一橋大学・RIETI資源エネルギー政策サロン第1回

新たなエネルギー基本計画の強力な実行と将来展望(議事概要)

イベント概要

  • 日時:2014年3月10日(月) 18:00 - 19:30
  • 会場:一橋大学 一橋講堂 (東京都千代田区一ツ橋2-1-2 学術総合センター内)
  • 議事概要

    開会挨拶

    中島 厚志 (RIETI理事長) :現在、日本を取り巻くエネルギー事情は激動している。3年前の東日本大震災以降、原発が停止し、エネルギー輸入量は著増した。国内において再生可能エネルギーを活用する動きも強まっている。

    昨今、米国のシェールガス革命や、ウクライナ情勢悪化によるロシアからのエネルギー供給不安定化の懸念など、わが国のエネルギー安全保障が緊迫した状況にある中、日本のエネルギー政策は重要な岐路に立たされている。

    ちょうど本日今年1月の日本の経常赤字が発表されたが、円安時にエネルギー輸入量が著増したことを主因に過去最大となった。本日「新たなエネルギー基本計画の強力な実行と将来展望」について議論を深めるのは時宜を得ており、日本のエネルギー政策の将来について知見を得ていきたい。

    来賓挨拶

    相澤 益男 (科学技術振興機構顧問 / 元東京工業大学長) :エネルギー危機という地球規模の持続可能性にかかわる人類共通の課題と同時に、我が国は福島第一原発事故という固有の問題を抱えており、日本のエネルギー政策の転換に世界の関心が集まっている。

    新たなエネルギー基本計画では、多くの資源を海外に依存せざるを得ないという我が国が抱えるエネルギー需要構造の脆弱性に対し、エネルギー政策が現在の技術や供給構造の延長線上にある限り、根本的な解決を目指すことは容易ではなく、こうした困難な課題を根本的に解決するためには、革命的なエネルギー関係技術の開発と、そのような技術を社会全体で導入していくことが不可欠であることを明確に位置付けている。今後、具体策を示していただくことを願っている。

    キックオフスピーチ

    上田 隆之 (資源エネルギー庁長官) :東日本大震災以降の新たなエネルギー制約として、海外からの化石燃料への依存度の増加、国民生活・経済への影響、地球温暖化(CO₂排出量増加)といった問題が生じている。

    エネルギー基本計画(政府案)では、3つの目標として、①エネルギー源の強みが生き、弱みが補完される、強靭で現実的かつ多層的な供給構造の実現、②制度改革を通じ、多様な主体が参加し、多様な選択肢が用意される、より柔軟かつ効率的なエネルギー需給構造の創出、③海外の情勢変化の影響を最小化するための国産エネルギーなどの開発・導入の促進による自給率の改善を掲げている。

    政府案では、「電力需要に対応した電源構成」について具体的に説明している。再生可能エネルギーは、温室効果ガス排出のない有望かつ多様な国産エネルギー源である。原子力は、安全性の確保を大前提にエネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源である。石炭は、重要なベースロード電源として再評価されており、高効率火力発電の有効利用などにより環境負荷を低減しつつ活用していくエネルギー源となる。天然ガスは、ミドル電源の中心的役割を担う重要なエネルギー源である。石油は、運輸・民生を中心としつつ、ピーク電源としても一定の機能を担う重要なエネルギー源である。

    再生可能エネルギーでは、太陽光発電や風力発電は急速に普及が拡大しているが、コスト高の克服、出力の不安定性への対応、立地制約の克服が課題である。そこで低コスト化、高効率化に向けた技術開発が進められており、風力発電では世界初の浮体式洋上風力発電所の実証設備が稼働を開始している。

    原子力発電では、福島第一原子力発電所の事故後、原子力規制委員会を設置し、世界最高水準の規制のレベルを策定し、独立した立場から原発の安全性を確認する作業を進めている。あらゆる事情に安全性を最優先し、原子力発電への依存度を可能な限り低減しつつ、原子力規制委員会が安全性を確認した原発は再稼働を進めていくのが安倍政権の基本方針である。

    米国のシェールガス革命によって安いLNGを確保できることが期待されているが、日本の輸入は2017年から始まる予定である。併せて、電力システム改革を推進している。①安定供給の確保、②電気料金の抑制、③需要家の選択肢の確保や事業者の事業機会の拡大を目的としている。

    パネル・ディスカッション

    田中 伸男 (東京大学教授(日本エネルギー経済研究所特別顧問 / 前国際エネルギー機関(IEA)事務局長)) :原子力を題材にした映画「パンドラの約束」は、日本の今後の原子力に重要な問題を提起している。現在の日本は、固有安全性と使用済核燃料に対し、答えを出せないと、前に進めない状況にある。

    韓国は、現在、統合型高速炉(IFR)の開発に熱心に取り組んでいる。日本は軽水炉路線が主流であったため、陸に上がった軽水炉の弱点として福島原発事故が起こってしまった。日本の原子力への取組姿勢について、ナイ=アーミテージ報告が論評している。核燃料サイクルについて具体的に見せていくことが国民理解を得る唯一の方法だろう。

    柏木 孝夫 (東京工業大学特命教授 / 東京都市大学教授(一橋大学資源エネルギー政策研究会メンバー / 総合資源エネルギー調査会基本政策分科会委員) :経済成長と規制改革・システム改革はイコールの関係にある。電力小売市場の自由化によって、電力とインターネットなど異分野の事業とのチェーンビジネスモデルも生まれてくるだろう。これからの経済成長モデルを生み出すのは、農業、医療、エネルギーの3つの分野である。

    電力システム改革によって、自動的に大規模集中型と分散型の共存の時代に入ってくる。日本はシビアアクシデントを起こした当事国家として、大規模発電をフル出力に近い形で動かすことで低炭素型社会を構築できる。それに対し、需要側に分散型電源が適量入り、コジェネや蓄電システムが上手く機能することによって全体をコンパクトにする。それが、原子力事故の課題を解決するソリューションの1つだ。

    橘川 武郎 (RIETIファカルティフェロー / 一橋大学商学研究科教授(資源エネルギー政策プロジェクト総括責任者 / 総合資源エネルギー調査会基本政策分科会委員)) :お手元の『エネルギー新時代におけるベストミックス 一橋大学からの提言』は、田中先生、柏木先生にご執筆いただき、広範な実務家も含め、エネルギーのあり方について書き込まれているので、ゆっくり読んでいただきたい。

    エネルギー基本計画の残された課題として、電源ミックスの提示が回避されている点がある。2015年12月のCOP21が決定期限になると思われるが、特に原子力発電の位置付けには、分かりにくさが残る。私は、2030年の電源ミックスについて、再生可能エネルギー30%、コジェネ15%、火力40%、原子力15%と考えている。

    このまま原発再稼動をしない場合、電力7社は再値上げに踏み切るしかない。日本はギリギリの局面にきていることを認識する必要がある。しかし、東京電力再生には多くの課題がある。廃炉や汚染水の問題を考えると事後処理を自力でできなかった会社が果たして原発を動かしてよいのか。システム改革を待たずに本格的競争が始まる可能性も念頭に置く必要がある。

    低廉な天然ガスの調達やシェールガス革命の国際的影響の中で、石炭高度利用と二国間オフセットといった地球温暖化防止政策の転換も求められる。

    議論に入るが、エネルギー基本計画の印象や注文を伺いたい。

    田中教授 :具体的方策など足りない点はあるが、一定の方向性は出された。フィンランドのオルキルオト原発のように、沸騰水型原子炉(BWR)では東京電力は柏崎刈羽に本社を移し、中部電力は浜岡に本社を移すといった革命的なソリューションが示されなければ、国民は短期的には納得しない。

    柏木教授 :福島第一原発事故の解明は、いまだ明解さに欠けている。事実を明確にした上で、今後の原子力への対応を考えていく必要がある。原子力と核燃料サイクル、廃棄物は一体で解くべき問題である。

    上田長官 :原発ゼロの可能性を議論する際に、最大の課題は、原子力を何で補っていくかである。再生可能エネルギーは期待する声が大きいものの、コストの問題が大きい。その負担に、はたして日本の国民と産業が耐えられるのか考えざるを得ない。

    また、国民のエネルギー政策への信頼感や中東へのセキュリティなどを議論していく中で、現段階で比率は明確でないにせよ、多様な電源をミックスしていくしかないという結論に達している。世界に安全性の高い技術や人財を送り出していくのも、福島を経験した日本の責務だと思っている。

    核燃料サイクルについては、日本は資源がないためウランを有効に使うという観点とともに、使用済燃料の放射能を低下させる観点が重要である。最終処分場については、適地の選定プロセスの変更を政府内で議論している。

    橘川教授 :冷静に考えれば、すぐに原発ゼロが難しいのはわかるが、曖昧な再稼働に対して拒否反応がある。それが国民の心であることが世論調査の結果からうかがえる。

    次に、日本のエネルギー産業における技術革新について意見を伺いたい。

    上田長官 :シェールガス革命で米国がエネルギー輸出国となり、中東へのコミットメントが低下する可能性がある中で、日本はどう考えていくべきか。長期的には、やはりLNGを中心とした安全保障のシステムをアジア太平洋に構築すべきである。

    柏木教授 :日本が特化すべき技術開発は、エネルギーマネジメント、エネルギー貯蔵、パワーエレクトロニクス、コプロダクションが4つのキーワードとなる。分散型電源と大規模電源との併用で需要側がデジタル化してくることが重要である。日本が商品化した燃料電池、水素キャリアは非常に有用だ。また、インターネットとエネルギーが一体化してくるところに、日本のこれからの大きなパラダイムシフトが起こる。その源がガスである。

    田中教授 :海外から輸入するガスのうち、既に50%以上を占めるパイプライン網が東アジアで形成されている。欧州では、ネットワーク化によって集団的安全保障をエネルギーの世界で実現しており、アジアでも同様の流れが起こるのは必定である。そう考えると、ロシアとのパイプラインは当然やるべきである。さらに、電力線をつなぎ、韓国とシェアし、いざというときに融通し合うことも必要であろう。ネットワークの中で生きていくことを前提に置いた対応策を考えなければならない。技術では、水素が重要で有機化合物で運べばコストが安くエネルギーを運ぶ手段として重視すべきだ。IFRのような次の原子力技術も重要だ。

    橘川教授 :ガスシステム改革を含め、エネルギー業界は大きく変わろうとしている。原発を持っていることが競争力になる時代から、システムインテグレーターとして優れた会社が勝つ時代になるかもしれない。その意味において政府の政策も重要であるが、需要家側でも、民間がエネルギー問題にどうかかわっていくのかをしっかり考えていく必要がある。

    当日の会場での写真