政策シンポジウム他

企業経営環境の変化とセーフティネット

実施概要報告

赤石 浩一(RIETI研究員)

会場風景11月19日(火)、経済産業研究所において「企業経営環境の変化とセーフティネット」に関するコンファランスが開催された。

本コンファランスは普及啓発を目的とするというよりはむしろアカデミックな研究成果をふまえ、本分野について高い関心と識見を有する方々と、現状分析と今後の政策について議論をすることを目的としており、本分野の専門家の方々をはじめ大変に識見の高い方にお集まりいただくことができた。

午前中の育児支援セッションにおいては、育児期にキャリア形成できないことがその後の女性の就業にどういった影響を与えるか、育児休業制度が女性の労働供給にどういう影響を与えるか、逆にこういった支援制度が企業の女性採用戦略にどういった影響を与えるかといった点についてプレゼンテーションがなされ、それを受けて樋口氏および武石氏より、分析手法に対するアドバイスも含め、育児休業制度以外の支援制度も今後の課題であるなど、極めて示唆に富むコメントを頂いた。

退職給付と企業年金セッションにおいては、企業の経営環境や労働市場の変化に対応し、確定拠出年金の意義を見直すべきではないか、確定給付年金制度を確定拠出年金に完全に代替しても人々の効用を引き下げないのではないか、年金運用にあたって重視される機関投資家のコーポレートガバナンスは実は日本ではうまく機能していないのではないか、といったプレゼンテーションがなされた。
それに対して、浅野氏より、確定拠出は個人にとって負担が重いこと、リスクもあること、臼杵氏より、労働市場の変化に対応する場合、確定拠出年金以外にも一時金制度を導入するのも一案であること、人々の効用の計測はパラメータによって大きく左右される可能性があること、ガバナンスについては、それでも経営干渉を行っていくことが経営者の規律づけのためには重要であることなどのコメントを頂いた。

会場風景総論セッションにおいては、企業は福祉から撤退してもよいこと、一方で、企業別社会保険代行機関は規制改革を通じて、保険者機能の強化などを通じた活用の方策があることといった点についてプレゼンテーションがなされた。
それに対して、高梨氏より、一連の日経連の考え方について紹介があり、日本の福祉は決して低い水準ではなく、さらに合理化を図る余地があること、保険者機能の強化は重要であることなどが、小島氏より、日本の福祉水準は必ずしも十分ではなく、現行の年金水準は維持すべきこと、社会保障について企業サイドにも責任があることなどについてコメントが述べられた。

最後に青木氏より、社会システム全体が変わるときにセーフティネットをどう構築するかはきわめて重要な問題であること、不公平を是正するために国家の介入も求められる場面があること、などの総括コメントが述べられた。

テーマが育児問題から女性の就労、年金制度、さらには企業の関与のあり方などにいたるまで大変幅広く、時間も十分でなかった点が残念であったが、セーフティネットを巡るいくつかの重要な論点を浮き彫りすることができた点においては有意義なコンファレンスであったと思われる。

尚、本コンファランスの議論をさらに発展させ、2年間にわたる研究会の成果として出版物にまとめる予定である。

(文責:赤石浩一)