政策シンポジウム他

新たな世界的不均衡とアジアの経済統合

21世紀に入り、米国の経常収支赤字が大きくふくらむ一方、東アジアの経常収支黒字は増すという、新しいパターンの世界的経常収支不均衡がおこっている。RIETIは6月17日、18日に経団連会館(東京都千代田区)でRIETI政策シンポジウム「新たな世界的不均衡とアジアの経済統合」を開催し、このような世界的不均衡の性格や持続可能性を分析し、予想される不均衡の調整過程のシナリオについて話し合う予定である。調整政策とはいかなるべきものであるのか。シンポジウム開催直前企画として、為替レートの調整、金融・財政政策のあり方、構造改革の推進といった不均衡の調整過程について、本シンポジウムの参加者で、国際貿易・国際金融、中国・東アジアの経済圏の専門家である、Li-Gang Liuジョージメイソン大学助教授にお話を伺った。

編集部:
アジアの経常黒字と外貨準備の増大はどの程度まで米国の双子の赤字を埋め、金融市場に影響しているのでしょうか?

Li-Gang:
日本をはじめ、アジアの中央銀行が保有する外貨準備金の累積額は約1.2兆円で、そのほとんどが米ドルです。その約半分はアメリカの国内総生産(GDP)の4.7%にも上る、5000億ドルの経常収支赤字を埋める財源になっています。アジアの銀行が保有する米国債も、同市場における超過需要を生み出す原因となり、米国の短期金利を押し下げる結果となっています。これは長期間にわたる米金利安に寄与している要因の1つです。

しかしながら、賃金押し上げによるインフレが現実のものとなり、近い将来、米国は金利を上昇させるだろうとの予想から、米国債を保有する魅力が低下する可能性もあります。そうだとしてもアジアの中央銀行は急激な自国通貨高を恐れるため、ドル保有を転換することは考えられません。

編集部:
日本・アジア、およびアメリカに最適な不均衡の調整政策とは何でしょうか?

Li-Gang:
不良債権処理などの金融システムの構造改革や企業のリストラ、非常に協調的な金融政策、そして特に米国経済の好調な回復と中国の外需といった日本にとって好都合な諸外国の事情が組み合わさった結果、日本経済は過去1年半の間に大きな回復を成し遂げてきました。特に国内における構造改革は大きな効果をもたらし、日本の産業界は競争力を持ち直してきました。日本はすでに海外直接投資(FDI)と海外への金融投資に大きく貢献していますが、現在の世界的な不均衡をふまえると、外国からの輸入をさらに増加させ、世界経済の原動力となることでより大きな貢献ができるのではないでしょうか。

アメリカは貿易赤字と財政赤字という巨大な「双子の赤字」に直面しており、今後は国内貯蓄の建て直しを図り、国内の巨大な貯蓄・投資不均衡の是正に努めなければならないでしょう。そのためには政府の財政赤字を縮小するための財政支出の削減および増税しかありません。しかしながらこのような政策は米国の国内需要を縮小させてしまいます。その結果、アメリカの外国製品に対する需要も落ち込むでしょう。また、アジアは米国市場に依存しているため、アジア経済は国内需要を受け皿とすべく、活溌な財政・金融政策を採ることで活性化せざるを得なくなるでしょう。もちろん、為替レート調整も除外されるものではありません。

編集部:
第二のプラザ合意は必要でしょうか? 日本・アジアが立案すべき政策とは何でしょうか?

Li-Gang:
プラザ合意による急激な円高と、国内経済の刺激を目的とした協調的金融政策は、日本の資産バブルの原因だったとある程度いえます。そして、バブル崩壊はその後10年続くことになる経済停滞の始まりでした。日本以外のアジア経済、特に中国は金融制度も脆弱で財政基盤も脆弱であることから、日本と同様の問題を経験するリスクを負っています。ですから大幅なアジア通貨高は現時点では望ましくありませんし、そうなる可能性はあまりないと思います。大幅な通貨高の代わりにアジア経済ができることといえば、貿易相手のシフト、貿易とFDIの自由化を通じた地域経済統合の迅速化、金融部門による国内貯蓄の効率配分や国内債券市場育成による国内需要の刺激が挙げられるでしょう。

(RIETI編集部 熊谷晶子)

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Li-Gang LIU顔写真

Li-Gang LIU (ジョージメイソン大学助教授)