日本経済再生に関する共同公開セミナー
- 内閣府経済社会総合研究所、財務省財務総合政策研究所、独立行政法人経済産業研究所 - (議事概要)

イベント概要

  • 日時:2013年10月17日(木)13:45-17:00(開場13:15)
  • 会場:日本学術会議 1階 講堂 (東京都港区六本木7-22-34)
  • 議事概要

    平成25年10月17日に開催された「日本経済再生に関する3研究所共同公開セミナー」は、内閣府経済社会総合研究所(以下ESRIという)、財務省財務総合政策研究所(以下PRIという)、独立行政法人経済産業研究所(以下RIETIという)の共同開催という初の試みであり、多くの一般参加者の下、経済の最新動向についての点検と併せ、アベノミクスの成果の検証と今後の課題について議論が行われた。

    セッション1では、ESRIの清家名誉所長、PRIの中原所長、RIETIの中島理事長の挨拶の後、3研究所からの報告が行われた。内閣府の杉原大臣官房審議官による報告「動き始めた好循環」では、最新の経済データに基づき、アベノミクスを受けた経済の3つの好循環の分析が報告された。まず、第一の矢「大胆な金融政策」などによって、支出・生産・所得の好循環が動き始めていることが確認された。次に、第二の矢「機動的な財政政策」である短期的な景気下支え策と中長期の債務累増への対応によって、経済再生と財政健全化の好循環を実現することが説明された。最後に、第三の矢「民間投資を喚起する成長戦略」によって、企業の前向きな行動とマクロ経済環境の好転の好循環を起こすことの重要性が指摘された。

    PRIの保井次長による報告「リスクマネー供給によるオープンイノベーションの加速」では、企業のイノベーションのボトルネックとなっている「レバレッジポイント」に対して、アベノミクスにより政策対応が行われていることが報告された。国によるリスクマネー供給が民間資金の呼び水となりイノベーションの隘路を打破すること、公的セクターがリスクマネー供給を行うことで収縮した金融機能の補完を行うこと、案件の発掘からリスクマネー供給までをワンストップで実施できるプラットフォームを提供し、社内外のリソースを活用するオープンイノベーションを加速させること、公的セクターによるリスクマネー供給に対するガバナンスの仕組みが整備されていること、ならびに家計からも成長マネー供給が行われるような資金調達の多様化を進めることの重要性が議論された。

    RIETIの森川副所長による報告「成長政策の経済分析」では、成長政策が全要素生産性(TFP)を高める効果についての分析が報告された。米国小売業の分析では生産性上昇には企業の「新陳代謝」がほぼ全てを説明することが紹介されたほか、人口密度が高い地区の事業所ほど生産性が高いため人口減少社会では稠密な都市構造(コンパクト・シティ)が重要であること、生産性上昇の内訳として労働の質向上が大きく寄与していることが指摘された。また政治の安定により政策の不確実性を払拭することで、企業の前向きな行動を促し経済成長率を高める効果が期待されると報告された。また日本の潜在成長率は計測上の問題で過小評価されている可能性が指摘された。

    セッション2のパネルディスカッションでは、松元内閣府事務次官の挨拶の後、セッション1での報告などを踏まえ、伊藤隆敏東京大学公共政策大学院院長、伊藤元重東京大学教授・経済財政諮問会議議員、RIETIの中島理事長の3名のパネリストにより、アベノミクスが今後の日本経済にもたらすと予想される変化と課題などについて意見交換が行われた。

    伊藤隆敏教授によるプレゼンテーション「アベノミクスによる日本再興:第三の矢を早く」では、アベノミクスは「デフレ均衡」から「成長均衡」へのジャンプを目指すものであると整理された。1998年から2013年までの15年に渡るデフレ期間は、デフレ期待によりプラスの実質金利が投資を停滞させるとともに、耐久消費財の買い控えや賃金下落により消費の停滞が生じ、負のGDPギャップが解消されずデフレが定着するという「デフレの罠」に入っていたと指摘された。デフレ期待を克服するためのインフレ目標政策、低い総需要を克服するための財政政策、低い潜在成長率を克服するための成長戦略により、安定成長経済を実現することが重要と指摘された。今後アベノミクスによる日本再興の成功は第三の矢の実行にかかっており、たとえば規模の拡大やブランド化による強い農業の実現、医療・介護やエネルギー分野の改革、女性労働活用などが重要と指摘された。

    伊藤元重教授によるプレゼンテーションでは、デフレ下の成長は困難であるためまずはデフレ脱却が重要であり、消費や投資を控えさせるデフレマインドを払拭することの必要性が指摘された。成長戦略については、通常の中長期的な生産サイドの改革のみならず、民間投資を喚起する即効性のある成長戦略でリスクテイクを後押しすることが重要であり、その際2020年の東京オリンピックを活用し投資の前倒しを積極的に促進すべきと指摘された。一方で財政再建を実現するため、債務GDP比率が200%を超えても国債の信任が得られるような強い経済を保つとともに、追加的な消費増税の議論を行っていく必要性が指摘された。

    中島理事長によるプレゼンテーション「アベノミクスがもたらす変化と課題」では、財政金融政策による景気刺激に持続性はないため、民間活力を主体とした持続的成長が重要と指摘された。短期的にはデフレ脱却とともに企業の売上増加で賃金と雇用が拡大すべきこと、長期的にはヒト(人材力強化)、モノ、カネ(産業高度化・差別化)を一層活用することが重要であると指摘された。更に日本の経済社会のあるべき姿を国民として決めていくことが必要とされた。現状では、少しずつ大きな政府に向かっているものの、年々社会保障を充実させ福祉国家になりつつある訳ではなく、所得再分配後の相対的貧困率は米国に近似する水準となっている。経済成長を高める自律的メカニズム(規制緩和を含めて市場経済を重視)とともに、将来不安の少ない社会保障システム(健全な財政基盤、国民が安心できる給付水準など)を構築することで、経済成長、財政収支、社会保障間のバランスを保ち、豊かな日本型経済社会を構築することの重要性が指摘された。

    パネリストによる討論では、投資を促す成長戦略について、第三の矢としては大胆な規制改革や構造改革の重要性が強調され、こうした改革を進めれば、民間投資が増えていくとの指摘があった。また、デフレマインドを払拭することで家計からのリスクマネー供給を得ていくこと、またリスクテイクする起業人の不足を改善していくための人材育成の重要性などについて議論が展開された。

    アベノミクスの方向性とスピードについては、第一・第二の矢は成功を収めており、第三の矢の果断な実行が必要であること、民間活力が出てくるまで連続的に政策を展開することが重要との意見が述べられた。財政問題については、2020年にプライマリー・バランス黒字化を達成していくためには、経済成長率が高ければ消費税15%、成長率が高くない場合には20%が必要との指摘があった。また、財政健全化が進まない中で、非社会保障支出のGDP比がOECD各国の中でも最低水準に近いところまで低下し、財政の内容を悪化させている問題も指摘された。

    一般参加者からの質疑応答では、報告者に対し、公的リスクマネー供給のガバナンス、直接資産課税の影響などについて質問があった。