RIETI政策シンポジウム

Asian Economic Integration- Current Status and Future Prospects -

イベント概要

進みゆくアジア経済統合とその課題

4月22・23日の両日、東京・渋谷の国連大学においてRIETIシンポジウム「Asian Economic Integration」が開催された。日本およびアジアの専門家が集まり、アジアで進行中の経済統合と今後の展開について、中国の経済成長とそれが近隣地域に及ぼす影響についての検討も交えながら議論がなされた。本稿では22日に行われた青木昌彦(経済産業研究所所長・スタンフォード大学教授) Joseph STIGLITZ(コロンビア大学教授・ノーベル経済学賞受賞者)、陳清泰(中国国務院発展研究センター副所長/清華大学公共管理学院学院長)三者による基調講演の内容をダイジェストで紹介する。

アジアでは既に「事実上の市場統合」が始まっている

青木 昌彦(経済産業研究所所長・スタンフォード大学教授)

青木昌彦経済産業研究所所長(CRO)青木昌彦は「アジアの経済統合-その現状と展望」と題し、アジアでは既に「事実上の市場統合」が始まっていると述べた。市場統合については、正式な経済・政治の制度整備は欧州や北米に遅れているものの、アジア経済は貿易や投資の面でますます関係が密になっており、中国の高い経済成長がその原動力になっていると指摘した。

また、東アジア地域全体が「制度の大転換」の途上にあり、日本、中国、韓国はそれぞれ異なった段階にあるものの、それぞれのペースで転換しているとも述べている。日本の長引く不況がさらなる経済統合の妨げになるという論調に対し、青木氏は異を唱え、現在の不況こそが「日本が緊密な国際取引の時代に入ったことを示唆しており、重大な制度転換のただ中にいる」しるしである、としている。

そして、そのような制度転換は、それが正しい方向に進めば、東アジアの安定した意義のある経済統合が促進されるだろうし、逆に、現下の市場統合は日本にとってはより開放されたシステム構築に向けて更なる制度変化の促進を誘引することになるとし、「日本は新興アジア市場統合の流れの中で新たな制度整備を求めていかざるを得ないであろう」と述べた。

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アジア経済統合は米国単独主義構造に新たな選択肢を与える

Joseph STIGLITZ(コロンビア大学教授・ノーベル経済学賞受賞者)

ジョセフ・スティグリッツコロンビア大学教授で2001年のノーベル経済学賞受賞者のジョセフ・スティグリッツ氏は基調講演でアジアの経済統合は米国が市場を支配することへの対抗勢力として非常に重要であることを強調し、これがひいては、南北の貿易格差や国際的な財務不均衡、およびその不安定さといった欠陥を是正することにもなるのではないかと期待している。スティグリッツ氏は「冷戦の終結は(中略)単独の超軍事大国の誕生という帰結を生んだ。むろん、単独の超軍事大国は必ずしも支配的な経済大国と同義ではない。しかし、その軍事力の存在と政治的経済的領域の行方には明らかに重大な関係性がある」と述べ、「米国の単独主義」の隆盛を挙げている。米国は世界政治のリーダーであるという地位を利用して、経済や政治の問題について特別な見方を強制してきた。その端的な例は米国財務省がアジア通貨基金の創設を拒否したということで、もしアジア通貨基金が実現していれば、危機への対処がもっと早くできたかもしれない、とも述べた。

「国際的経済制度における米国支配は市場経済について特別な見方をするために使われてきた。そしてその見方にはさまざまな欠陥がある。アジア経済統合はこの特別な構造に別の選択肢を加える」

スティグリッツ氏は現在のドルを基調にした国際的な準備金システムは米国の利益にはなるが、途上国にとっては為替市場の変動によって不当に重い負担になっていると指摘。固定為替レートを必要としない共通の通貨準備アレンジメントが実現すれば、それは新グローバル・レジームの良い基盤となる代替的経済モデルになる得るだろうとしている。

また、別の変化の兆しとしてWTOのドーハラウンドについても言及している。スティグリッツ氏によれば、多くの人々がドーハラウンドが国際経済システムの現在の不公平を生んだと懐疑的になっているが、ドーハラウンドはウルグアイラウンドに基礎をおく「発展ラウンド」であると位置付けている。さらに、アジアは対米交渉にあたり一致したスタンスをとらなければならないとする一方で、狭い国益にとどまらず、発展途上国も含めたより大きな利益を求めなければいけない、と述べた。

「最貧国に文字通り『軍事力以外の全てを与える』ことによって、アジアは北米に対して欠如しているリーダーシップを発揮し、米国やその他の国々の見本となれるでしょう」

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アジア地域経済統合は効率的な資源配分や技術進歩などの利益をもたらす

陳清泰(中国国務院発展研究センター副所長/清華大学公共管理学院学院長)

陳清泰最後の基調講演者、陳清泰氏(中国国務院発展研究センター副所長/清華大学公共管理学院学院長)は中国で進行中の変化や日中その他アジアの近隣諸国との補完関係について説明を行った。陳氏は、数々の挫折を経験しつつも、中国はWTOの加盟以降を「課題よりもチャンス」として捉え、国際経済統合においてより大きな役割を模索していると述べた。

また、「中国は、経済発展の為に国内の資源の流動化にとどまらず、海外の資源も利用しなければならない。国際分業への参加は国内の生産性の向上に寄与する」とも述べている。WTO加盟によって生じるさまざまな難問は、中国が経済成長と社会発展を遂げるために解決していかなければならない問題であるとし、中国にとって「プロアクティブな戦略」、即ち中国が直面するさまざまな課題は、改革の推進と産業構造の再編を加速するための推進力であり、好機としてとらえるべきであるとしている。

中国の経済成長については、日本や他のアジア諸国にとって、脅威などではなく、補完関係にあるもので、別次元のものである、と述べた。

「中国とそれ以外のアジア諸国との間の経済、通商関係は、相互の経済的補完性および利益に基盤をおく協力関係にあり、競争関係や対立関係にあるものではない。中国の加工貿易の発展は、中国の輸入、とりわけその他のアジア諸国からの輸入に弾みをつけるだろう」

陳氏はまた、地域経済統合が効率的な資源配分や技術進歩につながる競争といった利益をもたらすであろうと述べ、短期間で自由貿易圏を作ることは難しいが、貿易と投資を促進することで、アジア諸国が互いの経済優位性を利用し、自国の弱点を克服する良いスタートを切れると語った。

「国際的な貿易および投資自由化と地域ブロック経済化に対処するためには、アジアの地域経済協力を強化し、地域貿易および投資自由化を進めていくことが必要である」

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