第22回RIETIハイライトセミナー

生産性と長期停滞論-経済政策はこれから何をすべきか?(議事概要)

イベント概要

議事概要

アベノミクスによって、企業収益の増加、完全雇用、労働参加拡大、生活満足度の上昇など多くの点で改善が見られるものの、生産性上昇率の鈍化、賃金上昇率の低迷、財政収支黒字化の先送り、地域経済の衰退など課題も残されている。また、世界経済の成長率は鈍化しており、先行きに対する不確実性も高い。本ハイライトセミナーでは、森川正之RIETI副所長と小林慶一郎RIETIプログラムディレクター・ファカルティフェローが登壇。低迷が続く生産性と、長期にわたって低成長状態が続くと考える長期停滞論をテーマに掲げ、生産性や国際競争力を巡る状況について、また、デフレ均衡の問題、日本が生産性向上や財政赤字解消に向けて経済政策として取り組むべき重点課題等について議論を行った。

開会挨拶

中島 厚志(RIETI理事長)

ハイライトセミナーのポイントは、タイムリーな経済課題についてRIETIの研究成果も含め、できるだけ幅広い視点で横断的に俯瞰するという趣旨で行っているものです。今回テーマは「生産性と長期停滞論―経済政策はこれから何をすべきか?」です。基本的に本日のセミナーは、日本経済の実態を俯瞰した上で、どうして生産性や経済成長が低迷しているのか、どういう政策対応をすれば、生産性や財政赤字は改善するのかという点について議論していただきます。

プレゼンテーション1

森川 正之(RIETI副所長)

近年の日本経済

ここ数年で日本企業の収益は拡大し、ほぼ完全雇用になりました。女性や高齢者の労働参加率は大幅に上昇し、生活満足度も非常に高くなっています。その要因は、経済的には失業率低下に代表される雇用環境の改善、物価上昇率の低さが関係していると思います。その裏返しとしてMisery Index(悲惨指数:消費者物価指数上昇率+失業率)は非常に低くなっています。

それから、先行きの不確実性が投資や採用、個人消費といった実態経済の活動に大きな負の影響を持っています。近年、グローバルな不確実性は、英国のBrexit問題やトランプ米政権の政策、米中摩擦などで高まっていますが、日本固有の不確実性は低い水準です。日本は政治不安定性指数も同様に低いので、政策の不確実性の低さに政治の安定が寄与している可能性も考えられます。

一方、ここ数年改善していないこともあります。一番重要なのは日本経済の潜在成長率です。2012年の安倍政権発足以降の潜在成長率の上昇は、労働参加率の上昇と資本ストックの増加というインプットの拡大に依存したものであり、成長戦略がもともと意図していた生産性上昇率は下がっています。

実質賃金も停滞しています。1990年代半ばごろまで、時間当たり実質雇用者報酬は上がっていましたが、その後は停滞しています。賃金が上がらない理由として、企業や株主が付加価値を取っていて、労働者への配分が少ないからという議論がありますが、労働分配率は非常に小さな振れであり、分配率が一定だったとしても実質賃金はあまり変わりません。つまり、長い目で見たときの賃金上昇は、生産性によって規定されているのです。

それから、国際競争力が悪化傾向にあります。私は、国際競争力を交易条件で測るべきと考えているのですが、例えば自国が輸出する財・サービスの価格が高く売れれば、交易条件は改善します。この交易条件が長期的にマイナスに動いているのです。

なぜ交易条件が悪化しているかというと、一般にプロダクト・イノベーションは交易条件を改善すると考えられているのですが、日本は他国と比較したときにプロダクト・イノベーションが弱いからです。イノベーションの中にはプロセス・イノベーション(コスト削減型のイノベーション)もあり、これは生産性にプラスに効くのですが、プロセス・イノベーションはむしろ交易条件にマイナスに働く可能性が高いです。コストが下がってたくさん作ると、実質で見た生産性は上がりますが、交易条件は悪化するのです。

そもそもイノベーションは、人的資本の質の向上と生産性向上が2大源泉です。日本生産性本部のアンケートによると、7割の企業が「日本企業は破壊的なイノベーションを起こしにくい」と答えており、破壊的イノベーションを阻害する要因として「イノベーションのリスクを取ることに消極的な経営」という見方が多くなっています。

イノベーションと並んでもう1つの重要な成長の源泉が労働力の質の向上です。しかし、2010年以降は大学進学率が頭打ちとなり、引退する大卒労働者も増えているので、ストックベースで見た労働者の平均学歴の上昇が鈍化しており、労働力の質の向上の成長寄与度は低下しています。

規制・ルールの生産性への影響

規制やルールは、生産性とかなり関係があります。とくに土地利用規制や安全規制などの社会的規制は大きな負の影響を持っています。それから、上場企業・大企業だけを対象にした厳格な規制やルールも、生産性にかなり大きな負の影響を持つ可能性があります。

土地利用規制は経済活動の地理的な再配分(生産性の高い所に人や企業が動くこと)を妨げる可能性があり、土地利用規制を弱めれば米国全体の生産性が10%以上上がるという試算もあります。それから、上場企業だけに厳しい規制を適用して、中小企業には緩めのルールを適用する政策がよくありますが、それが生産性に負の影響を持つともいわれています。

日本企業に対する調査では、コンプライアンス・コストが大きい制度として圧倒的に多かった回答が「労働規制」でした。概算すると、仮に企業のコンプライアンス・コストを半減できれば、生産性は平均8%ほど高くなるというインパクトがあります。

併せて、規制緩和が期待される分野も聞いたところ、「労働規制」「土地利用規制」「環境規制」が挙がりました。規制は企業の新陳代謝やリスクテーキングにも負の影響を持ちます。このことは、生産性向上を考えたときに重要な要素であることを強調したいと思います。

今後の見通しと問題

では、どういった政策が成長率上昇に必要かというと、内閣府の「中長期の経済財政に関する試算」によれば、プライマリーバランス(PB)の黒字化は成長実現ケースでも2027年度以降であり、ベースラインではさらに赤字が継続します。ベースラインの場合でも、全要素生産性(TFP)上昇率が足元の0.5%から0.8%に高まることが前提です。つまり、かなりTFPを上げないとベースラインケースですら実現は難しいのです。

過去の政府経済見通しと実績を比較すると2000年代以降、ギャップは縮小しているものの、今でも年率約0.5%ポイント程度の楽観的なバイアスがあることが分かります。バイアスを持っているのは政府だけでなく、10年ほど前に日本のエコノミストに成長率予測のアンケートを取ったところ、実質GDP成長率で0.5%ポイント、名目GDP成長率では1%ポイントを超える上方バイアスがありました。

また、財政破綻を回避するために消費税率をある程度上げなくてはならないというのがエコノミストの一般的な見方だと思いますが、将来にわたって財政破綻を回避するために必要な税率はどれだけか聞いたところ、20%以上を想定する企業・個人は非常に少ないことが分かりました。このように、システマティックな楽観バイアスがあるのです。

生産性向上の方策はイノベーションと人的資本投資が基本だと思いますが、その他にもいくつか余地があると思います。どうしても生産性向上のための政策に焦点が当たりがちですが、実は生産性を下げている要素もあって、それらへの対応もマクロ的には重要です。規制や地方分散の政策もマイナスに働く可能性が大きいのですが、これらはいずれもトレードオフや利害対立をはらんでいるので、政治的には非常に難しい政策です。ですから、生産性上昇には限界があるということを前提にして社会保障や地域経済をデザインし、政策の不確実性を減らすことが重要になるでしょう。

プレゼンテーション2

小林 慶一郎(RIETIプログラムディレクター・ファカルティフェロー)

日本経済の現状

日本経済は低金利と低インフレが数十年も続いていて、異次元金融緩和の下、金利もインフレ率もほぼ0%、成長率は1%弱という中で公的債務だけが増えています。マクロ政策の目標としては、債務が増える中で物価や金利が混乱する可能性を回避しながら、所得再配分をしっかり行って全世代で格差を是正し、生産性を上げるための成長戦略を描くことが必要です。

生産性を上げることによって成長率が上がるかどうかを考える際に参考になるのが、就業者1人当たりの実質GDP成長率なのですが、日本は0.83でOECD平均が0.89ですから、それほど悪くない数字です。ですから、日本の労働者が他国の労働者と比べてサボっているわけではなく、国全体で見るとGDP成長率が低い状態にあるのです。

例えば規制を変えたり労働市場を改革したりするだけでなく、何か大きな技術革新がないと1人当たりGDP成長率を倍増させることは難しいでしょうから、あまりすぐには高い成長を実現できないでしょう。ですから、現状の1%程度の経済成長率がこれからも続くことを前提として、いろいろな債務処理やマクロ政策を考えることが手堅い政策立案の手法だと考えます。

では、なぜ低金利・低インフレが続くかというと、重要な要因は極端な不確実性の増大です。例えば確率分布すら分からない不確実性の場合、最悪のケースに備えるのが最適な行動になります。すると、ダウンサイドのリスクを重視して、いざというときに備えて貯蓄を増大させた結果、金利低下が起きるでしょう。

将来の不確実性を増している要因には2つあって、1つは格差が拡大することで政治的不満が欧米などで高まり、それがポピュリズムの台頭をもたらした結果、政治や国際関係の将来像が不確実になることです。もう1つは、いろいろな技術革新が起きている中、とくにITやAIを使ったフィンテックのような新技術の影響がとても不確実なことです。一方、既存技術は陳腐化していくので、安全資産である国債や貨幣の需要が極端に高まるのではないでしょうか。

デフレ均衡と信認の維持

その中で起きているのが今の低金利・低インフレのデフレ均衡だと見ると、ある意味で持続できるかもしれないと私は考えます。経済や社会の不確実性が高まっているときには、政府が発行する国債や通貨の価値が上がるからです。つまり、安定した価値と流動性を持ち、金融取引における担保価値を持つので、国債が民間資産を超過する価値を持つ可能性があります。

国債が超過的な価値を持つことがおかしなことではないとすると、実質金利が実質経済成長率を下回ることは定常状態として実現できます。そうなると私たちの直面する世界は、「良い均衡」と「悪い均衡」があると捉えられるのではないでしょうか。良い均衡とは、財政の先行きに対する信認がある場合、国債は民間資産に対して超過的な価値を持ちますから、金利が成長率よりも低い状態が長く続く可能性があります。そうすると、低金利が維持される中で国債が金利で増えてGDP成長率は増えますから、債務のGDP比率は長期的に増えないわけです。その結果、財政に対する信認が自己正当化されることになります。

逆に、財政への信認が失われてしまったら、悪い均衡が発生します。信認が失われた以上、国債の民間資産に対する超過的な価値も失われるので、金利が成長率よりも高くなり、通常どおり国債は金利で増えGDP成長率が高まるので、国債比率が発散して財政破綻に至るシナリオがあり得ます。

国債の価値の源泉は民間の不確実性に比べて価値が確実であることを表していますから、それはどこから来るかというと財政健全性への確信です。信認を維持するためには、財政再建をこれから確実に実行していくのだという政府の意思が信頼される状況にならなければなりません。

現在の日本経済は、名目金利がゼロかマイナス、名目成長率はプラス0.5%程度ですから、国債比率の超長期的な減少が展望可能で、図らずも良い均衡シナリオに乗りつつあるといえます。ただ、この状態が長期的に続くとは限りません。長期的な財政への信認を維持することが政策運営の根幹だと考えます。

信認が維持されることで国債の超過的な価値が維持され、それが低金利を生むことで結果的に財政再建が超長期的に実現するのですが、財政の信認を維持するために2つの方策が必要になります。

1つは、プライマリーバランスの赤字が増え続けない状態にすることです。つまり、赤字であったとしてもなんらかの上限を超えない値にとどまらせることです。なぜなら、プライマリーバランスの赤字が上限を超えない状態を維持できれば、金利が成長率より低い経済では、財政再建は実現していくからです。

逆に、財政再建が実現できると予想されれば、金利が成長率の低い状態も維持されます。ですから、プライマリーが黒字になるということは、財政再建あるいは低金利の十分条件になっているといえます。

もう1つは、確かに金利が成長率よりも低い現状にあるのですが、それが何らかのきっかけで反転した場合にきちんと政策対応できることをマーケットに示すことです。危機対応プランを用意することで、信頼を高める必要があると思います。

危機対応プランとしては、危機的な状況、要するに金利やインフラ率が急上昇した場合にどういう措置を取るのかという計画をあらかじめ作り、それを政府や公的機関がある程度公表することが必要ではないかと思います。

長期停滞への処方箋

長期停滞に対処するためには、日本経済は生産性の大きな上昇がなければ1%成長が続くという前提で物事を考える必要があるでしょう。デフレ均衡については、民間の不確実性が高い経済環境で、金利が成長率より低くなることが定常状態で起こり得ます。財政の信認が維持されれば、この状態が長く続く可能性があります。では、財政の信認をどう維持するかというと、プライマリーバランスの黒字化、または赤字を縮小することが必要ですし、危機対応プランを平時のうちに政府が用意しておくことが信認を維持する上で必要です。

そして、金融政策に関していえば、金利が成長率より低い状態の経済では、ゼロ金利政策の意図せざる結果としてデフレが長期的に続く状態が起こり得るのです。いずれも仮説的な話ですが、日本経済の見方としてこのような考え方もあり得るのではないでしょうか。

パネルディスカッション

パネリスト
  • 森川 正之(RIETI副所長)
  • 小林 慶一郎(RIETIプログラムディレクター・ファカルティフェロー)
モデレータ
  • 中島 厚志(RIETI理事長)

中島:
破壊的イノベーションが起こりにくい最大要因は経営の消極性だとすれば、経営を積極化させることが何よりも必要だと思うのですが、いかがですか

森川:
政府ができることは、過剰なコンプライアンスの基になっている規制をなるべく軽くしていくことだと思います。経営を積極化させるときによくいわれるのがコーポレートガバナンスですが、そこに効くのがインセンティブ報酬で、企業のリスクテーキングを活発化する上で意味があると思います。

中島:
労働の質の寄与度が下がっているのは大学進学率が頭打ちになっているからということでしたが、だとすると今後どういう形で労働の質を上げていけばいいのでしょうか。

森川:
1つは、AIや第4次産業革命系のイノベーションは大学院教育との補完性が非常に強いので、大学院教育を拡大することだと思います。それから、企業内の教育訓練投資も非常に収益性が高い投資なので、増やす余地があると思います。人的資本を考えていくのであれば、初中等教育を担う教員の処遇改善もとても重要な課題だと思います。

中島:
金利が経済成長率より低い状態は必ずしも悪いことばかりではないと思うのですが、このままでデフレを脱却する手立てはあるのでしょうか。

小林:
長期的には、実質金利が低いままの状態を保ちながら名目金利だけを上げることを目指すべきだと思います。名目金利が将来的に上がっていくという期待が形成され、それと見合った形でインフレ率も上昇する状態を目指すのが金融政策の長期的方向性だと思います。

中島:
日本だけが生産性が低下して成長率が低迷しているわけではないということでしたが、世界の主要国における状況を日本と同じと見るのでしょうか、違う理由もあると見るのでしょうか。

森川:
シンプルに供給側から申し上げると、1990年代から2000年代前半に一時、アメリカとイギリスが日本に比べて非常に高い生産性上昇率、経済成長率だったと思いますが、それはもう一巡しているので、現状は日本が異常値ということではなく、日本は他の先進国と同じような状況にあると思います。ただ、労働生産性のレベルが日本はG7の中で一番低いので、キャッチアップする余地が日本は少しあります。その点では生産性上昇率はしばらくの間、日本が少し高くてもおかしくないと考えます。

小林:
OECD諸国の自然利子率は過去30年ずっと下がり続けているのですが、その間の平均成長率はそれほど下がっていなくて2%程度を維持しているので、自然利子率が成長率よりも低い状態は、確かに先進国全体の傾向と捉える見方はあり得ると思います。

つまり、貯蓄が過剰に供給されて、その貯蓄が吸収するべき民間の投資機会が少ない状況が先進国で起きているのでしょうが、どうやって解決するのかはよく分かりません。本来なら民間の投資機会は他の地域(発展途上国)にあると思うのです。ですから、先進国の資金が、民間の投資機会が存在しているはずの他の地域に流れるようにすることが政策課題ではないかと感じています。

中島:
世界全体の生産性と経済成長を上げるとすると、貯蓄過剰部分を足りないところの投資に回すのは1つなのですが、他にどういう考え方があり得ますか。

森川:
自然利子率を上げていくには、単純に生産性を上げるか、人口動態が変わるかのどちらかしかないわけです。その点では生産性の話はさんざんしたのですが、もしかすると人口動態の面で、移民を増やしたりすることで多少変わる余地があるかもしれません。ただ、マクロ経済の成長率を大きく変えるほど、移民をたくさん受け入れるのは現実的な選択肢ではないと思います。

やはり先進国全体として新しいイノベーションはだんだん飽和していくので、研究開発投資の収益率が下がっていくのは自然なことなのです。そのときに、やはり中国やインドではR&D投資が増えているので、世界全体のフロンティアを広げていくという意味ではそういったものを上手に取り入れることが大事だと思います。

小林:
OECDや地球全体で考えると、人口をこれ以上増やし続けるのは長期的な解ではなく、安定した人口に対応して経済システムを維持することを目指していかなければならないと思います。ということは、1人当たりの生活水準を上げていくことが最終的な目標になると思いますし、途上国への投資が難しいのであれば先進国でのイノベーションを上げていくことだと思います。イノベーションはおそらく基幹技術の大きな変更なので、社会の仕組みや学校教育の仕組みも変えるぐらいの何らかの大きな変化の下で、新しい技術を受け入れていくような社会全体のイノベーションが必要ではないかと思います。

質疑応答

Q:
基幹技術が大きく変革することが投資の不確実性を高めている面があるというのは、確かにそうなのですが、同時に非常に大きな投資のポテンシャルを提供しつつあるという捉え方もできるのではないでしょうか。

森川:
不確実性が投資を減らすことが実証的に分かっていると言いましたが、これには前提条件があって、理論的には不確実性が投資を増やす可能性もあるのです。減らす理由は何かというと、投資の不可逆性や企業のリスク態度が非常に影響します。ですから、リスク態度をどうやって変えるかという話になるのですが、企業がリスク回避的だとすると投資は減る可能性があります。

Q:
金利が成長率より低い状態は財政再建への時間稼ぎだとおっしゃいましたが、別の言い方をすれば何もしないことへのインセンティブになってしまいます。ですから、政府を動かすにはやはりリスクが顕在化しないと何もインセンティブがないわけですから、そこをどう考えるかだと思います。

小林:
だからこそ政府内の人たちに声を上げてほしいのです。政府内から危機対応プランのようなものを作ろうということになれば、国民の間に危機感を高め、改革しなければならないという認識を持たせることになると思います。

Q:
日本の生産性が低いのは、伸び率の問題よりも生産性の低いセクターにたくさんの人間が滞留しているからだという議論を聞いたことがあります。それについて何かエビデンスがあるかどうかも含めてコメントを頂ければと思います。

森川:
セクターを産業という意味で取ると、少し違うと思います。つまり、たとえば介護産業だと生産性上昇率も水準も低いのですが、需要が強いのでどうしても小さくなりません。ですから、サービス経済化や高齢化が進んでいくときに、生産性が低い産業に資源が大きくなることはどうしてもあるのです。そういう意味では、産業間ではなく同じセクターの中での企業間での資源再配分が生産性向上にとってとても重要です。

Q:
日本では貯蓄が余っているけれども、投資機会は外国にあるというのは、国際金融システムが不備だということではないでしょうか。

小林:
お金がなぜ先進国で滞留して低金利になってしまうかというと、途上国に出そうとすると情報が非対称であることと、お金を貸したら返してくれないかもしれないというエンフォースメントがきちんとできないという2つの要素によって、国際金融市場の不完全性が起きているのだと理解すべきだと思います。

そうすると民間のプレーヤーだけで先進国の資金を途上国に投資するのは無理なので、何らかの国際システムを整備して、IMFや世銀のグループをもう少し強化するようなことをして、先進国の資金を安全に途上国に投資できるような環境を作る必要があると思います。