政策シンポジウム他

日本の財政改革:国のかたちをどうかえるか

イベント概要

  • 日時:2004年3月11日(木)・12日(金)
  • 会場:国際連合大学(東京都渋谷区)
  • 開催言語:日本語
  • 第4セッション:財政の長期予算制約と税・公債の問題

    第4セッションでは、渡辺努ファカルティフェローによる「財政規律・国際市場と金融政策」が報告された。株式市場が企業経営に規律を与えることと類比的に、国債価格と自国通貨価値が財政運営に規律を与えることが論じられた。その際に、中央銀行の金融政策も重要な役割を持つことを述べた。しかし、市場の価格は相対評価でなされることから、そのような財政運営に対する市場規律にも限界があることが言及された。

    坂田一郎コンサルティングフェローからは、「経済活力の視点から見た税制改革」が報告された。財政赤字の解消をはかるために、税負担増は避けられないが、経済活力をそこなわないことが必要条件であることが示された。また、税制の決定プロセスが変化してきていることを肯定的に捉え、今後の税制の改革の方向性として、理念の明確化が必要であることが主張された。具体的対応としては、事業体区分の見直しや税、会計、商法全般を見通した制度改革ということが挙げられた。

    国枝繁樹一橋大学大学院国際企業戦略研究科助教授からは、「税制改革の政治経済学」が報告された。現在の財政赤字は、異時点間の予算制約式を逸脱した現象であり、それは現在世代による将来世代の搾取であるとの視点から、それが90年代以降の分権化した政治システムによってもたらされたことが説明された。この問題の解決のために「世代間公平確保基本法」を制定することが提案された。

    これらの報告に対して、藤木裕日本銀行金融研究所調査役と森信教授からコメントがなされた。藤木調査役は、渡辺報告に対して、まず、政府と中央銀行は統合政府という形で一体として扱われていること、価格は伸縮的で、財市場と国債市場の価格裁定が機能していること、財政当局の支出については、ノン・リカーディアンと想定されていること、といったモデルの概要を整理した。次に、実質基礎収支が悪化するショックが生じた場合に渡辺報告が提唱する政策提言について、「現在の物価安定、金利引き上げ、国債価格下落」という選択肢と、「金利一定、物価水準の即時上昇」という選択肢があること、ただし、前者を選択した場合も、長期的には物価が上昇するという意味で、両方の選択肢は関係していると、整理した。最後に藤木調査役は、企業価値決定モデルとのアナロジーで、国債価格、物価水準、金融政策の関係を渡辺報告が考えている点は非常に興味深いと述べた上で、自然利子率を一定として、基礎収支を悪化させるショックの具体例は何か、価格が伸縮的な経済で2つの選択肢のうち前者の選択肢を渡辺教授が推奨する理由について質問した。

    森信教授は、国枝報告に対して、税制改革は行政主導にしていくべきとの点について、自身の消費税上げなどの税制改正の行政経験を踏まえて、国会や与野党合意の役割が大切であるとのコメントをした。また、国会内にそのような議論を行える場を作ることが提案された。坂田報告に対しては、主税局が「活力」という言葉を使用しなかった理由として、それがサプライサイド減税よりもケインズ減税に結びつきやすいからであることを指摘した。簡素性については、日本ではまだ馴染みのない執行可能性ということを考慮しなければならないとコメントした。

    渡辺ファカルティフェローからのレスポンスでは、自然利子率が一定で基礎収支が悪化する状況というのは、今の日本には当てはまらないが、将来の日本の状況には当てはまる可能性があり、そのときにはここで考えている2つのチャンネルはうまく働くだろうと答えた。坂田コンサルティングフェローからのレスポンスでは、簡素性ということについて、確かに執行可能性というのは重要な条件であると述べた。また、税法の条文が少ないことが決して簡素ということではなく、条文に書かれていない裁量の余地が大きいことが企業にとっては税制を複雑にしていることを税当局は認識すべきとの見解を示した。また、租税特別措置については、現在、経済産業省においても提案による廃止、中小企業税制の投資減税についても一本化などが行われつつあり、これからますますより横断的な制度設計ということに向かっていくだろうとのコメントがなされた。

    国枝助教授からのレスポンスでは、確かに消費税のような大きな話では、国会の意思によって決められなければならないが、行政が中心になるという話は、租税特別措置のようなことについていっていると述べた。また、これまで日本では、増税と減税がセットで行われてきており、ネットの増税ということは行われてこなかったため、超党派合意や憲法といった特別な方法を用いることが重要であると指摘した。増税は必要不可欠なものであり、現在は景気回復ということを待たなくてはならないかもしれないが、限られた時間の中で実行していかなくてはならないだろうとの感想も添えられた。

    その後のディスカッションでは、岩本教授より、渡辺報告の考え方については、学会で既に多くの議論が行われてきており、批判的な立場を取る人もいることが指摘された。また、モデルでは、財政が物価を決めるという仕組みになっているが、貨幣の役割は考えなくていいのかということ、ノン・リカーディアン的な支出については、政府の国債の借り換えが不可能になるのではないかということ、2つのチャンネルが実際に財政改革に結びつくインセンティブはどう考えるのかという疑問が提示された。高橋コンサルティングフェローからは、日本がデフレの状況の中で、インフレという第2のチャンネルがうまく働くのなら、その方が望ましいのではないかとのコメントがなされた。北村教授からは、無限の将来から割り引くということを考えているが、現実的にはどれぐらいの長さの将来を考えているのかとの質問がなされた。渡辺コンサルティングフェローは、国債の借り換えができないということによって、国債の暴落が起きるかもしれないということは十分に考えられると述べた。また、無限の将来ということについては、基本的には、国債の満期ということを考えているため、10年、30年ということを想定しているとの答えがなされた。

    (文責:RIETI研究スタッフ 木村友二)