日中経済討論会2005

イベント概要

  • 日時:2005年10月25日(火)/26日(水)
  • 会場:大阪国際会議場
  • 経済産業研究所セッション「東アジア経済共同体と日中関係」概要

    モデレータの経済産業研究所田辺靖雄副所長から、東アジアという地域の脈絡において、今後持続的に経済成長を進めていく上で、どのような制度的なフレームワークが求められるか、その中でどのような日中間の協力関係が求められるのかというセッションの趣旨説明がなされたあと、経済産業研究所の吉冨勝所長と中国社会科学院アジア太平洋研究所所長の張蘊嶺氏が各々発表し議論が行われた。

    吉冨氏から「東アジア共同体の理念と進化と日中の役割」と題して以下プレゼンテーションがなされた。

    東アジア統合の経済的基盤-貿易と通貨のリンク

    東アジア統合の経済的基盤として、貿易面では、1)55%となった域内貿易比率が今後も上昇すると予想されること、2)中国の加工貿易(高度な中間財を東アジア諸国の多国籍企業から輸入し、最終製品を世界に輸出する三角貿易構造)が一翼を担う東アジアの「世界の工場化」という特徴が挙げられる。通貨面では、97年の金融危機(資本収支危機)後東アジア諸国に膨大な外貨準備蓄積がある。米国の経常収支赤字を背景に米ドルが下落するとしても、世界の工場の運営のためにはアジア通貨同士の変動は安定している方が望ましい。東アジアにおいては複数主要通貨バスケット(中心レート)とバンド±5%~10%の設定という中間的為替レート制度が望ましく、そのためにはマクロ経済政策や制度インフラ作りも含めた政策対話が必要である。

    東アジアとEUの根本的な違い

    EUの場合は1人当たりの所得格差が2倍程度だが、東アジアでは50倍(日本とミャンマー)まで広がる。東アジアにおいては、市場を支える制度としての法律、規制、情報開示などの制度的基盤の成熟度の格差も大きい。EUのように財、サービス、人の自由な移動を可能にする単一市場、通貨統合を達成するために調和された制度作りがアジアにも必要である。発展モデルを見ると、東アジアでは専制国家に経済成長主義が結びつき、貧困の撲滅、中間所得層の形成に貢献し、民主主義の経済的基盤を成立させたという意味でも欧州とは違う。

    東アジア共同体の理念をどこにおくか-Evolutionとしてとらえる-

    EUとの根本的相違を踏まえ東アジアでは共同体の形成は進化の過程として捉えるべきである。その過程には3つの「P」というものがあり、Prosperity(成長)がProgress(民主化)につながり、ひいてはPeace(平和)をもたらす。東アジアでは、市場先導の貿易関係から見る経済的統合の実態は整いつつあり、現在交渉中の数々のFTA/EPAの形成、質の高い投資協定が重要である。また東アジアの新しい為替制度が必要である。さらに個別のFTAから地域大のFTA、関税同盟、単一市場、単一通貨へと発展を遂げていき、その過程で制度インフラの改革が必要になる。Prosperity(成長)の観点からは、現在の東アジアの経済格差を縮めるのには時間がかかるが、中国が日本の3分の1になるのに30年以上かかるがこの時初めて制度上のインフラ、政治的成熟度が高まり、中間所得層をつくり民主化を促して、域内が成熟した民主国家になり、戦争が起きなくなる。このようなEvolution的な考え方をしていくのがアジア共同体の理念のあり方ではないか。

    続いて張蘊嶺中国社会科学院アジア太平洋研究所所長から「東アジア経済共同体と日中関係」に関して以下プレゼンテーションが行われた。

    東アジア経済共同体

    この地域の経済は一体化が高まっていて、1)20数年の発展、2)3回の波(80年代の円高を受けた日本の対アジア投資、90年代の4ドラゴンズの台頭、97-98年のアジア危機)を通して経済関係の緊密度が増しているという2つの特徴がある。一体化の推進力の1つ目は市場の力、2つ目は政府による市場開放の機能である。EUではまず制度が作られ、政府が市場のルールを統一したが、東アジアでは市場のメカニズムを発展させ、それから制度化に進んでいく。東アジアの特色をもった統合を進める必要がある。

    FTA

    東アジア共同体の中心は経済共同体で自由貿易が重要な役割を果たす。現在は域内、域外を含む多様なアプローチが混在している。それらを組み合わせるためのルールが必要であり、歩みを速める必要もある。そのためにはタイムテーブルが必要で、東アジアのFTAは2008年までに始めて、2020年までには実現すべきである。エネルギーなどのEarly Harvest分野を決めるべき。2020年にはAPECも含めた目標を掲げているが、東アジアFTAを先行しなければいけない。企業は緊張感を持っているが、政府にはなく、具体的なモデルについてのコンセンサスも無い。

    中日の協力

    中日経済は補完性の高い経済で、相互補完は今後も長く続くであろう。中日関係はWin-Winの関係であるが制度的な調整メカニズムが無いことが問題である。双方とも積極的ではあるが、必ずしも中日間の案件を優先させてはいない。中日関係は「涼しい」から「寒い」「凍てつく」状態になることは避けなければいけない。
    最後に会場より、バスケット通貨の構成、文化・スポーツ交流の役割、人民元の調整の要因などについて質問、コメントがなされ、議論が行われた。