RIETI-NISTEP共同ワークショップ

日本産業のイノベーション創出能力の再構築(開催報告)

イベント概要

  • 日時:2019年9月17日(火)9:40-17:20
  • 場所:経済産業研究所セミナー室(経済産業省別館11階)
  • 主催:経済産業研究所(RIETI)
  • 共催:科学技術・学術政策研究所(NISTEP)

開催報告

2019年9月17日、文部科学省科学技術・学術政策研究所と共催で、「日本産業のイノベーション創出能力の再構築」のワークショップを行い、産業のサイエンス吸収能力、人材と企業の国際化、研究開発への政府支援のデザインに焦点を合わせて、両研究機関で実施中の研究の成果を中心に報告し、日本産業によるイノベーション創出に関してその現状への理解及びその能力の再構築のあり方について議論を行った。矢野誠経済産業研究所長、磯谷桂介科学技術・学術政策研究所長が参加し、また、小田切宏之氏(⼀橋⼤学名誉教授, 公正取引委員会顧問)、伊地知寛博氏(成城⼤学, NISTEP)及び岡室博之氏(⼀橋⼤学教授, RIETIファカルティー・フェロー)が座長として議論に参加した。以下、敬称は省略して記す。

最初のセッション「日本産業のサイエンス吸収能力と研究開発パフォーマンス」では、3つの研究成果が報告された。枝村一磨(神奈川大学)及び長岡貞男(東京経済大学, RIETI)が、「日本産業の基礎研究と産学連携のイノベーション効果とスピルオーバー効果」を報告した。科学技術研究調査等を用いて、企業が行う基礎研究(内部基礎研究及び大学への委託研究)が乗数的に応用・開発研究の成果を高める効果を報告し、企業の基礎研究の重要性を指摘した。また、企業間の知識スピルオーバーは、企業間の近接性に依存しているが、市場での近接性、研究開発分野の近接性に加えて、人材の専門分野の近接性も重要である結果を報告し、人材政策の重要性も指摘した。次に、伊地知寛博(成城⼤学, NISTEP)が、「我が国のイノベーション・システムの現状:全国イノベーション調査2018年調査からの所⾒と政策への⽰唆」を報告した。市場にとっても新しいイノベーションによる売上高が減少していること、中規模企業においてプロダクト・イノベーション実現企業が逓減傾向にあること、イノベーション活動の阻害要因として能力のある人材の不足が重要であり、また高学歴の研究者が企業間で偏在していること等といった新しい知見が報告された。最後に、⼤⻄宏⼀郎(早稲⽥⼤学)が、「科学研究費が研究生産性に与えた影響:経済学分野のエビデンス」を報告した。本研究では申請プロジェクトの審査スコアを活用した回帰不連続デザインを用いて助成を受ける者とそうでない者の間のセレクション・バイアスを解決した上で、科研費が被引用数の向上に効果があること、効果は若手研究者でより大きいこと等の知見を報告した。
これを踏まえて、⾚池伸⼀(NISTEP)及び⻄村淳⼀(学習院⼤学)から、研究の意義、研究の方法論、今後の課題についてコメントがあった。

第2のセッション「⼈材と企業の国際化の効果」では、2つの研究成果が報告された。伊藤恵⼦(中央⼤学, NISTEP)から「世界の知識フローネットワークと⽇本企業の海外研究開発・⽣産活動」の報告があった。欧州特許庁(EPO)の特許を利用して、日本人(法人を含む)が出願人である特許の質が近年相対的に低下傾向にあること、また国際的な共同発明が非常に低い比率にとどまっていること、共同発明は特許の高い質と相関していること、さらに日本企業の海外拠点での研究開発の拡大は国際共同発明の拡大につながらなかったとの報告があった。次に、塚⽥尚稔(新潟県⽴⼤学, RIETI, NISTEP)より、「Combining Knowledge and Capabilities across borders and nationalities: Performance of International research collaborations」の報告があった。国際共同研究として、外国在住の研究者との研究、外国生まれの研究者との研究、そしてその両方の属性を持った研究者との研究の類型があるが、このような国際共同研究は高いパフォーマンスを持っている。その潜在的原因、能力の高い研究者が参加していること、シナジーがあることに分けられるが、日米欧の中で、シナジーは米国における外国生まれの研究者との共同研究においてのみが有意であることが報告された。
これらを踏まえて、村上由紀⼦(早稲⽥⼤学)及び福川信也(東北⼤学)から、研究の意義、結果の解釈、今後の課題についてコメントがあった。

第3のセッション「研究開発への政府⽀援のデザイン」では、鈴⽊潤(政策研究⼤学院⼤学)から「中⼩企業⽀援ポリシーミックスにおける補助⾦の役割―サポーティング・インダストリーをケースとして―」の報告があった。本支援プログラムは二段階選別が特徴であり、コントロール・グループとの比較から、補助金の役割として「コンテストへの参加を促すための呼び水」としての意義が大きいことを指摘した。福川信也(東北⼤学)からは「Determinants and impacts of incorporation of local public technology transfer organizations: Evidence from Kohsetsushi of Japan」の報告があった。公設試験研究機関の独立行政法人化は、所有権、裁量の大きさ、報酬の各側面で補完的にインセンティブを高めると考えられる。本研究は独立行政法人化への選択を内生化した上で分析し、その効果が大きい施設が必ずしも法人化されていないことを報告した。⽻⽥尚⼦(中央⼤学, NISTEP)は「研究プロジェクトの中⽌・継続がイノベーションの成果に及ぼす影響とその決定要因:第4回全国イノベーション調査による定量分析」を報告した。新製品・サービスの開発過程でプロジェクトの中止・継続を決定した企業群が、そのコントロール群と比較して、イノベーションを実現する確率が高くかつ市場価値も高い。その原因に、ステージ型のプロジェクト管理の採用の有無があると考えられるとし、この管理方式が不確実性の高い研究開発に取り組む上で重要であることを指摘した。
これを踏まえて、中村豪(東京経済⼤学)及び秦茂則(産業技術総合研究所, RIETI)から、研究の意義、政策的な含意、今後の課題についてコメントがあった。

文責:長岡貞男(東京経済大学, RIETI)