政策シンポジウム他

日本のイノベーションシステム:強みと弱み

イベント概要

  • 日時:2005年2月14日(月) 9:30-18:00
  • 会場:経団連会館 国際会議場 (千代田区大手町)
  • 開催言語:日本語(セッション3のみ日英同時通訳あり)
  • RIETIは、2005年2月14日終日、東京、経団連会館国際会議場において政策シンポジウム「日本のイノベーションシステム:強みと弱み」を開催した。その中で、科学と技術と新製品化のリンケージ、産業クラスターと研究開発の外部連携、情報家電産業で重要性を増しているソフトウェアプラットフォーム、製品アーキテクチャとコーディネーションという、日本のイノベーションシステムの重要課題をめぐって体系的な議論が行われた。

    セッション3:「情報家電産業の企業戦略-ソフトウェアプラットフォームの役割-」

    まず、Andrei Hagiu RIETI研究員から「デジタル家電産業のイノベーションと競争優位―多面的プラットフォームの重要性」と題して以下の報告が行われた。

    1)コンピュータから情報家電(CE)や通信まで多岐にわたる今日の産業は、多面的プラットフォーム市場として体系化されている。これは、市場が、純粋なソフトウエア(PCのOS)、又は、ソフトウエアとハードウエア/ミドルウェアとの組み合わせの形態をとり得るさまざまなプラットフォームを中心に展開することを意味している。

    2)プラットフォームの戦略的課題については、(1)プラットフォームの多面性に関連して、その間接的ネットワークのプラス効果が重要で、その価格構造が鍵である。(2)プラットフォームのハードウエアとの垂直統合の問題がある。(3)プラットフォームの補完物との垂直統合の問題がある。

    3)デジタルコンバージェンスと競争優位について、(1)デジタルコンバージェンスの例は、次の通り。第3世代スマートモバイルフォン、DVDプレーヤー + ビデオゲーム機器(PSX)、コンピューター + ビデオゲーム機器 + TV + モバイルフォン + カーナビシステム+ ネットワーク(家庭内のデジタル統合)、(2)デジタルコンバージェンスと競争優位に関する次の3つの論点がある。

    • (1)プラットフォームにコンピューター関連産業の競争優位および最大の経済価値が存在する。ハードウエアに比較してソフトウエア技術の価値が増加している。
    • (2)アプリケーション、ゲーム、コンテンツ等への垂直統合はプラットフォーム上の成功に向けて不必要または不十分ではないか。例: Sony 対 Apple (portable digital media)
    • (3)デジタルコンバージェンスにより、独立した機器の性能から多様なデジタルコンテンツ、ネットワーキングおよび機器の互換性をサポートする能力に価値がシフトする。

    4)産業政策に関連し、(1)充分に多様なアプリケーション、コンテンツ等があることおよびそこでの補完関係にあるプラットフォームの間でのシームレスな互換性があることの2つを消費者に確保することが重要である。不十分な独占的プラットフォーム(NEC)により支配された日本の1985-92年の間のPC産業に類似した状況(非互換性、規模の経済が低い、イノベーションのスピードが遅い)を避けることが重要である。(2)前提としての独自 (クローズド) なプラットフォーム(技術)を選好するか? オープンプラットフォームか? (3)産業をまたがるプラットフォーム構築に向けての標準化、コーディネーションによる支援が重要である。日・中・韓オープン・ソフトウェア・アライアンスの様な産業をまたがるプラットフォームの供給およびソフトウエア産業の競争力を強めるという戦略的な重要性が存在する。

    これに対して、村上敬亮経済産業省商務情報政策局情報政策課長補佐より「新たなIT産業論とイノベーションサイクルについて」と題して、コメントがなされた。

    1)デジタル家電が景気回復に大きな役割を果たした。このデジタル家電が実はもうからなくて困っている。他方で、IT産業ということでハード、ソフト、通信まで含めると大体GDPの約1割を占めているが、これら情報家電産業の収益率の向上策を議論してきた。

    2)「競争の2つの形」について、まず第1に、安い労働力の流入を前提に、規格化された商品を大量生産、大量消費を実行した。第2に、日本でも80年代に入れば、技術革新を前面に出して、技術的にイノベーションをし、規格で先に行き、その新たな規格のフェーズで独占的競争を展開し、レントを分けあう。第3に、知識の囲い込みにより革新性の速さを競い、必要なOSの進化上の知恵というのはユーザーの方が勝手に追加してしまい、そういう知恵のプラットフォームとしても機能している。この第2のジェネレーションと第3のジェネレーションを、ハイブリッドした形で情報家電産業において描いていくのが、情報家電がもうかる産業になるための答えの1つを握っている。

    3)「タテの『連携』:家電とサービス」について、スライドで台形が2つ重なっている。下の台形は液晶パネルを例にした産業構造を模擬している。下に行けば行くほど日本企業が強く、それを支える高度な技術を持った中堅中小企業群とその産業集積がある。一番上にNOVA、松井証券、アスクル、等いろいろな例を挙げている。そのプロフェッショナルサービス事業者が、PC、携帯を使ってサービスを展開するために必要なソフトを提供する産業が必要である。垂直というときに、この上半分の台形を忘れていないか。この一番上のレイヤーの部分、一見IT産業とは何の関係もなさそうに見える部分との連携という議論が不可欠である。現に、この上から下まで一気通貫した数少ない例が、NTTドコモのビジネスモデルであろう。

    4)「ヨコの『連携』:IT利用プラットフォーム」について、全体として見れば、ばらばらなフォーマット、仕様で進められているのが現状である。課金する、認証する、データの標準フォーマットを作るという部分を、ばらばらに投資をしている。実はこのプラットフォームビジネスも、もうかりにくいという問題がある。オープンソースを初めとしたある種のアレンジメント、標準化は必要だが、ライフソリューションサービスと情報家電との縦の連携およびサービスをつくる横のプラットフォームづくりというのが収益力の高い情報家電産業づくりに貢献する。現在、産業構造審議会でそのために何ができるかについて議論している。

    さらに、松田久一JMR生活総合研究所代表取締役より、「コメントと高収益化へのイノベーション」と題して、以下のコメントがなされた。

    1)日本の情報家電のメーカー10社の収益率はほとんど2%台で、アメリカのP&Gの20%以上、サムソン電子の18.7%と比べるとこれらの収益率の低さがわかる。低収益の理由は、(1)国内での激しい競争市場にさらされていること、(2)流通の寡占パワーに対抗できる力をメーカーは持っていないこと、(3)ソフトやコンテンツを取り込んだプラットフォームというのを持っていないこと、(4)外部を取り込むダイナミックなイノベーションというものを持っていないこと、(5)日本のソフトパワー(情報、コンテンツ、カルチャー)を生かしきれていないこと、である。

    2)シャープというのは現在非常に強い状態にある。明確な経営方針のもとに、パネル工場と組立工場が一貫した展開をしている強みがある。それを支えているのが亀山にある58社67拠点の集積で、今後、もっとダイナミックな強みに転換して行くためには、この強みをお客に向けた価値に向けていくダイナミックな展開が必要であろう。

    三本松進RIETI上席研究員よりデジタルコンバージェンスおよび競争優位の論点を提示して、これらが、政策、産業実体からして支持しうるかどうかで、質疑応答をスタートした。
    まず、村上課長補佐より以下のコメントがあった。

    1)プラットフォームが中・長期的に見れば最大のナローパスであり解消すべき最大の外部不経済である。ただ、そのために政策がどうアプローチすれば良いのか悩んでいる。
    ミクロに見ると、個々に動きはあるが、個別に、認証、課金の仕組みをばらばらにつくることが、経済全体にとって効率的なのかどうか不明である。

    2)標準化を政府がやるべきかどうかの反応は返ってこない。必要なことは、第1に、情報公開で、各主体が持っている情報を積極的に公開する、また、その公開される情報の質を上げることである。たとえば幾ら電子カルテの標準をつくっても、病院内に持っている医療情報の公開をする、また、公開する医療情報の質を上げるという社会的風潮が出てこない限り、カルテのシステムの標準化をしたところで、前進しない。
    第2に、より大きなPDCAサイクルをつくる雰囲気や環境をつくってほしいといわれる。現にIT戦略本部というのは、今は医療、教育、電子政府の制度改革の議論をやっている。それが解決すると、プラットフォームも、そのフィージビリティーが見えてくる。

    次に、Hagiu研究員より以下のコメントがあった。

    1)技術の標準化は同種のプラットフォーム内および異なるプラットフォーム間でも困難が多く、これがプラットフォームメディア間でのイノベーションストラクチャーの問題となっている。

    2)プラットフォーム間の生態系に意味があり、生態系の底からトップまでの間のアンサンブル、ポジティブループ形成によるイノベーションの考え方が重要である。日本特異の理由でこれが難しいことが彼の説明で分かった。

    3)米国では、アップルのコンピューター、i-Podおよびコンテンツ配信が、この戦略的なデジタルコンバージェンスの成功例である。彼らにないのがデジタルテレビで、これはSONYが協力すれば良いといわれている。

    さらに松田代表取締役より以下のコメントがあった。

    1)プラットフォームというのを、ショバ代と考えている。ユーザーから多く課金するのがマイクロソフトのOSのやり方で、逆にほとんど課金しないのがリナックスのやり方である。どちらのプラットフォームが生き残るか、又は収益性が高いかというのは、そのプラットフォームが顧客に提供する価値によって決まってくる。そのようにプラットフォームを理解した上で、これが今後の情報家電産業において、収益のかぎを握るポイントになってくる。

    2)ビジネスウィークという雑誌は、メインの雑誌であるが、少々議論を吹っかけるようなところもあって、その記事内容で、デジタルコンバージェンス企業の評価が可能か疑念を持っている。

    3)今後、コンバージェンス、ディバージェンスをもっと繰り返していく、その中での競争優位が非常に重要になって、かつ、その中で収益のかぎを握っているのが、プラットフォームではないかと認識している。

    会場より以下の2点の質問があり、それぞれ、村上課長補佐が回答した。

    1)食の安全等、RFIDを介してネットワーク上の利益を得るため、日頃政策的に思うところを質問する。

    • (1)私は、2年前、電子タグをムーブメントにする仕掛けの現場の真ん中にいて、いろいろやったが、この2、3年で大分風向きが変わってきた。たとえば一昨日の日経でも三越が、百貨店の店舗内で実際にタグを使うと出ていた。ところが、三越のケースでは、社内ではタグで一気通貫になっているが、ではアパレルメーカーからそうなっているかというと、実はそうはいかない。唯一の例外が、BSEの問題を引きずって、法律的に強制することになった牛の例である。
    • (2)ある種の社会的な情報公開に対する肯定的なモチベーションを与える、また、積極的に情報を共有することに対する雰囲気づくりをうまく絡ませていかないと、タグの規格を幾ら標準化しても使われない標準規格が多くできるということになるであろう。

    2)IT政策において、政府の動きが遅く、政策のイノベーションが必要ではないか。

    • (1)官民の役割分担論が弊害になっている。つまり、官民の役割分担の再設定に伴う非効率よりも、今は官民の知見を持っている者同士で組むということがうまくできていない非効率の方が、圧倒的に多い。たとえば、先ほどのプラットフォームでも、恐らく収益性が低いところを切り出して、それぞれのアプリのところは民間でやるが、その真ん中のところは官民一緒にやらないといけない。
      これは、役割分担論にこだわるよりも、低収益でもいいから政府資金を投入して、官民で共同で実施するビジネスモデルを書かないと前に進まない。むしろ日本全体での適材適所とPDCAサイクルづくりという観点から、積極的に一緒にやるという流れを造っていくともっと有機的に結びつく。