はじめに
2011年11月、G20カンヌ・サミット最終宣言(参考1)は、IOSCO(証券監督者国際機構)に対して、商品市場に関する2つの要請を出しました。1つは、商品市場の透明性を向上させるために適切な規制および監督の実施について、2012年末までに報告を行うこと、もう1つは、2012年の年央までに価格報告機関の機能および監督を改善させるために提言を行うことです。これを受けて、IOSCOでは、価格報告機関に関する提言および「商品デリバティブ市場の規制及び監督に関する原則」(参考2)の実施状況について報告準備を進めています。
本コラムでは、この要請の背景となっている商品市場の価格動向、および、コモディティと株式等伝統的金融商品との間の価格相関の高まり、いわゆる「コモディティの金融商品化」について俎上の「コモディティ」や「金融商品」を明らかにしつつ、「コモディティの金融商品化」と日本経済の関係について考察します。
商品市場の価格動向と「コモディティの金融商品化」
図1は、代表的な国際商品指数であるS&P GSCI(白線)およびDJ-UBSコモディティ・インデックス(橙線)を、2007年から2011年までプロットしています。S&P GSCIはエネルギー商品の構成比率が高く、DJ-UBSはエネルギー、農産物、金属を満遍なく網羅しているという特徴をそれぞれ有しています。商品市場の価格は、2003年から2008 年にかけて、主に原油を中心に高騰しました。その結果、S&P GSCIおよびDJ-UBSの両商品指数が大きく上昇しています。一方、2009年以降は、貴金属や工業用金属を中心に価格が上昇したため、DJ-UBSが、S&P GSCIを上回って上昇しています。「コモディティの金融商品化」は、この2009年以降、特に話題にあがるようになっています。

「コモディティの金融商品化」は、カンヌ・サミット最終宣言で触れられたG20コモディティ・スタディグループの報告書(参考3)においても、商品市場の動向を分析する際の1つの切り口として、現物需給、バイオ燃料政策、グローバルな金融緩和等と並んであげられています。この報告書では、「コモディティの金融商品化」を、伝統的金融商品を取引していた取引参加者が商品市場での取引を拡大させ、それによって、コモディティの価格水準またはボラティリティ、もしくはコモディティと伝統的金融商品との間の価格相関が有意に変化することと捉えて、「コモディティの金融商品化」の有無について調査・分析をしています。しかし、「コモディティの金融商品化」の有無に関する結論は、一貫性のある結果は確認できないというものでした。
俎上の「コモディティ」および「金融商品」
ここでは、この「コモディティの金融商品化」の議論において、俎上にあげられている「コモディティ」や「金融商品」を、相関の観点から明らかにしてみます。
図2から図6は、米国ダウ工業株30種、日本Nikkei225および欧州EURO STOXX50それぞれについて、ICEブレント原油とCOMEX金との相関を示しています。たとえば、図2は、米国ダウ工業株30種(横軸)とICEブレント原油(縦軸)の相関を示しています。1990年から2003年まで(青点)は、米国ダウ工業株30種の高安に関わらず原油価格が比較的安定していた時期にあたり、両者はほぼ無相関になっています。2004年から2008年まで(赤点)は、原油価格が高騰した時期にあたり、総じて見ると正の相関が伺えます。2009年から2010年まで(緑点)および2011年(黄点)に入ると、正相関はより鮮明になっています。これより、米国ダウ工業株30種(「金融商品」)とICEブレント原油(「「コモディティ」」)については、2009年以降、「コモディティの金融商品化」の俎上にあがる可能性が高いと伺えます。また、図3は、COMEX金と米国ダウ工業株30種の相関においても、2009年から2010年まで、「コモディティの金融商品化」の俎上にあがる可能性があることを示しています。


「コモディティの金融商品化」と日本経済
図4および図5では、Nikkei225を「金融商品」として、「コモディティの金融商品化」の可能性を見ています。米国ダウ工業株30種とは異なり、ICEブレント原油、COMEX金の何れにおいても、「コモディティの金融商品化」は殆ど確認できません。これは、TOPIXの場合においても、コモディティ価格を円建てに変換した場合においても同様です。
「コモディティの金融商品化」の多くの議論において、コモディティ価格と株価の相関が高まるメカニズムは、伝統的金融商品に投資を行っていた投資家が、そのポートフォリオにコモディティを組み入れるようになり、その投資決定を、伝統的なコモディティ市場参加者とは異なり、ポートフォリオ選択理論に基づいて行うため、両者の相関が高まると説明されています。このメカニズムが真である場合、図4および図5は、日本経済を捉える「金融商品」は、「コモディティ」を含むポートフォリオへあまり組み入れられていない可能性を示唆しています。
また、欧州EURO STOXX50についても、図6および図7の黄点部分が示すとおり、特に2011年に入ってから、いわゆる「コモディティの金融商品化」は崩れてしまっています。更にCOMEX金との相関においては、欧州危機を反映して、2011年には負の相関が伺えるようになっています。
これらより、「コモディティの金融商品化」は、日本経済や欧州経済との関係においては、必ずしも当てはまる議論ではないように思われます。この要因としては、コモディティを含む世界的な資産ポートフォリオにおける日・欧株価指数の組み入れ比率が低いこと、また逆に、日本又は欧州の株価指数を含むポートフォリオにコモディティの組み入れ比率が低いこと等が考えられます。




2012年
2012年は、「コモディティ」分野においては、IOSCOから「商品デリバティブ市場の規制及び監督に関する原則」の実施状況等が報告され、商品市場の透明性向上がはかられていきます。また、「金融商品」分野においては、引き続き債務問題や景気後退等の不確実性が多くあります。このような中、「コモディティの金融商品化」の有無強弱については、引き続き関心が寄せられるものと思います。
(図表出典)各種資料より筆者作成