人々などをターゲットにしていく必要があること、同調圧力でなく「自他を感染から守る」という明確な内発的動機に訴えるべきであることなどが指摘された。

江里俊樹パスツール研究所自然免疫分野博士研究員による第4講演「呼吸器粘膜免疫の窓としての鼻腔スワブ研究」では、粘膜免疫系が環境と遺伝要因によりどのように形成されるかという問題意識の下で、鼻粘膜を用いた最新の研究の動向が紹介された。COVID-19については、重症度が高まるほど鼻腔粘膜における細菌叢の多様性が消失し、いわゆる「病的な」菌が増加する一方「防御的な」菌が減少するという結果が示された。さらに鼻腔スワブと血漿のペアサンプルを用いた解析により、粘膜および全身の抗体、サイトカイン、ウイルス量と鼻腔細菌叢とが相互に関連することも示された。また、免疫不全患者における鼻腔スワブ解析、神経疾患研究への応用などについても紹介された。

最後に吉田泰彦RIETI理事から、総括的なコメントと関係者に対する謝辞が述べられ、閉会した。