政策シンポジウム他

アメリカ公共図書館のビジネス支援

イベント概要

  • 日時:2003年7月11日(金)13:00-18:00
  • 会場:国際連合大学ウ・タント国際会議場
  • 開催言語:英語⇔日本語(同時通訳あり)
  • 議事概要

    公共図書館におけるビジネス・コンサルタントとしてのSCORE

    アルビン・ロズリン (SCOREニューヨーク支部 チェアマン)

    SCORE(Service Corps of Retired Executives)および公共図書館におけるビジネス・コンサルタントとしての役割についてお話しますが、私たちの活動について次の順序で説明したいと思います。

    • SCOREという組織の目的と効果
    • 新しくボランティアに参加するビジネス・エグゼキュティブがプロのSCOREカウンセラーになるための訓練
    • SCOREと公共図書館、特に科学産業ビジネスライブラリー(SIBL)との関係および協力
    • SCOREのカウンセリングがニューヨーク市のビジネス図書館(SIBLおよびブルックリン)やビジネス全般にもたらした変化
    • ビジネス図書館とビジネス支援サービスのより効果的なパートナーシップの構築に向け、将来、どのような取り組みができるか

    1963年に行われたある調査で、米国内で事業が失敗する主な原因は、事業継続のための資金が不足するからではなく、経営のやり方に問題があるためであるということが示されました。当時、発足したばかりの米連邦政府中小企業庁(SBA)は、国内の退職した経営者に相談役として中小企業を支援してくれるよう呼びかけました。そして1964年、ほんの一握りの数のカウンセラーをメンバーとして、退職経営者による支援組織SCOREが誕生しました。スモール・ビジネスの創業と成長、そして成功を助けることを目的とする非営利組織として発足しました。

    今では、全国400支部に1万1000名のメンバーを擁するまでになりました。私はニューヨーク支部のチェアマンをつとめています。

    SCOREは、「アメリカのスモール・ビジネスのカウンセラー」として知られています。つまり私たちは、スモール・ビジネスのカウンセラー役を無償で引き受けているということなのですが、米国における企業の実に92%が「スモール・ビジネス」と分類されています。

    米国におけるスモール・ビジネスとはどういうものでしょうか? SBAによれば、業界ごとに平均従業員数または年間売上高によって定義されているようです。たとえば、製造業なら従業員数1500人までがスモール・ビジネスと見なされますが、卸売業の場合はたった100人までです。また、サービス、小売、建設、農業の各分野については年間売上高によって線引きされています。年間売上高400万ドルが基準となる業界もあれば、2900万ドルが基準となる業界もあります。

    私たちSCOREカウンセラーは、政府からも、実際にカウンセリングを行った企業からも報酬は一切受け取りません。実際、私たちは倫理コードに署名することになっているのですが、これはクライアントからの報酬受け取りを禁じるものです。クライアント企業への投資についても、たとえどんなに成功が見込める企業でも禁止されています。そうすることによって、中立で偏見のない助言や忠告を行うことができるのです。そして他の専門家がそうであるように、私たちもまたクライアントに対して厳しい守秘義務を負っています。

    ビジネス・キャリアで大変な成功をおさめた後、自らの時間と知識とガイダンスをなぜ無報酬で他人に提供するのかという質問をよく受けます。そしてなぜ非営利組織を支援するのかと聞かれます。我々SCOREのメンバーは多様ですが、動機という点では多くの共通点があります。

    1つは、報酬を受け取って企業幹部または企業家として働いていたときと同じように、ただし会社を経営するストレスを感じることなく、知的な挑戦や刺激を受けていたいという願望を持っていることです。

    もう1つは、新しい産業や新しいビジネスのアイデアについて学び続け、情報に通じ、やる気ある若い企業家に接していたいということです。

    さらに3つ目の理由として、よき行いを為したい、とりわけ、私たちの努力を評価し、自ら成功して感謝することで報いてくれる人たちを助けてあげたいという気持ちです。これは、私たち流のコミュニティ・サービス、地域経済への寄与のあり方なのです。そして、今こそ実行に移す絶好のチャンスなのです。

    ビジネス・クライアントとの取り組みを通して、私たちは先生になります。教え方のいい例は、古くからの言い伝えにあります。魚を与えれば、その場の空腹を満たすだけですが、魚釣りを教えたら、その人は一生食べていけるのです。私たちは単に情報を提供したり質問に答えたりするのではなく、どうやったら事業経営に成功し、その後ずっと利益を出し続けられるかを教えています。

    基本的に、カウンセラーのバックグラウンドは2通りです。1つは、私のように自ら事業を起こした起業家です。最初からすべて自分でやらなければならなかった人、創業し、かつその事業を維持・前進させるための資金を自分で見つけ出さなければならなかったビジネスマン、自分の報酬がなくても給与を払わなければならない事態に陥ったことのある人、十分な売り上げを確保して、かつ、その製品やサービスがきちんと顧客に届けられるよう最後まで気をくばらなければならなかった人たちです。そして十分に成功を遂げた後にリタイアし、自ら培った知識と商才をSCOREのクライアントと分かち合おうという気持ちのある人たちです。

    もう1つのタイプは、大企業の幹部として経験を積んだ人たちです。出世階段の一番下から始めたかもしれないけれど、一生懸命働いて、最高経営責任者、パートナー、基幹部門を統括する上級副社長などの地位に上りつめた人たちです。マーケティングやファイナンス、販売と生産、戦略計画や調達、その他ビジネス経営のあらゆる側面を知り尽くした人々です。

    このように2種類の異なるバックグラウンドを持つ企業経営者の経験を組み合わせることで、私たちはスタートアップ企業から大企業までありとあらゆる企業が抱える問題を理解し、認識することができるのです。

    ニューヨーク支部の45人のカウンセラー全員で合計すると2000年ものビジネス経験を持っていると、誇りを持っていうことができます。SCOREの全カウンセラー1万1000人に広げて考えると、その年数は天文学的な数字になります。

    ニューヨーク支部の45人のカウンセラーは、65種類の産業と職種に関する専門知識を有しています。広告から卸販売、会計から電子商取引、アパレルから貿易にいたるまで、さまざまな分野を網羅しています。仮にニューヨーク支部に所属するカウンセラーでは対応できない業界について助言を求められた場合でも、国内1万1000人のSCOREカウンセラーに助けを求めることができます。そして、国内のどこにいようとEメールで相談に応じることのできるカウンセラーが1000人います。

    料金についてもう一度繰り返しますが、サービスはまったく無料で、クライアントが必要とし、求める限り、何年でも私たちから助言を得ることができます。

    私たちは皆、ビジネス界で成功したもっとも有能でプロフェッショナルな人材です。そして、私たちの助言を必要とする事業経営者すべてを助けたいと思っています。

    12世紀のスペイン人医師・哲学者であるマイモニデスは、「必要とする人に与える」という意味、つまり、周りの人を助けるという意味で「Tzadaka」というヘブライ語を用いました。そして、もっとも崇高な「Tzadaka」は、自らを助ける人々を助けることで得られると述べています。SCOREのプロフェッショナルがやっているのはまさしくこれなのです。自ら努力しているビジネスマンを導き、事業経営でぶちあたる多くの複雑な問題をうまく切り抜ける手助けをしているのです。

    非営利組織であるSCOREには3つの主な資金源があります。

    SCOREは、SBAのパートナーとして、SBAの拠点内のスペースをたびたび間借りするとともに、米国議会から小額の予算を割り当てられています。各支部が受け取る額は、主に年間のクライアント数をベースに決められます。つまり、どの程度の顧客需要を創出できるかで決まるということです。

    私たちは年間、25の有料教育セミナーを開催しています。

    また、銀行、企業、財団からの寄付も受けています。

    そして、たとえばSIBLとの連携を通して、オフィス・スペースや機器を無料で提供してもらったり、施設を無料で使用させてもらうこともあります。

    新入りのSCOREカウンセラーはビジネスにおける経験は豊富であるものの、私たちのもとにやってくるさまざまなクライアントの経営コンサルタントまたは相談役としての役割を直ちにこなせるというわけではありません。

    正式にSCOREカウンセラーとなる前に、3カ月のトレーニング・プログラムを受ける必要があります。これによって、私たちは、クライアントが抱える多様なニーズをよりよく理解し、彼らの創業と事業運営が成功するよう支援することができるようになるのです。たとえば、カウンセラーは企業設立の際の登録をどこでどのような手続きを行うか知っていなくてはなりません。各クライアントに適した創業のあり方を助言するためには、個人経営、パートナーシップ、有限責任会社、株式会社などさまざまな事業形態についてきちんと説明できなければなりません。事業計画をどうやって作成するか、あるいは、パートナーシップ契約で大事な要素は何かということについても知っている必要があります。

    新入りのカウンセラーは、SCORE主催の各公開セミナーに参加して、自らも学び続けることが求められます。私たちは新しい産業について絶えず研究しています。今もっともめざましく成長しているのは情報通信技術とインターネット・マーケティングです。興味深いことに、昔からあるマーケティングの考え方は、実際に店を構える旧来の事業形態のみならず、インターネット環境にもあてはまります。これは、グローバル展開する場合にもいえることです。

    ファイナンス、マーケティング、販売に関する相談がもっとも多いことから、この3つの課題を取り上げる「成功するビジネスのための戦略」と題するセミナーを頻繁に開催しています。事業計画はいかなるビジネスを行ううえでももっとも重要なツールですが、このセミナーの内容はすべてこの事業計画の作成にかかわるものです。

    SCOREカウンセラーは、SBAがどういう支援プログラムを実施しているかについてもチェックしています。金融面の支援から連邦政府契約、災害復旧ローンから事業相談および訓練、あるいは法務支援からビジネス情報サービスまで、さまざまな分野について確認します。こうしたプログラムは、すべて無料で提供されます。

    私たちはまた、カウンセリングの仕方、つまり、どうすればクライアントの話に注意深く耳を傾けることができるかを学びます。自分の抱えている問題が実のところ何なのかクライアント自身がちゃんとわかっていないことも多いので、きちんと話を引き出せるような質問の仕方を習得したのです。たとえば、創業したばかりの人に対してまず聞くべき質問は、その分野でどの程度の経験を持っているか、そして今実際にどういう仕事に携わっているか、目標を達成するためにどの程度コストがかかるか試算してみたか、現在の財務状況はどうなっているか、ということです。この他にも多くの質問をして、クライアントがやろうとしていることが実現性のあることなのか、あるいは、単なる夢でしかないのか見極めるのです。

    以上のようなことをすべて議論し尽くしてカウンセリング・セッションが終わる時点で、SCOREカウンセラーはあたかも自分がその事業を始めようとしているかのように思えるほど、そのクライアントの計画や資質を理解していなければなりません。新入りのカウンセラーは、自らの経験に照らして適切な助言を与えられるようになるため、どうすれば自らクライアントの立場に立って考えることができるかを学ぶのです。これは綿密かつ主観的なカウンセリングです。

    このシンポジウムに関連する重要な点ですが、SCOREカウンセラーはビジネス図書館が提供する多くのサービス、情報資源、施設についても知っていなければなりません。私は1999年からSCOREカウンセラーをやっていますが、当初よりSIBLの当番制カウンセラーもつとめていますので、私の経験談はまさしく直接体験に基づくものです。

    私たちはニューヨーク市内のビジネス図書館、具体的にはSIBLとブルックリン公共図書館にカウンセリング・コーナーを持っており、新入りメンバーはここで、経験を積んだカウンセラーが行うカウンセリング・セッションに同席できるようになっています。新入りカウンセラーは、図書館に関するあらゆることを学ばなければなりません。この訓練を通して、45人のカウンセラーすべてがビジネス図書館でカウンセリング・サービスを行う機会が持てるようになっています。

    メイン・オフィスでは90%のクライアントが予約なしでやってくるのに対し、図書館でカウンセリングを受けたい人は予約を入れる必要があります。予約の管理と記帳は司書の方々がやってくれています。

    ニューヨーク市内のいずれの図書館においても、私たちはゲストとして遇され、コンピューター、プリンター、電話、オフィス用品を備えたSCORE専用のスペースを与えられています。図書館のオフィス機器や施設も自由に使わせてもらっています。突き詰めていうならば、私たちはビジネス情報やカウンセリングを必要とする人々への支援に専念するパートナーなのです。

    私たちの観点から見ると完璧なペアです。問い合わせてきた企業家にまず図書館のスタッフが情報と図書館に関するガイダンスを与え、その後SCOREのカウンセラーが引き継いで次のレベルに進み、ビジネスに関する具体的な助言を与えます。

    図書館で私たちは、インターネットを通して図書館が運営するウェブサイトやその他の研究サイトへアクセスできます。また、クライアントが運営するウェブサイトがある場合は、そのウェブサイトを検証することもできます。

    私たちが提供するカウンセリング・サービスは、図書館にとって重要かつ不可欠な機能となっていますが、その一方で私たちもまた、より多くの事業が成功し、成功し続けるよう手助けするというゴールを達成する上で大いに助かっているのです。

    原則として、予約数に応じて、一度に1人のカウンセラーが詰めているようにしています。SIBLでは、火曜日から金曜日は午前11時から午後7時まで、土曜日は午前11時から午後3時までがサービス時間となっています。勤務時間中に相談に来ることのできない人々のために夜間や土曜日のサービスを提供しているのは唯一ここだけです。

    2002年6月から2003年6月までの1年間に、SCOREはSIBLで1000人超のクライアントの相談に応じました。うち3分の1はすでに事業をやっている人たちで、ほぼ半数が女性、206人は在宅で事業を手がけており、資金面で助けを必要とする人はわずか10分の1でした。SIBLにやってくるクライアントのうちほとんどは、間もなく事業を始めようとしているか開業して1年未満の人たちでした。

    一方、ブルックリン・ビジネス・ライブラリーでは、新しい事業を準備するリサーチ段階という人たちをより多く見かけます。いいアイデアを持ちながらも、その考えを事業計画というかたちにまとめるまでに至っていないという人がたくさんいました。

    このような統計結果からニューヨークのビジネス図書館におけるSCOREのクライアントのほとんどが起業のきわめて初期の段階にあるといえます。

    図書館におけるSCOREのクライアントをよりよく理解するためには、市全体の人種・民族的な構成について知っていることが大事です。ニューヨークは昔も今も、よりよい生活を求めて移民や難民がやってくる街です。そしてその多くがそのままとどまり、市民となっています。したがって、ニューヨークは、どこの国からやってきた人でも溶け込める、世界中でもっとも人種融合した都市の1つなのです。そして多くの人々が強い起業家精神を持ってここにやってくるのです。

    このことは、SCOREのニューヨーク支部がさまざまに異なる多様なバックグラウンドを持つクライアントのニーズに応えているということを意味します。これは、程度の差こそありますがSIBLについてもいえることです。私たちはハーレムに2つのオフィスを持っていますが、ここに頻繁に通ってくるのは主にアフリカ系アメリカ人とヒスパニック系の人々です。ブロンクスのオフィスはアフリカ系アメリカ人およびカリブ諸島からやってきた人たちがほとんどです。一方、私たちのメイン・オフィスにはあらゆる人種・民族の人たちがやってきます。

    チャイナタウンにあるオフィスはもっとも新しい拠点ですが、ここはほとんどすべて中国系です。彼らの事業が世界貿易センターの惨事からようやく立ち直ろうとしていたところにSARS騒ぎが起こり、再び客足が遠のいてしまいました。そこで、エイジアン・アメリカン・ビジネス・ディベロップメント・センターのディレクターから、SCOREのカウンセラーに地域ビジネスの手助けをしてほしいとの依頼が来たのです。クライアントが英語を話せない場合、必要に応じて通訳をつけることもできます。当初、中国語の新聞6紙がSCOREとチャイナタウンの新たなカウンセリング協力体制について報じ、最初の数日間に10人のクライアントがやってきました。

    ニューヨーク市で活動しているカウンセラーが去年1年間、1日4時間ずつ週に2、3日程度働くことで、メイン・オフィスと図書館など4つの支所で行ったセッション数は延べ7000回を超えます。このうち25%はリピーターのクライアントです。しかしSIBLだけを見てみると、リピーターの比率は16%にとどまっています。なぜなら、図書館にやってきた新たなクライアントは、その要請に応じて適切な業界における経験を積んだSCOREカウンセラーのもとに照会されるからです。図書館内の支所ですぐに対応できないときでも、たいていの場合、メイン・オフィスなら誰か対応できる人が見つかるからです。

    全拠点におけるクライアントの80%がスタートアップ段階であるのに対し、図書館に来るクライアントだけを見てみると、その3分の1がすでに事業を手がけています。このことは事業を手がけている人々にとっていかにビジネス図書館が大事であるかを物語っています。そして創業を考えている人々のニーズもまた図書館に集中しています。興味深いことに、全国的に見るとSCOREのクライアントの約半数がすでに事業を行っている人なのですが、ニューヨークについてはその比率はたった20%です。

    その他の比較でも、SCOREニューヨーク支部の全拠点合計で見てみると、金融面での支援を求める人の数がマーケティングや販売についてのカウンセリングを求める人より、3対2の割合で多くなっています。一方、SIBLについて同様の分類で見てみると、金融面での支援ではなくマーケティングや販売についての助言を求める人がほぼ2倍になっています。この他にも、ビジネス図書館がビジネスマンのなかでもより情報に通じ、より組織化された層の人々のニーズを満たしていることを示す証拠があります。

    SIBLに来たあるクライアントはサイバー・カフェとビデオ・ゲーム店を組み合わせたビジネス、つまり、日本のパチンコ屋のような事業を始めたいと思っていましたが、どこから手をつけていいかわからずにいました。

    この業界における経験もあり資金もそれなりにあったのですが、開業できずにいたのです。そこで私たちのカウンセラーは、事業計画の重要性について説明しました。事業計画はときとして「ロード・マップ」とも呼ばれますが、その目的は、開業に向けた計画を立て始めるA地点からB地点、彼の場合は3年後にたどり着くことです。計画の準備とは、こうしたゴールに到達するためにとるべき行動を考え出すことです。

    このケースについては、事業計画に取り組むなかでクライアント自身が2つの事業が必ずしも相性がよくないことに気づき、サイバー・カフェに専念することとなりました。

    クライアントと事業計画の必要性について議論する主要な目的は、クライアント自身が自らの考えを整理する手助けをすることです。私自身もビジネスマンです。そして、いかなる事業も事業計画から得るものがあると考えます。なぜなら事業計画を立てるために企業家は企業運営のあらゆる側面について検討せざるを得ず、その結果、強みと弱みをはっきりと認識することができるからです。私たちはまずクライアントに、なぜその事業を始めるための資質があると考えるか、きちんとその理由を説明するよう促します。その上で、競争状況や適切な価格設定、買い手となる市場があるかどうか、その市場にどうアクセスすればいいのか、どういうライセンスを取得する必要があるのか、そして、ベストな立地を選ぶことの重要性や、その他事業計画で必要な要素すべてについて議論します。販売や経費の見積もり方法とその理由、さらにキャッシュ・フローの予測についても説明します。

    カウンセリング・セッションの終わりに、クライアントに対し、手がけようとしているベンチャーについてさらに研究するため、司書に会って図書館所蔵の参考資料の使用について教えてもらうよう提言することがよくあります。たとえば、事業計画について議論した後、計画の具体例についての本を読むよう促すことがあります。また、市場と競争に関する分析においては、業界内の企業や関連団体のリストを紹介しています。特定なタイプの企業の創業に関する情報については、アントレプレナー・マガジンが発行する「ハウツー」ガイドのシリーズを紹介しています。このシリーズは、レストランからデイ・ケア・センター、アパレル小売からビデオ・アーケードまで、100種類を超える事業をカバーしています。

    ウェブサイトの構築、記帳準備、マーケット・プランの作成、非営利企業の創り方など、その他の分野については、図書館のインフォメーション・デスクに問い合わせてみるよう提言しています。これもすべて、1時間のカウンセリング・セッションを終えた上での助言です。

    ビジネス図書館に来るクライアントはメイン・オフィスやその他の支所に来るクライアントと違うのか、という質問をよく受けます。答えはイエスでもありノーでもあります。SIBLのクライアントは、これから始めようとする事業についてよりよく理解し、準備もできているという傾向があります。また、すでに事業を手がけている人は、具体的な問題についてよりよく認識しています。基本的に彼らは、図書館で入手できる情報を活用して自らの事業に関する問題について答えを自分で探そうと試みた人たちなのです。

    その上で自ら思い立って、あるいは図書館の司書に促されて、その場にいるプロのSCOREカウンセラーのもとにやって来るのです。先ほど申し上げたように、SCOREのオフィスは図書館の開館日は毎日、たいて午前11時から午後7時まで開いています。仮に適切なカウンセラーがその場にいない場合でも、すぐに助けを求めることができるかもしれません。すぐには無理でも、予約をとることはできます。

    SIBLは、ニューヨーク市内でもビジネス区域の中心部に位置し、仕事を持っている人にとっても大変便利です。また、一般の交通機関で簡単に行ける場所です。

    ブルックリン・ビジネス・ライブラリーは、クライアントや周辺の人口構成の面で、少し様子が違います。SBAが指定する「社会的・経済的弱者」にあてはまるケースが多々あります。リサーチやSCOREカウンセラーとの面接のためにこの図書館を訪れる人々の多くは、低所得者層に属し、借り入れの際の信用格付けが低く、教育レベルもそれほど高くありません。また、これから始めようとしている事業についても経験が少なく、かつ、事業のアイデアについてもあまり十分に検討していない場合が多く見受けられます。

    こうした場合、SCOREカウンセラーは、クライアントが問題を克服できるよう、踏むべきステップすべてについて検証します。創業に向けたリサーチを続けたい場合、クライアントは司書のところに戻り、どうすれば図書館にある資源を有効活用できるか指導を受けます。すると今度は、何を調べるべきか明確な考えを持つことができるのです。

    残念ながら、私たちのところに相談に来た時点ですでに手遅れ状態に陥っているクライアントもいます。その多くは、最初にお話したような、経営の方法が悪かったというケースです。多くの面で経営管理が行き届いていないためです。たとえば、取引に関する記録がきちんととられていない、不必要なものも含め出費が多すぎる、債権者への支払いが期日どおりに行われていない、どれだけ支払いが残っているのかわかっていない、納税の遅れや不払い、積極的な販売・マーケティング計画をたてていない、前もって計画をしていない等々です。

    彼らが一様に必要と考え、かつ、SCOREのカウンセリングで何とかなるだろうと思ったことは、即時に現金注入して必要な支払いを済ませることで事業継続しようということですが、ほとんどの場合、それだけでは足りないし遅すぎるのです。

    これまでの事業のやり方のせいで、彼らはリスク面で問題があると見なされ、もはや資金を貸そうとする金融機関はありません。結果として事業も夢もお金も失くしてしまうことになります。

    クライアントの成功を目指して、私たちは図書館に来るクライアントと一緒に取り組むことがいくつかあります。事業計画の検証、練り直しまたは作成、キャッシュ・フローの分析と助言(カウンセラー仲間のうち5人は公認会計士)、宣伝・広報・プロモーションのためのプログラム作成、輸出入など国際貿易にかかわる複雑な問題についての議論、従業員との関係や離職率の改善、適切な資金源の特定とローン申し込みの準備などですが、これらのうち多くの課題については、図書館にいながらその場でさら調査できます。

    あるクライアントは、代金回収で問題を抱えていました。6カ月も支払いを延滞する顧客がいて、キャッシュ・フロー面で大変難しい問題が生じていました。幸いこのクライアントの相談に応じたカウンセラーは、グローバル展開している大手日本企業の米国子会社で金融担当役員をつとめた経験があり、この手の問題をよく理解していました。

    カウンセラーは、不払い金を含む未収残高の回収手続きについて取り組む前に、まず、請求およびその後のフォロー・アップのためのシステムの改善に向けて手助けしました。残念ながら、事業経験のない人々のなかには、顧客の機嫌を損ねることを恐れて代金請求を躊躇する人が多すぎます。ビジネスにおいては、提供した仕事や品物の代金は遅滞なく支払いを受けなければなりません。そうしないと企業家自身が家賃や電話代、備品代金、または従業員の給与すら払えないという事態に陥ってしまいます。きちんと代金を回収できなければ、その事業そのものが存続できないのです。ここで紹介したケースは成功例で、現在、そのクライアントは健全なキャッシュ・フローを保っています。

    企業家支援でSCOREと公共図書館が互いにどういうかたちで補完しあっているのでしょうか? ビジネス図書館はきわめて客観的な姿勢で、新刊の出版物、参考資料、電子サービスなど膨大な所蔵資源を活用し、企業家にほとんど限りない情報を提供しています。一方、SCOREのビジネス支援は完全に主観的なものです。SCOREカウンセラーは各クライアントの問題や懸念を徹底的に掘り下げ、そのクライアントが成功への軌道に乗ったと確信するまでクライアントと一緒に取り組みます。もしくは、クライアント自身がまだ準備不足または適性がないと判断して事業をあきらめることもあります。

    多くのサクセス・ストーリーがあるのですが、その中には、もう少しきちんとリサーチするまでその事業を手がけるべきではないとクライアントが認識したケースも含まれています。成功するチャンスがほとんどない、または不可能と思われる事業に資金をつぎ込んでみすみすお金を無駄にするような投資をやめさせることに成功したということです。

    ビジネス・リソース・パートナーとして、私たちはよくクライアントにSIBLやブルックリンの拠点のみならず図書館のウェブサイトも覗いてみるよう勧めています。いずれも見つけやすい情報でいっぱいです。また、ビジネス図書館のウェブサイトにはSCOREへのリンクがあり、私たちのウェブサイトにはビジネス図書館のウェブサイトへのリンクがあります。

    私たちが開催するセミナーの案内やカウンセリング窓口のリストは、両図書館において目に付きやすい多くの場所に掲示されています。また、ニューヨーク市内のすべての図書館でも同様の情報が掲示されており、来館者は、SCOREのサービスやセミナーについて知ることができます。

    さてこの辺で、将来に目を向けて、ビジネス図書館の行方、そしてビジネス図書館とビジネス支援サービスの関係が今後どうなっていくのか考えてみましょう。私の考え方は、SCOREのクライアントに対するカウンセリングのときと同様です。最大の関心事の要因を見つけ出して計画を立てること、ここでは将来に導くロード・マップを描くための戦略計画を立てるということです。

    私なりに研究してみたところ、公共ビジネス図書には、共通する3つの関心分野があります。来館者数、マーケティング、そして資金です。

    SCOREのようなビジネス支援サービスを全面的に活用して来館者数を増やし、どれだけ内容の濃いカウンセリングが提供可能か司書全員に周知徹底し、単なる参考情報以上のものを求めている人たちにきちんと対応できるようにします。そうした人たちをカウンセリングに案内すればいいのです。

    ワシントン州にあるSCOREのシアトル支部では、毎月別々の日に12箇所の地域図書館でカウンセリング・セッションを実施しています。このプログラムの成功は、来館者の相談にSCOREカウンセラーがどのように対応するかについて、図書館のスタッフをきちんと教育していることと直接関係があります。SCOREの職員が定期的に図書館のスタッフ・ミーティングに参加し、プレゼンテーションを行っているのです。

    ブルックリン・ビジネス・ライブラリーでは、毎年、無料で参加できる企業家エキスポを開催し、ビジネス・サービス・パートナーに展示スペースを提供しています。これは、サービス・パートナーと呼ばれる人たちがどういう活動をしているか、来場者に知ってもらう機会となっています。図書館はまた、SCOREのカウンセラーが審査員をつとめる賞金つきの事業計画コンペを主催しています。このような活動を通して、図書館利用者、ひいてはSCOREのクライアントのレベル向上が常にはかられているのです。

    私たちは、SIBLやブルックリン・ビジネス・ライブラリーのパートナーとして活躍している他のビジネス・サービス提供者とのネットワーク作りの機会を得ています。ビジネス・コミュニティを支援するという同じゴールを目指す仲間ですから、会って情報交換することが大変重要なのです。商工会議所、ウィメンズ・ビジネス・グループ、地域経済開発センター、市・州政府のビジネス支援担当課、銀行などを含む面々です。図書館の活動に興味を持ち補完的役割を果たすことのできる数多くの組織に働きかけ、SCOREのようなパートナーにすることができたら、より多くの来館者を呼び込むことができるでしょう。

    ビジネス図書館のマーケティングにおいては、SCOREやその他のパートナー組織によって提供される無料カウンセリングに関する情報も含めるべきです。そうすることによって施設の利用度を高めることができます。これは、さまざまなサービスを網羅する本格的なビジネス図書館について特にいえることで、図書館そのもののイメージ・アップにもつながります。また、提携先の組織がマーケティングを実施する際には、彼らのパートナーの一員として皆さんが運営するビジネス図書館に関する情報も提供してもらうべきです。そうすることで提携先組織と図書館両方のイメージが向上されます。相手先のウェブサイトに皆さんの図書館へのリンクを張ってもらいましょう。それが、もっとも重要かつ認知度の高いビジネス情報源になるための第一歩です。そして同時に、来館者数も増加するでしょう。

    ご存知のとおり、来館者数の増加は資金面でもプラスです。原則として、来館者数は、政府予算分配における尺度の1つなのです。そして、ビジネス支援組織によって提供される無料サービスを金銭的価値に換算した額は、民間セクターを通して何らかの助成金を申請する際に含めることができます。

    したがって、たとえ景気が悪いときでも、パートナーとできる限り緊密に連携すれば、図書館の将来は大変明るいといえるのです。

    今回の講演に備えて行ったリサーチを通して、さらに、クリスティン・マクドーナ氏の講演やジェニファー・コーエン氏との議論を通して、私は大変重要な教訓を得ることができました。図書館に所蔵される膨大なビジネス情報・資源とSCOREのカウンセリングや日本における同様の組織の有する資源を合わせれば、スモール・ビジネスを支援するうえで大変大きな仕事をすることができるということです。

    私たちがお互い協力することで、支援を必要とする人々を助けることができるのです。ありがとうございました。