RIETI政策シンポジウム

技術革新の担い手となる中小企業とは~京滋地域クラスターの可能性~

イベント概要

  • 日時:2007年11月19日(月) 13:00~18:00
  • 会場:京都大学百周年時計台記念館 百周年記念ホール (京都大学 吉田キャンパス本部構内)
  • 主催:京都大学経済研究所付属先端政策分析研究センター )、独立行政法人経済産業研究所
  • 後援:近畿経済産業局、京都府、滋賀県、京都市
  • パネルディスカッションII議事録

    市原氏:
    行政のお立場の方が多いので、日頃どういうことをされているか。その地域、特に中小企業向けにどういうことをされているか。そのお話をしていただいている間に、フロアからパネルディスカッションIの後の休憩時間にいただいた質問を先生方に振るということで進めたいと思います。中小企業と行政側の距離感を少しでも埋める中で、少なくともこれからの打つ手に多少なりとも影響を及ぼす1時間になればと思います。また、どのような中小企業を支援の対象としていくのかということを含めて、お話し頂きたいと思います。

    尾沢氏:
    一生懸命やっている中小企業で、ヒト・モノ・カネ、その不足している部分をもし必要であれば支援していくという姿勢が重要であると思っています。海外のクラスター事例を参考にして国内の産業クラスター等、京滋クラスターのほうで何が活用できるか、私見を交え、述べさせていただきます。

    シリコンバレーは、ターマン教授が起業を促進したことでも知られている世界的に有名な事例です。ドルトムントのクラスターは、鉄鋼・重工業の産業地域が戦後廃れていった後に誕生しました。日本の石炭産業が衰退していったことと似たような経過をたどっていった中で、ドルトムント大学がここを活性化していくために、シリコンバレーに匹敵する産学官の連携体を構築しつつあります。フランスのソフィア・アンティポリスは、地中海側の非常に風光明媚なところですが、パリ鉱山大学ラフィット教授が発起人の1人と言われています。この風光明媚なところに、良い研究環境をもっと継続発展させていかなければならないと強く感じて作られています。この地域にDEC(デジタル・イクウィップメント・コーポレーション)、IBM、TI等の主要な国際企業がありましたが、リストラが行われて、研究者があぶれていたことが有力なリソースを生んだと思います。

    これらの事例の非常に重要な特色は、大学・研究機関でキーになるところがかなりあった、それから、革新的なマインドを持っている人たちが多くいたことです。かつ、地域での危機意識が強かったということが特徴と思います。それから、ベンチャー企業に対するファイナンスを中心とした互助体系、節度ある政府・自治体の関与、リスクを恐れない風土や儲けようという意識、これらが外国の先進国の場合非常に強いと感じています。

    また、日本の場合、現在ポスドクがたくさんいらっしゃるが、社会に出ていかないのはもったいないと思います。アメリカのポスドクやドクターコースの人間は、社会、企業への就職率が高い。非常に多角的な人間形成が行われる環境がやはり必要だと思います。大学のみならず、企業の中に入ることも必要だと思います。人材の交流促進としても、やはりある一定のところへ留まるよりは、もう少しフレキシビリティをもって組織の活性化を図るような、流動性も必要になってくるのではないか、と感じています。京滋地域の強みと弱みとしては、ご案内のとおり、クラスターとなる核は非常に多々あります。京都を中心として起業家精神豊富な方が多い。それから、先ほど紹介しましたフランスのソフィア・アンティポリスは、京都のように歴史と文化、憧れの街であるという意味での地域の魅力にあふれている。これは非常に重要で、仕事と遊びをうまく組み合わすということが必要になると思っています。ただ、弱みとしては、西欧の例に見られるような地域崩壊という危機感が少し弱いのではないか。また、京滋のみならず全国的にそうですが、産学連携がポーズのみになっているのではないかという課題があります。

    私ども経済産業省では、産業クラスター計画を6年ほど続け、現在2期目で自立的発展に向けてやっています。そのなかで、大企業と中小企業の連携につきましては、特に中小企業の方が常々感じているのは、自分たちの技術をうかつに出すと大企業に乗っ取られるというところがあって、なかなか連携の進め方が難しい。そこで、「情報家電ビジネスパートナーズ」を実施しています。冒頭の古瀬課長の講演でご紹介があった新しい制度が来年度はありますし、今年度から地域資源の研究開発もやっています。また、産業クラスタープロジェクトの会員企業の有望な製品・サービスを表彰する「関西フロントランナー大賞」をやっています。いろいろと不十分な部分はありますが、クラスター事業というのは皆さんにもオープンな組織です。もしご関心のある方は1度顔を出してみて、これは使えそうだなと思ったら、ぜひ色々と活用していただければと思っています。

    白須氏:
    世界的に活躍されている企業も多いということで、京都のイメージは、全国的にものづくりという点でも高いと思っています。京都は全国の都市の中で12番目に工業の出荷額が多く、京都市内でも2兆2700億円の出荷額があります。しかし実態でいうと、最近は厳しい状況になっています。ピーク時の平成2年には大体3兆3000億円の出荷額がありましたので、約3分の2に落ちています。かつては全国で6、7番目くらいに工業の出荷額が多いこともありました。事業所数でいいますと、京都の工業の事業所数が一番多かった時は1万6000くらいあったのが、今は7000くらいになっており、半分以上減っています。また、従業員数も約15 万人だったのが約8万人になっております。そういったことですから、非常に活躍されている企業がある反面、京都の経済はトータルとしては厳しく、楽観できない状況にあります。

    そういう中で、京都市としては産学連携のもとにどのような形で産業振興の取り組みを進めていくのかを検討し、平成14年に策定した京都市スーパーテクノシティ構想に基づき、新たな分野の産業の振興、ベンチャー、新事業の創出に取り組んでいます。

    京都市には工業技術センターと繊維技術センターがあり、合わせて産業技術研究所になっておりまして、試験分析や技術指導などを行っています。資料をお配りしている工業技術センターは企業との接触が非常に深く、皆様の要求にさまざまな形で対応することができます。実際、大学からも連携先を探すのに活用され、企業と大学と工業技術センターで、色々な形の国のプロジェクトを、外部資金も確保して進めています。

    また、(財)京都高度技術研究所(ASTEM)もさまざまな役割を果たしています。もともとは研究開発受託事業が中心でしたが、最近は特に産学官の連携による研究開発プロジェクトの推進に力を入れており、経済産業省、文部科学省、(独)科学技術振興機構(JST)等のさまざまな外部資金を活用したプロジェクトの中核機関や管理法人になっています。創業支援に関しては、起業家学校、学生ベンチャーの支援などを行っています。まずここで創業準備をし、その後、VIL(ベンチャービジネス・インキュベーション・ラボラトリー)、VIF(ベンチャービジネス・インキュベーション・ファクトリー)、そして京大桂ベンチャープラザ、クリエイション・コア京都御車といったところでベンチャーの皆さん方が大学と一緒になって共同研究を進めていただく場を提供しています。知的クラスターのナノテク事業創成クラスターもASTEMが中核機関となって現在事業を進めていますし、桂イノベーションパークでも、京大桂ベンチャープラザで新事業の創出を進めています。さらに、バイオ産業につきましても、バイオ産業技術フォーラムを設けて、その中で研究会等を行っていますし、JSTの資金をいただきまして、ナノメディスンの拠点基盤技術開発事業の中核機関もやっています。また、近畿経済産業局のバイオの拠点にも位置づけていただきバイオ創出の支援プロジェクトを行っています。

    以上のように、京都市はASTEMと一緒になって、新産業の育成、新事業の創出を大学、企業、地域と一体となって進めていくという取り組みをしていますので、我々のほうも働きかけていきたいと思いますが、企業の皆様方もぜひ何かありましたら、積極的にプロジェクトに参画されたりご相談いただきたいと思います。

    中村氏:
    滋賀県の概況と工業技術総合センターの紹介をさせていただきます。滋賀県は製造業でもっているということで、全国第1位の製造業比率です。全国平均の約2倍ということで、非常に特化した形になっています。ものづくりが滋賀県を支えているということです。また、特に南部で人口も増加傾向にあります。滋賀は交通の要衝です。いま一番期待されているのは第2名神、新名神で、大津の辺りまで、来年の春に開通します。その先には亀山があり、トヨタ王国があるということで、非常に期待の持てるところです。

    工業技術総合センターは、栗東と信楽で38名という小所帯でやっています。企業支援ということで、技術的な相談、支援、それから機器類を企業の方のために置いて使っていただくというサービスです。また、新技術の開発ということで、企業の方と一緒に共同開発をする。それから、産学関連も研究会等で力を入れています。

    機器が非常に有用だということで、年間7400 件くらい使っていただいています。非常にスピーディに対応させていただいているということ、全面開放ということによりまして、この活動は全国平均の約2倍です。職員1人当たりの仕事量としては、全国平均の3倍くらいということで、力を入れています。

    産学官の連携の共同研究も、年間30件弱でやっています。研究会活動は、現在8つほど事務局等を持たせていただいています。これが企業の方と大学の先生方の交流する場所です。

    現在は県内に4年制の大学が9つあります。この20年間で7つできたことが特徴です。現在、学生数でいうと人口当たりで全国第4位で、非常に上位に上がってきています。また、大学ができるとほぼ同時期に産学官連携部門、インキュベーション施設といった支援関係の基盤をすぐ作っていただいており、この基盤づくりは他の大学よりも早かったのではないかと思います。また、民間研究所も多く、12 位につけております。大体南部のほうに集中して立地しています。

    それから本日のテーマである開発型の中小企業の方に、どう活躍していただくかということにつきましては、一例としまして都市エリアでやっております医工連携ものづくりのクラスターというものを県の南部に作っていきたいと考えています。

    最後に、京滋地域では、けいはんなも含め、非常に多くのプロジェクトが行われており、大変たくさんの成果が出ていると思います。いよいよ事業化段階になりますので、その時点でやはり企業レベルでも交流が進めば、1つ大きなステップが超えられるのではないかと、期待しています。

    牧野氏:
    本日は、時間の制約もありますので、大学一般についてではなく、私ども京都大学についてお話ししたいと思います。

    私たちは7月1日に大改装を行いました。これによって、非常にわかりやすいシステムになりました。産官学連携本部というものがあります。その下に私どもの産官学連携センターがございまして、私たちがそこを実働部隊として動かしています。

    この中身ですが、大きく分けまして産学連携とベンチャー支援があります。これが私たちの産官学連携センターの業務であり、メディエーターとして特許を扱っています。特許業務に関しては大幅な見直しを行い、現在大変な状況が発生しておりまして、千数百件の特許がたまっています。今後はアウトソーシングでのマーケティングによって特許をより分けていこうと考えています。こういうことをメディエーターにして、共同研究を行いたい。それから、ベンチャー支援を行いたいということです。

    共同研究ですが、たとえば振興調整費、10年間で150億ほどのものが2つ来ているわけです。そういうのがまた大学に恐らく入ってくるだろうと思います。政府のお金は5年でまた違うものに移っていきます。大学はそのようなことに大変な努力を払わないといけないことになってきています。

    もう1つ大学にとって頭が痛いのは、世界ランキングというものがあります。大学同士もグローバリゼーションをしないといけない時代が来ています。世界ランキングをどこまでもっていけるかという国の威信をかけた競争が行われている。大学はそこにも注力をしないといけないということです。私どもの大学は今世界で25番目で、東京大学は15番目くらいだと思いますが、一気に50からはみ出る可能性もたくさんあるわけです。ですから、そういうところにも注力しながら企業との共同研究もやらなければなりません。

    このため、企業との共同研究に関しましては、ドライにいこうと思っています。ウェットにやっていくというのが今までの産学連携とか知財の取り扱いだったと思いますけれども、とても手が足りないような状況になっています。しかし一方では、地域社会の大学のクラスターも作らないといけないし、そういう中でどこがどういう割り振り、受け持ちをするのかも考えなければいけません。大学も正しいデータを提供することができれば、これはなかなか難しいのですが、それに則って選択をしていただけるかと思います。

    山下氏:
    実は、産学連携は昔からやられておりまして、京都では産学連携で育った企業はたくさんあります。しかし、そういうことに参加されていない企業をどのようにクラスターにもっていったり、産学連携にもっていったりするかというのが最大の悩みでした。そのために2つやっておりまして、1つはどのようなプラットフォームを作ったらそういうような意欲が出てくるかということです。一例として、試作のプラットフォームがあります。これは製品開発型だけでなく、部品加工も入っています。目的は、ちゃんとしたお金を払ってくれるユーザーがいるところでそういうことをしようということです。大学のシーズを生かして、商品開発をして、売り上げに立つまでにどれだけの時間がかかるかということを考えますと、なかなか中小零細では取り組めない。しかし、試作ですと、必ず試作品を作ったらお金を払ってくれる方がいらっしゃいます。こういう仕組みの中で産学連携をやったり、企業間連携をしたりすることによって企業が変わっていくということで、こんなプラットフォームを作らせていただきました。そこに市原社長がいらっしゃいますが、去年の夏に新しい会社(京都試作センター株式会社)を作って、去年の売り上げが半年で5000万、今年は目標2億くらいになっておりました、本当にいろいろなところからいろいろな注文が来ているというような状況でございます。

    また、京都は伝統産業がたくさんあるわけですが、固有の技術はもっているけれども、1つのコアの技術だけしかもっていない。それでは製品ができない。そういうような方にどんなビジネスチャンスを作るのかということで、伝統産業のデータベースを作って、そこへ発注をしていただいたら、その発注元に対して適切な商品を開発して提供を申し上げる。このような例もございます。プラットフォームができると、本当の仕事が目の前にあると企業さんの技術レベルがどんどん上がっていきます。

    それからもう1つは、企業さんが面白がって何かにチャレンジしようとするような仕掛けを作るということだと思います。映画産業の事例があります。映画撮影所があるのは日本では東京と京都だけですが、その映画の撮影所をどんなふうに使って色々な人が面白いことができるのか、ということを提供させていただこうということです。その一例として、商店街で妖怪のイベントをやらせていただきました。世界妖怪会議が京都の映画村で開催されると聞き、妖怪をテーマにしておられる商店街がお話をすると早々に乗ってこられて、電鉄会社や大学が入ってこられて、学生さんが妖怪の服を着て歩いたりして非常に盛り上がり、ある商店街では妖怪のグッズを開発することになっています。妖怪ラーメンはもうできていますけれども、妖怪のグッズの開発をしようというところまで来て、実は、他府県ですが15億円くらいの売り上げを立てている企業も出てきている状況です。こういう皆さんが面白がって、産学公が協力し色々な人が参加する中で新しいビジネスが起こっていくような仕掛けを作っていくというようなことを、いま一生懸命やっております。

    つまり、もう1度復唱させていただくと、どんなプラットフォームを作ることによって今まで食いつきの悪かった方に食いついていただくか。もう1つは、面白くみんながチャレンジするようなストーリーをどういうふうに作っていくかというのが、我々の最大の課題になっています。

    市原氏:
    ありがとうございました。フロアからのご質問で「パネルディスカッションのIをお聞きしたら、どうも産学連携がまともにいっているとは思えない。解決方法として、大学は技術のデータベースのみならず、それらがどのような商品になる可能性があるのかということをウェブ上に全部公開していただきたい、それから、中小企業のほうは、大企業が横取りする可能性がない形でどこかにデータを公開し、それを行政のコントロールの中で怖がらずに自らをそこにさらけだすような仕組みが必要ではないか」というご提言をいただいております。それに関して、白須専務には、大学と中小企業が情報を交換する仲立ち役としての行政のお立場から、それから牧野先生には大学としてそのようなことが可能かということを、それぞれコメントして頂きたいと思います。

    白須氏:
    大学には地域共同の研究の窓口ができています。リエゾン機能を持つ組織というのは確実にありますから、大学と連携するにはそこへ行かれるのが一番の早道だと思います。

    また、公設の試験研究機関や、京都でいうと(財)京都高度技術研究所、(財)京都産業21などの公的産業支援機関に相談に来ていただいたら、これらはそれぞれに大学と独自のネットワークもありますので、そのような相談もさせていただくことが可能です。うまくいく例というのは、何かやりたいことを企業がお持ちで、そのことについて専門家やその研究をされている方を見つけることであろうと思います。そこのところは大学に行かれるなり、公設の試験研究機関なり、産業支援機関に行っていただきたいと思います。

    中小企業の方は、大企業の方と話しをされる場合、情報のノウハウの流出を非常に恐れられます。知財に関しましては発明協会が専門機関ですし、最近は京都府と発明協会でも新しい取組をされておられますので、そういったところを活用しそのノウハウの部分をきっちり抑えることが重要であると思います。知的財産権の管理の問題は、これからより重要になってくると思います。

    市原氏:
    ありがとうございました。牧野先生、先ほどおっしゃったように大学が国際競争の中にある一方で、地域の色々な要請に応えていくという二律背反する事態に対して、これからどういう対応が大学として可能でしょうか。

    牧野氏:
    非常に難しい局面を色々と迎えている時代だと思います。一番の問題は、たとえばアメリカの大学と比べますと、資金的な裏付けがわが国の大学にはありません。アメリカでは、大学全体の基金の総額は日本の国家予算の半分以上あります。こういうものをもちながら、大学は安定して授業を行っている。たとえばスタンフォード大学は、ピュアなサイエンスからテクノロジーまでの非常に大きなところを一貫して育てるインキュベーションが真骨頂だと思います。そこで出てくるサイエンスも技術も、それから人も、非常に立派なのが出てくるということだろうと思います。

    大学はそういう方向に向かわないといけないと思うのですが、その中で、ではどのように地域と密接にやっていけるかということですが、これはやはり話をする以外にないと思います。ですから、産官学連携センターにはそういうファンクションがあり、企業から相談が来ますと、たとえばそこにいる澤田先生がそのコーディネーションをやっています。

    これはうまくいく場合といかない場合とあるのですが、肝心なのは企業の方がそういう先生方の話を理解できるところまで用意してきていただかないといけない、ということだと思っています。2006年度は、大企業の場合は32相談に来られたうちの20、中小企業の場合には多少割合が低くなりますが、52相談に来られたうち11でやろうというふうになっています。そういう窓口がありますから申し込んでいただいて話をすれば、それくらいの可能性は出てくるというふうに思っています。ただし、相談の1回目は無料で、あとは有料になります。

    市原氏:
    ありがとうございました。フロアからのご質問と、先ほどのパネルのお話と重なっているものが1つあります。中村所長にお尋ねしたいのですが、特に中小企業には色々な機器を借りたいというニーズがあります。その場合、近場になくて非常に遠いところまで行かなければならないことがありますけれども、大学等の色々な施設の全部をうまくまとめるようなことが行政的にできれば、遠いところまで行かなくてもできるのではないかというお話ですけれど、いかがでしょうか。まず、牧野先生からお願い致します。

    牧野氏:
    各大学が企業に提供できる装置類をリストアップして、そしてネットワークで申し込んで使えるようにするという、文部科学省が推進しているプロジェクトがあります。まだ熟成しているわけではありませんから、調べていただかないといけないのですが、かなり大がかりな装置まで使えると思います。無料ではありませんが、たとえば私どもの大学では、アクセレレーターを2方向から使って非常に特殊な材料の破壊強度等を調べるような装置も宇治に出てきており、かなり大がかりな装置も使うことが可能だと思います。

    市原氏:
    徐々にではあるそうですが、その方向に動いているというご報告です。中村所長、お願いします。

    中村氏:
    機器、分析測定器関係のニーズは非常に高うございます。何百万もの機器を1社で準備して、使用する頻度が年間10回、20回ではとても採算が合いません。そのような場合、県の出番であると思っています。図書館で本を借りられるのと同じように、私どもセンターでは機器をタイムシェアリングで、実費として数百円から数千円で使っていただいています。機器をたくさん揃えて、100%ニーズに応えたいと思っていますが、財政難もあります。行政にしっかり伝えていきたいと思っています。また、当センターではホームページでどこが空いていて、どこが使えないかを一覧することができますので、活用していただきたいと思います。広域的に機器が利用できるようになることも、地域として期待しております。

    市原氏:
    ありがとうございました。フロアから、人材育成に関しての質問があります。1つは、起業をするということに関しての教育訓練が必要ではないか。もう1つは、機械が高度化するに従って使える人がいないため、企業と大学が一緒になって訓練するプログラムが必要ではないか、とのことです。どなたでも結構ですということですが、われと思わん方お願い致します。

    山下氏:
    まず、最初の起業家の育成ですけれども、正直申し上げますと、研修プログラム等を非常に多く提供致しておりますが、私は起業家育成には困難を感じています。本当のアントレプレナーというのは、もともとの才能が大きく関わっていると思います。起業家育成の仕組みというのは、アントレプレナーの素質をもっている人を発見し、そうした方に知識を得ていただく仕組みだと思います。経営者としては才能がない、というしかない人がたくさんいます。大学発ベンチャーも同じような状態だと思います。従って、アントレプレナー精神をもっている人を、どれだけ発見するかにかかっていると思いますし、本当に起業家教育をやろうと思うと、小学校くらいからやらなければならないと思います。大学で起業家教育をやってもほとんど役に立たないのではないか、ということが私の実感です。

    もう一方の訓練プログラムですが、非常にテクニカルな話なので色々なことができると思いますけれども、1つは本当のニーズにあるところに人材育成を行わなければならないと思います。特に中小企業の方々の人材育成で考えると、普通経営者の方は土日に講座をやってくれとおっしゃいますが、受講者は土日では困るとおっしゃいます。そういうことすらなかなか解決できない状況です。私は経営者は育てたいと思う人材なら普段のフルタイムに働いている時に人材育成プログラムに参加させるくらいの覚悟を決めてやらないといけないと思いますし、それに相応しいカリキュラムを実施すべきだと思いますが、そのような仕組みをどのように作っていくのか、経営者側と受講者、それから大学の先生側のニーズをうまく合わせるのは、実態としてはなかなか難しい、というのが私の今の実感です。

    市原氏:
    一方で教育の責任者である大学のお立場からはいかがですか。

    牧野氏:
    大学は、起業家育成をどうにかして大学の授業の中に取り入れようとはしています。聴講生等を含めて、そのような授業は聞いていただけるようになるのではないかと思っています。しかし、授業だけでうまくいくかというと、それはなかなか難しいところがあろうかと思います。従って、行政に期待しているところがあります。何故なら、たとえばヨーロッパは、日本と同じように失敗すると落伍者ですが、そうならないようにインキュベーションが非常にしっかりしています。立派な先生がいて、測定用の機械も充実し、資金提供の用意もしているという非常に実務的なシステムを持っています。大事なことは、社会の構造です。これを見直す必要があります。あとは国から来たお金を地方自治体が、いかにうまくサポートして人間を育てる、あるいは会社を作り上げるか。これが大事なテーマであると思います。

    私どものセンターの中には、ベンチャー育成のための知識をもった方々が集まっている冠講座もできています。日本ベンチャーキャピタルから資金をいただきまして、そういう冠講座もできていますし、活動を始めています。もしご興味がおありでしたら、そういう活動も見ていただければと思います。

    市原氏:
    ありがとうございました。ほかの方でこれだけは、ということがございましたら、お願い致します。

    尾沢氏:
    ベンチャーに関して、私は必ずしも悲観していません。とにかく多くの企業を創業することが、政府を含めた一時期の日本全体の目標になっているところがありましたが、一方で創業した後のことがあまり考えられてこなかったということがあります。たとえば京都では、いまは大きくなった会社でも、昔は小さな会社だったのを周囲の人たちが支えてくれたので大きく成長したと思います。こういう仕組みを地域で作っていく必要があると思います。もちろん競争の社会ではありますけれども、アメリカではベンチャーに対しての支援、ベンチャーキャピタルも含めて、ある程度手厚い仕組みがあります。

    機械については、個別に何か必要があればお手伝いすることは可能と思いますが、中小企業の方々のニーズは多様なものですから、どの辺に最大公約数があるのか、ということが見えないところがあります。民間企業でもテストサービスをやっている会社がありますので、民業圧迫にならないようにするという問題もあります。そこで、機器の共同利用等についてのニーズ調査を今後行いたいと思いますので、この場をお借りしてあらかじめお願いいたします。

    市原氏:
    ありがとうございました。行政について、1つ良い意味で多少変わってきたことがあります。日本では、苗代にシーズとニーズを見つけるためのお見合いのようなことは結構やるけれども、その後田んぼに移して、というところになるとほったらかしというのが過去の施策だったと思います。しかし、たとえば中小企業・ベンチャーが作ったものを日本の大企業が本気で使うというインフラ・仕組みを行政が作る、そういう活動が少しずつですけれども出てきているのではないかと思います。それから、中小企業が大学の門を叩くのに敷居が高いということですけれども、今後はむしろ大学がシーズを見つけるために企業のニーズが必要となります。大学と中小企業が対等の関係でお付き合いができる時代になったのだろうと思います。京都がそういった意味で少しでも先鞭をつけられる地域になればと願いながら、このパネルディスカッションを終わりたいと思います。パネリストの方々、誠にありがとうございました。