一橋大学・RIETI資源エネルギー政策サロン第1回

新たなエネルギー基本計画の強力な実行と将来展望(議事録)

イベント概要

  • 日時:2014年3月10日(月) 18:00 - 19:30
  • 会場:一橋大学 一橋講堂 (東京都千代田区一ツ橋2-1-2 学術総合センター内)
  • 議事録

    司会 :ただいまから資源エネルギー政策サロンを始めます。開会にあたり独立行政法人経済産業研究所理事長中島厚志からご挨拶いたします。

    中島 厚志 (RIETI理事長) :本日は資源エネルギー政策サロン第1回にお越しいただきありがとうございます。主催者を代表して一言ご挨拶申し上げます。

    日本を取り巻くエネルギー事情は激動しています。3年前の東日本大震災以降、原発が停止し、エネルギー輸入が著増しています。他方で、再生可能エネルギーを更に活用していく動きも強まっています。いずれも日本のエネルギー安全保障に直結するだけに時間をかけて考えていかねばならない話ですが、世の中は必ずしも待ってはくれません。昨今の状況は、米国のシェール革命が進み、これがプラスに効く面もあるわけですが、ウクライナ情勢でロシアからのエネルギー供給が止まるかもしれない。他方、米国はウクライナにシェール革命で追加的に出てきている天然ガスなどを供給するといった駆け引きが行われています。

    日本では、冒頭申し上げたように、エネルギー安全保障が大変大事ですが、色々な制約も加わっています。これから、どのようにエネルギー需給を考えていくのか、どのような方向で日本のエネルギー政策、戦略を考えていくのか、いま我々は大変な岐路にあると思います。

    ちょうど本日、経常収支が発表されましたが、今年1月の日本の経常赤字は最悪の数字で、その主因は巨額の貿易赤字です。必ずしも原発停止によるものだけではありませんが、円安傾向のもと、エネルギー輸入が著増したのが大きな要因の1つになっています。こういう状況の中で、本日、「新たなエネルギー基本計画の強力な実行と将来展望」という題で、日本の第一人者の皆様方に議論いただくことはタイムリーであり、日本のエネルギー政策の将来について知見が大いに得られればと思う次第です。以上、簡単ですがご挨拶とさせていただきます。

    司会 :続いて来賓のご挨拶です。この資源エネルギー政策プロジェクトは、東京工業大学の皆様方に大変なご協力、ご尽力をいただいています。東京工業大学学長、総合科学技術会議筆頭議員をお務めになられた科学技術振興機構顧問 相澤益男先生からご挨拶いただきます。

    相澤 益男 (科学技術振興機構顧問 / 元東京工業大学長) :本日は、一橋大学、RIETIという2つの非常にユニークな組織が連携プレーを鮮やかにして、エネルギーに関するサロンを開くということで、心からお祝いを申し上げたいと思い、一言ご挨拶させていただきます。

    本日のテーマが、「新たなエネルギー基本計画の強力な実行と将来展望」ということで、際どいタイミングにあるこのテーマを、よくこのタイミングに設定できたと思います。絶妙なタイミングです。しかも、資源エネルギー庁長官のご見解を伺うことができるということと、エネルギー政策に関してのご活躍が顕著な論客の方々の意見がここで戦わされるということは、絶妙のタイミングであると同時に、大変大きな意義のある会と申し上げたいと思います。企画された主催団体の方々に心から敬意を表します。

    今、私どもはエネルギー危機に直面しています。地球規模の持続可能性に関わる人類共通の課題と同時に各国固有のユニークな課題を抱えています。複雑でかつ非常に難しい課題ですが、これらに真っ向から取り組むタイミングであり、本日のサロンでは多角的な立場から議論が進むものと期待しています。

    東日本大震災と福島第一原発事故は我が国にとっての固有の問題です。世界にとっても大きな関心事です。特に世界は、エネルギー政策をどう転換するのか注視しています。見直しを迫られたエネルギー基本計画が改定内容を露わにした段階です。大震災と原発と反省と、それから教訓。こういうものをどう位置付けたのか。政権交代で一度まとまりかけた政策エネルギー基本計画がどう変更されたのか。それからシェール革命に代表される大きな国際的な動きをどう位置付け、どう取り組んでいくのかという姿勢。これらそれぞれに社会の関心が非常に高いわけです。特にエネルギー基本計画におけるエネルギー政策のビジョンをきちっと議論し、今後の実行に移す段階です。

    私は、総合科学技術会議の議員として科学技術政策の策定に関わってきましたので、エネルギー基本計画の中で科学技術政策がどう位置付けられ、どう押し出すのかに大きな関心を持っています。その点で、計画中に大変良い表現があります。「多くの資源を海外に依存せざるを得ないという、我が国が抱えるエネルギー需要構造の脆弱性に対して、エネルギー政策が現在の技術や供給構造の延長線上にある限り、根本的な解決を目指すことは容易ではない。こうした困難な課題を根本的に解決するためには、革命的なエネルギー関係技術の開発とそのような技術を社会全体で導入していくことが不可欠となる」ということを明確に位置付けています。ところが、具体策をまだ示しきれていないので、夏までにまとめられる最終形の重要な柱になると思います。ここが示されない限りはビジョンだけで終わってしまう恐れがあります。既に「グリーンイノベーション」を進めていますが、私はここが必ずしも十分ではないと思いますので、ぜひそこを見つめていただくようにお願いして、私のご挨拶とさせていただきます。

    司会 :上田長官が国会から駆けつけて今到着されました。少し段取りが変わりますが、冒頭エネルギー基本計画の状況についてご講演をいただきます。

    上田 隆之 (資源エネルギー庁長官) :最近のエネルギー政策について、後半のディスカッションに向けて、少しイントロの話をさせていただきます。お話ししたいことはいっぱいありますが、時間が限られています。東日本大震災以降、今エネルギーの状況はどうなっているのか、エネルギー基本計画にどのような記載をしているのか、その他再生可能エネルギー、原子力等々の課題があります。

    最初に申し上げておきたいことがあります。東日本大震災以降の新たなエネルギー制約です。去年の夏は非常に暑かったがエネルギー需給は大丈夫だったじゃないか、ということをよく言われます。今年の冬も、今のところ国内的にはエネルギー情勢に大きな混乱は起きていません。今この瞬間に日本の原子力発電所で動いているものは1つもありません。だから原発ゼロでも日本はやっていけるのではないかという議論もあります。

    他方で、さまざまなエネルギーに関する問題が起こっています。1つは、海外からの化石燃料への依存度です。グラフで示しましたが、2012年の電源構成で化石燃料への依存度が88%です。原発が動いていた頃の2010年では62%でした。今総発電電力量の88%を化石燃料に依存しています。オイルショックは1973年でしたが、そのとき以上の水準になっています。ご存じのとおり、特に石油に関する中東依存度が非常に高いので、中東情勢如何によっては非常に脆弱な状況になっています。

    それから、国民生活・経済への影響です。燃料費の増加という試算を経済産業省として出しました。原発が稼働していた2010年の状況から原発ゼロになったために、その原発の稼働が全て化石燃料、石油、石炭、LNGに置き変わったとした場合にどれくらい化石燃料の燃料費が増加したかということを試算してみると、約3.6兆円になっています。日本の人口が約1億2000万人とすると、単純に割ると赤ん坊も含めて国民1人当たり約3万円の負担増になっています。これは原発を止めた影響ですが、化石燃料について、日本は昨年約27兆円と非常に多額の輸入をしています。その結果、電気料金も上がっていまして、震災前と比べて日本全国で平均して約2割上がっています。東京電力管内では、震災前と比べて約3割、家庭の電気料金が上がっています。

    地球温暖化では、一般電気事業者のCO₂排出量が1.1億トン増加しました。この数字は日本全体の排出量の約9%であり、確かに原子力が止まっても老朽火力等々を一所懸命動かすことで、なんとか需給が保たれていますが、申し上げたさまざまな課題が現状で起こってきているということを最初に申し上げておきます。

    さて、エネルギー基本計画ですが、今は政府原案を作り世の中に発表したら、多くの方々からたくさんのご意見をいただきました。今回の基本計画には3つの大きな方向性が示されております。

    第1に、各エネルギー源の強みが生き、弱みが補完される、強靭で現実的、多層的な供給構造の実現ということです。3・11を経験してみてつくづく思うのは、1つのエネルギーで完璧なエネルギーというのは、日本の場合には残念ながら存在しないわけです。基本的には色々なエネルギーを組み合わせていくことが必要ということですから、何か1つのエネルギー源が上手くいかないときでも、他のものがバックアップに回れるような強靭で多層的な供給構造を作っていきたいということです。

    第2に、制度改革を通じ、多様な主体が参加し、多様な選択肢が用意されるより柔軟かつ効率的なエネルギー需給構造の創出です。

    第3に、海外の情勢変化の影響を最小化するための国産エネルギーなどの開発・導入の促進および自給率の改善です。エネルギー政策の原点は、日本のエネルギー自給率は非常に低いということです。現在は原子力を除いて考えると約6%弱くらいの自給率しかありません。日本も原子力を準国産エネルギーとカウントしたときには約20%の自給率がありましたが、今は5~6%くらいです。多くの先進国はだいたい5割を超える水準にあるわけで、やはり自給率が日本の場合非常に少ないということは、過去から今まで、そしておそらく未来も日本のエネルギーの根本的な脆弱性だと思っています。

    もう1つ、今回のエネルギー基本計画の中では、電力需要に対応した電源構成を、図を使って説明しています。よくご存じの方には割と常識的なグラフだと思いますが、横軸に時間を取り縦軸に発電量を取ったときに、いわゆる「ベースロード電源」、つまりベースロードとなる発電コストが比較的低廉で昼夜を問わず安定的に発電できる電源という意味ですが、原子力以外にも石炭、一般水力、地熱がこれに当たります。それと対比されるのが、一番上の「ピーク電源」で、コストが比較的高いが、石油に代表されるように、出力変動に対して容易に発電量を変動させることができるというものです。そのちょうど真ん中に「ミドル電源」が位置付けられるということになります。そして、2010年と2012年、震災前と現在の電源構成がどうなっているかをグラフにしました。震災前は、原子力が28.6%、石炭が25%、天然ガスが29.3%、石油が7.5%というポートフォリオでしたが、震災後は、原子力は2012年ではほとんど動いていないので1.7%です。結局、何がその分を補ったかというと、圧倒的に多いのが天然ガスで29.3%から42%。それから石油が7.5%から18.3%。石炭も2%くらい伸びているということで、原子力に依存しない部分を、天然ガスを中心として化石燃料で何とか補っているという実態があるわけです。

    こういうことを踏まえた上で、それぞれの電源の役割を今回分析しています。一番目に再生可能エネルギーで、これは温室効果ガス排出のない有望かつ多様な国産エネルギー源です。原子力は、安全性の確保を大前提に、エネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源です。石炭も重要なベースロード電源として再評価され、環境負荷を低減しつつ活用していくエネルギー源になります。天然ガスは、ミドル電源の中心的役割を担う重要なエネルギー源です。石油は、運輸・民生部門が中心ですが、ピーク電源としても一定の機能を担う重要なエネルギー源であるといった位置付けをしています。

    エネルギー基本計画で今回一番言いたかったことに触れます。ご存じのとおり、前回のエネルギー基本計画は、鳩山政権下で、エネルギー基本計画を作ったわけですが、当時の目標は、CO₂削減25%という数字がありました。エネルギー起源のCO₂をできるだけ減らしていこうということで、当時はゼロエミッション電源という概念を作りました。原子力と再生可能エネルギーを合わせた数字で、これを7割にしていこう、ということが目標でした。再生可能エネルギー2割、原子力5割なので、当時、原子力比率を電源構成の中で50%にしていくということでした。その後3・11が起きました。その後、エネルギー環境戦略を民主党政権下で作り、2030年に原子力をゼロにするということが目標に掲げられました。この数年間の間で原子力を5割にするということから、長期的にゼロを目指していくものにするということで、エネルギー政策が非常に大きくぶれてしまい、国民の多くの方々にも、もちろん事故の不安感も含めて、非常に大きく不安感を与えご迷惑をおかけしたという状況にありました。今回は、この反省に立って、もう一度原点に返って、それぞれのエネルギー源の位置付け、役割を明らかにしていくということに我々は重点を置いています。

    したがって、今回のエネルギー基本計画の中では、「エネルギーミックス」即ち、原子力を何%にするとか、何を何%にするという数字の議論は、実は将来の検討課題にしています。今後できるだけ早期に作るとエネルギー基本計画の中に書いてあるのですが、今回のエネルギー基本計画は、国民の多くの方々に、日本の置かれた状況やそれぞれのエネルギーが持っている役割をもう一度考えていただけるエネルギー基本計画にしたいという考えで、こういう形にさせていただいたわけです。

    それで、原子力が「重要なベース電源」と書いてあるわけですが、新聞には原子力だけが重要なベース電源であるかのように書かれています。そんなことはないわけで、たとえば、石炭も「重要なベースロード電源」であり、LNGも、これはミドル電源ですが、「重要なエネルギー源」です。石油もピーク電源として、あるいは民生・運輸部門も合わせて「重要なエネルギー源」です。それぞれの位置付けを書かせていただいているということです。

    今まさに、与党の中でも色々なご議論をいただいているところで、政府としては与党の議論を丁寧にしながら、適切なタイミングで閣議決定までいけたらと思っているわけです。

    次に、再生可能エネルギーですが、固定価格買取制度の導入以降大きく伸びていると思っています。太陽光発電は急速に普及が拡大しています。風力についても2000年度と比べ約20倍の規模です。先ほどのミックスの図にありますが、一番下に水力とあります。ダム発電のような大規模水力が中心で、これが8%あります。一番上に小さく、再生可能エネルギー1.6%という数字があります。太陽光、風力などの再生可能エネルギーは2010年度で、非常に頑張ってはいるのですが、水力を除いて1.6%。水力を入れても約10%というのが今の日本の実力です。

    この再生可能エネルギーには色々な議論があります。1つは、コストがどうしても高いという問題。それから出力が非常に不安定であるという問題。あるいは立地制約をどう克服していくかという問題。さまざまな課題を克服しながら増大を図っていくエネルギーと考えています。さまざまな技術開発も重要です。1つだけ申し上げますと、福島で洋上風力発電の研究開発を行っています。日本の場合、陸地では風力発電の適地が少なくなってきているということもあり、洋上風力がよいのではなかろうかということです。海外では、遠浅の海で海底から立ち上げますが、日本の場合はすぐ海が深くなってしまうので、海底から立ち上げるということがなかなか難しいので、浮体式の洋上風力発電を作ってみようということで一所懸命にやっています。来年度にも、この福島にもう1つの大きな7MWタイプの浮体式洋上風力を行おうと思っています。ブレード半径が80メートルで直径が160メートルです。大きな羽根が海上で回っているイメージの風力発電を想像していただければよいと思います。それ以外に、太陽光発電の効率向上に向けた研究開発、水素あるいは蓄電池等々の研究開発も色々行っています。

    それから原子力ですが、今どういう状況かということですが、福島第一原発事故以来、原子力規制委員会という独立した組織が作られました。この委員会が世界最高水準の規制のレベルを策定し、独立した立場から原発の安全性を確認する作業を現在進めているところです。現在の政府の基本的な方針は、原発についてはあらゆる事情に「安全性」を最優先する、原発依存度は可能な限り低減させる、原子力規制委員会が安全性を確認した原発は再稼働を進めるということです。安全性の審査を申請している原発は17基で、審査が行われていますが、現時点ではこれらの審査に適合しているという原子力規制委員会の判断が出た原発は1つもありませんので、引き続き審査中という状況にあるわけです。

    こういう中で、我々は何とかエネルギーを国内に安く供給するということを行っていきたいと思います。最近いわれているシェールガスの話を少しだけ申し上げます。米国でシェールガスが出るようになりました。昔から存在は分かっていたのですが、技術的に安価に取り出すのは難しかったのが、ようやく技術ができたということです。これによって安いエネルギーが日本に来ることが期待されているわけです。どれくらい安くなるのかは分かりませんが、現在の中東からのガス価格は、100万BTUという単位で約15~16ドルで日本に来ています。シェールガスの価格は米国の国内価格、ヘンリーハブというところがベースになった国内価格で、これはもちろん変動しますが、4~5ドルくらいです。その4~5ドルの天然ガスを日本に持ってくるにはLNGにしないといけないので、マイナス162℃の液体にするプラントが必要です。それから魔法びんのような船に積んで、日本に持ってくるコストがかかります。その液化コストと今の船のコストを考えると、だいたい6ドルくらいかかるので、米国から今の価格をベースにすると10ドル、11ドルあるいは12ドルくらいで日本に来るということで、15~16ドルから比べると数割程度安いガスになることが期待されます。実際問題として、日本の輸入は2017年から予定されています。日本関係のプロジェクトは図の2番、4番、5番、6番で、日本の企業が参画しているプロジェクトは全て米国の輸出承認が下りています。これだけではありませんが、さまざまな努力を継続しながら何とか安いエネルギー源を国内に供給したいと思っています。

    最後に、我々は電力システム改革を行っています。ここ50年くらいのエネルギーシステムの中で最も大きな改革になると思います。一言で言いますと電力システムの自由化です。三段階に分けて進めようと思っています。何故このようなことを始めたかというと、やはり3・11の経験が非常に大きかったと思います。あのとき日本の電力は、関西や九州には実はいっぱいあったのに、関西・九州からの電力を関東・東北に持っていくことができなかった。そのために東京では計画停電などをせざるを得なかったという非常に苦い思い出があります。今の電力のシステムでは必ずしも100%安定供給を図れるものではないということです。安定供給を増すためには、広域的な電力網を整備していく必要があり、消費者や需要サイドが自分で電気を発電して売ったりするということを相当程度促進していく必要があるといった反省に立ち、大きく三段階で電力システム改革を進めるということです。

    目的は、安定供給の確保、できるだけ電気料金を抑制していくこと、それから需要家の選択肢の確保です。具体的には、第1に、広域系統運用を拡大していくことです。広域系統運用機関を作る法律は既に通っています。第2に、小売電気事業、小売および発電の全面自由化で、つい先々週閣議決定して国会に提出しました。この法律が通ると、たとえば、東京では既に自由化が6割くらい進んでいますが、自由化されていない家庭やコンビニといった業務部門の需要が4割でも、東京にいる人が東京電力以外の事業者から電気を買うことができる全面自由化がされます。将来的には発電と小売の法的分離を行うことになっています。 日本のエネルギーシステムを変えて、これにより安定供給を図り、かつ、エネルギーそのものを日本の成長の起爆剤にしていきたいと考えています。簡単ですが、イントロとしてお話しました。

    司会 :ありがとうございました。引き続きパネルディスカッションに移ります。 本日のモデレータは一橋大学大学院商学研究科教授、資源エネルギー政策プロジェクト総括責任者で、経済産業研究所のファカルティフェローの橘川武郎教授です。

    橘川 武郎 (RIETIファカルティフェロー / 一橋大学商学研究科教授(資源エネルギー政策プロジェクト総括責任者 / 総合資源エネルギー調査会基本政策分科会委員)) :上田長官のお話を受け、2人のパネラーから追加的な発言をいただき、私も若干話をして、パネルディスカッションに入っていきます。

    1人目のパネラーは田中伸男さんです。ご存じのように、国際エネルギー機関(IEA)の前事務局長で、現在は東京大学教授です。2人目は東京工業大学特命教授の柏木孝夫先生です。田中先生お願いします。

    田中 伸男 (東京大学教授(日本エネルギー経済研究所特別顧問 / 前国際エネルギー機関(IEA)事務局長)) :上田さんから今の日本の置かれているエネルギーの状況について詳細なご説明をいただいたので付け加えるものはありません。唯一、シェール革命の話で、天然ガスをどこから買ってくるかというときに、シェールだけではなく、LNGだけではなく、パイプラインでロシアから買う必要があると思います。なかなか経産省はいいません。また、原子力の話で、「非常に重要なベースロード電源」という大変良い方向性が出ているのですが、その問題を具体的に、どう説明すれば国民に理解してもらい、原子力がもう一度政策アジェンダに戻ってこられるかということについて、私なりに具体的な方法を考えています。

    「パンドラの約束」という映画があります。お集まりのエネルギーの専門家の中には、もう見られた方が多いと思います。この映画は、環境派の人たちが、地球環境問題、それから再生可能エネルギーの限界、放射能の問題といった色々なことを考えると、やはり原子力が必要だと意見を変えたという90分間のドキュメンタリーです。単にささっと見ていくと、なるほどということで終わってしまうのですが、私はこの中に日本に対する非常に重要なメッセージがあるので、よく気をつけて見た方がよいと思っています。

    ナトリウムを使う新型の統合型高速炉の話が出てきます。米国アルゴンヌ国立研究所で、福島と同じ全電源喪失でスクラム(原子炉緊急停止)が働かないという非常に厳しいテストをしました。1986年で、ちょうどチェルノブイリ事故の直前でしたが、その結果、人の手を借りなくても自動的に暴走が止まる「固有安全性」が証明されました。こういう安全な原子炉が福島にあったならば、ああいう事故は起こらなかっただろうと紹介されています。面白いのは、この原子炉が、そういう安全なものにもかかわらず、何故実際に日の目を見なかったかということが説明の中にあります。元々アルゴンヌ国立研究所では、シカゴ・パイル1(CP1)という最も基本的なものから始まって、色々な形の原子炉を開発していったのです。PWR(加圧水型原子炉)の路線、実験炉の路線、BWR(沸騰水型原子炉)の路線、それから高速炉の路線の中にいくつかあり、Experimental Breeder Reactor 1や2や、最後に到達する高みがIFR(統合型高速炉)ということで研究していたのですが、実際に進んだのは軽水炉路線だったのです。

    リッコーヴァーという米国海軍提督で原子力潜水艦部隊を成功に導いた立役者といわれている人が映画に出てきます。この人のおかげで、原子力潜水艦の原子炉は非常に安全にできました。安全でないことをした乗組員は全部クビで、如何に安全にするかという徹底した教育訓練を行ったので、軽水炉は非常に安全なものとして現実化されました。ところが問題が2つあり、原子力潜水艦に早く使うために、2つの重要な問題について答えを出さないで進めました。その1つが「固有安全性」です。原子炉を船に積んでいても、沈んでしまえば軽水炉は水で止まるので、海中では固有安全性があります。しかし、陸に揚げると固有安全性がなくなります。したがって、できるだけ人の手で安全に運用していこうということで彼は成功したのですが、商業化するプロセスにおいて、この答えを出さずに進めてしまった。その後、新しく色々な技術が追加され何とか回しているわけですが、福島において、やはり固有安全性がなかったということが分かってしまったわけです。

    もう1つの問題は、使用済燃料です。再処理をどうやって、最後のゴミをどう捨てるかについて答えを出せないまま進めました。シェール革命を言うまでもなく米国にはエネルギー源が非常に多くあるので、とりあえず100年間は使用済燃料をドライキャスクに入れて置いておけば新技術がそのうちに出来るだろうということだったわけです。しかし、残念ながら福島後の日本では、これに答えを出さずには恐らく先に進めなくなっているのではないかと思います。

    「パンドラの約束」という映画は、原子力の平和利用国家である日本が、一体どうすればこれから原子力を進めることができるかという非常に重要な問題を提起していると私は思っています。アルゴンヌで開発していた炉は、金属ウラン燃料を使います。もんじゅと比べると、MOX(混合酸化物)燃料ではないという点で異なりますが、ナトリウム冷却という点では同じです。さらに、タンク式という点が固有安全性であり、もんじゅとは異なります。乾式再処理(pyroprocess)が横に付いており、燃料が使われると、ここで処理されてもう1度戻ってくる。クローズなサーキットなので基本的にプルトニウムが施設外に出ない。こういうパッシブセーフティがあります。もう1つ大きいのが、高放射能のマイナーアクチノイドが一緒に燃やされるので、最後に出てくる廃棄物が300年を経れば天然ウラン並みに放射能が下がる。

    3つの答えを一応満足した炉なのです。ちょうど映画に出てくるスクラムなしの全電源喪失を実験したところ、温度が上がったけど、人の手を借りずに無事に下がったということです。日本も実は開発に参加していました。1992年頃から電力中央研究所が中心になって、かなりのお金を出しています。結果的に、IFRは政治の判断で止まってしまいましたので、その後は何も動いていません。だんだんこの技術がなくなってしまうのを心配している人がいます。一所懸命なのは韓国です。韓国は協定上再処理が認められていないので、これをやらないと使用済燃料がプールいっぱいになってしまう。これをなんとかして欲しい、日本に再処理を認めるなら我々にも認めて欲しいということで、米韓原子力協定の改定交渉をしています。

    GE日立が商業型IFRのデザインを完成しています。S-PRISMという名前の炉です。再処理を組み合わせれば、軽水炉の燃料を処理できるシステムとして機能するはずで、放射能低下が現状では10万年なのに300年で済むという提案です。さらに、このIFRで300年という技術の先には、藤家先生が提唱するレーザーを使って放射性物質を全部除去してゼロ年にする技術があるのです。結果として見ると、軽水炉路線の陰で、高速炉路線ができなかったために、日本でこういう問題が起こってしまったわけです。

    原子力の平和利用国家としてこういうものに取り組むのが日本の責任ではないか、もし取り組まないならば韓国に持っていかれるというのが、ナイ=アーミテージ・レポートなのではないかと私は思っています。

    最後に、どう廃炉にするかです。私どもは福島で非常に苦しい問題を抱えています。廃炉には時間がかかります。全部更地にして公園にするのか、と米国の専門家からよく聞かれます。そうではなく、サバンナ・リバー型で置いておく、1000年セメント漬けにするしかありません。そういう廃炉メカニズムなら、300年の高レベル廃棄物はほとんど同レベルの廃炉システムで行う。要するに、全体として核燃料サイクルを統合的に処理できる原子炉と処理システムを上手く作って具体的に見せることが、今の日本の国民にとって、原子力について理解していただく唯一の方法ではないかと思います。逆に、こういう具体的なものを見せないと一体、日本はどこに進むのか絵が描けないのではないかと心配しています。

    橘川教授 :ありがとうございました。続いて柏木先生お願いします。

    柏木 孝夫 (東京工業大学特命教授 / 東京都市大学教授(一橋大学資源エネルギー政策研究会メンバー / 総合資源エネルギー調査会基本政策分科会委員) :長官の話の最後の方で電力システム改革の話が出ていました。重ならないように今度のエネルギー基本計画への感想をお話しします。

    まず、私は非常に良策だったと思っております。ずっとこの策定プロセスに参画していて、色々理想があって、原子力はすぐ止めろという人もいれば、徐々に止めろ、あるいは一定程度を維持しようという人もいます。現状があって、2030年を目安にした、極めてリアリズムある記述ができたと私は評価をしています。

    長官が先ほど仰らなかったことで申し上げると、エネルギー政策に対する視点について、今までの「3E+S」、Sはセーフティですが、それに更に2つの視点を加えました。内需型のエネルギー産業に対して国際的視点から国際展開を図れるような構造改革をするというのが1つ目の追加です。もう1つは、アベノミクスということで、経済成長です。経済成長は民間でやる気になればできるわけですが、経済成長イコール規制改革だと、つまりエネルギーのシステム改革だと、私自身は思っています。

    この基本計画の中には、一次エネルギー源の位置付けをきちっと行ったという大変な成果とともに、もう1つ、2018~20年にかけて、これから5、6年の間をエネルギー関連のシステム改革の集中的な期間として位置付けるということがあります。要するに、電力に関しては、去年の11月13日に、広域系統運用機構ができました。先ほどのお話のとおりです。今度は、第2弾として全面自由化です。家庭部門まで電力会社の選択肢が得られると同時に、自分の家庭部門あるいは50kW未満の需要家が発電システムを持っていれば、うまく市場が機能すれば発電からの余剰電力を適切な価格で売ることができることになります。つまり、双方向のやりとりができるかたちになってくると私は思っています。同時に、ガスシフトも書いてあり、ガスのシステム改革も併せて行うことになります。熱供給のシステム改革に関しても同様で、熱電一体型の供給形態を取るシステムには全面的なバックアップをするとか、合理的なエネルギー利用、熱というエネルギーの最終形態を上手く使いきれるシステムには政策もバックアップするということです。熱供給事業の緩和は、どのようになるのか分かりません。ガス事業法が改正され、その中に熱電併給が入ってくるのかもしれませんが、これからそういう議論が始まっていきます。

    最終的に経済成長イコール規制改革、システム改革によって、たとえば、アンタッチャブルだった50kW未満の電力を片手に持ちながら、自分が他のメインとする仕事とのチェーンビジネスモデルができてくる。実例として、ジェイコムという会社があります。インターネットでヤフーやグーグルなど他のインターネット企業との競争力を維持、強化したいというときに、たとえば、100戸入りマンションに営業をかけます。電力会社ならば一戸一戸に3kWのスマートメーターが入ってくると思うのですが、そこに一括受電します。100軒なら300kWですが、その必要はなく、200kWで一括受電をする。ジェイコム電力としてサミットエナジーと一体となった電力を片手に握りながら、自社のインターネットとのセットメニューで、インターネット事業の競争力を磨いていきます。200kWだと固定費が安くなるので、7~8%、あるいは10%くらい電力が安くできるチェーンビジネスになってきます。このように必要不可欠な電力が家庭部門まで自由化で広がってくると、たとえば、住宅メーカーが、余剰電力を統合して新電力になり、水供給やインターネットなどと一体化したビジネスモデルもできてくるわけです。このようにエネルギーの分野が経済成長モデルになっていきます。

    エネルギー基本計画がなかなか難産で産むのは難しいというのは当たり前で、これだけのシビアアクシデントを起こした当事国家ですから、そう簡単にすっと通る話ではありません。このことは十分承知した上で、これだけリアリティのある方策を作ったことに非常に敬意を表しています。ただ、なかなか閣議決定されなかったが故に、エネルギーに関する経済成長モデルがなかなかできてこない。農業やTPPと一緒でなかなか思った方向にいきません。医療は命がかかっていますから、そう簡単に規制改革というわけにはいきません。したがって、経済成長モデルは3つの分野だと思います。農業、医療、それからエネルギーです。最後の砦がこのエネルギーです。今回のエネルギー基本計画は、規制改革を行い、出口として総合エネルギー企業を作り出すことで、ガス&パワーになっていくわけです。原子力が徐々に動き出していけば、電力の天然ガスは余ってきますから、ガスが売りに出る。ガス会社は、エネファームなどを家庭用エネルギーサービスに入れていくでしょう。トータルコストでESCOモデルを入れながら合理的に電力事業に手を出していきます。これによって、大規模集中型一辺倒だった電力システムが、系統運用機構で効率の悪い電源が脱落し、かつそれがだんだん、電力でいえばラージスペックのエネルギーシステムがダウンサイジングしてきて、そこに自由化が入って総括原価がなくなり、あまり大きな発電所が建てられなくなってくると分散型システムが需要側に入ってくることになります。これはコジェネであり、再生可能エネルギーでありということです。

    再生可能エネルギーに関しては、フィードインタリフという、よく効く薬ですが劇薬を入れていますから、ある程度ガッと伸びていきます。そうすると、需要側でコジェネと蓄電池とうまくデジタル革命を起こしながら分散型ネットワークを組んでいくことで、大規模集中型が7割、分散型が3割で、うち15%がコジェネ、残り15%が太陽光、風力、バイオマスとなる。そして、中小水力、地熱、それから大型水力は原子力代替になるので、この7割の上位系に入ってくると私は思っています。電力システム改革を行うことで、強制的にこの姿にするのではなく、自動的にそういう姿に移ってきて、大規模と分散型との共存の時代に入ってくる。これが事業継続性の観点からも、シビアアクシデントを起こした当事国家として、今後とも大規模発電はなるべくフル出力に近い形で動かすことで低炭素型社会を構築する。それに対して需要側に分散型発電が適切な量入ってきて、非常に不安定な電源と燃料系のコジェネと蓄電システムが上手く機能することで、上位系にあまりピークを出さないようにする。そうすると、全体がコンパクトになってきて、これが、我々が原子力事故によって突き付けられた課題へのソリューションの1つだと思っています。

    そういう意味では、成長戦略が閣議決定された時点で、非常に大きなビジネスモデルが出てくる、必要不可欠な電力がアンタッチャブルの時代から片手に電力、片手に自分の最も得意とするビジネスモデルが出てくる。私はこれが今回の成果の大きな1つと思っています。

    橘川 武郎 :ありがとうございました。私は司会ですが、少しお話しいたします。

    実は、今日この場でエネルギー基本計画の話をまだしていることに驚いています。この前提となった一橋大学の資源エネルギー政策プロジェクトは、2年前にいくつかの会社から寄付金をいただいてスタートしたわけですが、その寄付金をお願いして回るときに、当初は2012年3月には基本計画が決まるとされていまして、「今更このようなプロジェクトをやっても遅いのではないか」といわれたのです。たぶん延びるでしょうといっていたら、まさか我々の本ができて、配ってという時点になってもいまだ基本計画が決まっていないとは思いもしませんでした。

    お手元にお配りした『エネルギー新時代におけるベストミックス 一橋大学からの提言』は、田中先生や柏木先生にも書いていただき、かなり広範な実務の方にも書いていただき、エネルギーのあり方について書き込まれているので、ぜひゆっくり読んでいただければと思います。もう1つの特徴が、一橋だけではなく理科系の東工大との共同でこの本はできあがっています。今日はその成果をRIETIの協力を得て、サロンという形で発表できるようになって非常に喜ばしいと思います。一方でいまだ基本計画が決まっていないという現実も見ておかなければいけないと思います。

    社会科学の立場から私たち一橋のメンバーは参加しているわけですが、社会科学は社会を良くするために現状に対して批判的な観点から分析を加えるというところに役割があるので、敢えて悪役を買って出て、今のエネルギー政策の流れの中でいくつか注目しておいた方がよいチェックポイントを述べてみたいと思います。私自身阪神ファンということもあり、こういうことが得意です。

    まず、エネルギー基本計画です。既に説明がありましたが、最大の特徴は、1つ1つのエネルギーの重要性は言われたのですが、それがどういう優先順位でどういうバランスで組み合わせられるのかという2030年のミックスが出てこなかったところが、私はやはり問題が先送りにされたのではないかと思います。たぶん、来年12月のパリ開催のCOP21くらいが締切になるかと思いますが、問題はいまだ先に延ばされていると思います。その結果、全体として分かり難くなっています。端的にいうと原発の位置付けです。昨年12月に基本政策分科会で決めた文言は「重要なベース電源」で、(2月の)政府案では「重要なベースロード電源」となっています。しかし、「可能な限り依存度を低減」することは政府案でも変わっていません。しかし、必要な「規模を確保」するは、政府案では「確保していく規模を見極める」となっています。2つも「しかし」が入ると何を言っているかよく分からなくなる。槇原敬之の「もう恋なんてしないなんて言わないよ絶対」といった感じになってしまう。マッキーのファンから、「この歌は明確な二重否定でガンガン恋をするという歌だから分かり難くないぞ」というご批判をいただいたのですが、あの歌のタイトルは「もう恋なんてしない」というタイトルなのです。やはりミスリーディングになっている。そういう意味で、やはり分かり難さが残っているのではないかと思います。

    私自身の考え方は、だいたい原子力が半減して15%。再生可能エネルギーが30%、コジェネが15%、火力が40%くらいではないかと思います。自分の意見としてはこうだと述べさせていただきます。既にお話がありましたが大事なのは、東京電力から中部電力まで7社の値上げがありましたが、全部原発再稼働を前提とした値上げです。したがって、再稼動がない場合には再値上げがくる。現実問題として北海道電力が再値上げということをいったということです。こういうギリギリの局面にきているということだけははっきり見ておいた方がよいと思います。すると、再稼動がどうなのか。これが見えないわけですが、ある意味では非常に重要なヒントが与えられていて、昨年7月の原子力規制委員会の新基準で、フィルター付ベントが出ました。フィルター付ベントについて、加圧水型では猶予期間を設けられましたが、沸騰水型は事前設置が事実上義務付けられています。いまだ完成したフィルター付ベントはないので、私は沸騰水型の再稼働は今年にはない、もう来年になったということが決まったということだと思います。当面は加圧水型でいくということです。

    その場合に、原子炉等規制法の規制が重要で、原則として40年動かしたものは止めるという「40年廃炉基準」があります。これについては科学性がないという批判もありますが、少なくとも当面は当たりなのです。2010年代の40年前というと1970年代で、このときは第二世代という小さい原子炉が生まれていますから、当面40年廃炉基準は説得力が結構ある。となると定着する可能性があり、そうすると2030年末の40年廃炉基準を適用した場合、残るのは48基のうち18基です。島根と大間が加わっても20基です。これを電力量ベースにすると、だいたい15%くらいになるのではないかと思います。現実に、24基ある加圧水型で、昨年7月時点で手を挙げれば再稼動の可能性はあったわけですが、手を挙げたのは12基に留まっているということは、12基が手を挙げなかったのです。ということは、古いものはたたむという取捨選択が現実には始まっており、元に戻る再稼動ではなく、減り始める再稼働ということを見ておく必要があると思います。

    もう1つ、システム改革の話がありました。これは非常に重要な取り組みですが、それ以前に東京電力から事が始まる可能性があります。新総合特別事業計画で、10年間で4兆8000億円のリストラで、1年平均4800億円です。しかし、柏崎刈羽が止まっているための火力発電の燃料費増加は1兆円ですから、このままだとまた再値上げ、永久に再値上げとなります。そうすると柏崎刈羽を動かすということになる。しかし、廃炉の問題、汚染水の問題がある。私は、自分たちで追試に落ちた気がするのですが、事後処理のところも自力でできなかった会社が果たして原発を動かしていいのかとなる。結局、東北電力ないし原電あたりが登場して事業主体が変わるのではないかと私は思います。となると、東京湾を含めて火力を売らなければいけなくなる。そうすると、中部電力が東京湾にやってきて、システム改革を待たずに本格的な競争が始まる可能性がある。こういう流れも、見ておいた方がよいのではないかと思います。

    あとは、天然ガスをどうやって安く買うかです。重要なポイントは、一昨年の基本問題委員会のときに、2030年に原発ゼロ、15%、20~25%という3つのシナリオを出しましたが、今の枠組みのままだと、ゼロだと料金が2倍になります。しかし、私が言っている15%でも70%上がって、現状維持の20~25%シナリオでも60%料金が上がるということです。これは、天然ガスが原油価格とリンクしていて、原油価格が上昇するという見通しですから、原発を動かせば料金が下がるというわけではなく、原発を動かせば料金が下がる方向にいきますが、燃料価格を下げる別の努力をしなければいけない。努力は2つです。1つは、天然ガスをどうやって安く買うかで、シェールガスの調達問題です。こういう流れの中でどう頑張るか。もう1つが、一番安い石炭を使うことです。ただし、二酸化炭素の問題があるので、二酸化炭素に関するやり方を変えて、日本国内で減らすのではなく、日本の石炭火力の技術を海外に輸出し、海外で燃焼効率が良くなって二酸化炭素を減らした会社は国内で石炭火力を作ってよいといったアプローチでいくということです。

    今日議論する論点の背景には、こういうようないくつかの問題があります。全体としては、原発だ、反原発だという、推進だ、反原発だとネガティブキャンペーンを言い合う時代はもう終わって、現実的でリアルな解決策を考えなければいけません。原発と再生可能エネルギーだけでなく、ちゃんと火力や化石燃料を見なければいけない。そういう総合的な観点が必要ですし、CO₂を減らすにも国際的に減らさなければいけない。いくら日本が原発減らすといっていても、新興国はどんどん建ててくるわけですから、そこにどうやって日本が関わっていくかという国際的な観点が必要です。そして、スマートコミュニティにしても原発側の出口戦略にしても、東京の目線や大阪の目線ではダメで、現場の目線に基づいた地域性が必要だと思います。こういうことを私は考えています。以上です。

    残された時間が30分弱なので、大きく2つのパートに分けてパネルディスカッションをしていきます。エネルギー基本計画およびそれと絡めて原子力・核燃料サイクルの話題を前半戦で行います。後半戦は、シェール革命とそれに伴う再生可能エネルギーの新しい技術開発辺りで、それぞれ発言をいただきます。

    エネルギー基本計画の策定には上田長官はもちろん、柏木先生と私は絡んでいますが、田中先生からエネルギー基本計画についての総括的な印象ないし注文がありましたらお願いします。

    田中教授 :上田さんからよく説明されています。確かに、いまだ数字が入っていないとか、これから具体的にどうそれを進めるのか、いまだ基本的に挙げられていないことはたくさんあります。しかし、いまだ最終的に決定されていませんが、とりあえず方向性は出されたという意味で非常に良かったと思います。

    ついでに原子力の話をすれば、先ほどいったように、私も短期で再稼働していく話と、中長期で核燃料サイクルを含めた答えをどう日本が用意するか。この両方をやらないとなかなか国民は納得しないのではないかという気がします。先日、東大公共政策大学院で泉田知事と公開討論会を行いました。彼は何故再稼働に躊躇するかといえば、①東電が信用できない、②いざというときに日本政府がとるべき緊急時対応対策、これは自衛隊を含む色々なタスクフォースやFIMAのような緊急事態管理庁のようなものがいまだできていないではないかということです。この二番目については、私はもう少し政府がやるべき仕事がある気がします。1番目は、橘川先生が言われるように、他の会社に売り払えばよいというのと、もう1つはオルキルオト型です。フィンランドに見にいって原発に反対された方がいますが、私はあそこに面白い答えがあって、オルキルオト原発には運用している電力会社の本社があるのです。であれば、東京電力が柏崎刈羽の中に本社を移す。多分コスト的には安いのではないかと思うのです。浜岡もそうです。中部電力が本当に浜岡を再稼働したいのなら、あそこに本社を移す。たぶんBWRではそういう時代が来るのではないかと。それくらいの革新的、革命的なソリューションを出さないと、国民は短期では納得しないでしょう。

    長期の話は先ほどの高速炉の話です。ここにいらっしゃる方にぜひ来て欲しいのですが、5月28日に東大の公共政策大学院で、開発している人たちを大量に米国や韓国から呼んで公開討論会を行います。ぜひ来てください。

    橘川教授 :柏木先生は、先ほどあまり原子力のことは言われなかったと思うのですが、如何でしょうか。

    柏木教授 :前の民主党政権のときには、核と人類は共存しないというグループがいましたから、こういう割れたときの合意形成は、自分のいっていることがどこかに引っかかっていないと合意形成ができません。原子力ゼロ、15%、20~25%というシナリオで決めざるを得ないわけです。最終的には政治決断だと思ったのですが、政治決断がまたスライスして、何も決まらなかったわけで、原子力に関しては、最終的には政治決断をするべきであると思います。

    私は個人的には、選択肢は削らないということです。技術屋としては、事故を起こして、はい止めましたというわけにはいきません。原因解明をした上で、それ以上の技術開発をするまでは、やるというのが工学系の人間だと私は思っています。事故解明では、国内の事故調査委員会が3つありましたが、それぞれ少しずつニュアンスが違っていて、明解さに欠けていると私は思っています。IAEAが、そろそろ本格的な報告を出すだろうと思って一応調べましたが、いまだ正式文書は出ていません。しかし、それらしきものはオープンになっていて、津波による電源喪失だとIAEAは言っています。そうなると、原子力に関しては、女川は止まったし、建屋は津波でも残ったわけで、電源喪失がメルトダウンの理由ということであれば、空冷ディーゼルを建屋の上に乗せておけば、シビアアクシデントは99.9%防げたと私は思っています。まず現状の事実をちゃんと明確にした上で、今後の原子力の対応を考えていく必要があると思っています。あくまでも原子力とサイクル、廃棄物処理とは一体で解くべき問題であると思っています。

    橘川教授 :色々意見が出ましたが上田長官、如何でしょうか。

    上田長官 :基本計画の話を先ほどさせていただいたので、今の話も踏まえて、原子力とサイクルについて申し上げてみようと思います。

    1つ目は、原発ゼロの議論というのはたくさんあります。原子力なんかない方がよいと思っている方もこの中にもたくさんいると思います。長期的にゼロにしていくのか、即時ゼロにするのかという議論があります。今、日本に原子力は48基ありますが、原子力政策について、単に原子力があるから継続するのかとよく聞かれるのですが、政府の立場はそうではありません。原子力のないシナリオの可能性も、ちゃんと議論しているということを申し上げます。先ほどの橘川先生のお話のように、現実的ではない政策は存在していないと我々は思っています。原発ゼロにした場合、最大の課題は何か。原子力の分を何で補っていくかということです。ベースロード電源なので、一番可能性があるのが石炭です。石炭は安くて安定供給の面でも問題ないのですが、ご存じの通りCO₂の問題があり、原子力の部分を代替した瞬間に、おそらく日本のCO₂は相当増加します。もちろん先ほどお話のあった多国間クレジット、二国間クレジットなど、色々なやり方があると思うのですが、国内で石炭という一番使いやすい資源をそう増やすわけにいかないのです。二番目は、化石燃料かというと、今まさに原発ゼロなので、化石燃料に代替しています。先ほど申し上げたように、日本の原子力は実際のところ天然ガスと石油で圧倒的に置き換えられているわけですが、コストの問題、中東依存度の問題を始め相当程度の脆弱性があると思います。では、再生可能エネルギーで置き換えたらどうかということで、多くの方がそう言われます。我々も再生可能エネルギーを一所懸命にやっています。ただ、先ほどの数字でいうと、水力を入れても10%、太陽光や風力などで1.6%という数字の中で、これをどれだけ伸ばしていくかという場合に、再生可能エネルギーには色々な問題があります。大きいのはコストの問題です。今、固定価格買取制度という形で、電気料金として多くの方にご負担をいただいているわけです。平均的家庭で電気料金はだいたい6~7000円で、それにだいたい月当たり120円くらい乗せているのが日本の状況です。ドイツの例をよくいわれますが、ドイツにおける平均的家庭の固定価格買取制度の負担額は1月当たり2400円です。年間で約3万円弱です。それだけやってもドイツの再生可能エネルギーは20%くらいです。ドイツは、系統の問題もあり、南の方ではフランスから原子力の電気を買っているとか、アルザス・ロレーヌで石炭が取れるので石炭火力に依存しているとか、色々な問題があるのですが、やはりこの月当たり2400円というドイツの負担は1つの指標になるわけです。ドイツ並みに再生可能エネルギーに取り組んでもそれほど進まないし、その負担に果たして日本の国民と産業は耐えていただけるのかということを考えざるを得ない気がします。そうこうしていくと、結局、原発ゼロの議論というのは、我々からすると、では何によって、どうやって置き換えていったらよいのか、それによって日本経済はどうなるのか、国民のエネルギー政策に対する信頼感あるいは中東に対するセキュリティはどうなるのか。こういうことを色々議論していく中で、先ほど申し上げたような形で、やはり色々なことをミックスしていくしかない。その比率は今の段階でははっきりしていないにせよ、思考実験をしながらこういう結論に達しているということです。

    もう1つ、原子力に関して言いたいのは、先ほどお話にもありましたが、国際性という問題があります。原発がこれから世界で何基建つかのか色々な見通しがありますが、IAEAによると、今、世界でだいたい430基、日本には48基ですが、2030年の最大値は、だいたい倍くらいになります。したがって、世界中に今430基ある原発が同じくらい建っていく。その多くは圧倒的に発展途上国です。安全性の高い原子力発電をいったい誰が供給するのだろうか。原子力事故が起こった瞬間に世界規模の話になります。今、世界に原子力は3グループあります。日本は幸か不幸かすべて入っています。東芝とウェスティングハウス、GEが日立、三菱とアレヴァという連合があります。もし日本が止めたら、これらの国や企業がそのままの原子力を続けていくのは難しいとなります。その後に続くのは、ロシア、韓国、中国のグループです。米国人から、日本は世界の原子力の安全性を維持していく責任をどう考えるのかと聞かれることがあります。私どもは、福島の経験は大変申し訳なかったと思うのですが、その経験を踏まえながら、世界に安全性の高い技術、人財を出していくのも、福島を経験した日本の1つの責務ではないかと思います。

    核燃料サイクルは、ご存じの方も、ご存じない方もたくさんおられると思いますが、簡単にいえば一度使った使用済燃料をリサイクルして使っていくということです。軽水炉で使った使用済燃料からプルトニウムを取り出し、MOX燃料として軽水炉で燃やすというのがプルサーマルです。将来はそれを高速炉で燃やしていくわけです。1つ大きな視点は、最終処分場との関係で、使用済燃料を最終処分していくと、いったい、どれくらいの量で、どれくらいの期間がかかるのかという議論があります。使用済燃料をそのまま地下に埋めると、通常の天然ウラン並みになるまでに10万年かかります。10万年というのは大変な期間です。先ほどIFRの議論がありましたが仮に高速炉で処理するとアクチノイドは核分裂が進むことによって10万年の期間が約300年になり、容積が約1/7になるといわれています。核燃料サイクルの議論は、日本は資源が無い国なので、ウラン燃料を有効に使っていくべきという議論に加えて、使用済燃料の長期的な有毒性を低下させていくとか、保存期間を短くするという観点が非常に重要だと思っています。それから、最終処分場について、日本で10年色々やってきましたが上手くいっていないのは残念としか言いようがありません。政府にも責任があると思っていて、最終処分場の適地選定のプロセスを変えてみようという議論を政府の中で行っています。東洋町の例がありますが、今までは地方自治体に最終処分場になってもよいと手を挙げていただき、色々調査していくというスキームでした。しかし、なかなかそういう形では上手くいきません。たとえば、火山のあるところには最終処分場は作れないわけで、火山や地層を見ながら、どういうところならば最終処分場が可能かということを、むしろ政府の方から最終処分場の候補のところにやっていただけないかと提案をする形に最終処分のプロセスを変えてみようと思います。そのために、昨年末に最終処分に関する関係閣僚会議を作ったわけです。遅きに失した、トイレなきマンションという批判はあると思いますが、我々としてはそういう方向で最終処分についての取り組みを強化していきたいと思っています。

    橘川教授 :ありがとうございました。一言だけ国民の目線から申し上げたいのですが、今、原子力問題に関して、世論調査で2つの面白い矛盾する現象が起きています。中長期的に原発の見通しを聞くと、最大多数は将来ゼロで、即時ゼロや永久に使うというのは少数です。将来ゼロとは、当面の再稼働はある程度認めることが含まれますが、短期的に再稼働にYESかNOかという質問をするとNOの方が多いわけです。

    一見すると国民が矛盾していることを言っているように見えるのですが、たぶん国民の心の中にあるのは、冷静に考えると直ぐ止めることはできないのは分かる。ただし、再稼働のさせ方が色々曖昧なところがあり、知らぬ間に再稼働のボリュームがどれくらいになるか分からない状態で再稼働をしてしまうのは嫌だというように、再稼働の仕方に対して拒否反応がある。これが、今の日本の国民の姿ではないかと思うのです。今後もぜひ政府にはプロセスの透明化をきっちりやっていただきたいと思います。

    それでは後半の議論です。我々はこの間3・11に目を奪われていましたが、世界を見るとシェール革命というエネルギーの世界をひっくり返しかねない凄いことが起きています。その中で色々な技術革新を日本は行わなくてはならないと思います。シェール革命が進む状況の中での技術革新というポイントで考えると、どの辺りを日本のエネルギー産業は考えていかなくてはいけないとお考えかお聞きしたいと思います。順番を逆にして、上田長官からお願いします。

    上田長官 :シェールガスの話は先ほど申し上げた通り、私が思うのは、電力システム改革の議論で、日本の場合は実際に使われているガスの6割は発電用で、実は、電力の競争にガスは非常に重要と考えています。そういうところを一所懸命やる必要があると思っています。もう少し広い目で見るとシェール革命そのものは、橘川先生の資料にもありますが、米国がエネルギー輸出国になっていくということで、中東への依存が必要なくなっていく。地政学的にいって中東情勢では長期的に米国のコミットメントが低下していく可能性がある中で、我々はどう考えたらいいのだろうかということがあります。非常に長期で見ると、やはりガスを中心とした新しい安全保障、LNGを中心とした安全保障のシステムを、アジア太平洋に作るべきで、橘川先生の資料にありましたが、私は、今まで中東に対して石油備蓄、シーレーン防衛を中心とするエネルギーの安全保障システムから、LNGとアジア太平洋を中心とする少し別なシステムへと不可避的に変わっていくのではないかと思っています。技術開発も含めてそういう辺りの色々な措置が必要と思います。

    橘川教授 :柏木先生、如何でしょうか。

    柏木教授 :これからのエネルギーに関する日本の特化すべき技術開発は何かということを随分前に4つのキーワードにまとめました。エネルギーマネジメント、エネルギー貯蔵、パワーエレクトロニクス、そしてコプロダクションです。コプロダクションとは、たとえば、石炭ガス化で、物質を取って、ガス化したものをIGCC(Integrated coal Gasification Combined Cycle)のコンバインドサイクルで電気を取って、熱をまた使うというように色々なものを併産していくものです。

    電力は極めて有用な商品で、これを作るには、今までは化石燃料を燃やすということでした。燃焼を伴って熱機関を回すわけです。原子力は核分裂で蒸気タービンを回すので、これも熱機関を回します。これに対して、太陽光発電は光から電気に直接変換します。燃料電池は電気化学的な変換です。いずれも燃焼を伴いません。日本が燃料電池という極めて大型の商品を商品化したわけですから、シェールガスも含む化石燃料のガスシフトという中で、水素キャリアは非常に有用な一次エネルギー源だと私は思います。水素をキャリアとして捉えると、水素・燃料電池ではカルノーサイクルの限界効率を超えますから、今後の技術系としては非常に有望で、日本の成長戦略にもつながっていくと考えています。熱機関では規模のメリットがあり大きくないとなかなか効率が上がりません。ところが、太陽光発電では小さくても効率は変わりません。燃料電池もそうです。スタックを重ね合わせれば大型になりますが、効率はあまり変わらずに、非常に高い効率を示します。分散型電源と大規模電源の併用の中で、需要側がデジタル化してくるというのがもう1つ重要なことで、インターネットとエネルギーが一体化してくるところに日本のこれからの大きなパラダイムシフトが成されていくと思います。その源がガスです。

    橘川教授 :田中先生、如何でしょうか。

    田中教授 :シェール革命の重要性については、IEAも随分昔からいってきています。それによって世界が変わるくらいの大きな革命的変化が起こりつつあるということですが、確かに米国は中東から引きつつあります。最近の国防関係のレビューを見れば明らかです。アジアにシフトします。そうすると我々は一体どうするか。中東におけるホルムズ海峡の自由通行に対してもそれなりのコミットをさせられる可能性があると思うのです。中国がどうやっているかというとパイプラインです。シーレーンを守るのは非常にコストが高いですから、パイプラインの方が安いということで、ガスについては、トルクメニスタンからパイプラインを引いて、ミャンマーからも引いて、いずれロシアからも買うでしょう。既に国内パイプライン網がありますが、遅れているとはいえそのうちシェールガスを中国は本気でやります。こうして、セキュリティ確保を図るのです。海外から輸入しているガスのうち、50%以上がパイプラインで、パイプライン網が東アジアにおいてどんどんできてきます。

    石油でも同じようにできています。先ほど上田さんが、原子力を止めて一体何で置き換えるかという話をしていたときに、たとえば、ネットワークで考えると隣国の電力で置き換えているのがドイツです。ネットワーク化が進むことで集団的安全保障をエネルギーの世界で実現しているのがヨーロッパです。アジアにおいてもこういうことが起こってくるのは必定です。北米でもそういうことは起こっているわけです。東と西と真ん中と南北をつないで、部分的に起こるのですが、その実態からすると日本が何をしていけばよいかということです。アジアで起こっていくことの外で孤立しながら、孤独にLNGや石油を輸入してエネルギーセキュリティを図るというのは、中長期で見ると、ありえないオプションです。そうすると、第1に、パイプラインです。ロシアから買ってくるということで、今が絶好のチャンスです。これからウクライナを巡って色々と議論はあり得ますが、当然それはやらなくてはいけません。それから、電力線をつなぐ、韓国と電気をシェアする、いざというときに融通し合うということも必要なことだと思います。ゴビ砂漠から太陽光発電などの電気を買ってくるという孫正義さんの構想がありますが、いずれにしてもそういうネットワークの中で生きていくことを前提に置きながら対応策を考えなくてはいけません。技術では、柏木先生が仰ったとおり、水素は非常に重要だと思います。現にそういうことをやっている会社もありますし、ケミカルハイドライド法で運ぶとコスト的には安くなる。千代田化工建設の話ですが、ガスから取り出したときに二酸化炭素を地下に捨てて持ってくれば、クリーンエネルギーですからフィードインタリフの対象になって、大型タンカーで運べばkWh当たり10円で水素が供給できるというのです。10円は相当安いので、日本はこれから水素をエネルギーを運ぶための1つの手段として真剣に取り組むべきだと思います。メタンハイドレートも、まだまだコストがかかるかもしれませんが、取り組んだらよいと思います。

    他の技術は、先ほど言ったIFRのような次の原子力の技術です。軽水炉路線でという説明ではもうもたないですし、先ほど捨てる場所の話を上田さんがしていましたが、高速炉ですと300年となるので、300年置いておく。捨てるのではなく管理する世界に入ってくると思うのです。10万年だと捨てないと困りますが、技術によって色々な未来が変わってくるので、少し柔軟にかつそういう議論をしながら将来を考えていくということが必要だと思います。

    橘川教授 :ありがとうございました。お聞きになっている方々も、色々な論点が出てきてバラバラだなとお感じでしょうが、今日は勘弁してください。エネルギー問題に重要だと思われる論点を色々な論者の方に語っていただき、その中から皆さんが、何が重要かという論点を拾っていく場がサロンと理解していただきたいと思います。

    最後に一言私からです。今、ガスシステム改革に取り組んでいます。電力は10社ですが、ガスは209社です。小さな会社もあるので少し時間差を付けて規制緩和をしたらどうかという意見もあったのですが、ヒアリングをしているとそんなことはいっていられないという感じです。自由化した会社と、自由化されない規制下の会社がいたら手の打ちようがなくなってしまうので、一斉にガスシステム改革をして欲しいという意見が出ています。つまり、エネルギー業界は大きく変わろうとしています。これからは、経営力があるところが勝っていく時代で、原発を持っているから競争力があるという時代から、たぶんシステムインテグレーターとして、自分のところの電力システムを使えば、太陽光、風力のような不安定で厄介なものが供給サイドにあってもお客様には停電なしで電気を届けますという会社が勝つ時代になるかもしれません。それに一番近いのは、もしかすると、発電所を売ってしまった東電かもしれないというダイナミックな時代がやってくると思うのです。そういう意味で、政府の政策は非常に大事なのですが、我々需要家側もデマンド・コントロールにどう取り組むかということで、民間こそがエネルギー問題にどう噛んでいくのか、きっちり考えていかなければいけないと思います。

    そういうことで、色々論点が出たということで、第1回のサロンをこれで終わらせていただきます。最後に、司会の安藤さんからまとめをしていただきたいと思います。

    司会 :以上をもちまして第1回資源エネルギー政策サロンを終了します。サロンの第一部がお開きということですが、会場の中をご覧になると、ご友人やお知合いが大勢おいでではないかと思います。この90分間でキックオフの議論をさせていただきました。また、お手元には、一橋大、東工大、あるいは実業界からの執筆者に田中先生の特別寄稿を含め14章構成の『エネルギー新時代におけるベストミックスのあり方 一橋大学からの提言』をお配りしています。ぜひご覧いただき、この中も含め、みなさまで議論を深めていただく。これが「サロン」の本当の趣旨です。

    本日は皆様ありがとうございました。今一度、ディスカッサントの皆様に大きな拍手をお願いします。