米国における中間層の消失:教育水準や世代における格差拡大の観点

菊池 信之介
マサチューセッツ工科大学

北尾 早霧
ファカルティフェロー

米国において、中間層の衰退による労働市場の二極化が叫ばれて久しい。対人的サービスが中心の低スキル層および抽象的な思考力が必要な高スキル層と比較して、自動化が容易である定型的な仕事に従事する中間スキル層の雇用シェアと賃金が低迷してきた。この現象には、さまざまな要因が考えられるが、自動化などの製造業における技術革新が、最重要なものの1つとされている(Acemoglu and Autor, 2011, Autor and Dorn 2013)。本コラムでは、Kikuchi and Kitao (2020)に基づき、労働市場の二極化について、教育水準や年齢によって異なる影響に着目した考察を行う。

労働市場における雇用と賃金の二極化

図1は、人口動態調査(CPS)(注1)を基に、全職業を手作業中心の職業(Manual)、定型作業の多い職業(Routine)、抽象的な思考を伴う職業(Abstract)とに分類し、それぞれの職業の過去35年間(1983〜2018)の雇用シェアと賃金の推移を示している。図1(a)は雇用シェアを示しているが、手作業中心の職業の割合は10%程度で35年間ほぼ横ばいであるのに対して、定型作業の多い職業が10%ポイント以上減少し、抽象的な思考を伴う職業のシェアが同程度上昇してきている。図1(b)は、相対賃金を示しているが、抽象的な思考を伴う職業の賃金が相対的に上昇していることが分かる。

図1:米国労働市場における二極化
図1:米国労働市場における二極化
出所)CPS

年齢や教育水準によって異なる職業分布

さらに、図2に示すように、年齢や教育水準など、個人の属性によって職業の分布は大きく異なる。1980年代前半の年齢・教育水準ごとの職業分布を見ると、大卒未満の労働者は定型作業の多い職業に就く割合が多く、また60歳時点では40%程度が労働市場から引退をしているのに対して、大卒以上の労働者は抽象的な思考を伴う職業に集中しており、60歳時点でも引退しているのは20%程度にすぎない。

図2:年齢・教育水準ごとの職業分布
図2:年齢・教育水準ごとの職業分布
出所)CPS 1983-1985

二極化時代の勝敗の行方

上記を踏まえると、一口に、自動化やロボットなどの技術革新による二極化といっても、もたらされる影響は、年齢や教育水準によって大きく異なることが予想される。Kikuchi and Kitao (2020)では、年齢ごとの職業分布や、教育水準の変化を織り込んだ数量的マクロ経済モデルを用いて、技術革新による二極化が、各世代・職業・教育水準(大卒以上か大卒未満か)の労働者にどのような異質な影響をもたらすかを分析した。

分析の結果、労働市場の二極化は大卒以上の若年労働者に恩恵を与える一方、あらゆる年齢層とりわけ若年層のうち大卒未満の労働者の厚生を悪化させることが明らかとなった。大卒以上の労働者の厚生効果を世代間で比較すると、賃金上昇の恩恵をフルに享受できる若い世代へのプラスの効果がより高い結果となった。大卒未満の労働者にとって、賃金の低迷する定型的な仕事から高賃金の抽象的な仕事へと移行するのは容易ではないことも厚生効果の違いが生じる一因である。

自動化等によって代替される職業もあれば、技術革新によって新たに生まれる職業もある。高齢化や人手不足の深刻な国においては、こうした革新・代替のニーズが強く、各セクターにおける労働需給と賃金の変化が加速することも考えられる。

上の米国におけるミクロデータを使った研究が明らかにしたように、産業構造と労働市場の変化による影響は、労働者の教育水準・年齢などによって大きく異なる。政策場面においては、技術革新による成長を促す一方で、家計の所得・資産変化をデータで把握しつつ、格差に与える影響も注視する必要があろう。

脚注
  1. ^ Current Population Survey. 米国労働統計局および国勢調査局による月次調査に基づく米国の主要な労働統計。
参考文献
  • Acemoglu, D. and D. Autor (2011). Skills, tasks and technologies: Implications for employment and earnings. In O. Ashenfelter and D. Card (Eds.), Handbook of Labor Economics, Volume 4-B, pp. 1043-1171. Amsterdam: Elsevier.
  • Autor, D. H. and D. Dorn (2013). The growth of low-skill service jobs and the polarization of the US labor market. American Economic Review 103 (5), 1553-1597.
  • Kikuchi, S., & Kitao, S. (2020). Welfare Effects of Polarization: Occupational Mobility over the Life-cycle. Research Institute of Economy, Trade and Industry (RIETI), Discussion Paper 20-E-043
    https://www.rieti.go.jp/jp/publications/dp/20e043.pdf

2020年7月3日掲載