政策シンポジウム他

日本の財政改革:国のかたちをどうかえるか

イベント概要

  • 日時:2004年3月11日(木)・12日(金)
  • 会場:国際連合大学(東京都渋谷区)
  • 開催言語:日本語
  • 第3セッション:財政の時代的文脈―その過去と未来に向けて

    第3セッションでは、岡崎哲二ファカルティフェローによる「政治システムと財政パフォーマンス:日本の歴史的経験」が報告された。戦前の日本の財政のデータを用いて、行財政制度と財政パフォーマンスの関係を論じた。結論として、第1次世界大戦前には、憲法外機関である元老の影響力によって財政規律が保たれていたが、第1次大戦後のその機能の低下と政党内閣の形成など政治システムの分権化によって、財政の赤字を促したことが論じられた。

    中林美恵子研究員からは、「財政改革の国民意識の役割」が報告された。日本の財政赤字の原因は、構造的なものであり、改善していくためには財政の透明性を向上させることが重要であることを述べた。その上で、自身のアメリカ議会スタッフの経験を通じて、アメリカにおける財政に対する国民意識の高まりの変遷、NPOの活動、そして議会予算局など専門性の高い組織の活躍を紹介した。また、専門家が国民と政府の間の媒介的な役割を果すことによって透明性が改善され、財政に対する国民意識が高まっていくことが重要であることを指摘した。

    これらの報告に対して、猪木武徳国際日本文化研究センター教授によってコメントがなされた。岡崎報告に対しては、政治史と財政の関係を統計的テストによって検証した非常にスマートな論文であるとの評価をした。その上で、中央政府の一般会計に焦点を絞っているが、地方の歳出は政党内閣の有無とどのような形で関わっているかが気になるとコメントした。また、当時の日本の国際環境については分析の範疇に入っていないがその点についてはどのように考えているのかについて疑問を示した。さらに、元老の影響力の低下というよりも、薩長の力が弱くなってきたと考えた方が妥当なのではと指摘した。中林報告に対しては、アメリカでの議会スタッフの経験を通じた良質の実況放送であるとの評価をした。ただ、アメリカによい制度があるということと、日本になぜそのような制度がないのかという実証的な側面は別の問題であり、その点については、日本と欧米諸国との文化の違いもあるのではないかとのコメントをした。例として、アカウンタビリティーの概念は、イギリスにおいて王がどのようにお金を使ったかを説明することから生まれたという起源があり、日本には馴染みのない考え方であったこと、アメリカにおいては公共的精神を形成していくに当たって、人工的なNPOのような組織が作られてきたのに対して、日本ではそのような組織は利益団体のように見られてしまうことを述べた。

    これに対して、岡崎ファカルティフェローからは、地方財政について考慮することは今後の課題であること、日本の制度変化については国際的環境というよりも内生的に起きたと考えられると述べた。中林研究員からは、財政の問題と国民意識が離れやすいという状況の中で、アメリカに累積赤字縮減基金(国民からの寄付)という長期の時系列で示す統計が存在したため、国民の財政に対する意識が急激に高まる年が発見でき、そこで、その周辺の財政環境および、その意識の高まりにおいて専門家がNPOや専門組織を通してどのような役割を担ってきたかを記述することが重要であるという観点をこの報告では強調したかったとのレスポンスがなされた。

    その後のディスカッションでは、森信茂樹政策研究大学院大学客員教授から、自身のアメリカの経験から、NPOが財政圧力を生む強大な利益団体となっている例が指摘された。岩本康志一橋大学経済学研究科教授からは、中林報告におけるアメリカの財政意識の高まりは、一時的なものであり、継続的に財政改革に影響を与えることができるものなのだろうかとの疑問を示した。また、オーストラリアのように住民に投票を強制するような制度が有効なのでないかとの見解を示した。北村行伸一橋大学経済研究所教授からは、岡崎ファカルティフェローのレスポンスに対して、金本位制の離脱ということは、日本の内生的変化と考えるのは難しいのではないかとの質問がなされた。その点について、岡崎ファカルティフェローは、金本位制の離脱ということについては確かにそうだが、日銀の行動などは内生的と考えられるのでは、と答えた。

    (文責:RIETI研究スタッフ 木村友二)